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You Really Got Me  作者: のすけ
8/27

磁力 4

 会場でアヤカさんと別れてから、コウとお茶した。

「あー、19Degreesみたいなかっこいい曲が書きたい」

 コウはしみじみと言った。

「ほんと、よかったよね」

「俺、今ミキと付き合ってすごく幸せなんだ。こういうことも曲にできたらなあ」とコウが柔らかい笑顔で言った。私はちょっと照れて黙って笑顔を向けた。

 今コウと一緒にいる幸せを思う。

『You Really Got Me』を唄ってくれた時のコウは、私をすうっと惹きつけた。

 コウの磁力に引かれるままにまっすぐ歩いて行きたい。

 けどなんでか少しだけ怖い。

 どうして。

 コウの瞳を見つめながら思った。

 それからしばらく私は展覧会に向けての制作で毎日学校に残っていた。

 Darwinはオリジナル曲を少しずつ仕上げてデモテープを作っている。

「十二月の対バンに今度こそ何曲か持っていきたい」とコウは言った。


 そして私が油彩画を出品した展覧会が近代美術館で始まった。

 作品が入賞し、絵のモデルになってくれた友達や家族、クラスの友達も大勢観に来てくれた。

「カズもミキの絵見たいって」

 そう言って、コウはカズ君と一緒に観に来てくれた。

「ライブのポスターと全然違うけど、上手だね。そして随分大きいね」

 カズ君は感心していた。

 季節は冬に向かい、これからの進路を決める時期が来た。

 私は以前から考えていた、大学の美術科を目指すことに決めた。

 コウは今のところ、両親からは音楽は自由にしていいけど大学進学を勧められているそうだ。

「オリジナルでバンドやりたいけど、大学受験と後は在学中に結果出せるかが勝負かな」

 Darwinは私と同じ二年の新ちゃんが来年は受験生で活動できなくなる。

 ムードメーカーの新ちゃんが抜けるなんてすごく寂しい、しかもカズ君も。

 今のDarwinはもうあと少しで、今後新しくドラマーとギタリストを探さなくてはならない。


 そんな中、Darwinオリジナル曲を引っさげての対バンがクリスマスの昼間と決まった。

「二人で最初のクリスマスなのにライブでごめんね。それにもっと練習しなきゃ」

 恒例の夜の電話でコウは言った。

 対バンのアレンジをしたのは永井君。

「あいつ、カップルに全く優しくないな」

「でもパーティーぽく盛り上がるね。バンド同士で何かクリスマスの曲を演れたら良くない」

「あ、それいいね。俺、アイデア出すかな」

 私も永井君から対バンのポスターとフライヤー制作を頼まれた。

 忙しくてもライブのフライヤー制作は楽しくて気分転換になる。

 ハードロックなクリスマス、どんな絵柄にしようかな。

 そんな十一月の放課後にコウと待ち合わせた。

 コウは制服だから、私も今日は私服を紺のスカートとPコートにしてちょっと制服っぽくした。

 暑がりなコウは「まだコートいらない」って言っていたのに学ランにコートを羽織っている。

「手繋いで」

 私と指を絡めて繋いだ手をコウはコートのポケットに入れた。

 寒いけど目を合わせて白い息を見ると笑顔になる。

 コウの手が暖かいことに気づくとドキドキする。

「ミキとこうしたくてコートにしてきた。いつも手冷たいもんな」

 優しく言われると心がキューっとして、その上またコウを可愛いって思って、寒いことさえ幸せに変わる。

「ありがとう、寒くてもなんか嬉しいね」

 コウの磁力が今日も瞬く間に私をピタッと吸い寄せて行く。

 そのスピードが、力がどんどん強くなってる。

 お喋りしながら大通公園を歩くと、少しずつ色をなくして物寂しいはずの冬景色。

 けれど葉を落とした木々の枝の隙間も、乾いた落ち葉のくすんだ色合いやカサカサいう音も寂しく感じない。

 その時、雪がチラチラと降ってきた。

「初雪だ」

「おー」とコウ。

 並んで立ち止まり、しばらくの間白い息を吐きながら初雪を眺めていた。

 顔を上げてどんどん降ってくる雪の軌跡をたどるともなく辿ってしまうと、少しクラクラする。

 コウの手を少し強く握ってしまった。

 でもコウも握り返してくれた。

 夏にコウと付き合い始めてから秋、冬と二人で季節を渡ってる。

 学年とか、住んでるところとか、それぞれいろんな絆で違う枠の中に括られている。

 けど、好きになったらお互いに近づこうとして、そうしたものを超えていくんだなと思う。

 心の中だけでコウに尋ねた。

 ねえ、コウも私に磁力を感じるかな。

 それがちょっと苦しくて、怖いような時ってあるの。

 コウも何かを思っているようで、しばらく黙ったままでいた。

 雪はまだ真冬と違って溶けやすく、弱々しい雪片が地面に散っては消えていく。


 その日から一週間くらいして、コウが電話してきた。

「新曲できた。今度のライブにきっと間に合わせるからね、それまで中身はちょっと秘密」

 これまで三曲完成していて、これで四曲になる。

 前の三曲は録音したのを聞かせてもらったことがあるけど、ライブでは初めてになる。

 クリスマスのライブまであと一ヶ月を切っている。

 四曲めの秘密の曲はどんな曲なんだろう、待ち遠しくて仕方がなかった。

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