磁力 3
翌月のDarwinが出演したライブに私はお客として行った。
今回は先輩格の四バンドとの対バン。
トリはコウ達が憧れてる19Degreesというオリジナル曲の先輩バンド。
Darwinもオリジナル曲で演りたいと頑張ったけど、間に合わなくてメンバーは悔しがっていた。
出番の後の幕間に、コウが私のいる席に向かってきた。
その時、金髪をポニーテールにした女の子が彼に話しかけるのが見えた。
アヤカさんだ。
二人は何か話していたけど、コウは私の隣に来て座った。
その横にアヤカさんが座る。
コウの向こう側からぴょこんと顔をのぞかせたアヤカさんは私に、
「急に邪魔してごめんね、二人仲いいんだねー」と細い声で言った。
今日もロックっぽいリカちゃん人形みたいに可愛い。
「うん、仲いいよ」
少しも悪びれずコウが答えたので私も笑った。
「私、ちょうどコウに相談したいことあったんだよね」とアヤカさん。
「19Degrees観たいから後で」
「えー、ちょっとだけ。合間でいいから」とアヤカさんは両手を合わせて、コウの耳元に顔を寄せて何か言った。
その大きな瞳が真剣にコウを見据えている。
「あー、知ってる」とコウ。
またアヤカさんが何か言うと「マジで。うーん、でもあの人…」と向こうを向いて低く何か言った。
「そうなんだー」とアヤカさん。
「熱くなんないで。注意したほうがいいかもな」
「そう、ありがとうコウ」
そこで会話は終わり、19Degreesが登場すると会場は一気に盛り上がる。
日本語でパワフルに唄われるロックに私たちはすごく感動した。
演奏後に、コウとアヤカさんと一緒に楽屋の19Degreesのメンバーに挨拶に行った。
「ようコウ、噂の彼女とラブラブだな」
ボーカルのサトルさんがコウに言う。
「ミキです」とコウが紹介してくれた。
「知ってるよ、彼女。対バンのモギリとか、よく手伝いに来てるよね」
「はい」
私もサトルさんを観客としてもよく見かけている。
「そっちの彼女は」
「私、アヤカっていいます」
「Shuffle Rosesのミッちゃんの彼女」とコウが紹介した。
Shuffle Rosesはハードロックのコピーバンドだ。
アヤカさんはShuffle Rosesのボーカルのミッちゃんと付き合ってるんだ。
ミッちゃんは確か二十歳の大学生。
気さくな感じで伸ばした髪にメッシュ入れててカッコいい。
声は甘めで女子のファンがすごく多くて、本人もモテる自覚ある感じ。
「ミッちゃんか、あいつエロいからなー。彼女気をつけて」
サトルさんはアヤカさんに言った。
アヤカさんは「はい」と笑顔で返していた。
サトルさんとコウはひとしきり演奏や曲の話をしていた。
「アヤカさんの彼、ミッちゃんなんだ」と言ったら
「ライブ聴いてカッコ良かったから、こっちからナンパしちゃった」
アヤカさんは言って綺麗に笑った。
「そっか、ミッちゃんてほんとにモテるよ」
「わかる。先月も親衛隊みたいな人たちに軽く囲まれたもん」
「えー、そんなことするんだ。大丈夫だった。ちょっと怖くない」
「ま、ババア多かったし。私、結構強いから負けてないけど」
ババアって言うけど多分女子大生とかのファンだと思う。
「アヤカさんは負けないかもだけど、熱くなる人もいるから」
彼女は本当に綺麗な顔立ちだし、ちょっと怖い顔でもしたら迫力で相手は引き下がるかも。
でも、派手で目立つ男の子のファンの人って、気が強い人も多い。
「ミキちゃん、アヤカでいいよ。私一個下だし」と言うと彼女は小声で、
「この前コウの元カノとか言っちゃったけど、ごめんね。あれ嘘でした」と言った。
「うん、後でコウから聞いた」
「私、実は昔コウの事好きだった時あったんだ。でも私って多分コウのタイプじゃないんだよね。友達以上に扱われたことないの。だから意地悪言っちゃった」
「コウ、すっごく真面目に説明してくれたよ」
「あーわかる。私、昔コウん家の近所に住んでて幼稚園から一緒だったの。中学ん時に私、病んでてコウの手にシャーペン刺したことあるんだ」
「ちょっと聞いた。でも傷も治ってるし大丈夫だよ」
「聞いたんだね。コウ、ギターも弾くのに手にあんなことして後悔してる。でもコウはほんと優しいから怒ったり全然しなかったんだよ」
「あまり気にしない方がきっといいよ」
「ミキちゃんっていいね、なんかホッとする感じ。でもコウは女受けする自覚全くないから気をつけてね」とアヤカさんが言った時、
「俺がなんだって、もう帰るよアヤカも」
後ろからコウが言った。