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You Really Got Me  作者: のすけ
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冬木立のように 

「ミキ、来月俺の誕生日空けておいて欲しいんだ。行きたいとこもあるし、付き合って」

「当然いいよ、コウこそ大丈夫なの。どこ行きたいの」

「それはまだちょっと」と電話でコウが言った。

コウが誕生日に行きたいとこってどこかな、真剣な感じだけど。

最近コウはすごく切実な感じを見せることがあって、それは来年の今頃は二人が違う場所にいることを実感してきたからだと気がついていた。

だけど二人ともそのことは口にできずにいた。

私が渡した手紙をコウはギターケースに入れて持っている。

「俺も同じように考えてたよ、ミキの心とだけキスできる。ミキは特別なんだ」

コウは強く私を抱き締めてくれた。

少し苦しいくらいに。


十一月終わりのコウの十八歳の誕生日に、私は最近練習しているメイクをして出かけた。

「コウ、誕生日おめでとう」

「ありがとう、ミキ化粧してるんだね」

コウが気づいて、ちょっと覗き込むように見られて恥ずかしい。

「あんまりうまくできてないけど、変じゃないかな」

「いや、綺麗」とコウは目を伏せる。

「ありがとう、コウに言われたら嬉しい。もっと練習するね」

「でも、それ以上は俺の理性を破壊するから」

コウは私の手を取り、繋いだ指を絡めて上着のポケットに入れた。

どこへ行きたいのか、まだ聞かないまま一緒に歩いた。

私たちの今が始まった公園では木々が潔く葉を落として冬支度を始めていて、脱ぎ捨てられた落ち葉は冷たく乾いた風の一声で一斉に舞い踊る。

二人に三度目の冬が来てる。

冬木立を見ながらそう思っていたら、コウが私に「そこに座って」とベンチに座るように言った。

けど自分は私の傍らで跪くと私を見上げた。

「俺今日で十八になった。この日を待ってた。ミキを心の全てで愛してる。俺と結婚して下さい」

不意打ちのプロポーズだった。

でも私を捉えたコウの強い眼差しは本気だった。

とても驚いて、頭がくらくらする。

「コウ。隣に来て」と言うとコウは私の隣に腰掛けてしばらく黙っていた。

私も言葉を継げなくて、コウを見つめていた。

「ミキは札幌で、まだあと三年大学があるけど俺は春には札幌を出なきゃいけない。どんな生活になるのか、ミキにどのくらい会えるのかもわからない。でも、もう側には居られなくなる」

「私もそれは考えてた。コウが大切だし、愛してるから」

頬が熱くなる。

「嬉しいよ。でも春にはミキと離れると思ったら心が壊れそうになる。本当は一緒に来て欲しい、側にいて欲しい」

コウは今、苦しみを堪えるような表情で言葉も声も切実だ。

すごく競争の熾烈な世界に飛び込もうと戦う時はいつも大胆なのに。

二人の束の間の穏やかな時間を見失うくらい、コウは思いつめて激しい思いの中にいるみたい。

それは私を想ってくれているせい、深い想いがコウをこれほど揺さぶるの。

私もコウを想ってる。

離れてもそれは変わることはないと思ってるけど、私の想いは軽すぎるの。

「できたら今日、二人で指輪買いに行きたいと思って。今俺があげられるのはシルバーだけど一緒に着けたい。せめてエンゲージにしたくて」とコウは言った。

大学でも彼から贈られたリングを着けてる子がいる。

恋人同士の証、ステディリング。

でもコウはエンゲージと言った。

コウはまだ高校生だし普段は着けられない。

そう、まだ高校生なのにそれでもコウは想いの深さを形にしてくれようとするの。

真剣で本物の気持ちと生まれて初めての言葉は胸が痛くなるほど嬉しい。

でも、こんなにも思いつめてるコウが心配なの。

私にもコウのことを考えさせてほしい。

私はどうしたら今のコウに、もう少し穏やかな楽しい気持ちで居てもらえるのかな。

「ねえ、私コウを信じてるよ」

「うん」

「コウの気持ち受け取った、でも今すぐには答えを返せないよ」

「そうか、驚かせちゃったよね。結婚なんていきなりすぎた」

コウは眉を寄せ、ちょっと困った顔をした。

「嬉しい、けどすごく驚いてるの。今日はコウのお祝いをしようと思ってたし、すごい不意打ちで」

「俺は今日、ミキにプロポーズできる歳になったことで十分嬉しいけど」

すごく優しい笑顔でコウは私の手を取った。

「コウはいつも私に何かしてくれようとばっかりするけど、私の気持ちも受け取ってよ」

「わかった」

「コウ、私を信じてほしいの。私にコウの信じる気持ちをちょうだい」私はコウをまっすぐに見て言った。

「いつだってあげるよ。でもミキ、エンゲージはやっぱり駄目なの」

そう言ったコウは、まだ心が揺れてるみたい。

「駄目なんて、そんなわけ、ない。コウしかいないから」コウしかいないの、心でキスを交わせる人は。

「俺も、ミキしかいないから待つ」コウは深呼吸して言った。

「私だって、正直に言うとコウと離れたくない。でも、今はまだ二人で普通に楽しい時間をたくさん作りたい」

一人で想いを抱え続けていたら、それはだんだん重く沈殿して、固まって違うものになって行く。

そうならないように伝えあわなきゃ。

潔く葉を落とした冬の木々たちのように、風の中で裸の心をかわして。

「そうする。ミキに困った顔させに来たんじゃないや」とコウが言った。

さっきまでと声も違っていつものコウになった。

「よかった、コウ誕生日おめでとう。やっとお祝いできるよ」

「ありがとう、俺すごく欲しいものあるよ」

「え、何」

「さっき俺の理性を破壊したミキ」コウは急に不敵に宣言した。

「もうずるい、今日はこれで帰ろうかな。さよならコウ」と言ってやると、コウはシュンとした顔になり声を落として「ごめんね、駄目」と言った。

そんなわけないよコウ。意地悪してごめんね。


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