そのままで 2
十月に組まれたDarwin初の札幌単独ライブは、ラジオで一度予定を放送できただけだった。
けど、あちこちに置いたフライヤーがどんどんなくなって、準備した前売り券も完売した。
立って見るスタイルだけど、このぶんだと当日券が出れば超満員になる。
当日は開場待ちをする子達がいてさらに驚いた。
ファンクラブの子達も「この日を待ち望んでました」と言って、始まる前から半泣きする子もいた。
私もチエちゃんもカズネ先輩も、やってくるお客さん達の期待感と盛り上がりに圧倒された。
「初の単独とは思えないよねー」
チエちゃんと言いあった。
「置いてた新譜のデモテープがもうなくなっちゃった」
カズネ先輩も嬉しそうに言った。
ライブはいつも通り元気な曲数曲から始まって、途中でメンバー紹介と近況をコウがMCで話した。
メンバーそれぞれへのコールもすごいし、カメラのタッキーは例によってあちこち動いて、
たくさん写真を撮ってくれていた。
コウの新曲「そのままで」はやっぱり女の子の歓声がすごかった。
最初からずっとドキドキしてたけど、アンコールの拍手が来て最後に「進化論」を演った。
ステージ下にみんな詰めかけて、ヘッドバンギングがすごかった。
聴いてくれた地域FMの若手DJの人が楽屋に来た。
「いいライブだったよー。ケン君もセイ君のギターもえらく暴れたねー。ライブでのアレンジも練り直したんでしょう」
伝わったね、と私はチエちゃんと顔を見合わせた。
デモテープを持ち込んだレコード会社RedWingの人も、東京から聴きに来てくれていた。
「伊東君のアンセムナンバーと秋本君のバラード系がしっかり二本立てで聴かせるね。すごくいいよ、面白い」
そう言ってくれて、メンバーは神妙に聞いていた。
こちらにもDarwinの良さが伝わったんだと思うと、もう飛び上がりそうだった。
後から正式に来春デビューに向けての話があった。
それは予想通り、来春から東京での活動が可能なことが前提だった。
Darwinは、十一月にコウが誕生日を迎えると全員18歳以上になるので、そこで改めてプロの契約をする。
今日、Darwinはついに夢の戸口に立った。
そしてDarwinのボーカルとして、コウは仲間と一緒に喜びを噛み締めている。
でも私の彼、高3の秋本洸は違っていた。




