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11 図書館業務システム

 メラニーさんに連れられ、作業室を出て魔導書庫までやってきた。

 しかし魔導書関連の仕事かー。

 どんなことをやるんだろう。


「じつはマニュアルを作っててね。さっき完成して印刷したんだけど」


 メラニーさんは、私にコピー用紙を何枚か束ねた冊子を渡してくれた。


「あ、ありがとうございます」

「いちおう図書館業務システムの基本的な使い方をまとめておいたの」

「図書館業務システム……!」


 現代の図書館員の必須ツールとでもいうべきものが、図書館業務システムである。

 パソコンから館内に置いてある業務用サーバーにアクセスし、利用者や蔵書の管理をしたりする。


 私も簡単な知識しかなくて、実際に構ったことはない。どんなものか実際に触れられると思うと、嬉しさがこみ上げてくる。


「うちで導入しているのは“LINKS-Reリンクス・アールイー”というシステム。私たちは“リンクス”と呼んでいるわ」


 微笑するメラニーさんは、タブレットPCのようなものを持っていた。

 魔導書庫へ行く前、事務室で何か持ち出していると思ったが、この十インチほどの大きさの魔導タブレットを借りていたらしい。


「クロユリさんには、仕事の引き継ぎと一緒にシステムの使い方も覚えてもらいます」

「は、はい」

「マニュアルをもとにして段階的に教えていくわね」

「よろしくお願いします……」


 急に仕事っぽくなってきて、冊子を持つ手が震えてきた。ちゃんと覚えられるだろうか……。


「業務システムは蔵書を管理するだけじゃなくて、カウンターでの貸出や返却の業務にも使われるわ。とにかくこれ一つで図書館の業務はだいたいできるってくらい、いろんな機能を持ってるのよ」

「って、マニュアルにも絵が描いてあるんですね……」


 緊張してくるが、すごい存在感のあるものを見つけてしまって少し気が抜けた。


 マニュアルには表紙はなく、何かパソコンの画面のような画像と解説が載っていて、「ステップ1」と書かれた横に不安感を煽るような何かが描かれていた。


 なんだろうこれ。


 べらぼうに鋭い牙を生やした長い耳のモンスターが、人間を片手で握り潰しているように見える。筋肉はムキムキ、殺気立って血走る瞳も当然赤。背景は墨汁の黒と青。

 壁にかけてある絵は人間と人間の殺し合い的な感じだったが、今回は人外の化け物が人間を屠っていた。殺伐である。


「絵とかあったほうがわかりやすいと思って」

「な、なるほど……」


 もう目がそこにしか行かないんですが。解説とか二の次で絵に注目してしまう。


「ちなみに持っているのは人参よ」

人参ニンジンなんですか!? ニンじゃなくて!?」


 確かに真っ赤だけど、すごい脱力したようにしんなりしてるし手足っぽいのもついてるんですが。


「うさぎだもの、やっぱり人参はセットじゃないと」

「うさぎだったんだ! あ、いや、すいません!」


 ああ、だから耳長いんだ!


 ページをぱらぱらめくっていくと、次のステップにいくごとに犠牲者、じゃない、人参が増えていく。

 しかも何か鋭い爪を伸ばしてポイントを解説しているところもある。その爪はどう見ても血だらけである。

 食べカスか汁的なやつか、もしくは人参も血を流す世界なんだろう。そう納得することにする。


「基本的な操作を覚えれば、普段の業務に支障がない程度は使えるようになると思うわ」

「このうさぎさんが(血まみれの)爪で解説しているところですね」

「そうそう」


 マニュアルに描いてあるうさぎさんによると、図書館業務システムは蔵書検索と貸出処理と返却処理ができればだいたいオッケーらしい。

 本当か? そこまでこのうさぎを信用していいのか?


「魔導書庫の管理もリンクスを使うんですか?」

「そうよ。ここに所蔵されてるだいたいの魔導書はシステムに登録されているから」


 メラニーさんはタブレットを起動させる。

 そして古い机のそばにあった壁の穴(あとで調べたがLANポートとかいうらしい)にケーブルを挿してタブレットにつないだ。


「それでね、ちょっと作業途中の仕事があって、それを引き続きやってもらいたいの」


 タブレットの画面に映っているのは、図書館システム“LINKS-Reリンクス”のログイン画面。


「タブレットの使い方は?」

「だっ、だっ、大丈夫ですよ! ……起動以外は、教えてもらえればできます」

「一番大事な起動は無理なのかしら?」


 ログイン方法も教わりながら画面をタッチして操作していくと、リンクスの図書館業務メニューが開いた。


「そうなの、魔導の扱いが苦手なの」


 事情を話すと、メラニーさんは驚きながらも私を心配してくれた。


 アレイスタ導版つきの魔導具は、一度起動さえしてしまえば、あとは内蔵する魔導石が自動で魔導力を供給してくれる。


 だからすでに起動しているものならば魔導を発動させる必要がないので、私はちゃんと使うことができるのだ。しかし普段タブレットもパソコンも使わないので、教えてもらわなければできないのだ。


「大変ねえ」

「まあ友達も助けてくれるし、魔導に頼らない生活っていうのもいいもんだと思いながら生きてますよ」

「きっと慣れるまで難儀すると思うわ。なにか困ったことがあったら言ってね」

「ありがとうございます。友達のスマホ使って起動の練習してくるので、がんばります」

「本当に焦らずゆっくり覚えていけばいいからねー」


 気を取り直して、画面を見る。

 メニューでは、「窓口業務」(いわゆる開架のカウンターに関する業務だろう)や、「資料管理業務」など、業務ごとにカテゴリー分けされたボタンがついている。


「話は戻るけど、引き続きやってもらいたい仕事があってね」

「はい」


 メラニーさんが「資料管理業務」と書かれたボタンをタッチするとメニューが切り替わり、蔵書の管理に関する項目がいくつか並んだ。

 さらに「図書登録」と書かれたところをタッチすると、図書が登録できる画面に切り替わる。

 書名や著者名などを入力できる画面だ。


「ここに、魔導書の詳しい情報をできるだけ登録していってほしいのよ」

「はい。……ん? ここの全部ですか?」


 魔導書庫にあるのは一万五千冊ほどと聞いている。

 それを一冊一冊登録していたとすると、かなりの時間になる。


「登録が必要なのは古い魔導書だけよ。だいたいこの書庫内にある総量の一割から二割くらいかしら。あとはもう登録されているのよ」

「『古い魔導書』ってことは、クラスB以上のやばいのが中心になるってことですか」


 古い魔導書は、狂気汚染の危険が高いものが多い。

 つまり私は、これからずっと発狂と隣り合わせで業務を行っていかなければならないのだ。


「そうなるわね~」


 メラニーさんはとても気楽そうに答えた。この人も、よく今まで頭おかしくならなかったなと感服する。

 魔導書の狂気汚染への耐性は、個人差がある。

 メラニーさんは、きっと相当耐性が強いのだろう。


「クロユリさん、司書の資格持ってると思うけど、狂化耐性は強い方?」

「いちおう、普通の人よりはあるみたいですが……」

「なら平気ね。まあ、ちゃんと読まなければ深刻な事態にはならないと思うんだけどね。司書でも長らく魔導書と関わっていると病院に通わなきゃいけなくなることがあるみたいだから」


 メラニーさんはにっこりと笑いながら、私にタブレットを渡した。


「精神に気をつけてやってね」


 私は白目を剥きそうになったが耐えた。

【おまけ】現実と共通している用語を解説


・図書館業務システム

 蔵書や利用者の情報は業務用のサーバーに保管されていたりするが、そこにアクセスして情報の管理を十全に行うためのシステム。

 蔵書データの管理だけでなく、カウンターでの図書の貸出・返却や、蔵書の検索機能、利用者情報の管理など機能は幅広い。図書の発注なども行うことができる。

 現代の公共図書館司書の必須ツールともいえる。業務システムのネタは今後ちょこちょこ作中で出てくると思われる。

 様々な会社が様々な図書館業務システムを作っているので、使用方法はシステムによって差異があるようだ。

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