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10 魔導図書館にいる濃ゆい人たち(3)あとがきに登場人物紹介

「……すいません、話は変わるんですが、さっきから気になっていることがあって」

「?」

「なんか壁に地獄絵図みたいなのが飾ってあるんですがこれは……」


 気になって限界だった。

 私は恐る恐る、壁にかかっているアバンギャルドな絵画を指して言った。


 使われているのは赤と墨汁のような黒と薄めの藍の三色のみ。絵具を使った抽象的な線画なのではっきり何が描かれているかはわからないのだが、何人もの人が殺し合っているように見える。

 輪郭に黒、地面や影は薄めの藍、赤は血が噴き出しているように使われていた。見ていると不安にかられるような、そんな作品が二枚並んで飾られている様は圧巻とさえ思う。存在感がすごい。


「この絵はメラニーが描いたやつ」

「メラニー、さん?」

「メラニー・アルマ。同じ資料担当の人」


 と依子さんは答えた。


「そして昨年度の魔導書担当」


 私に仕事の引き継ぎをしてくれる人だ。


「で、この絵の題名なんでしたっけ?」


 エイラさんは依子さんに訊いた。


「たしか、『人助け』と『優しい世界』。どっちがどっちかは忘れた」

「人殺してるようにしか見えないんですが助けてるんですか。この世のどこよりも凄惨な世界に見えますよ……!」


 私は震えながら言った。

 見れば見るほど地獄絵図にしか見えない。『皆殺し』と『むごたらしい世界』なら納得していた。いや、それを仕事場に飾るのもどうかと思うけど。


「たぶん。ほら、このへんとか優しげ?」

「石ころじゃないですかそれ!?」


 依子さんは、絵の中では一番ましな右下の歪な丸が描いてある部分をなんとなく指差していた。あとはなんか血を流している人間らしきものか血まみれの武器を持つ人間らしきものしかいなかった。


 これを描く人とか、失礼ですが人格を疑わざるをえないんですが。すごい意地悪な人とかだったらどうしよう。


「おはようございますー」


 びくびくしていると、また作業室に人が入ってきた。

 栗色の長い髪を一部バレッタでとめている、清楚な印象の髪型。白い肌に、クッキリした目鼻立ちは誰もが美人だと認めそうなほど整っている。スタイルも良くて、自分がみじめに感じるほどである。

 頭の両脇からヒツジの角のようなものが前に垂れるようにして生えていた。

 ひらひらのついた白い長袖のブラウスには黒いリボンがついていて、高価そうな生地が使われていた。


 この場には似つかわしくない清楚なお嬢様、みたいな印象。でもひらひらの服にエプロンはすごくよく合っていて、品のいい保育士さんか家政婦さんを想起させた。


「メラニーきた」


 と依子さんが私に教えてくれた。彼女がメラニー・アルマさんらしい。


「メルー、昨日入った新人のクロちゃんだよ。昨日休んでたからわからなかったでしょ」


 エイラさんはメラニーさんのことをメル(もしくはメルー?)と呼んでいるようだ。


「クロユリ・ハイドレンジアです。よろしくお願いしますっ」


 私は意気込んで頭を下げた。なんだか全然イメージと違った。変な想像してごめんなさい。


「よろしくね、クロユリさん。でも、あまり身構えなくていいのよ」


 メラニーさんは柔らかい笑顔でゆっくりと言葉を紡ぐ。


「クロちゃんはメルの絵を見てビビってるんだよ」とエイラさん。

「まあ。あんな朗らかな色合いにしたのに?」


 三色しかなくてその一色血に使われてるんですけど朗らかて!

 そもそも色合いの問題じゃないんですが。


「私の腕もまだまだね。精進しなくちゃ……」

「いえ、十分すてきな絵ですので!」


 これ以上精進したらさらに恐ろしくなってしまう。 


「ありがとう。じゃ、これから引き継ぎの仕事を教えるので、よろしくねクロユリさん」

「はいっ、お願いします!」


 メラニーさんはにこやかで温かな笑顔。こんなホワホワで優しそうな人のどこにあんな地獄を描く闇が潜んでいるのか。


「すいません、その前にお手洗い行ってきます」

「どうぞ~」


 きっと芸術面でのセンスが少し個性的なだけなんだ。

 そう思うことにする。

・主な登場人物と舞台(主要キャラ出そろってきたので……)


ナイアガ自治州

 このお話のおもな舞台。

 数十年前、ジェレマイア共和国内にある州のうちの一つであるアルトホート州から独立した自治体。

 もともとはナイアガ市という大きな市だった。

 ナイアガ自治州内に「市」というのはなく、いくつかの地区で区分され、そこに町や村が点在している。

 魔導図書館の住所は中央地区本町にある。


おもな人種

 原生種ノーム……普通の人間と同じ特徴の人種をクロユリたちの世界ではそう呼ぶ。

 妖生種スプリ……原生種における身体的特徴のどこかが原型をとどめつつも変化している人種。耳や顔が原生種と比べて長い、目の色が左右違う、平均よりかなり身長が低い・でかいなど。

 獣生種バースト……原生種には見られない特徴がみられる人種。獣のような耳が生えている、角が生えている、牙があるなど。

(マイノリティだが、他国にはほかにもいろいろと人種は存在する模様)



クロユリ・ハイドレンジア

 主人公。二十歳。短大を卒業し、ナイアガ自治州立魔導図書館へ嘱託職員として勤務することになった。

 原生種系ノーム。メガネ、黒髪、おかっぱ。普段はスーツを着ている。

 緊張に弱い。テンパったり追いつめられると花を咲かすことなく失敗する。緊張しなければ基本的に前向きな性格。

 魔導の扱いが苦手。


依子よりこ・ウェイトコット

 妖生種系スプリで、尖った耳、空色の髪をしている。仕事をするときだけ髪を後ろで縛る。

 長寿で、老いもゆっくりである。そのせいで未成年に見られることが多い。

 物静かだが後輩をよく気にかけてくれる。一人暮らしで、実家が山奥。

 嘱託職員の中ではかなりの古株になる。


エイラ・ルテティア・ホイットモーラ

 原生種系ノーム。鉄に触れていないと落ち着きがなくなるという理由で、普段は甲冑を着込んでいる。夏でも甲冑という猛者。

 本人の人当たりがいいからか、「甲冑のおねえちゃん」などと利用者の子どもたちから人気を博している。

 背が高いという特徴以外は、甲冑に包まれていて謎である。


メラニー・アルマ

 角つきの獣生種系バースト。栗色の長い髪を後ろで留めている。清楚なお嬢様のような印象で、穏やかな性格の女性。

 趣味はお菓子作りと水彩画。水彩画は、主に黒と赤と青を基調とした地獄絵図のようなむごたらしい世界観を表現したものが多い。絵画は彼女にとって何よりも優先しなければならないものである。

 もう一つのお菓子作りはまともで、世話好きな面もあり一見すると女子力は高めに見える。


アタリァ・リガルディ

 小柄な妖生種系スプリの女の子。

 クロユリの小学校からの友人で腐れ縁。現在大学生。

 クロユリとはアパートの一室をルームシェアして一緒に住んでいる。

 料理以外は比較的家庭的だが、少し大雑把な面もある。

 力が強く、全力を出そうとすると腕とかがムキムキになるので、夏でも長袖を着ている。


杏璃あんり・ヘミティッジ

 不死種? 死んでも生き返る人種。

 ナイアガ自治州立魔導図書館・館長。

 達観しているのか、言葉遣いは女性のそれとは少しかけ離れている。

 運が悪く、よく関係ないトラブルに巻き込まれて、最悪死んでいたりする。生き返った時、死ぬ前の記憶を失うことがある。


アルバート・フォークレイツ・D・ジップ

 正規職員で、事務担当。年齢は二十七歳。

 資料担当の仕事を総括し、嘱託職員の各担当に指示を出したりする。

 赤みがかった黒髪で、やや痩躯。

 目つきが悪く、少々口が悪い。わりと性格が細かい。


グレイス・四ツ谷よつや

 黒ぶちメガネの三十代男性。正規職員。

 一応ジップや斑鳩より役職は上で、館長補佐のような仕事をしている。館長が死んだときに仕事を代理したり。

 手癖が悪く、ジップによくちょっかいを出したりからかったりする。

 昔ピアノをやっていたらしい。


斑鳩いかるが吉十郎・きちじゅうろう

 獣生種系バーストで、犬のような耳と尻尾を持つ。髪は灰色。

 正規職員で、ジップと同じく事務担当。

 フロア担当の仕事を総括し、イベントの企画なども行ったりする。

 家で飼っている仔猫をたまに図書館に連れてきて愛でている。愛猫一番ほかは二番。

 そのせいでモフモフという可愛らしいあだ名がついている残念なイケメン。

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