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#8 反乱と脱出

#8 反乱と脱出



亜耶 Side


 新條大尉が石化状態からもどって一ヶ月が経過した。

しかし未だに魔法省調査部でも現状では新しい情報を見つける事はできなかった。


 私達はどうしているかというと今後の為にも魔法省調査部と情報の共有が必要だろうとの判断に至り、今はリデアさんからの正式な、いや冒険者ギルドの依頼として私とマスターは冒険者ギルドからの魔法省調査部への出向という形でこちらに毎日出勤している。これは単純に私のレベル50の技能が必要とされたからだろう。


 今はシャフリラの指示で私とマスター、新條大尉でチームを組んでこの件について三人で調査を続けていた。ちなみに今は私とマスターは佐官待遇となっている。


 「あれからジゼル商会にも動きはないし、これじゃ完全に手詰まりですねえ」


 麻衣が紅茶をすすりながらため息を付いた。

 そう言えば新條大尉も転生したタイミングは異なるがマスターと同じように転生した日本人だと言うこともあり私達は今では新條大尉を「麻衣」と名前でお互いを呼び合う仲になっていた。


 そういえばこの世界の言語は極めて私やマスター、麻衣が元いた世界に近い。実際、帝国公用語は文法も文字も発音もほぼ日本語と変わらないし国土の形状も面積の差(日本の3倍ほどある)や細かいディテールの違い、都市の名称や住んでいる種族の違い(例えばシャフリラはエルフだ)があるとは言えかなりそっくりである。

 おそらくここは無数にある平行世界の日本の一つの形なのだろう。


 「うーん・・・・・麻衣が生身の人間に回復したのを向こうは把握してるだろうし・・・・そうなればわざわざこっちに出向く意味もないし」

 「困りましたね・・・シャフリラさんも手がかりのなさに頭を抱えてますし」


 ちょっと低いところを帝国軍の艦載機らしき魔導機兵が飛んで行くのが見えた。あの高度だとランドウイング(魔導機兵専用の背面装着型飛行ユニット)の訓練飛行だろうか。


 魔導機兵というのはアニメで言ういわゆるリアルロボット系の人型兵器に相当する。大出力の魔法炉を搭載した身長18m程の機動兵器でその魔法炉で魔力を圧縮、タービンを回しその強大な推力で飛行をすることが可能である。ランドウイングの翼は揚力よりもその飛行安定性や動翼による姿勢制御の補助をするためのものである。


 ただ魔法炉を制御するにはそれなりに魔法が使える者じゃないと動かせないので帝国軍では魔術師兼パイロットの育成に力を入れていると言う。


 私達は魔法省の近所にあるカフェで店自慢の特製ハンバーガーとサラダとアイスティーのセットで遅い昼食をとっていた。

 店内のテーブルが満席だったために私とマスターと麻衣は店の前にある歩道の脇の席を確保してなんとなく通りを走っていく車や馬車を眺めながら話をしていた。


 見ていると圧倒的に多いのは馬車で車はかなり少ない。走っている車はいわゆるクラシックカー的なデザインの車だ。

 たまに見かける車はトラックやタクシー、後は貴族や裕福な商人の車くらいである。

 それ以外には路面電車、いや、この世界には電気のインフラはなくて魔法で走るから路面魔法列車(ちなみに小型の魔導機関車に牽引されて走る)と言うべきだろうか。


 イメージとしては大正から昭和初期の風景に剣と魔法の世界をミックスしたような感じだ。

 時折、通行人が私をちらちらと見て通り過ぎる。私は容姿が目立つからこういう席はちょっと苦手だ。

 

 「・・・・・・ん?」


 私は雑踏の色々な音の中に妙な、破壊音のような音が聞こえたような気がして振り向いた。


 「どうしたの?」


 不思議そうな顔で麻衣が聞いた。


 「今ちょっと妙な音が・・・今かすかに聞こえたんだけど」

 「全然・・・亜耶って耳いいのねえ」


 今度はガシャーンと派手な衝突音が聞こえた。


 「・・・・・あれだ」


 マスターが指差した方向でトラックが道路一杯に、左右に蛇行しつつ暴走していたと思うと今度はそのまま歩道に乗り上げてこっちに向かってきた。

 暴走したトラックが消火栓を折り倒して噴水のように歩道から水が吹き出す。


 行き交っていた歩行者やら歩道でサンドイッチを売っている屋台のおじさんだのが泡くってトラックから逃げる。


 「ふーん・・・・・」


 私はゆっくりと立ち上がった。トラックはゴミ箱やら食べ物の屋台やらを盛大に跳ね飛ばしながら私のいる方向へと真っ直ぐに突っ込んでくる。この後の惨劇を予想した店員が悲鳴をあげた。

 左手でアイスティーをもってストローを咥えたまま、私はそのまま道にすたすたと出た。一応周囲を見るとみんな既に歩道からは逃げている。


 まわりからは危ないだの轢かれるぞ、逃げろだのと私に叫ぶ声が聞こえてくる。

 ゆっくりと右手を上げて水平にすると自分に向かって突進してくるトラックに手の平を向けた。

 私の前に光の粒子が集まって直径数メートル程の大きな魔法陣が出現した。マジックウォールといって魔法陣を障壁にして物理的な攻撃から身を守る軍用魔法だ。


 同じ防御魔法でもフォースフィールドと違うのはあっちは対魔法攻撃専用、マジックウォールは魔法以外の物理攻撃専用と役目が別れていることだ。そしてこれはお互い同時に展開する事が出来ないから戦闘時には判断力が要求される。


 次の瞬間、トラックは正面から魔法陣に激突してその衝撃で後部が跳ね上がった。そのままトラックは頭上を前転するように飛び越えて私の真後ろで仰向け状態にひっくり返ってやっと止まった。

 一部始終を見ていた通行人やカフェの客達から驚きの声が聞こえる。


 「亜耶、大丈夫?」

 「大丈夫です、問題ありません」


 マスターが心配そうに訊くがそれよりも気になることがある。

 のんびりした声に振り向くと麻衣は両手に特製ハンバーガーとサラダの小皿を持ってもぐもぐと食べながらちゃっかりテーブルから離れていた。


 「まだ食べてたのかあんたは」


 そういうマスターも手に紅茶を持ったままだったりする。


 「さすがねえ・・・・私はトロいからそういうの無理だわ」


 私は何故に魔法省調査部は彼女にオペレーション・メデューサの潜入捜査をさせたんだろうと一瞬本気で悩んだ。


 「・・・とにかく運転手を救出しないと!」


 野次馬をかき分けて私はトラックに駆け寄った。前部が魔法陣との衝突で潰れている。

 運転手に治癒魔法をかけようとしたのだが・・・。

 私はその光景に眼を疑い、声をあげた。


 「ちょっと来て!」

 「どうしたの?亜耶の治癒魔法じゃ間に合わない?」

 「・・・・・必要なのは治癒魔法じゃない・・・・」

 「え?」


 見ると運転手はハンドルを握ったまま石化していた。


 「・・・・麻衣」

 「どうしたんですか?」

 「麻衣は走行中のトラックの運転手をを外から石化させる事できる?」

 「・・・・・私には無理だなあ」

 「・・・じゃあ「あれ」ならできると思う?」

 「多分可能だと思う」

 「これ見よがし・・・・事態の進行を止められるものなら止めて見ろ、か・・・・・くそっ!」


 マスターが悔しそうな顔でトラックをドンと叩いた。 

 しばらくするとこの地区の担当の警備兵達がやってきて現場の処理やら状況の聴き取りやらを始めた。

 

 結局トラックの石化した二人は魔法省調査部へと引き取られて詳しく解析される事とになり移送されて行った。その一方で私達はというと改めて石化の資料の洗い直しをした方がいいだろうと言うことになった。



 昶 Side


 結局めぼしい資料が見つからないままあれから休日返上の一週間が過ぎた。

 日曜日の魔法省の中は人気はまばらだった。休日出勤で来た僅かな数の職員たちが始業時間前に一階のエントランスでおしゃべりをしている。


 「おはよう、二人共今週も休出か?」

 「おはようございまーす、まだ調べたりない事があるの!」


 マスターが愛想良く声をかけてきた職員のおじさんに挨拶を返す。確か一階の総務課のおじさんだ。

 そのまま他の職員たちにもおはようと挨拶しながらあたし達は調査部のオフィスに向かった。

 魔法省調査部のオフィスに入ると新型空中戦艦「トール」の就役記念式典のニュースをやっていた。日曜日だけあって帝国軍ご自慢の巨大な空中戦艦をひと目見ようと観客席は満杯である。


 その形は戦艦ではあるのだが某有名アニメのアンドロメダ星雲まで行った宇宙戦艦よりも地球とスペースコロニーを舞台にした超有名リアルロボットアニメの地球側の宇宙戦艦に近い形をしている。


 戦艦「トール」は前半分はご自慢の口径51cmを誇る第一、第二主砲と巡洋艦から流用された副砲が装備されており、煙突から後ろにかけては艦載機の大きな格納庫と、同時に三機の魔導機兵が離艦できる戦艦としてはかなり大きめの飛行甲板が設けられている。


 発想としては太平洋戦争での旧日本海軍の伊勢型航空戦艦、運用的には海上自衛隊のヘリ搭載護衛艦のはるな型やしらね型に近いのかもしれない。


 とにかくそれにより「トール」は戦艦でありながら魔導機兵24機と汎用VTOL6機を搭載する軽空母並みの航空戦力を持つ事になった。


 魔法省調査部のオフィスの魔導モニターには王城の専用埠頭に係留されたトールの前に設置された特設ステージで演説をする軍務大臣の姿が映っていた。対面の玉座には現在19才のアルフォス・ラーズ女王が座っている。

 彼女は17才の時、父親のラーズ15世が2年前に急逝してから女王として賢政を施いている。その為に国民達の信望も厚く人気のある女王様だ。


 しかしドリスコフの演説を聞く女王アルフォス・ラーズは作った笑顔ではいるもののあまり浮かない表情で玉座に座っていた。

 無理もない。アルフォス女王はトール級空中戦艦の建造計画に反対していたと聞く。彼女はトールのような国の威信を誇示する為の大型戦艦ではなく汎用性の高い大型の空母を複数建造して緊急派遣能力や災害派遣、国際貢献に使えるようにした方が良いと強く主張していたからだ。


 だがそれは軍務大臣であるアレクセイ・ドリスコフ元帥を筆頭とした帝国軍上層部によって無視された。

 曲がりなりにもこの国を戦勝国に導いた軍人の側からすればいくら女王でもたかだか19才の小娘に自分達のやることに対して口出しをされたくはないだろう。


 とは言え現状の帝国軍にトール級のような大型戦艦は時代にそぐわないのも事実である。

 そしてあたしは軍務大臣アレクセイ・ドリスコフ元帥には黒い噂が多い事やその傲岸不遜な態度もあって良い印象は全く持っていなかった。


 「三人共、怖い顔してるわよ」


 シャフリラに言われてあたしははっとした。やはりこればかりは感情は隠せない。

 彼女はこの魔法省調査部の部長で見事な金髪碧眼の女性エルフである。落ちつた感じのその声はいかにもキャリアウーマンという感じだ。

 その彼女に言われてそんなに険しい表情してるのかと我に返る。


 「あ・・・はい」


 あたしは自分の頬をさすった。


 「・・・あの装備なにかしら」


 シャフリラの声にあたしはモニターを見直した。


 「魔導機兵・・・ですか」

 「見たこと無い形状ね」


 トールの先端部に装飾された魔導機兵が立っているのだが見慣れない装備を両方の肩に装着していた。直径2m位の円筒形で正面から見ると蓋がしまっているらしく一見すれば対地ロケットか何かが装填されているようにも見えたが微妙に形状が異なる。

 モニターの中ではまだドリスコフが演説をしていた。


 『そしてこのトールの就役によりわが国、ひいては我が帝国軍が世界の軍事バランスをリードすることになるでありましょう!』


 「また大きく出たねえ」


 あたしは呆れたような声でドリスコフの演説の感想を言う。

 日本人には苦い経験だが第二次世界大戦で旧日本海軍は戦艦大和・武蔵の高性能な戦艦を建造したが戦局を変えるような影響を与える事は出来なかったのだ。正直、トール級戦艦を数隻建造したところで大きな戦略的意味があるとは思えない。


 現実的に考えれば戦艦を何隻も建造するよりも魔導機兵を80機位搭載できる正規空母からなる機動部隊を最低でも3個艦隊編成したほうが軍事的にはずっと役に立つだろう。

 そして大型戦艦による砲艦外交を今のアルフォス女王は望んでいない。


 『さて皆さん。私は秩序を守るためにも「力による政治が必要である」と常々アルフォス女王に進言して参りました』


 「・・・え?」


 亜耶が思わず疑問符を口にした。


 「部長!トールの一番砲塔が!」

 「どういうこと・・・・!」


 ドリスコフの後ろのトールの最前部の一番砲塔が王城に向けて旋回しているのが画面に映った。


 『さてアルフォス女王、そろそろ我が帝国軍に我が国のすべての全権委任をして頂けませんかな?』


 最初は驚きの表情をしていたアルフォス女王はすぐに立ち上がるとドリスコフを睨みつけながらきっぱりとした口調で言った。


 『ドリスコフ軍務大臣、貴方は何を考えているのです。軍事政権化など私が許すわけ無いでしょう、憲兵!何をしているのですか!』


 だが彼女の命令を聞いた憲兵たちが1ダース程がドリスコフに駆け寄り、彼の身柄を確保しようとした時だった。


 『やり給え』


 トールの最前部に立っているさっきの見慣れない装備を付けた魔導機兵が動いた。いや、憲兵達に向きを変えた。

 魔導機兵の両肩にある例の装備の蓋がぱかっと開くと魔力の光の粒子が一瞬で集まり淡いブルーの光線が憲兵達に向けて照射された。


 「あれは・・・・!」


 あたし達は全員息を飲んだ。ブルーの光線を照射された憲兵達全員が一瞬で石になったのである。昨日の馬車の事件の直前に見た魔導機兵はこれだったんだ。


 『脅迫するつもりですかドリスコフ軍務大臣!』

 『アルフォス女王、貴方は我々帝国軍上層部があれほど軍がすべてを統制するべきとこれまでにも散々申し上げていたのに聞く耳を持たなかったではありませんか、ならば実力行使をするまでの事です・・・・それに今私は魔導機兵の砲撃で破壊させたわけではありませんよ・・・・・人道的でしょう?』

 『大戦は既に終わっているのです、今はそのような時代ではありません!』

 『見解が合わずに残念ですアルフォス女王、とにかく政府機関の庁舎や軍の基地は掌握させて頂きます』


 王女の玉座の前に数機の魔導機兵が着陸すると銃を向ける。


 『連れて行き給え・・・ああ、それとアルフォス女王、新しい帝国軍の参謀を紹介しよう・・・・・顔を見せてやれ』


 光線を照射した機体の操縦席のハッチが開き、降りてきたパイロットの顔に見覚えがあった。


 「くっ!!!!」


 亜耶が悔しさのあまり机を拳でドンと強く叩いた。 それはアフィッド大佐だった。


 「・・・・・・・やられたわね」


 シャフリラが険しい表情のまま続けた。

 アルフォス女王がドリスコフ麾下の兵士たちに捕らえられ後ろ手に拘束されると手荒に連行される光景がモニターには映っていた。


 「三人共すぐにこの建物から出なさい。そして任務の続行を命じます」

 「わかりました」


 あたしは立てかけてあった自分のライフルとオートマチック拳銃、それに魔法省調査部から借りている幾つかの装備を持った。その横では既に亜耶は自分の装備を持って用意を終えている。さすがあたしの創造した娘。


 「・・・行くよ亜耶、麻衣、すぐにここはクーデター部隊に占拠されるはずよ」

 「はいっ!」

 「わわ、待って昶!」


 あたし達は魔法省調査部のオフィスを後にした。

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よろしくお願い致しますヽ(´▽`)/!

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[良い点] 若き女王はどうなるか、気になります。 わくわく
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