#87 脱走
#87 脱走
昶Side
「う……ん………?」
「目が覚めましたか、昶」
気がつくとあたしは両手首を手錠らしき物で後ろ手に拘束されて床に転がされていた。
「……どこよここ」
「どうやら倉庫か何かに閉じこめられたようですね」
「……一服盛られたわねこれは……ん?、ちょっと?!何であたしも亜耶も下着姿なのよ?!」
「抵抗できないように身ぐるみ剥がされたかと」
「下着は乱れてないし、まだ変な事はされてはいないみたいね」
まず自分の身体を簡単に自己診断するが特に怪我も悪戯もされてはいないっぽい。
あたしも亜耶も傭兵の仕事をする時に動きやすいようにとスポーツブラとそれに合わせた下着を付けた姿にされていた。
色気に欠ける事おびただしいが機能性重視である以上仕方がない。
「魔法の発動体も?」
「この通り、ブレスレットも予備のペンダントも取り上げられてます」
魔法を使用するにはその触媒となる発動体が必要だ。
魔術師が杖やペンダント、ブレスレット等を必ず身につけているのは発動体がなければ魔法を使えないからである。
「どうしてくれようかしらね、全くあのクソ野郎は……アレを半殺しにするのは後としてもまずは状況把握ね」
「見た感じはここは倉庫のようですが……それ以前に両手をどうにかしないと」
「そうね、ただの手錠じゃないわよねこれ」
「おそらく魔力錠かと、少しですが手錠から魔力を感じます」
「発動体が無いんじゃ魔法で解除するのも無理か……」
周囲を見回すと倉庫らしく大小色々な箱や魔導機兵の部品らしき物も置いてあるが道具になりそうな物は見あたらない。
取り敢えず立ち上がって倉庫の扉の外の様子を伺おうとしたのだが。
「あ。ちょっと昶、歩いたりしたら……!」
「へ?……ふぎゃあっ!!」
右脚がぴんっ!と何かに引っかかったと思うと次の瞬間にはびたーん!とモロに転んだ。
「あ、昶?!大丈夫ですか?!まともに前から転びましたけど?!?!」
「もう、なんなのよっ!!」
「これのせいかと……」
亜耶が起用に後ろ手に指さすのを見るとあたしの右足首と亜耶の左足首が鎖で繋がれていた。
「あんのクソ野郎……!ウラミハラサデオクベキカ……!!」
「……昶……ネタが古いのでは……」
ネタの古さに亜耶がジト目になってるけどいいんだよ、あの名作は報復が主題なんだから。
「いーのよ!最低でも元ネタくらいの報復しなきゃ気が済まないわ」
「言いたい事はわかりますが……まず手足のこれを外さないと」
「多分見張りが鍵を持ってるだろうから騒ぎを起こしてこっちに入って来させるしか無いかな」
「そうですね、さっきから観察していましたけど見回りに来るのはほぼ30分おきみたいですよ」
「じゃあそのタイミングでやろう」
「……でもどうやるのです?いきなり大声を出してもむしろ警戒されると思いますが」
「それなら考えがあるからあたしに任せて」
「……?わかりました」
亜耶は少し首を傾げつつも納得したようだった。
シュリーレン基地 掩体壕
ミスティックシャドウⅡは航空機と人型の中間形態であるマニューバギア形態で掩体壕に駐機されていた。
その周りには幾人ものこの基地の整備兵やパイロット達が集まっている。
その中にはアサクラ少佐の姿もあった。
アサクラ少佐はコクピットで起動させようと作業をしている整備兵に声をかけた。
「どうだ?起動できそうか?」
「さっきから色々試しているのですが全然起動できません」
「何だと?」
「どうやら魔力ロック、それもかなり強力な奴がかけられているようです、正直この基地の装備や施設では歯が立ちません」
「あのカテゴリーⅡ……「銀色の戦乙女」に解除させるしか無いというのか」
「ええ、残念ながら我々では無理ですね」
そのまま暫く様子を見ていても作業が進展する様子は無く無駄に時間が経過していく。
「……どうします少佐?」
「仕方が無いな……本人に解除手順の術式を吐かせるか」
傍らでミスティックシャドウ2の解析の指揮をしていた少尉にアサクラ少佐は業を煮やした。
「そう簡単にしゃべりますかね?」
「身体に聞けばよかろう、必要ならば薬物を使用しても構わんからMP(憲兵)にやらせろ。機体を動かせなくては意味が無いからな」
「わかりました、直ぐに手配します」
「ああ、そうしてくれ」
敬礼すると少尉はこの基地の憲兵隊の詰め所へと走って行った。
「ちっ、全く手間をかけさせてくれる。折角の金ヅルだというのに」
アサクラ少佐は未だに起動する様子の無い紫色の最新鋭機を忌々しそうに睨んだ。
昶Side
「で、あとどれくらいで見回りは来そう?」
「あと10分程でしょうか」
亜耶が倉庫内の壁に取り付けられている時計を見る。
その時、倉庫に扉の外に誰かが来た気配を感じた。
「え?ちょっと時間が早くない?」
「機体の事で私達に吐かせようとしているのかもしれませんよ昶」
「あー、そういやガチガチに魔力ロックかけたんだっけ……よし、じゃあ目立たない程度に騒ぎを起こすわよ」
二人で倉庫の扉の近くに積み上げてある幾つかの箱の近くまで身体をくねらせて移動する。
「それはわかりましたがどうするのです?」
「ちょっと亜耶、協力してね…………んふっ」
「えっ……その含み笑いは何です?いえ、何故にじり寄って来るんですか……まさか昶?」
「いーから任せなさい亜耶」
「本気ですか昶ーーー?!」
あたしは体育座り状態のまま身体をくねらせて下着姿のまま思わず後ずさる亜耶に寄って行く。
後ろ手に拘束されたままの亜耶は背中が大きな箱に当たって動きが止まった。
「脱走の為よ諦めなさい、んーふっふっふ」
「ちょっと?!?!待って昶ーーー?!」
亜耶の身体に覆い被さるように乗るとそのまま唇を重ねる。
「んー!!んー!!!んむぅぅーーー!!……ん……んん……」」
じたばたと動く亜耶に少し押され、その背中側の箱が動かされてその上の箱や物がガラガラとかなり大きな音を立てて崩れ落ちた。
「おい!!何をやっている!!!」
「……かかったわね」
この倉庫の扉を開けようとする鍵の音ががちゃがちゃと聞こえる。
「ん……んん……」
亜耶はというと今の少しばかり濃いキスで蕩け顔になって倒れている。
微妙に身体が震えているあたりちょっとやりすぎたかもしれない。
乱暴に倉庫の扉が開くと少尉の階級章を付けたMPが一人慌てて入って来ると亜耶とディープキスをしているあたしを見て目を丸くする。
「き、貴様ら何をやっている!!」
「はい、いらっしゃーい!」
右足を軸にして身体を回転させ、あたしを亜耶から引き剥がそうとしたMPの首筋へ膝蹴りを叩き込む。
「うおっ!?」
「もう一発!!」
「がっ……!」
よろけたMPの首を両足の太股で挟んで身体を大きく捻ってそのまま頭を床に叩きつけると動かなくなった。
「亜耶!!そっちに転がった鍵を!!」
「は、はいっ!!……あの、昶」
「ん?」
「そのMP、もう離しても大丈夫なのでは」
「あ、そうね……ってか何でこんな幸せそうな顔して気絶するかなこいつ」
見るとあたしの太股に首と顔を挟まれたMPはなんとも嬉しそうと言うか幸せそうな顔をして落ちている。まあつい最近までJKだった女の子の太股に思いっきり挟まれればこうもなるか。
そう言ってる間にも鍵を入手したあたしと亜耶はお互いの手首や足首の魔力錠を外していく。
「さて、機体を取り戻して脱走するわよ」
「はい……ところで昶」
「ん?」
「もう少しマシな騒ぎの起こし方は無かったんですかあああああ!」
あ。亜耶が微妙にキレた。
亜耶さん、短編やコラボ作品から数えて通算4回目のキス被害。




