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#83 傭兵ギルドでの戦闘

 #83 傭兵ギルドでの戦闘



 傭兵ギルドや冒険者ギルドには必ずその訓練場がある。

 傭兵も冒険者も戦闘訓練は必須だしその能力や判断力によって生死が決まる以上それを疎かには出来ないからだ。


 ここヴァインシュトック要塞の傭兵ギルドの訓練場は建物の裏手にあった。

 ここで基礎訓練や各種試験が行われたりする。


 だから今日も傭兵達が訓練をしていた。


 そしてこの訓練に参加している傭兵達は戸惑っていた。


 …………どうしてこうなった?何故あの少女二人を捕捉すら出来ずに部隊の仲間達がどんどん減っていく?

 何故?どうして?Why?


 思い起こせばきっかけはほんの些細な事だった。

 仲間のバカな傭兵がギルドに来ていた銀髪に金色の瞳の少女と黒髪ポニテールの少女二人をからかった末にその少女、それも小柄で到底強そうには見えない黒髪ポニーテールの少女に一発で張り倒された。

 それに激昂したそいつは喧嘩を売った挙げ句、何事かと駆けつけた受付嬢にこの傭兵ギルドの訓練場で決着をつけたらどうかと提案されてそれを受けた。


 じゃあそうしようとどんな内容で決着をつけるか決めようとしたらその少女二人はこう言った。


「それなら貴方達にハンデをあげる。今この傭兵ギルドに来ているあんた達の小隊全員、60人相手でいいわよ?」

「そうですね……私としては一個中隊200人が相手でも構わない位ですが」


 と言い放ったのである。

 どれだけ自信があるのか。

 その台詞に傭兵達は怒り、色めき立った。

 小娘二人に暗に「一人二人じゃ相手にもならないから束でかかってこい」と言われたのも同然なのだから。

 完全に雑魚扱いである。


 双方が選んだ武器は銃器類や近接戦闘訓練用の木剣。銃には訓練用のゴム弾を装填し、予備の弾倉にも同じくそれを装填し、やはり訓練用のゴム製の銃剣を装着して傭兵ギルドがそれぞれに貸し出す。

 木剣は威力軽減の魔法を付与するが運が悪ければ骨折程度の怪我はするし、銃も使用する弾が訓練用のゴム弾とはいっても当たれば気絶するだけの威力がある。


 訓練場はこのヴァインシュトック要塞の都市部を模した市街地のセットが配置されていて都市部における戦闘訓練が出来るようになっていた。



 そして。

 訓練の名目を借りた二人対六十人の喧嘩が始まった。


 傭兵達は12人の班を作り5個のグループに分かれてある者は建物に潜み、またある者は見通しの良い、つまり射線軸の通る場所にライフルを据え付けて潜んだ。


「さて進むぞみんな、あの生意気な小娘にお仕置きしてやらなきゃあなあ!」

「おうよ!」

「捕まえちまおうぜ!あんな上玉はなかなかいねえぞ?」

「特にあの銀髪の姉ちゃんはいい身体してたよなあ、捕まえたら俺達でたっぷり可愛がってやろうぜ」

「残念ながらそれはご遠慮させて頂きますよ?」

「何っ?……ぎゃっ!」


 後ろを振り向くと悲鳴をあげた傭兵がゆっくりと倒れ、その背後に木剣を構えた銀髪の少女が佇んでいた。


「ひいぃぃっ?!」

「いっ、いつの間に接近してたんだ?!」

「う、撃て撃てぇっ!!!」

「遅いですよ?」


 気配を悟らせずに至近距離まで接近していた銀髪の少女に向けて慌ててアサルトライフルを構えて発砲するがその訓練弾を少女はすべて木剣で弾く。そして返す刃であっという間に撃った傭兵が斬り倒される。


「こっ、このっ!!」

「ば、バカ野郎!!ここで弾丸をばら撒くなあっ!!」


 アサルトライフルの連射でばら撒かれた弾丸が同士討ちになり何人かが倒れる。


「何をやっているのです?」

「ぎゃあっ!」

「こいつっ!!」

「残念、背後からの気配が丸出しです」


 前から斬りかかる傭兵の木剣を片手で受ける。そこに背後から銃剣で刺突しようとした傭兵に対して銀髪の少女は銃を腰のホルスターから抜くと三発発砲し木剣を持った傭兵と銃剣を構えた傭兵双方が倒れた。


「やはり銃は昶みたいには上手くできませんね」

「は、早く取り囲め!!人数はこっちが圧倒的に上なんだ!」


 この班のリーダーらしき傭兵の声に仲間達が集まり20人近くの傭兵が銀髪の少女を取り囲んだ。


「流石にこの人数は相手には出来ねえぞ?今なら降伏すれば俺達がたっぷり可愛がってやるがどうだ?」


 降伏勧告に銀髪の少女は意味がわからないと言いたげに一瞬きょとんとした表情を浮かべるがすぐに真面目な表情に戻った。


「わざわざ降伏勧告するとは親切ですね」

「降伏する気になったか?銀髪の姉ちゃん?」

「いいえ?その気はありませんよ?でもせっかく降伏勧告してもらったのですから私からも。いまの貴方達は一番の悪手をうってますよ?」

「何だと?」

「…………ビット」


 銀髪の少女のまわりに急速に魔力が増大し始める。


「な……お前、魔法兵か!だがビットなんてそう沢山撃てる魔法じゃねえんだ!!やっちまえ!!」

「普通の魔法兵ならそうでしょうね」


 傭兵達の頭上に幾つもの魔法陣が展開され、その中心に魔力の粒子が収束していく。その魔法陣の数は軽く20個を越えていた。


「ば、バカなあっ!!」

「ひいいいっ!!」

「当たれ!!」


 銀髪の少女の掛け声と同時に展開された魔法陣の全てから魔弾が発射されて傭兵達に降り注ぎ次々と倒していく。


 残った一人がアサルトライフルを捨てて木剣で斬りかかる。


「畜生!!」

「はあっ!!」


 気合いとともに放たれた銀髪の少女のハイキックが炸裂して傭兵は蹴り飛ばされて気絶した。




 5個の班に分かれた傭兵達の間には困惑と不安が広がっていた。

 銀髪の少女の相手をしていた24人からの連絡が完全に途絶えてしまったのである。

 C班から偵察にでた者からの報告は驚くべき内容だった。


「A班とB班が全滅した!!銀髪の奴にあっという間にやられたぞ!!」

「おい、固まってると魔法で一網打尽にされる、散開してそれぞれ建物の中から狙え!!」

「くっ、くそっ!あんなの相手できるか!!もう一人はどこだ??」


 偵察に出た者の報告によれば銀髪の少女は何の気配も無く近づき、そして彼女に気がついた時には既に斬られている。

 だからといって集まって固まっていれば突然周囲に幾つもの魔法陣が展開され、そこからビットの魔弾が雨霰と降り注いで一瞬で殲滅されてしまうのだ。

 まるで相手にならない、お話にならない。

 それを悟った傭兵達はそれぞれ散開して他の建物へと移動して行く。

 しかし。



 ビシッ!という音が聞こえた。

 そして道路を隔てた向こう側の建物に潜もうとした傭兵が頭に弾丸を喰らって倒れた。

 狙撃されたのだ。

 ビシッ!ビシッ!ビシッ!とたて続けに傭兵達の頭に着弾して次々に倒れていく。

 それも恐ろしく正確に撃ってくる。

 全ての弾丸が眉間やこめかみ、首筋に命中しているのだ。


「何っ?!何処から撃ってきやがった?!ぎゃあっ!!」

「お、おいっ!!うわあっ!!」

「あそこだ!あの建物の屋上で何か反射して光ったぞ!!」

「みんなあの建物へ一斉射撃だ!魔法兵は攻撃魔法を撃ち込め!!」


 傭兵達の攻撃が黒髪の少女がいるとおぼしき建物の屋上に集中する。


「……やったか?」

「……どうやらやったらしいな、狙撃が止んだようだ」

「やれやれ、えらく正確な狙撃だったが見つけてしまえばあっけないな」

「よし、屋上に行って捕まえてこようぜ、あいつをたっぷりいたぶってやる」


 黒髪の少女に殴りとばされた傭兵がその建物に向かおうと一歩踏み出したその時。

 ころん、と何かが足下に転がる音がした。


「ん?」


 足下に転がっていたのはピンが外された手榴弾だった。


「う、うわあああっ!!」


 ズドン!と音がして手榴弾が爆発し周囲の傭兵達をなぎ倒し、吹き飛ばした。

 慌てて近くに駐車してあった車の陰に飛び込んだ傭兵、黒髪の少女に殴られた傭兵はおそるおそる手榴弾が放り込まれた場所を覗くとそこには仲間達が倒れていた。訓練用に威力を落とす魔法が付与されているとはいえ当分使い物にならないであろう事が遠目に見てもはっきりとわかる。

 C班とD班で残ってるのは10名程。


「くそっ、いつの間に!」

「同じ場所からいつまでも狙撃を続けるわけないでしょ?」

「ひいっ?!」


 振り向くと両手にオートマチック拳銃を持った黒髪ポニーテールの少女が立っていた。

 その目つきと表情は冷たく、鋭く、最初に傭兵ギルドで見たときの10代後半の少女のあどけなさは微塵もなくその殺気にゾッとする佇まいだった。


「……次から喧嘩を売る相手は選びなさい?長生き出来ないわよ?」


 パンッ!と発砲音がすると黒髪の少女に殴られた傭兵は眉間に弾丸を喰らって倒れた。


「おい!あそこだ!!早く倒せ!!」

「敵を見つけるのも判断するのも遅いのよ!!」


 黒髪の少女は二丁拳銃のままダッシュし、駐車してあった車を台にジャンプするとオリンピックの体操選手の用にくるくると宙返りしながら両手のオートマチック拳銃を連射する。

 群がってきた傭兵たちが次々に頭に弾丸を喰らって倒れていく。


「おい、こっちだ!!」


 討ち取ろうと背後から傭兵達3人が裏路地から出てくる。


「なんでわざわざ大声出しながら来るかな」


 呆れた声で呟きながら黒髪の少女は後ろも見ずに勘だけで右手の銃を背後へ向けて3発発砲すると3人とも眉間に弾を喰らって倒れた。

 残りはあと一人。


「ば、化け物……」

「……失礼ね」


 黒髪の少女は躊躇無く引き金を引いた。

 結局その場にいたC班とD班が全滅するまで5分もかからなかったのである。


『昶、聞こえますか』

「感度良好よ」

『此方は戦闘終了、36人倒したのを確認しました。其方はどうですか?』

「こっちも戦闘終了、人数も数えたけどこれで敵は全滅よ」

『了解しました』


『皆さんお疲れさまでした、此方でも片方のチーム全滅を確認しました、戦闘終了です……今から軍医と医療班を向かわせます』


 傭兵ギルドの受付嬢の放送が入りこの訓練戦闘は昶と亜耶の一方的な勝利で終了したのである。

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