#82 新しい兵器
#82 新しい兵器
新メカル連邦兵器開発工廠
大きな戦争が勃発すればそこで新しい兵器やそれを活用したそれまでに無かった戦術が生まれる。
地球世界で勃発した二度の世界大戦では空母機動部隊を派遣しての大規模空爆や制空権を奪取しての戦略爆撃機による都市空襲、潜水艦による通商破壊、そして核兵器。
この世界ならば魔導機兵の戦車に勝る移動速度を活かした電撃作戦や都市制圧、制空権の掌握がそれに該当する。
だから今も各国で新しい兵器や戦術が研究・開発され続けている。
ある研究者は高出力の広域破壊兵器を。
またある国は膨大な国家予算を注ぎ込んで新型の魔法炉を。
そしてここ新メカル連邦兵器開発工廠でも新しい兵器がロールアウトの日を迎えていた。
そこにあるのは全長50mで胴体幅が10m程度の空中艦としてはかなり小型の船だった。
「ロメイド大佐、どうだね?君の言う条件に合うように作ったつもりだが」
「ふん、これにはどれだけの弾薬を搭載出来る?」
少しばかり不遜な態度のロメイドに一瞬眉を顰めるが言っても無駄だと悟った技術者は説明を始めた。
「フルで9トンだよ……問題あるまい?」
「その状態での航続距離はどの程度なんだ?」
「9トン積んで4800km、4.5トンなら6300kmは保証する」
「上出来だ…………こいつが航空機じゃなくて艦艇なのは気に入らんが性能に文句は無いな、さしづめ戦略爆撃艇ってところか」
「何故航空機にこだわるんだね?こいつは量産性も航空機よりずっと高いし操艦性能も良いぞ?」
ロメイド大佐は真新しい小型艇を一瞥すると軽く肩をすくめた。
「この世界に転生する前……前世で俺が軍人をやってた時に指揮して乗っていたのが戦略爆撃機っていう航空機でな、俺はその部隊の指揮官だった……戦争を終わらせる為に戦略爆撃機の大編隊を率いて大都市への空襲を散々やったもんさ」
「ほう……だがこの規模の小型艇では敵部隊が相手ならともかく大都市の面積の規模では大した効果は出せないのではないのかね?」
「大編隊って言ったろう?俺の指揮していた部隊はこいつと同じ搭載量の戦略爆撃機300機以上だったからな、都市を焼き尽くすには充分だ」
「300機だって?!そんなにかき集めたのか?!」
「俺の前世の国は物量に恵まれていたからな、なにしろ同じ時期の正規空母なら毎月一隻、護衛空母に至っては毎週一隻のペースで就役してたんだぜ」
「とんでもない生産能力だ……信じられんな……」
やれやれと言うように頭を振る技術者は顔をあげるとロメイドに聞いた。
「で、大佐が乗ってた奴はなんて名前の機体だったんだ?」
その言葉にロメイド大佐はニヤリと笑うとこう答えた。
「愛称はスーパーフォートレス……形式はB-29だ」
彼の名前はカーディナル・ロメイド。
この暫く後に戦略爆撃艇による部隊を創設し、その指揮を取る事になる。
昶Side
先日のドリステル少尉の一件から復活した亜耶とあたしは一日遅れの休暇兼上陸許可を貰って久しぶりに買い物と外食でもしようかとクレアシオンに積んであった軍用4WDを借りて軍港エリアを出ると商業エリアへと向かっていた。
休暇なので今日はいつもの軍服姿ではなくて亜耶はショートパンツにタンクトップ、あたしはTシャツにミニスカートと温暖なこの地域に合わせつつラフな格好である。
ちなみにこの軍用4WDもこの世界の御多分に漏れず第二次大戦あたりの4WDみたいな古めかしいデザインである。
例えて言えば昔の米軍のジープ、つまりウィリスのMBやフォードのGPWよりもドイツ軍が昔使っていたキューベルワーゲン(まあこれは4WDじゃないけど)みたいな雰囲気のクルマだ。
さて、休暇兼上陸許可を貰ってはいるのだがあたしと亜耶はここヴァインシュトック要塞にある傭兵ギルド支部での情報収集をティア艦長に頼まれているのでそれが終わってからが休暇という事になる。
傭兵ギルドは港湾の軍港エリアと官庁エリアの中間地点にある。
軍事上の情報と政治上の情報、それぞれどちらの情報も得られやすい立地という事なのだろう。
その隣には傭兵ギルドよりも一回り小振りな建物がありそっちは冒険者ギルドになっている。
傭兵と冒険者はその仕事、つまり依頼内容が被りやすい為にお互い支障が無い範囲ではあるが連携が取れるように隣あっている場合が多い。
とは言え小さな地方都市レベルだとその軍事需要の小ささ故に冒険者ギルドの建物の中に傭兵ギルドの窓口があったりする場合もある。
傭兵ギルドの扉を開けて中に入ると一斉に傭兵の男共の視線が集まる。
亜耶は銀髪に金色の瞳の美少女で目立つし、あたしもそれなりに容姿に自信がある。
だから基本男所帯になりがちな傭兵の集団で人目を集めたとしてもまあ仕方ない。
傭兵ギルド内に併設されている売店には色々な国の政治や軍事情勢が書かれた傭兵向けの情報誌や一般書店でも買えるミリタリー系の雑誌や新聞があるので領収書を貰って買っておく。
受け取った情報誌と新聞を持って情報を取り扱っているカウンターに行こうとするとその行く手を傭兵のごつい男に防がれた。
「あたし達に何か用かな?」
「いやあ、お嬢ちゃんみたいなちっこいのが来る所じゃねえぜ?ミリタリー系のオタク趣味でも持ってんのかあ?」
むかっ。
確かにあたしは身長が154cmで小柄だけどさ。
「やれやれ、こんなちっこいのが傭兵なんて勤まる訳ないぜ……そっちの銀髪の姉ちゃんは保護者か?あんたはきっちり筋肉もついてるようだし俺達の傭兵チームに来るなら歓迎するぜ?」
ん、亜耶が氷点下の表情になってる。
「昶、こんな輩は気にせずに用事を済ませましょう」
「………ん?アキラ?……男の名前なのになんだ女か?」
あ、これはあのくだりで殴ってもいいやつだわ。
あたしはすうっと息を吸い込み……そして全体重を乗せて目の前の鬱陶しい傭兵を手加減なしで殴り飛ばした。
そして殴られて大の字になってひっくり返った男に向かってこの台詞。
「アキラが女の名前で何が悪い!!あたしは女だ!!」
「それがやりたかったんですか……何処の機動戦士ですか」
「いいじゃない、あたしも同じく可変機乗りなんだし」
「そういう問題ですか………?」
額に手をあてて呆れる亜耶。
だってここはやはりお約束としてこれをやるべき場面でしょうよ。
いやまあ実際、男みたいな名前だからそれなりにコンプレックスを持っていた時期もあったんだけどね。
それにこれでも陸自に勤務してる両親(親父に至っては格闘徽章持ちだ)に格闘技をきっちり仕込まれてるからね。そこらの男連中に格闘で負けるとは思ってないんだ。
「こっ、この野郎!!」
あたしに殴られた男が起き上がると同時に成り行きを見ていた他の傭兵達からどっと笑い声が上がりその男をからかう野次があちらこちらから上がる。中には「ここでその台詞って事は姉ちゃん、日本人転生者だな?」なんて声も。
いや本当にこの世界は転生者多いな。
「生憎あたしは野郎じゃなくてこの通り愛らしくてか弱い美少女なのよ、わかる?」
起きあがった男に向けてちっちっち、と指を振る。
「なっ、何がか弱いだ!思いっきり殴りやがって!!」
男は息巻いて拳を鳴らす。
いやそんな威嚇しても怖くないから。
「ちょっと何やってるんですか!!」
「ああ?見ての通り殴られた落とし前を付けてやろうってんだよ!」
あたしと傭兵の男のやりとりを見ていた受付嬢が小走りに慌ててこっちへ来る。
「ここでそんな事をしたらあなた達のチームにペナルティを課しますよ?それに一部始終を見ていましたけど挑発したのは貴方でしょ!」
「だが!殴られてこのまま引っ込んだら収まりがつかねえんだよ!」
「だったら傭兵らしい方法で決着をつけてください!」
「だがなあ!!」
「ああ?まだ何か言いたい事があるんですか??」
「…………わかったよ、訓練場を貸してくれ」
「いいでしょう、それが済んだらこの騒ぎは無しですからね!」
受付嬢が一睨みすると傭兵の男は引き下がった。
うん。この受付嬢のお姉さん、傭兵ギルドで仕事してるだけあって度胸がすわってるな。多分かなりの実戦経験を積んでる筈だ。
「ウチのギルドのバカがごめんなさいね?悪いけどもうちょっと付き合ってくれるかな?何かサービスするからさ」
「…………仕方ないわね、いいわよ。亜耶もそれでいい?」
「私は昶の良いようでかまわないですよ」
「じゃあ決まりね、用意しておくから30分後にこの建物の裏にある訓練場に来て貰えるかしら?」
「ああ、わかったよ」
「あたしもそれでいいわよ」
…………なんかおかしな事になっちゃったなあ。
昶さんの両親は陸自勤務なのです。
父親(若桜零)はレンジャー資格と格闘戦の教官の資格を持つ10式戦車乗り、母親(若桜輝)はOH-1観測(偵察)ヘリのパイロットで米海兵隊との訓練時に仮想敵役をしていたAH-1Zヴァイパー戦闘ヘリ相手のドッグファイトの結果、撃墜判定出して勝っちゃうレベルの人だったりします。




