#81 帝国正規軍からの来訪者
#81 帝国正規軍からの来訪者
昶Side
あたしと亜耶は整備用の作業着姿に着替えるとクレアシオンの艦載機格納庫で他の機体のパイロット達と一緒にそれぞれの愛機の整備や修理といったメンテナンス作業をしていた。
目の前にはマニューバギア形態になっているミスティックシャドウⅡが駐機していて隣にはその量産試作機であり支援型でもあるストラトガナーが同じくマニューバギア形態で駐機している。
その向かい側には汎用VTOLの雷光が主翼と胴体後部を折り畳んだ状態で駐機されていて更に主翼の付け根に装備されている魔導エンジンやそのノズルが外されていて整備兵達が忙しく動き回り部品交換や修理に精を出している。
まあ無理もない。
先日のセント・パッカードでの政変とメカル新政府による宣戦布告、その新政府軍による追撃戦から逃れてやっと得た久々の安全な場所への入港と補給が出来たのだから。
ミスティックシャドウⅡとストラトガナーは今回の遠征航海の為に予め多めに消耗部品を艦に積んでおいてはあったのだが、如何せんそれを使う時間にめぐまれなかった。
そして可変機はその機構上、整備には通常の魔導機兵よりも稼働部や部品点数が多く、おまけにその制御機構も複雑だから整備の手間がかかる。
これまで追撃戦故に時間的余裕もなく、整備でだましだまし使っていたのだが流石にそろそろ部品の寿命があと少しで限界という所まで来ていた事もあって今回の大規模な艦載機の整備、修理をしようという話しになったのである。
あたしは整備班長のマスティン曹長の手伝いで脚部のカバーを外して更にタービンブレードの交換の作業を、亜耶はコクピット内で計器盤を外して色々な機器類の交換をして、それが終わると沢山のチェック項目のリストをこなしていた。
「うわあ……随分酷く痛んでるわねえ」
「土埃の多い場所で飛ぶ任務が多かったからだろうなあ……そりゃあ磨耗してボロくもなるってもんだ少佐……こりゃあタービンブレードとシャフト、あと軸受けも交換と研磨作業をやり直さねえとダメだな……おい!部品倉庫からシャドウ系用のタービンブレードと軸受けを一機分、いやガナーのも交換だろうから二機分持ってこい!!ついでにオリハルコン合金用の研磨剤もだ!!」
「わかりましたおやっさん!!」
「おう、頼んだぞ!」
マスティン曹長はあたしと亜耶が以前乗り組んでいた強襲揚陸艦「アトロポス」でも整備班長をやっていたベテラン整備士で部下の若い整備兵からは「おやっさん」と呼ばれて親しまれ、そして恐れられている。
なんて言えばいいのかな、アニメで例えれば「近未来の東京を舞台にした警視庁所属のリアルロボット」の整備班長のあのキャラクターのイメージと言えばわかりやすいだろうか。
ちなみに傭兵組織アトロポスの責任者の坂崎准将はその作品の「一見昼行灯だけどカミソリと揶揄される第2小隊の隊長」みたいな雰囲気の人だったりする。
機体の整備が一段落ついた時、リトラが見慣れない少尉を連れて格納庫に入ってきた。
「ただいまー、昶も亜耶も明日から交代で上陸許可出てるから行ってきたら?」
リトラの後ろを山のように買い物袋やら包みやらを抱えた少尉がよろけそうになりながらついてくる。
「リトラ、その少尉さんは何方です?」
亜耶が作業していたコクピットからひょいと顔を出しながらリトラと一緒にいる少尉を見た。
……あの軍服はあたし達傭兵じゃなくてラティス帝国正規軍、それも海軍空中艦隊の所属の軍服だ。
「ああ、さっき聞いたんだけどこの要塞の駐在武官だそうよ」
「ウィル・ドリステル少尉であります、本日付けで本国への報告任務の為にこの艦に便乗して帰国するよう命令がありました……先程艦長に挨拶してきた所です」
「ふうん、この機体のパイロット兼陸戦隊員の若桜昶少佐よ、よろしく少尉」
「おなじくパイロット兼陸戦隊員の涼月亜耶少佐です」
「はいっ!よろしくお願い致します!」
「ところであんた達二人はこの後どうするの?今日の作業はもうすぐ終わるんでしょ?」
「もうすぐと言うか今終わった所ですよリトラ」
「あら、そうなの?じゃあドリステル少尉にこの艦の案内をお願いできない?……あたしはこれからストラトガナーの整備の手伝いしたいから」
「いいわよ、この後はヒマだし」
「そうですね、それにその荷物をリトラの部屋に置いてくるのも必要でしょうし」
「ん、じゃあ行こうか少尉」
「はい!」
あたしと亜耶はドリステル少尉が持たされていた買い物袋や包みをリトラの部屋に置くと一旦自分達の部屋に戻って作業着から着替えた。あたしは迷彩の軍服、亜耶はいつものヘソ出しの軍服である。
着替えた亜耶を見たドリステル少尉はちょっと驚いた表情をしていたがまあそうだよね。文字通り架空の世界から来た銀髪美少女がヘソ出しの格好をしているのだから。
そんなこんなであたしと亜耶は艦内をドリステル少尉を連れて案内する事になったのである。
艦内を案内し終わるとあたし達は士官食堂で一休みしていた。中途半端な時刻だからかあたし達以外には誰もいない。
「色々と案内して頂きありがとうございます少佐」
「いいのよ、ちょうど手が空いた所だったんだし」
「ところで少佐殿」
「ん?」
「はい?」
「お二人共、日本人転生者と聞いているのですが」
「うん、あたしは名前の通り日本人転生者だし亜耶は日本人だけど転生者カテゴリーⅡよ」
「やはりそうでしたか……実は自分も日本人転生者でして」
「え?そうなの?」
「ええ、自分がこの世界に転生したのは5年前ですが日本で死んだのは2020年代でした」
「……じゃああたしと同じなのね」
「ええ、日本にいた頃はよく秋葉原や夏と冬はお台場によく行っていました」
「「えっ」」
思わずあたしと亜耶の言葉が重なった。
「あの……若桜少佐」
「な、何かな少尉?」
一瞬どう返事したものか迷う。秋葉原によく行ってて夏と冬のお台場ってアレだよな絶対。
日本で暮らしていた頃を思い出しながら淹れたての紅茶に口を付ける。
「日本にいた頃の若桜少佐って同人作家でROMコスプレイヤーの「秋月昶」さんですよね?R18オリジナルコスプレ写真集の「サキュバス昶」とかコミケで買ってました」
「ぶふーーーーっ!!」
思わず口にいれていた紅茶を盛大に噴き出した。
そして対面に座っていた少尉にひっかかる。
「あちぃぃぃぃっ!!」
「あああああごめん、少尉!!確かにそれあたしだけど!!」
「大丈夫ですか少尉?!」
亜耶が差し出したふきんで少尉が顔を拭う。
いやまあサキュバスコスプレの姿で自分のブースの売り子もしたけどさ。
「そっか、あたしの事知ってるのね?」
「は……はい、本も買ってました、「マジックフォース・魔法作戦群」の1巻から3巻まで全部」
「……え……」
今度は亜耶がぴきっと固まった。「マジックフォース・魔法作戦群」はあたしが描いた同人誌で亜耶が主人公のR18同人誌だったりする。
「あ、本も買って読んでくれてたのね?」
「はい、絵柄が凄く気に入っていて…… それにこうしてヒロインご本人の涼月少佐に会えるとは思ってもいませんでした」
そこで少尉がちらりと固まっている亜耶を見る。
「キャラクターも展開もやはり大のお気に入りだったんですよ」
「ほうほう、それでどのあたりが?」
「クライマックスですかねえ……ヒロピン展開のR18らしくて好きでした」
「あー……あの辺か」
「やはりあの快楽堕ちしそうになるあたりが最高でした」
「なるほど……じゃああの展開は男性向けR18としてあれで良かったのね」
「はい、少なくとも自分はあれで大満足でした……ただその後の「秋月昶」の訃報をネットのコスプレ板で知った時には驚きましたが……あれ?涼月少佐?」
「ん?ああああああ?!?!亜耶?!しっかり!!」
少尉の声に横に座っていた亜耶を見ると快楽堕ちだの何だのとあんまりな会話に固まったまま、ほぼ真っ白になっていた。
…………うん、ごめん。
そして真っ白になって固まっていた亜耶が復活するまでほぼ丸一日寝込んだのである。