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#80 要塞都市ヴァインシュトック

 #80 要塞都市ヴァインシュトック


 トリンガムはヘレンタール王国最大の要塞都市であるヴァインシュトックの空港の民間エリアにオートジャイロで着陸し、偽造した免許証で観光客として潜入を果たしていた。


「なるほどな、確かに世界最大の空中要塞都市と言うだけの事はあるな……大した物だ」


 トリンガムは受け取った装備品にあった地図を取り出した。


「……商業エリアのバーが我が軍の情報拠点……行ってみるか」 


 空港でレンタカーを調達するとトリンガムはそのバーのある商業エリアへと向かった。


 魔法学の発達で魔導エンジンによる航空機や空中艦隊といった物が存在してはいるがこの世界の技術力は地球世界で例えると大正から昭和初期のレベルで停滞している。

 自動車の技術もその例に漏れず、エンジンこそ圧縮された魔力の粒子でおむすび型のローターをハウジング内で回転させるヴァンケル型ロータリーエンジンに酷似しているもの自動車そのもののデザインは所謂クラシックカーのレベルである。

 昶も転生して最初にこの世界の車を見たときは「戦前の映画に出てきそう」とか思ったくらいである。


 空港エリアを出たレンタカーは周辺のオフィス街を抜けて商業エリアへと向かう。

 建物が無機質なビル街から華やかな街並みへと変わっていく。

 沢山の店やレストランや百貨店が立ち並び、路面列車も走る大きなメインストリートである。

 受け取っている地図を思い出しながら裏路地へとレンタカーを乗り入れる。


「確かこのあたりに連絡員のいる店があったはずだが……」


 トリンガムは裏路地にあるという拠点を兼ねた店に入る為に道路脇に路駐するとレンタカーから降りた。

 きょろきょろと辺りを見回すと受け取ったメモに書かれていたバーの看板を見つけるとその扉を開け中へと入った。


 カウンターでグラスを磨いていたバーテンに予め伝えられていた合い言葉を伝えるとと無言でラティス帝国の軍服だの偽造された身分証やドッグタグ、正式採用されているオートマチック拳銃や軍刀が入ったバッグを渡された。

 バッグに入っている軍服を確かめると階級は少尉である。

 トリンガムはバーテンに食材や酒の倉庫を借りると軍服に着替えた。


「少尉か……俺はこれでも少佐なんだが」

「生憎手に入ったのがそれだけでね、それにいきなり佐官クラスは潜入するのに無理があるだろう」

「少尉なら怪しまれないってのか?」

「これを見てくれ」


 バーテンが一枚の写真を出した。そこには30才位で少尉の階級章を付けたラティス帝国軍の士官が写っていた。


「ん?こいつがどうしたんだ?」

「そいつはこのヴァインシュトック要塞のラティス帝国軍駐在武官のウィル・ドリステル少尉だ……実はついさっきこいつを仲間が拉致したと連絡があった」

「……つまりこいつに化けろってのか?変装スキルなんて持ってないぞ俺は」

「そのドッグタグを付けてこの少尉の容姿をイメージしてみろ」

「?……こうか?」

「ほれ」


 バーテンに手鏡を渡されてそれを覗いてみるとそこにはドリステル少尉の姿があった。


「ほう……こいつはたいしたもんだ、このドッグタグは変装のマジックアイテムも兼ねてるのか」

「その通りだ……このメモにドリステル少尉の簡単な人となりが書いてあるから覚えておくといい」

「ああ、了解した……じゃあ軍港に停泊している「クレアシオン」に向かう事にするよ」

「わかった、そのまま乗り組めるように帝国軍内部の仲間に手配しておこう……既に帝国軍の軍人を乗せるよう書いた正式な依頼書がアトロポスを通じて「クレアシオン」に出ている筈だ」

「確実に頼むぜ、敵艦の中で孤立無援になるのは御免だからな」

「任せておけ……すぐに行くのか?」

「土地勘が無いんでね、早めに出るさ」

「そうか……武運を祈るよ」

「ああ」


 トリンガムは軽く右手を挙げるとバーを出た。




 リトラSide


 ああ、もう面倒くさい。

 何でこんな奴らに絡まれるかなあ。


「何よあんた達、あたしに何か用でもあるの?」

「そんな事言わずに俺たちと飲もうぜぇ〜」

「そうそう、その後は男相手じゃなきゃできねえ事して楽しませてやるからよぉ」


 うわぁ……何この頭の悪そうな連中。思わず表情がジト眼になる。

 ガイドブックに掲載されている評判の良い店でランチにでもしようかと裏路地に入ってすぐにガラの悪い男達三人に引っかかったのである。それぞれ銃や剣といった武器を装備しているのはおそらく冒険者か傭兵を生業としているんだろう。


 でもまあ確かにあたしは金髪碧眼でツインテールと目立つから仕方ないかもだけどこういうの嫌なんだよね。


「嫌よ、あたしはこれから一人でランチを楽しみたいの、お呼びじゃないのよ」

「そんな事言わないでよお……ん、そのドッグタグは冒険者兼傭兵かあ?だったら俺達が色々教えてやるよ、これでも経験多いんだぜ?」

「いらんわ」

「な、なんだと?!」


 あ。思わず本音がでちゃった。


「いいからちょっくらつき合えや、ああ?」


 三人組の中でアサルトライフルを持った奴が私の左腕を掴んで強引に引き寄せようとした。


「ああもう鬱陶しいわね!」


 そのままそいつの腕を逆に掴み返すとそのまま背負い投げで投げ飛ばす。

 道路に叩きつけられた男は受け身を取り損ねて後頭部を路面にぶつけて呻く。


「おっ、おい大丈夫か!!……こんのクソアマ!!」

「先に手を出したのはそっちでしょ!」

「こいつ……!」

「我が針よ!」

 

 あたしが右手を連中に向けてかざすと魔法陣が生成され、その中心から魔力によって構成されたバーベキューの串程もある大きな針、ニードルの束が射出されて男の持っていたアサルトライフルに命中しグズグズに崩れて破壊された。


「ひぃっ??針使いっ?!」

「さっさと消えなさいよあんた達……ん?もう一人は?」

「このっ、クソがあああああっ!!……ぎゃあああっ!!」

「……え?」


 あたしが下品な悲鳴に振り向くと剣を抜こうとしていた三人目を殴り倒すラティス帝国軍の少尉の姿だった。


「……大丈夫かい、可愛いお嬢さん」

「ええ、この通り大丈夫よ、ありがとう少尉……傭兵部隊アトロポスのリトラ大尉よ」

「……!、大尉殿でしたか!失礼しました!……ご無事で何よりです、昼飯でも食おうかと思って歩いていたら騒ぎを聞きつけましたので」

「ご苦労様、でもなんで正規軍の少尉がこのヴァインシュトック要塞に?帝国軍の補給艦が来るのは明日だって聞いてるけど?」

「自分はこの要塞の駐在武官でして……既に自分をクレアシオンに乗せるよう依頼書がアトロポスを通じて出ている筈なのですがまだ聞いておられませんか?」

「ふうん、貴方の名前は?」

「ウィル・ドリステル少尉であります」

「じゃあドリステル少尉、あたしに付き合いなさい」

「…………は?」

「このバカ達のせいでランチタイムを逃がしちゃったのよ……助けて貰ったんだしランチ位奢ってあげるから護衛も兼ねてあたしに付いてきなさい」

「はっ、はいリトラ大尉!」


 そんなこんなで取り敢えずあたしはドリステル少尉とランチを済ませて更に商業エリアで買い物をして彼に荷物持ちをさせつつクレアシオンへと戻ったのである。


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