#7 マジックアイテムの正体
#7 マジックアイテムの正体
昶 Side
翌日の朝。
「簡単な報告は聞きました、昨夜は大変だったみたいですね」
「はい・・・・犠牲者を出してしまいました」
「あの状況では仕方ないわ、彼らも冒険者である以上覚悟はしていたでしょう・・・でも伝説の傭兵相手に大立ち回りをして生き残るとは流石にレベル50ね」
翌日の朝、あたしは昨夜のアフィッド大佐の一件を冒険者ギルドに報告するとすぐに駆けつけたラティス冒険者ギルド長である女性エルフのリデアさんとあたし、亜耶(昨日の戦闘で重傷を負ったライルとアスティは治療のために離脱)と昨日の昼のうちにジゼルと一緒に店舗の地下室に移動しておいた石像の前にいた。
ラティスの冒険者ギルド長がわざわざ出てきたのは報告したのがレベル50の冒険者という事もあり単純に亜耶に対する好奇心からだと言っていた。
「それでこの石像について気になる事を言ってたそうね?」
「はい、アフィッド大佐はこの石像について「我々が作った物」と言っていました」
「彼らが作ったとはどういうことなんでしょうか」
ジゼルが疑問を口にした。
「彼らがせっせと石像を掘る趣味があるとは思えないでしょ?だからこの場合、普通に石像を「作った」という意味とは違うって意味だと思うわよ」
「よく話が見えないのですが・・・・」
あたしの説明にジゼルが口をはさむ。
「多分、だけど」
亜耶が続けた。
「この石像は魔力がある、でも魔力があるからと言ってマジックアイテムとは限らない」
「・・・・?」
ジゼルがよくわからない、という顔をする。
「あたしはこの世界じゃまだ新参者だけどさ、例えば「石化」された生き物や人間はマジックアイテムじゃなくても石化された時の魔力が残留してる事が多いって聞いたよ」
「試しに私が「石化解除」をしてみましょう」
リデアが石像に向き直った。
リデアは石像に両手のひらを向けながら石化解除、ディスペル・ペトリフィケーションの呪文詠唱を始める。
「我の信じる女神シリカよ、我が名はリデア、我はこの者の本来の姿を欲す、神秘の力をもって偽りの姿のくびきを解き放て」
そのまま彼女は精神集中を続ける。すると床に女神シリカの紋章の形の魔法陣が出現して淡い光の粒子が石像に集まり始めた。
あのうっかり女神の信者なのかこの人。
石像の顔がみるみるうちに生気のある肌色に変化する。それまで単なる石に彫り込まれた彫刻だった衣装がふわりと揺れる。
石像はあたしと同じ位の年齢の少女に変化するとそのままこっちに倒れ込んできた。
「おっと」
そのまま抱きかかえて支える。
その少女はピンクのリボンで髪をとめた綺麗な紫色の髪のツインテールでおとなしそうな感じの日本人っぽい顔立ち、背の高さは150cm位か、石像の時にはわからなかったが大尉の階級章をつけている。
ひと目見て魔術師とわかるゆったりとした服装だ。
「ん・・・・・」
少女が気を取り戻した。
「大丈夫?あなた石化させられていたのよ?」
「・・・・ここは・・・?」
「故買屋の地下室よ、あなたはここで中古商品にされていたの」
「・・・・・・・・へ?中古商品?」
少女の眼が点になった。
「私は新條麻衣、ラティス帝国魔法省調査部の大尉です」
「私はラティス冒険者ギルド長のリデア、こっちは貴女を守ってくれた冒険者の若桜昶さんと涼月亜耶さん」
「あのー・・・中古商品というのは一体・・・・?」
「亜耶、これまでの経緯を説明してあげて」
「わかりました」
亜耶がこれまでにわかった事や昨夜のアフィッド大佐との戦闘までの出来事を新條大尉に説明した。
「彼が・・・アフィッド大佐が直接的な手段に出てくるなんて・・・・」
「でもね、ただ新條大尉が石化魔法をかけられていただけじゃ昨夜みたいな騒ぎにはならないと思うの、何故そこまでして石像になったあなたを取り戻そうとしたのか教えてくれないかしら。これ以上犠牲を出したくないの」
「・・・・・・それは・・・話せません」
「魔法省調査部の立場にいる以上おいそれと話せないのはわかります、でも冒険者ギルドとしても無視出来ないのよ」
リデアが説得するように新條大尉に語りかける。
「・・・・・・・」
「それに彼女達は魔法省調査部としてもかなり頼りに出来ると思うわよ大尉」
「・・・・・どういう事です?」
「涼月さん、ギルドの会員証を見せてあげて貰いたいのだけどいい?」
亜耶があたしを見る。あたしは頷いた。
亜耶のギルド会員証を見た新條大尉が驚きの表情に変わる。
「ええええ?レベル50???・・・・確かにこれは頼りにできそうですね・・・」
「でもあたし達は今後もこれに関わるとは言ってませんよ?どう考えても並の依頼より遥かにリスク高そうですし」
「その辺は魔法省調査部の報酬次第じゃないかしら」
「取り敢えず魔法省調査部と連絡を取らせてください、お二人が頼りに出来るのは承知しましたので」
その後あたし達は新條大尉やリデア冒険者ギルド長と共に首都ラティスポリスの王城からほど近い官庁街にある魔法省に赴いた。
その石造りの古い建物の最上階に魔法省調査部の部屋がある。
新條大尉の上司であるシャフリラ調査部長が出迎えてくれた。
彼女が促すと新條大尉は話し始めた。
それは20年前の灼熱の海戦役で狼牙傭兵団が壊滅した時の話だった。
この時狼牙傭兵団は大規模輸送船団を神聖帝国本土に無事送り届けるための囮、いわば捨て石にされた。単なる陽動ならば彼ら狼牙傭兵団に何も知らせずに作戦を行う必要は無い。
つまり通常ならば「陽動作戦の囮を頼む」と言ってそれらしく派手に動いてもらって作戦遂行をすればよい。
しかしそうはせずにわざわざ解読法が漏洩している暗号を使うことでいかにも大切なものを輸送しているように敵側に教えて見せかけ、それを見捨てる形で文字通りの捨て石にした。
それは味方に、つまり狼牙傭兵団にさえも知らせたくない重大な理由があったことを意味する。
それは戦争で使用すれば大きな影響を与える新しい魔導兵器の設計図とそのサンプルの存在だった。その計画のコードネームはオペレーション・メデューサ。
メデューサはその魔眼を見たものを瞬時に石化させてしまうというモンスターである。その名前の通りオペレーション・メデューサは無差別に対象となった敵を無差別に石に変えてしまう光線を照射する魔導兵器の開発計画だった。
そして大規模輸送船団が運んでいた貨物の中にその計画書と設計図が存在したのである。
しかし、無差別に石化させてしまうという兵器としてはあまりにも扱いづらい特性のために狼牙傭兵団を犠牲にしたにもかかわらずついに帝国軍に制式採用されることは無かった。
更に新條大尉の話しによれば当時のラティス帝国の皇帝、ラーズ15世による無差別攻撃は絶対にしてはならないという方針に背く事でもあったからだ。
一方、灼熱の海戦役でMIA(戦闘中行方不明)となったアフィッド大佐は瀕死の重傷を負ったものの敵軍の捕虜となり一命をとりとめた。
戦後、捕虜交換により復員してきた記録が残されているが帰国した彼には更に残酷な事実が待っていた。既に彼の妻と6才の娘は帝国軍の誤爆に巻き込まれて死亡していたのだ。
その後の足取りは一切無く永らく世間からは存在を忘れられていた。
そして20年の歳月が過ぎた今年になって例の大規模輸送船団が何を運んでいたのかを記した資料が魔法省調査部によって見つかった。
それがオペレーション・メデューサの資料とそのサンプルのシステムの保管場所を記録した物だった。
だが一ヶ月ほど前にその資料を持ってある研究員が失踪した。
内容が内容だけにあらゆる捜査が帝国軍内で極秘に行われた。その捜査に参加していた新條大尉は細い糸をたぐり寄せてその研究員との接触に成功した。
しかしその研究員はアフィッド大佐が自分たちを陥れ、捨て石にした理由を調べるために魔法省調査部に送り込んだ工作員だった。
新條大尉はその研究員に巧みに罠に誘われて狼牙傭兵団に捕まってしまったのである。
隙を見て新條大尉は資料とこれから狼牙傭兵団が実行しようとしている作戦計画書を狼牙傭兵団の資料庫から盗み出す事に成功すると脱出を試みた。
しかしそれは叶わず再び捕まってしまった新條大尉はそしてこの一件について知りすぎていたために口封じも兼ねてアフィッド大佐の命令によって完成に近づきつつあるメデューサシステムの実験台にされて石化されてしまった。
ただ間抜けな事にその時新條大尉がその資料と作戦計画書を持ったまま石化されていた事実に誰も気づかなかった。
そして単純に石化させただけと思いこんでいた彼らはこんな石像持っていても意味がないと廃棄してしまったのである。そして廃棄してしまった後になって資料が無い事が発覚した。
その後は昨夜の戦闘でアフィッド大佐の言っていたようにミスにより廃棄された新條大尉の石像はジゼル商会の店主ジゼルに拾われて故買屋の中古商品にされかけていたと言うわけだ。
しかし新條大尉の石像を誤って廃棄した後に資料と作戦計画書を盗まれた事に気付いたアフィッド大佐は石像を取り戻してそれを奪還すると同時に、更に石像がおかしい事に気付いたジゼルやあたし達の口封じをするために今回の一連の事件を起こさざるをえなくなったのだろう。
これで合点がいった。亜耶が新條大尉の石像から感じた恐怖や焦りの感情はこれが理由だったんだ。
この話の「灼熱の海 戦役」については#1にありますので気になる方はそちらをどうぞ~
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