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#76 渓谷を抜けて

 #76 渓谷を抜けて



 リトラSide


 険しく、そして激しく蛇行する渓谷。

 あたしの愛機、ストラトガナーはエアロギア形態でこの「死の谷」と呼称されるこの渓谷を偵察飛行の為に飛んでいた。


「はぁ〜あ、まぁだ安心できなさそう……」


 思わず愚痴とため息が出る。


 この前の戦闘で幾ばくかの補給ができたけれどもまだ万全というワケでもないらしいんだ。

 なんとか交換したクレアシオンの魔力伝導管もユニバーサル規格の部品だから取り付ける事はできたものの損傷した状態で通常の38%だった主機の出力が69%まで回復したって話だ。

 整備班長から聞いた話だと空中軽巡洋艦向けの部品だから空中重巡洋艦クラスの「クレアシオン」の主機で使うには強度的にキャパシティが足りなくて壊れた部品をそのまま使うよりはずっとマシだけどフルパワーを出したら壊れるって事らしい。


「とは言えヘレンタール王国のドックに入るまでの食料や水とかは手に入っただけ上等よねー…………ん?……雑音?」


 魔力通信機から僅かに聞き慣れない声が聞こえたような?


「……混信してるのかな……」


 感度を調整してもう少しちゃんと聴いた方が良さげだ。


『……此方……トリンガム隊……スウィ……残骸……一旦帰投…………』

「これって……!もう次の部隊が近づいてるの?」


 通信は途切れ途切れではあるもののまだ続いてる。


『……部隊……再出撃…………補給準備……』


 ここまでなんとか聴けたもののあとは雑音しか聞こえなくなった。


「こりゃすぐ戻った方が良さそうね」


 あたしはインメルマンターンでストラトガナーを180度方向転換させると「クレアシオン」へと急遽引き返した。




 昶Side

 

 グレーのロービジに塗装されたストラトガナーがマニューバギア形態で着艦体勢に入った。

 この「クレアシオン」の後部飛行甲板の左舷(着艦アプローチのファイナルポジションである)へと相対速度を合わせながら接近してくる。


 艦と機体の速度が合うとそのまま飛行甲板へと接近しベアトラップ、つまり着艦拘束装置の真上へ機体をゆっくりと滑り込ませる。

 正しい着艦位置の真上数メートルで機体がホバリングすると発着艦管制官の指示で直ぐに甲板の作業員達がベアトラップとストラトガナーから垂らされたワイヤーを接続させる。

 すると艦からワイヤーが巻き上げられてホバリングしていた機体が飛行甲板に引き下ろされていき、ベアトラップに脚部が両側から挟み込まれて係止された。


 マニューバギアは航空機形態のエアロギアと人型形態アサルトギアの中間に位置する形態である。

 その見た目は主翼やコクピットまわりは戦闘機でその下には二本の腕と魔導機兵形態であるアサルトギア時に両脚となる双発の魔導エンジンのノズルが真下へと向いている。

 アニメが好きな人には某デカルチャーな可変戦闘機のアレに例えるとわかりやすいかもしれない。


 キャノピーが開くと金髪碧眼にツインテールの髪型の少女が軽い身のこなしで愛機から降りた。

 彼女の名前はリトラ。亜耶と同じく物語の世界から(と言っても元はあたしが描いた同人誌だが)この世界に限界した「転生者カテゴリーⅡ」である。


「偵察飛行任務お疲れー、予定より随分帰投するの早かったけどどうしたのよ?」

「んー、ただいまー……連絡しようとしたら敵の魔導機兵らしい通信が混信して聞こえたのよ、だから無線使わないで直接報告した方がいいと思ったの」

「え?もう次の部隊が近づいてるの?」

「全部の通信を聴けたわけじゃ無いけどね、これから艦長のとこ行くからつきあってよ」

「ん、わかった……亜耶も呼んで来るから先に艦橋へ行っててリトラ」

「そうするわ……あたしの機体の補給と点検急ぎでお願いねー!」

「わかりました!ミスティックシャドウⅡも直ぐに出られるようにしておきます!」

「うん、お願いね」



 亜耶と一緒に艦橋へ入るとちょうどリトラが艦長であるティアに報告を始めようとしていた所だった。


「二人とも来たわね」

「何か事態の進展があったのでしょうか?」


 亜耶が机上に広げられたこの地域の地図をちらりとみると二人に向き直り質問した。


「んー、さっき飛んでた時にちょっと気になる魔力通信を傍受したのよ」

「えっ?もう次の追撃部隊が来ているのですか?」

「まあ通信状況が悪くて途切れ途切れだったんだけどさ……ただやばそうだったから向こうの通信が終わって直ぐに戻ったってわけ」

「…………とにかく詳しい内容を聴かせてくれるかしらリトラ大尉」


 リトラは頷くと敵らしき通信の内容を書いたメモをポケットから取りすとティアにそれを手渡した。あたしと亜耶もそれをのぞき込むように見る。


「……なるほど、空中軽巡洋艦「スウィフト」の残骸が発見されましたか」

「思ったより見つかるのが早かったわね……もし魔力伝導管の交換が出来ていなかったらこの部隊に追いつかれて発見されていた可能性が高いわね」

「でもこれっておかしいって昶も亜耶も思わない?」

「「えっ?」」

「だってあたし達に近くて魔導機兵を運用出来る母艦は「スウィフト」しかいなかったしその「スウィフト」だってあたしたちがスクラップにしちゃったのよ?この辺まで艦載機を飛ばせる母艦なんていないわよ?ましてや小さな基地ですらありはしないのに」

「確かにメカルの機体はみんな航続距離は長くはなかった筈だわね」


 ティアが腕組みをして考え込む。


「そうか……トリンガム隊ってこの前のM5Mワーキャットの部隊よね」

「旧型のSー40サンダーホークよりもM5Mワーキャットの方が新型である分だけ航続距離が長い可能性はあるわね」

「でも艦長、それを差し引いてもこの航続距離は変だと思うわよ」

「確かにリトラの言う事には一理ありますね」

「あっ……もしかして」

「どうしたの若桜少佐」

「艦長、M5Mワーキャットって設計者が転生者でしたよね?」

「ええ、確かにこの前のセント・パッカード国際航空ショーで配布されたパンフレットに異世界転生者がもたらしたアイデアが云々という文言があったわね……なんでも貴方達日本人とアメリカ人の転生者が設計に関わっていたらしいけど」

「ああ、昶が言いたいのは地球世界では当たり前の装備だった増槽タンクや空中給油の実用化の可能性ですか……確かにそれなら大幅な航続距離の増加が見込めますね」

「うん、まだ魔導機兵じゃどっちも実用化されてないよね」

「それにラティス帝国もメカルもまだそのどちらも実用化はしてないわね」


 増槽タンク(航続距離を延ばす為の外部燃料タンクだが魔導機兵の場合は魔力タンクに相当する)は単純に魔導機兵や航空機による長距離作戦が行われたり計画された事が無いために未だに実用化されていない。

 空中給油(この場合は空中魔力補給と言うべきか?)に関しては大型で高速の空中艦で戦場に近い空域まで運ぶ為に必要とされていなかった。

 だからといって作戦の幅が広がる事をもし軍の上層部が理解したらそれはあっさり実用化されてしまう筈である。


「とにかく対空警戒は怠らないように、それとミスティックシャドウⅡとストラトガナーは雷光とローテーションを組んでCAP(戦闘空中哨戒)をお願い、準備でき次第始める事とします」


「「「了解しました!」」」


 これで次のあたしと亜耶、リトラの出撃任務の内容は決まった訳なのだが…………うーむ、あのトリンガム少佐の部隊かぁ……イヤだなあ。


2ヶ月ぶりの更新となってしまいました。


さて、今回はこの世界での魔道機兵の運用について。

以前からリアルロボット系アニメの着艦時の設定がどうなっているのか気になっていました。

現実の空母のように着艦フックとアレスティングワイヤーを使うのか、はたまた駆逐艦クラスの艦船のようにベアトラップを使うのか。


今回はそんな理由で後部に飛行甲板のある航空巡洋艦の場合はおそらく現実の世界での艦載ヘリコプターに近い着艦になるであろうとこの描写になった次第であります。

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