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#74 空中軽巡洋艦鹵獲作戦

 #74 空中軽巡洋艦鹵獲作戦


 

 メカル新政府軍軽巡洋艦「スウィフト」艦橋


「ヘレンタール回廊とは全く面倒な所に逃げ込んだものだな」

「ですがここさえ抜ければあの技術試験艦に追いつくのは時間の問題です」

「せめてこの渓谷を飛び越えられるだけの高度に上がる事が出来れば先回りも可能なのだが……残念だ」

「理論的にも不可能なのだそうですよ」


 迅速という意味の言葉を名前に持つこの軽巡洋艦「スウィフト」は狭い渓谷の中で出せるギリギリの速力である10ノット(時速にして約18.5km)を維持して航行していた。


「大地の魔力反発効果の限界という奴か、それさえなければな……」

「仕方ないですよ、その代わり追いついたら目一杯暴れてやりましょう艦長」

「ああ、そうだな」


 艦長の愚痴を聞きつつ操舵手が慎重に舵輪を回す。

 艦が渓谷の蛇行に合わせてゆっくりとその艦首の向きを変える。


 空中艦や魔導機兵を空中に浮かせる為にはフライトリアクターと呼ばれる機器で船体や魔導機兵の持つ魔力と大地が持っている魔力を同士を磁石のように反発させることで空中に浮揚させる。

 しかしそれにはヘリコプターが対地効果を得られる限界が存在するのと同様に魔力反発効果が得られる高度には限界がありそれを越える標高の山や渓谷を飛び越える事は技術的にも理論的にも不可能とされている。

 そういった山脈や深い渓谷はいたる所にありこのヘレンタール回廊や天翔山脈回廊は有名な難所として空中艦や飛行船の船乗りには恐れられていた。


 軽巡洋艦「スウィフト」は谷間をゆっくりとした速力で進んで行く。



 昶Side


 メカル共和国軍、いやメカル新政府軍の軽巡洋艦は依然として追撃を続けていた。


「亜耶、準備はどう?」

「大丈夫ですよ、後はクレアシオンとタイミングを合わせて動くだけです」


 ミスティックシャドウⅡの機体全体にカムフラージュのための渓谷の岩肌と同じ色のカバーを掛け終えた亜耶が開け放していたハッチからコクピットに滑り込んで来た。


「もうそろそろかしらね」

「時間的にもその頃合いですね」

『トパーズ1、トパーズ2、偵察ポッドが敵空中巡洋艦を捕捉した。後10分程で待ち伏せポイントへ到達する、準備はいいか?』

「トパーズ1了解」

『トパーズ2了解』

『ではこれより作戦を開始する』


 あたし達がミスティックシャドウⅡをカモフラージュした場所から1km程離れた谷間に着陸しているクレアシオンに変化が現れ始めた。



 空中技術試験艦「クレアシオン」艦橋


 主機をアイドリングまで落とした艦橋は静まりかえっていた。

 艦橋に詰めている乗組員達はそれぞれの役目に没頭している。


「艦長、敵巡洋艦が後10分で待ち伏せポイントに到達します」

「よし、各員配置についたわね、レイ・リフレクター起動、各主砲はいつでも撃てるように準備しておいて」

「レイ・リフレクター起動します」


 機関長が起動レバーを入れるとヴィィィィィィンというハム音が高く鳴っていく。


「カールス大尉、準備はいいわね?」

『大丈夫です、陸戦隊は全員準備出来てます』

「レイ・リフレクター、展開完了、異常ありません」

「よし、じゃあ手筈通りに、作戦開始!」


 ティアの命令と共に待ち伏せ作戦が開始された。

 クレアシオンの艦体が周囲の崖や岩と同じ色の迷彩に徐々に包まれていく。

 レイ・リフレクターは魔力によって可視光線を周囲の風景の色彩や日陰と同様の屈折率へと変化させて物体を視覚的に隠す。わかりやすく言えばアニメの光学迷彩と同じものである。

 程なくしてレイ・リフレクターによってクレアシオン全体が完全に隠蔽された。



 亜耶Side


「おー……クレアシオン、綺麗さっぱり見えなくなったわね」

「もうすぐ敵艦がここに到達する筈です」

「て事はもうすぐ部品もろとも頂けるわね……ん〜ふっふっふっふ」

「昶……また悪い笑顔に……」


 昶の悪意一杯の笑顔をよそに作戦が開始された。

 私は若干呆れながらも操縦桿とスロットルレバーに手を掛ける。


『トパーズ1、トパーズ2、敵空中軽巡洋艦が現れるまで後3分だ』

「トパーズ1了解」

『トパーズ2了解』

『手筈通り頼むぞ』

「だーいじょうぶ、まーかせてっ」

『気が抜けるわねー、本当に大丈夫なのかしら』

「昶……」


 思わず力の抜けるような何処かの光画部OBのような昶の台詞に思わず頭を抱えそうになるとΩ状に蛇行している為にブラインドカーブになっている渓谷の影から敵の空中軽巡洋艦「スウィフト」がゆっくりとその姿を現した。



 空中技術試験艦「クレアシオン」艦橋


「……「スウィフト」、間もなく頭上を通過します!」

「主機始動、1番主砲は敵艦に対して威嚇射撃開始、撃てっ!!」


 ドンッ!!という轟音とともにクレアシオンの20.3cm主砲が発射された。

 その砲弾は「スウィフト」の艦橋を掠めてすぐ目の前の崖に着弾してバラバラと小規模な崖崩れを起こした。

 さらに2発目、3発目が同じように艦橋を掠めて崖に着弾して盛大に土煙が上がる。



 メカル新政府軍空中軽巡洋艦「スウィフト」艦橋


「なっ?!か、艦長!敵の砲撃です!」

「バカな!!敵は逃げているのでは無かったのか!!……いや、何処から撃ってきた!?!?」

「敵砲撃、尚も継続中!」

「か、回避しろ!!」


 マイクを握り艦長は指示をとばす。


「無理です艦長!!この狭い谷間では回避運動は不可能です!!」

「クソッ!!敵は何処にいるんだ!!」


 その時、ゴンッという衝撃と同時に艦橋の前部にある主砲の上に紫色で鋭角的なデザインの魔導機兵が崖と同じ色のカモフラージュシートをマントのように羽織ったまま降りてきた。

 敵魔導機兵がすかさず大型の対艦ライフルを艦橋の窓に突きつける。


「待ち伏せていたのか……!今の攻撃はあの対艦ライフルなのか!?ふ、振り落とせ!!」


 艦長はマイクを握りしめたまま操舵手に命令する。


『あー……そんな事したら即座に撃沈されるからよした方がいいわよ?』

「艦長、敵魔導機兵から通信が!」

『艦長さん?聞こえてるわね?これは降伏勧告だからね?』

「聞こえている、私がこの「スウィフト」の艦長だ」

『だったら直接話がしたいの、あたしもコクピットから出るから貴官も艦橋の上に出て頂けると有り難いのだけど』

「いいだろう、応じよう」

『応じて頂き感謝します』


 その声色から察するに若い女性らしき敵パイロットとの通信が一旦切れると艦橋から出るべく踵を返す。


「いいんですか艦長」

「少なくとも今すぐに撃沈するつもりでは無いようだ、だがこれを頼む」

「なるほど……わかりました」


 艦長が出て行くと副長は受け取ったメモを砲術長に渡した。


「砲術長、このメモの通りに第一主砲を………悟られないようにゆっくりとな」

「……主砲の精密射撃で敵の魔導機兵の破壊、ですか」

「出来るか?」

「敵機を貫通しないように砲弾の威力を落とせば艦橋に被害を出さずに撃墜できます」

「よし、やってくれ」


 艦橋前の副砲前に立つ紫色の魔導機兵の背後でゆっくりと、音を立てずに主砲が旋回し動き出す。



 昶Side


 あたしがコクピットハッチを開けて身体を乗り出すのと同時に敵の艦長が艦橋の上に姿を現した。

 敬礼をしつつ名乗る。


「傭兵部隊アトロポス所属、若桜昶少佐です」

「メカル新政府軍空中軽巡洋艦スウィフト艦長のバーラット大佐だ、手慣れていると思ったら正規軍ではなく傭兵か……若いな」


 海軍式の敬礼でバーラット大佐も返礼をする。

 例え敵であって自分より上の階級の軍人には敬礼をするのは軍人の常識である。


「まだ18才ですので」

「それで少佐、何のつもりだね?」

「先程も申し上げました通り降伏勧告です大佐殿」

「ほう?だがそれは受けられんな、君の機体の後ろを見たまえ」


 ちらりと後ろを確認すると第一主砲が旋回を終えてミスティックシャドウⅡの背部にぴたりと照準を付けているのが見えた。


「……脅迫のつもりですか?」

「それはお互い様だろう……パイロットなら常に6時方向は確認するのが常識だ、それを怠った者が悪い」

「ごもっともですけど大佐殿、そちらの部下も見張り不足だと思いますよ?」

「何だと?」

「後ろをご覧になってください大佐殿……ゆっくりと、変な事は考えない方がよろしいと思いますよ?」


 怪訝そうな顔をしつつバーラット大佐はゆっくりと真後ろを振り向く。


「なぁぁぁぁっ?!?!」


 思わず間抜けな声を上げるバーラット。その顎が驚きでかっくんと落ちる。

 ……無理もない。

 ついさっきまで何も無かったはずの「スウィフト」の真後ろへレイ・リフレクターの展開を解除しながら「クレアシオン」がゆっくりと浮上してきたのだ。

 そしてその第一、第二、底部、右舷、左舷の各主砲5基、合計10門の20.3cm砲がぴったりと「スウィフト」へと狙いを定めているのだ。


「あたし達を撃ってもいいですけどその時は艦ごと粉々になりますよ?」

「あ、あ、あ………」

「……大佐殿?……あー、こりゃ驚かせ過ぎたかな」

『昶姐さん、どうします?』


 インカムに待機しているカールス大尉からの無線が入った。


「うん…………かまわないからやっておしまいなさい」

『……何スかその悪そうな笑顔は』

挿絵(By みてみん)

「悪い笑顔言うなぁっ!……とにかく後はお願いね」

『へいへい、任されましたよ……おいお前等、気合い入れて行くぞ!!』


 陸戦隊の隊長であるカールス大尉の言葉に部下達のむさ苦しい、いや暑苦しい気合いの声が聞こえてくる。

 すぐに後部飛行甲板から発進してきた汎用VTOL「雷光」からロープが降ろされて次々に陸戦隊員達が「スウィフト」へと降下して行くのが見えた。


「では大佐殿、良いお返事が頂けなかったのでこの艦を乗っ取らせて貰いますね」

「……そっ、総員戦闘配置!!敵の陸戦隊が降下した!総員切り込みに備えろ!」

「今更遅いと思うんだけどなあ」


 あたしはコクピットに戻るとハッチを閉めた。


「行きますよ昶」

「うん、取り敢えずあの鬱陶しい主砲をやっちゃおう」

「わかりました」


 ミスティックシャドウⅡは背中のサブエンジンと脚部のメインエンジンを同時に吹かして艦橋の前からジャンプして離れ、そして「スウィフト」の第一主砲の上に着地する。

 

「おっと」


 ミスティックシャドウⅡをなんとか振り落とそうと第一主砲が旋回し、更に目の前の第二主砲が撃つべくその砲身を向ける。


「やらせませんよ!」


 亜耶は機体を即座に翻すと砲身を機体の両手で掴み捻じ曲げ、更に砲塔に付いている測距儀を剣で破壊して使用不能にする。


「各砲塔の皆さん、次は徹甲弾を撃ち込みますよ?」


 静かな口調で亜耶が外部スピーカーを使って警告すると砲塔の動きが一斉に停止した。


『こちら陸戦隊、敵は降伏しました。もう大丈夫ですぜ』

「ご苦労様、カールス大尉。じゃあ後は機関を停止、その後に着陸させて」

『わかりました』


 程なくして「スウィフト」はほぼ無傷の状態で降伏し作戦は終了したのである。


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