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#73 先行偵察

 #73 先行偵察



 昶Side


 灰色の巨体が雲海を抜けて高度を下げる。

 艦首にはASE6100Aの艦籍番号。

 ASEは技術試験艦、末尾のAは傭兵組織「アトロポス」に所属している事を表す。

 そしてその後部には小さな破口がありうっすらと煙が流れている。


「それでどれ位の時間で……いえ、完全に直りそうかしら?」


 ティアは艦長席で腕を組み思案顔で椅子を回すと整備班長に向き直った。

 二日前のセント・パッカードにおける戦闘で無事に脱出は出来たものの発進できた艦載機がミスティックシャドウⅡとストラトガナーの2機しか無かった事もあり満足なエアカバー、つまり上空援護が出来ずに若干の被弾が発生したのである。


「そうですね……正直に申し上げますが完全な修理は無理ですね、損傷そのものは軽微なんですが場所が悪すぎます、このままでは高度も速力も本来の性能は出せません」

「魔力伝導管って話だったわよね?」

「ええ、使えない訳じゃありませんが現状ではフライトリアクターの出力を上げると被弾でできた亀裂が広がり最終的に主機へのダメージに繋がると考えた方がいいでしょう」

「ふーむ、そうなると速力も本来の高速艦としての性能は出せないわね………。」


 ティアと整備班長が悩んでいると通信が入った。


『トパーズ2よりクレアシオン、追撃中と思われる敵空中軽巡洋艦一隻を発見しました』

「トパーズ2、現在の敵艦の位置を知らせてくれ」

『現在の位置はクレアシオンの後方約100km、このままじゃあと5時間くらいで追いつかれるんじゃない?』

「ふむ、まずいわね」


 ティアは艦長席から立つと機関室へと繋がる伝声管の蓋を開ける。


「機関室、現状で出せるギリギリの速力は?」

『そうですね……魔力伝導管を交換しない限り10ノットが精一杯です」

「これはあっという間に追いつかれるわね」

「艦長、この先の空域が利用出来るかもしれませんよ」


 現在は魔法省から出向してクレアシオンの副長の任についている新條麻衣大尉が空域図を広げた。


「この空域を見て下さい」

「……なるほど、難所を使うという事ね」

「はい、このメカル共和国とヘレンタール王国の国境地帯にあるこの渓谷を通るんです」

「確かにこのルートなら速力はロクに出せないから追いつかれる可能性は低いわね……航海長、直ちに進路をここに向けて…それと副長、「ヘルメース」にもこの事を伝えて頂戴」

「了解しました」

「了解しました、取り舵30、進路を変更します」

「じゃああたしと亜耶で先行偵察に行ってきます」

「そうね、お願いするわ少佐」

「了解しました、行ってきます」




 亜耶Side


 エアロギア形態のミスティックシャドウⅡは渓谷へと高度を下げる。

 この渓谷はその深さと激しく蛇行するその厳しい地形の為にこれまでにも数え切れない程の空中艦や飛行船、航空機や魔導機兵が墜落事故を起こしていて通称「死の谷」と呼ばれていてそのためにヘレンタール王国の名前の由来にもなっているのだそうだ。

 

 幅は平均して大型艦三隻程度の幅しかなく、蛇行している地点ではかなり繊細な操船が要求されるのが容易に想像できる。


「なるほど、麻衣が言う通りの難所だわね……おっと!」


 機体が谷の中を吹く気流に煽られて大きく揺れる。

 これでは面積の大きな空中艦は操船にかなり難儀する事だろう。


「でもそのおかげで敵巡洋艦には追いつかれずにヘレンタール王国の領空に入る事が出来る筈です」

「問題は相手が軽巡洋艦って事よね」

「………どういう事です?」

「ほら、重巡洋艦クラスの大きさの「クレアシオン」よりも船体が細くて全長も短いから多分敵の方がここを通るのは楽なんじゃないかな」

「………確かにそうですね」

「思ったほど得策じゃないかもね、それに渓谷を抜けたら結局追いつかれるのは変わらないよ」

「とは言え現状でここより追いつかれ難い航路も無いようですし」

「うーん……」


 そのまま暫く渓谷を飛行し「クレアシオン」の航行が充分可能である事が確認できた。


「それにしても厄介な事になりましたね昶」

「うーん………」


 後席の昶の方を振り向くと前髪をいじりながら真面目な顔をして考え込んでいる。

 昶が前髪をいじるのは本気で悩んだり何かを企んでいる時の癖だ。


「……………そうか……あの装備を使えば……」

「?……昶?……」

「さっきの所で展開して、艦載機も使えば……いけるかも……」

「…昶?……昶?」

「……え?え?…亜耶、呼んだ?」

「何を思いついたんです?」

「うん、「クレアシオン」にはあの特殊装備があるでしょ?それを利用して敵の軽巡洋艦を鹵獲して部品を頂けるんじゃないかなって考えてたのよ」

「で、どうやって鹵獲するんです?」


 昶は悪い顔でにやりとすると言い放った。


「船を使ったアンブッシュよ」

「……待ち伏せですか」

「うん、幸いカールス大尉達もいるしね」


 その後、程なくして先行偵察を終えた私達は「クレアシオン」へと帰投したのである。



 昶Side


 先行偵察を終えたあたし達はクレアシオンの艦橋にいた。


「艦ごと待ち伏せを?」

「はい、渓谷を抜けた後に結局追いつかれる可能性が捨てきれませんし現状でどうにか出来る唯一の方法と考えます」

「詳しく話を聞かせて頂戴少佐」

「はい、ここに大まかな作戦手順をまとめておきました」


 亜耶が書類をティア艦長に手渡すとぺらぺらとめくり流し読む。


「なるほど、この艦ごと待ち伏せて鹵獲、軽巡洋艦から魔力伝導管を奪うのね?」

「はい、十分可能であると考えます」

「確かにあの装備を使えば可能ね……準備を進めてちょうだい」

「了解しました」


 かくして敵軽巡洋艦を鹵獲する為の作戦が実行される事となったのである。

久しぶりの更新となりました


もう少し更新頻度をなんとかしないと( ´△`)

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