#72 離脱
#72 離脱
昶Side
あたし達のミスティックシャドウとリトラのストラトガナーは一気に高度を上げるべく全速力で上昇する。
その先にはさっき3機ずつのシェブロンを組んだ滑走路周辺を攻撃したM5Mワーキャットの部隊が見える。
「このままあいつらの中を突っ切って編隊を崩して乱戦に持ち込むよ!」
「はい、突っ切る時に小隊長機に一撃離脱をかけます!トパーズ2、私は左の小隊長機を!」
『トパーズ2了解、あたしは右の奴らをやる!』
機体はぐんぐん上昇していく。
コックピットのホログラフに三角形にシェブロンを組んだ編隊が大きく映し出される。
その先頭の機体に照準が重なった。
「狙い撃つ!!」
あたしは手にしたスティックのトリガーを引き絞った。
ドンッ!っという105mmアサルトライフルの発射音とその反動がコックピットに響く。
その弾丸は小隊長機のM5Mワーキャットの胴体に命中し貫通した。
「トパーズ1、スプラッシュワン!」
『トパーズ2、こっちもスプラッシュワン!』
スプラッシュワンと言うのは航空機やそれに準じた機体(当然魔導機兵も含む)が空中の敵を破壊した事を友軍に宣言する符丁である。ちなみに地上目標を破壊した場合の符丁はスプラッシュツーである。
つまりこの場合リトラのストラトガナーも一機撃墜したと友軍に宣言している事になる。
そのまま急上昇しつつ敵編隊を突っ切って高度を稼ぐ。
何機かが追って上昇してくるがエアロギア形態のミスティックシャドウⅡやストラトガナーに追いつく事が出来ずにぐんぐん引き離される。
「亜耶、このまま急降下での一撃離脱を繰り返して敵の数を減らそう」
「そうですね、この数で一斉に来られても対処に困りますし」
亜耶はミスティックシャドウⅡを横転させて背面からの急降下に入った。
同時に主翼のダイブブレーキが開いてピィーッ!!と甲高い音をたてる。
その先に見えるのは一機だけほかのワーキャットと違って鮮やかなブルーとホワイトのツートンカラーに塗り分けられた機体。
「昶、あの機体……隊長機を墜とします」
「うん、動きを見る限りあの機体が全体の要っぽいしね」
この攻撃部隊全体の指揮を取っていると思われる機体へとダイブする。
「………当たれぇっ!」
再び引き金を引き絞り、105mmアサルトライフルの弾丸が発射される。
その弾丸が命中するかと思われた瞬間、隊長機のワーキャットは急横転をかけて寸前で回避した。
「この距離で避けた!?」
普段は冷静な亜耶が驚愕の声をあげる。
隊長機は更に急反転をかけると剣を抜いてこちらに向かってくる。
「一撃離脱を繰り返そうかと思ってたけど……」
「近接戦闘は避けられそうに無いですね」
亜耶は機体をアサルトギア、所謂人型形態へと変形させる。
ワーキャットとミスティックシャドウⅡが破壊的な音をたててぶつかり合う。
お互いの剣と剣がぶつかり合い、そして弾き返す。
「…………流石に簡単には撃墜させてくれませんね!」
何度も空中で斬り結び、機体と機体がぶつかり合う。
そうしている間にも機体の速度と高度が落ちていく。
一旦距離を取りマニューバギアに変形すると脚部メインエンジンを噴かして着地する。
部下らしい機体が追って降下、着地してきたがホバー走行で肉薄しそのまま主翼を脚にひっかけてワーキャットを転倒させそこに右腕のグレネードランチャーを撃ち込んで沈黙させた。
「………敵が多すぎる!」
「昶、隙を見つけて離脱する事を優先しましょう、友軍機も少ないしこのままではジリ貧です」
「そうだね………きゃあっ!」
更に降下してきたこの部隊全体の隊長機らしきワーキャットのタックルを喰らって転倒し、コクピットが激しく揺れた。
『戦闘中に無駄話とは余裕だな、新型機のパイロット!』
「敵の隊長?!」
『その通りだ…………はぁ???』
通信用のホログラフにワーキャット部隊の隊長らしきパイロット(おそらく20代後半といったところか)が映し出された。
その容姿はそこそこ二枚目と言っていいだろう。
………が、その口はあんぐりと開き目は驚いているのかまん丸に見開かれている。
『ラティス帝国の女性パイロットはみんなそんな素っ頓狂なパイロットスーツを着用してるのか?』
「「………あ。」」
そうだった。
あたしも亜耶も航空設計局の展示ブース用のキャンペーンガールの衣装(それもまるでアイドル衣装みたいな)のまま緊急発進したんだった。
「大きなお世話だ!大体あんたらが原因でこの格好で出撃してるんでしょうが?!」
亜耶から通信回線を取るとあたしは画面の中の敵パイロットへと怒鳴り返す。
『……………』
「ん?」
『……………』
「?」
「どうしたんでしょうか?」
「………さあ?」
なんか敵パイロットの様子がおかしい。
あたしをじーっと見たまま固まってる。
「………何なのよいきなり黙っちゃって」
『………う』
「「う?」」
『………美しいっ!!!』
「「は?!?!」」
思わずあたしと亜耶の声がハモった。
何言ってんのこの人。
『……思い起こせばこの世界に転生してからはリアルロボがあると聞いて必死に勉強してパイロットになり、チートキャラと美少女の仲間を作るのにあこがれて頑張り、ラノベ的な展開を期待していたがそれがやっと報われるのか……!』
あ、こいつも日本人転生者っぽいな?
……ってか自分語りを始めちゃったよ。
「あのー……昶、あれ撃っちゃいましょうか?」
亜耶がまるで珍獣を見るような目でホログラフを見ながら聞いて来た。
「いや、もうちょっと見てよう」
「はあ………」
「あー……つまりそっちも転生者なのね?」
『やっと異世界ラノベのノリを満喫でき……ん?ああ、その通りだ』
やっぱりか。
とは言えこのままいつまでも面白いからって見てもいられないか、差し押さえ部隊も迫ってるだろうし。
『このトリンガム少佐、日本にいた頃の葉傘の名前を捨てた甲斐があるというものだ!!』
………え?葉傘?
「ちょっとまってトリンガム少佐」
『ん?なんだね美しいお嬢さん』
「今「葉傘」って言った?転生前のフルネームは?」
『……「葉傘晶」だが……?』
をい。
『そうか私の事が気になるか、そうかそうか』
「………そうね」
『うむ、そうだろうそうだろう、これであのお方に捧げる基地制圧という勝利と自分の夢が実現できるというものだはっはっは』
「…………」
『………ん?どうしたんだね?そうだ、その機体ごとこっちに亡命する気は………?』
「あ、昶?どうしたんです?肩がぷるぷる震えてますけど?」
………そうかお前か。
お前が原因か。
あたしがあのうっかり女神に本来死ぬ予定だった「葉傘晶」とあたし「若桜昶」が間違えられてあたしが死ぬ事になった原因か。
「お前が原因かあああああああああああああああああ!!!!」
ごがんっ!!!
ミスティックシャドウの右腕がトリンガム少佐のワーキャットを右ストレートで殴り倒した。
『な?なんだ?!話してる最中に?!』
「やかましい!!大体本来は敵同士だろうがああああああ!!」
『なっ!?!?』
剣を抜くとそのままワーキャットの背中の魔導炉に突き刺して機体を沈黙させ持っているアサルトライフルを破壊する。
『クレアシオン管制よりトパーズ小隊、これより離陸する、直掩についてくれ』
「トパーズ1了解」
『トパーズ2了解……ってかトパーズ1、何やってんのよあんたたちは』
「昶?行きますよ………昶?」
「………あ。」
呆れの混ざったリトラと冷静な亜耶の声に我に返ると目の前にはスクラップと化したトリンガム少佐のワーキャット。
「一体どうしたのですか……あんなに取り乱して」
「ん。まあ転生直前にちょっとつまらない事があってそれを思い出しただけ………聞きたい?」
「いえ、昶が私に話したいと思った時でいいですよ」
「ま、いずれ話すよ」
クレアシオンとヘルメースの方をみると二隻共に既に離陸を開始していて着陸用のアウトリガーを格納し始めているのが見てとれた。
ミスティックシャドウにストラトシャドウの二機とクレアシオン、それにヘレンタール王国の空中軽巡洋艦ヘルメースはそのまま無事にセント・パッカードからの離脱をする事に成功したのである。
久しぶりの更新です
ここしばらくの自粛やら色々あってほぼ執筆が止まっておりました
もう少し頻繁に愛用のポメラに向かわないと!




