#71 ランニングテイクオフ
#71 ランニングテイクオフ
空中航空巡洋艦「クレアシオン」艦橋
「壮観ですね艦長」
「そうね、各国の最新の機体や艦艇がここまで揃うのはなかなか無いわね」
「そう言えばこの任務の後は隣に停泊しているヘレンタール王国の艦と親善訓練の予定がありましたね」
「クレアシオン」の艦長、ティアは離着床に並ぶヘレンタール王国の魔導機兵搭載の軽巡洋艦「ヘルメース」を眺めながら副長である新條麻衣大尉に向かって頷いた。
「ええ、「ヘルメース」の艦長は士官学校時代の同期が艦長をやっているのよ、会うのが楽しみだわ」
「あら、じゃあ久しぶりにお会いするんですか?」
「……5年位は会ってないわね、まあここに来ているのだから元気だとは思うけど」
「艦長!今パルマポートの空中艦隊司令部から至急の連絡が入りました!」
「至急?すぐに読み上げて!」
「わかりました!」
通信士が読み上げていく。最初は和やかだった艦橋はその内容に静まりかえった。
亜耶Side
私と昶は滑走路前の見学スペースへと来ていた。着替える暇が無かったのでキャンペーンガール衣装に合わせた半透明な薄手の上着を羽織っただけなのでここにくる途中で何度もアマチュアカメラマンに声をかけられ何枚か撮影されつつやっとこの場所へと着いた所だ。
そろそろ時間だなと思い空を見ているとぽつん、ぽつんと黒い点が幾つも見えてきた。
「M5Mワーキャット」の編隊、合わせて12機が飛来して来たのだ。
ちょうどその時、ピーッ、ピーッと小型の魔力無線機の呼び出し音が鳴った。
「はい、こちら若桜です………はい、現在滑走路西側の見学スペースに二人ともいますが……えっ?……はい、了解しました」
昶の少し驚いたような声に思わず振り向く。
「昶?どうしたんです?」
「……メカル共和国の首都で政変が発生、議会や共和国軍司令部を含めた国の中枢施設すべてが反乱軍に占領されて新政府樹立の宣言が出されたそうよ………ここにも各部隊や装備を接収する為に反乱軍の突入部隊が向かっているって」
「この前のデブリーフィングの時の艦長の話が現実に、ですか」
「そうだね……ん?あのM5Mワーキャットの編隊、動きがおかしくない?」
「……?、3機ずつのシェブロン(三角形の編隊)が4つに別れましたね」
「変ね、事前に聞いた展示飛行の動きと違うわよ」
「あっ!あれを見て下さい昶、ハードポイントに爆弾が!あの色は訓練弾じゃない!実弾です!」
「……なるほどね、展示飛行は怪しまれずに部隊をここに飛来させるカムフラージュって訳……!」
その時、4個の3機編隊に分かれた「M5Mワーキャット」の機動が一気に鋭い動きに変化する。
1隊が高度を上げた。残り3隊はそれぞれ滑走路の右側と左側、滑走路の中心へと進路を変えた。
滑走路とその左右に分かれた部隊のハードポイントがら爆弾が切り離された。
滑走路近くの列線に並べられていた共和国軍のS-40サンダーホークに命中し、すさまじい爆炎が上がる。
M5Mワーキャットが上空を通過するとすぐに滑走路を横切って装甲車が管制塔に横付けすると兵士達が突入するのが見えた。
「亜耶、あの装甲車って……!」
「はい、あの車体の部隊ナンバーはさっきまで会場の警備をしていた部隊です」
「まずいわね、混乱に乗じて各国の最新兵器を奪取する事も本当にあり得るわよ」
管制塔のガラスが割れその中で混乱、いや戦闘が起きているのが見て取れた。
どうやらこの会場のすべてのメカル共和国軍すべてが反乱軍というわけでもないようだ。
実際、さっき爆撃で破壊されたS-40サンダーホークは反乱に参加する意志の無い部隊だったから抵抗される前に破壊されたと考えるべきだろう。
その時、会場に男性の声で放送が入った。
『これよりこのセント・パッカード国際航空ショーに参加しているすべての者及び組織に告げる、我々はメカル新政府軍である。先程、我が新政府はラティス帝国、ヘレンタール王国、リドニーク王国に宣戦布告を行った。それに伴い、この場における該当する国家の兵器・装備を接収する。我々は一部特権階級や特殊な出生による者が国や国民を我が物顔に支配する事を認めない。そしてその支配から世界を解放する事を宣言する。その妨害をする者は例え旧メカル共和国軍の者でもそれを実力を持って排除する』
反乱軍の放送が終わるか終わらないかのうちに最初の攻撃から難を逃れた共和国軍のランドウイング装備のS-40サンダーホーク2機が迎撃しようと滑走路に入り全速力で離陸滑走を始めた。
「あっ、このタイミングで滑走を始めるなんて!」
昶の声にその方向を見ると上空待機していた1隊のワーキャット3機が降下して後上方を占囲、滑走しているサンダーホーク2機に対して一斉に機銃掃射を行った。
あっという間に滑走していたサンダーホークは被弾して蜂の巣にされるとぱっと火が上がりエンジンが爆発、コントロールを失った機体は右後方を滑走していた僚機のサンダーホークと接触してさらに爆発し火の玉となった。
爆発した2機は見学スペース前に展示されていた共和国軍のアルファホーク練習機に突っ込み更なる爆発を起こす。
「亜耶!」
「はい!フォースフィールド!!」
観客を守るように私の前に魔法陣の障壁が展開され、爆発した機体の破片がそれにガツンガツンと当たる音がする。
「昶!」
「機体の所に戻るよ亜耶!あなた達も早く会場から出て避難しなさい!パニックを起こさないように、整然と、落ち着いて行くのよ!」
後ろを見ると運の悪い観客が破片の直撃を受けて胴体を両断されたり、首から上が消し飛ばされて倒れている。
あまりの事態に呆然として固まっていた観客達が昶の声で我に返って一斉に避難し始める。
「亜耶、とにかく機体の所に!このままじゃ連中に奪われかねないわよ!」
「はい!」
私は昶と一緒に見学スペースから愛機のある格納庫へと駆け出した。
リトラSide
「………どうしてこうロクでもない予感ばかり的中するのかしら」
「取り敢えずストラトガナーとミスティックシャドウⅡの固定武装の機関砲と105mmアサルトライフルの実弾の装填は完了しています、ロケットランチャーと76mmオートカノン、腕部グレネードランチャーはそれぞれ装填中ですが予備の弾薬まで手が廻りません」
「ま、仕方無いでしょ。それでも何の備えも無いよりマシってもんよ」
「会場の警備をしていた部隊の装甲車が制圧作戦を展開しているそうです……どうなるんですかね我々」
「少なくともさっきの話じゃもうすぐ反乱軍の連中の差し押さえ部隊が突入してくるんだから嫌でも撃たなきゃならなくなるんじゃない?……早く乗って大尉!」
あたしは愚痴る糸川大尉とコクピットに乗り込みストラトガナーを起動させる。
「トパーズ2よりクレアシオン管制、機体を起動しトパーズ1のパイロット2名の援護に入るわよ、そっちの状況は?」
『こちらも現在M5Mワーキャットの攻撃を受けて反撃中、最初の攻撃で本艦と「ヘルメース」が被弾したが行動に支障は無い』
「了解、こっちも降りかかる火の粉は払うわよ!」
『了解したトパーズ2、交戦を許可する。ただし出来る限り民間の物品や一般客へ被害が出ないよう注意せよ』
「はいはい、取り敢えず差し押さえ部隊が来たら張り倒してやるわよ」
空中航空巡洋艦「クレアシオン」艦橋
「奇襲攻撃をかけるなんて……!」
「艦長!敵機旋回、再び向かって来ます!地上からはこちらへ向かう反乱軍戦車を確認!」
「全く……!」
ティアは思わず愚痴りそうになったが理性でそれを抑えて指示をとばす。
「舷側砲塔と2番・3番砲塔は散式弾装填で対空防御、汎用ロケットランチャーも対空弾を使え!1番と底部砲塔は接近する敵戦車の迎撃を!」
「カールス大尉達の陸戦隊は展示していた装甲車で展示スペースからの脱出に成功、こちらに向かっているとの事です」
「陸戦隊の装甲車が確認できたら底部砲塔で援護してあげて!……トパーズ小隊の状況は?」
「リトラ大尉がストラトガナーを起動、トパーズ1の二人の援護に入るとの事です」
「わかったわ、彼女達の判断に任せましょう」
昶Side
「格納庫の展示スペース前に戦車が!」
「遅かった?!」
その時、派手な音を立てて戦車の装甲に穴が開いたと思うと次の瞬間、砲塔が爆発を起こし吹っ飛んだ。
マニューバギア形態のストラトガナーがロケットランチャーで戦車を破壊したのだ。
『アイドルアップ(暖機運転)はできてるわよ!二人とも早く!』
更に戦車が突入して主砲を発砲した。その砲弾はこの展示スペースでもある格納庫の鉄骨をへし折り、あたし達の上に屋根と天井の鉄骨が落下して来た。
「昶!」
「亜耶!?」
亜耶が咄嗟にあたしを庇って覆い被さる。………がしかし、何もあたし達の上には落ちて来なかった。
不思議に思って上を見上げるとストラトガナーの腕が真上にあった。
「リトラ!助かったわありがとう!」
『とにかく脱出するからお礼なんか後でいいわよ!耳塞いで!』
あたし達が耳を塞ぐと同時に目の前のストラトガナーの105mmアサルトライフルが火を噴いて戦車に命中、それを沈黙させる。
急いで亜耶と一緒にミスティックシャドウⅡのコクピットへと搭乗した。
リトラの言うとおり既に機体の暖機運転は済んでいる。これならすぐにでも全開で動かせる!
「トパーズ1よりクレアシオン管制、滑走路の状況は?!」
『クレアシオン管制よりトパーズ1、滑走路中間地点に爆弾による損傷とサンダーホークの残骸が転がっている、マニューバギアでのSTOL離陸(短距離離陸)をしてくれ』
ヘリみたいに垂直離陸なんぞしていたらいい的にされるだけだしSTOL離陸するのがこの場合は一番いいだろう。
「トパーズ1了解、ランニングテイクオフで行く」
『クレアシオン管制了解、敵機に注意せよ』
「トパーズ1よりトパーズ2、離陸と同時にエアロギアに変形、一回捻って最大出力で垂直上昇し高度と速度を稼ぐ、いいわね?」
ランニングテイクオフ(滑走路の軸線上での滑走開始前の一時停止をせずにそのまま速度を上げて離陸する事)から一回捻っての垂直上昇というのは基地が攻撃を受けた時の迎撃機の離陸方法である。
『トパーズ2了解!あいつらああああ、よくもやったわね!ぶっ飛ばしてやるんだから!』
『落ち着いてくださいよリトラ大尉……』
あー、リトラったらさっきの攻撃であたし達が展示ステージもろとも崩れてきた格納庫の瓦礫に押しつぶされそうになったもんだからブチ切れてる。
そしてそれをなだめる糸川大尉の声。
「落ち着いてくださいリトラ、攻撃の合間を見て離陸します」
『わかってるわよそんな事!』
『敵機が滑走路上空を通過!今なら滑走路はクリアーだ!ただ敵戦車が滑走路に接近しているから注意しろトパーズ1、トパーズ2!』
「トパーズ1了解!」
『トパーズ2了解!張り倒してやる!』
「行きますよ昶、トパーズ2!」
リトラのストラトガナーがその機首軸線をミスティックシャドウⅡの後方乱気流を避けるために機首軸線よりも外側へとずらす。
なんだかんだ言ってもリトラが落ち着いて機体を動かしている事に少しほっとした。あの娘もあたしが創作した娘だからね。
コクピット後方にある魔導エンジン内の魔力の粒子が圧縮、噴射されて甲高いタービン音を上げ、その振動が共鳴する。
誘導路から滑走路へ出ると同時に亜耶がスロットルをミリタリーパワーまで押し込んだ。それに追随してストラトガナーも付いてくる。
二機揃ってマニューバギア形態でのホバー滑走で速度を上げる。
「昶!滑走路上に敵戦車が侵入!」
「任せて!」
105mmアサルトライフルが3点バーストで火を噴く。
3発とも命中し砲塔が吹き飛ばされて戦車が滑走路に半分侵入した状態で擱座する。
更にもう一台、装甲車が進入してきて車体上部の機関砲を向けてきた。
「ああっ!もう!」
『邪魔よ!』
ミスティックシャドウⅡは脚部エンジンを噴かして擱座した戦車をホバー滑走しながらジャンプして飛び越え、リトラはホバー滑走しながらのスラロームで全弾回避するとストラトガナーの右上部に装備されている魔導粒子砲をすれ違いざまに撃ち込んで沈黙させる。
「V1通過!」
「行くよ亜耶、リトラ!」
「はい!」
『了解!』
機体がふわりと浮くと同時に二機同時にエアロギアに変形する。
魔力の粒子を滑走路に叩きつけて垂直上昇に入った。
………さて、あたし達のターンだ!