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#69 ストラトガナー

久々の新機種登場回です

#69 ストラトガナー


 昶Side


 空中航空巡洋艦「クレアシオン」は次世代の航空巡洋艦を開発するためのテストベッドとして元技術試験艦「プロメテウス」から改造された。

 そのためにこれまでの巡洋艦とは違い艦載機の格納庫が大きかったり、長期間の単独任務に対応するために乗組員の居住・娯楽設備が充実していたりする。

 それもあってあたしも亜耶も特に困る事も無くメカル共和国への航路に沿って「クレアシオン」は山岳地帯を航行していた。


「ここが天翔山脈回廊ですか……噂に違わず険しい所ですね」

「本当、絶景だわねえ」


 あたしと亜耶は「クレアシオン」から離艦し、訓練でこの険しい空域を飛んでいる。

 そしてミスティックシャドウⅡのコクピットのホログラフに投影された美しい山岳地形に思わず見入っていた。

 今は戦闘機形態のエアロギアなのだが亜耶はこの険しい地形を流れるような滑らかな操縦で紫色のスマートなドッグファイターを飛ばしている。


「亜耶どう?例の高機動化改造については」

「充分いけると糸川大尉のお墨付きを頂きました、それに昶が生前いた地球世界でも実用化されていた技術ですし」

「そっか、どうする?一応このフライトでのテストの許可は取ってあるけど?」

「そうですね、この先に少し渓谷が開けた場所があるそうですからそこで」

「うん、じゃあそれでやってみよう」

「わかりました……昶は今回の副座化改造はどうです?もう慣れましたか?」

「うん、スイッチ類や各メーター、パラメーターも全部把握したから……現在魔力及び火器管制術式・エンジン共に異常なし、全力で振り回しても大丈夫」

「了解しました」


 今回の仕事の前に糸川大尉にあたしと亜耶で改造案を出したのだがその一つがこの副座化改造である。

 メインパイロット席に亜耶、砲手兼機関士席にあたしが着座する。

 もっとも操縦自体はどちらの席でも可能だから以前セレーネに搭乗していた時のように状況に応じて操縦や攻撃の担当を交代する事が可能である。


「昶、もうすぐリトラの機体との合流時刻ですよ」

「遠距離支援ユニット装備の機体だったよね、確かストラトガナーって言うんだっけ」

「はい、ヴァイスカノーネの簡易量産機的な仕様と聞きました」

「射撃戦メインの機体だそうだし、どんな仕上がりか気になるのよねえ」

「もうすぐ見られますよ、もうそろそろリトラが来てもいい頃ですけどまだ索敵にひっかかりませんか?」

「まだ魔力センサーに反応は……ん?」

「どうしました?」

「一瞬何か映ったけどすぐに消えた……山や岩の陰に入ったのかもしれないから気を付けて!」

「はい!」



 亜耶Side


「っ!!」


 私は反射的に操縦桿を左に倒し、左のフットペダルを蹴飛ばすように踏む。

 目の前を閃光が掠めた。


「!!……敵?!」


 ミスティックシャドウⅡは瞬間的に反応し横滑りと同時に左へと急横転しその閃光を回避した。

 魔力によるものなのは間違いない。


「昶!」

「魔力粒子を検出、威力は訓練モード………こんな事するのはリトラね」

『ちっ、外しちゃったか……しかもバレてるし』

「何やってんのよあんたはぁぁぁぁ!」

『さっきクレアシオンの管制に飛行訓練中って聞いたから着艦する前についでだからACM(空中戦)訓練の相手してあげようと思ったのよ……手加減無しでいくわよ二人とも!』

「亜耶!」

「はい、全武装を訓練モードに切り替えます!」


 ドンッ!というすれ違う衝撃とともにリトラのストラトガナーが離れ、そして反転すると同時に航空機と魔導機兵の中間形態であるマニューバギアに変形する。

 

「このままだと回り込まれるよ、亜耶」

「はい!」


 私は変形レバーをAに入れた。するとミステックシャドウは人型形態のアサルトギアへと変形した。

 そのまま振り向きざまにこちらの6時方向、つまり真後ろへと回り込もうとしていたストラトガナーへと向けた90mmマシンガンのガンカメラが作動し、発砲した事を示すフラッシュライトが銃口から発光する。


「昶、射撃管制をそちらへ渡します!」

「任せて!」


 ストラトガナーはマニューバギアのままその右翼に装備した大口径の魔導粒子砲をこちらに向けた。左翼上部のロケットランチャーには発射の様子は無い。

 砲身の上部についているガンカメラが一瞬光る。


「このっ!」


 昶が牽制に90mmマシンガンを3点バーストで撃ち込み、再びガンカメラが発光する。それに併せて私はアサルトギアのままフルスロットルで肉薄するがリトラのマニューバギアはそれをするりと抜けて回避する。


「……予想以上に運動性能が高いようですね」

『ええ、機関出力は高くはないけど軽いからパワーウェイトレシオはヴァイスカノーネと殆ど変わらないわよ』


 リトラはアサルトギアにストラトガナーを変形させた。その姿は右肩に先程の魔導粒子砲、左肩にロケットランチャーを装備し、右手には自衛用の90mmマシンガンを持っている。


「……これは火力じゃ勝負にならないわね」

「昶、距離を詰めます」

「ん、わかった。機関出力を上げるわよ」

「はい!」


 機体をアサルトギアからマニューバギアへと変形させスロットルを押し込む。

 猛烈な加速をしつつストラトガナーの射線に捉えられないようにジグザグに機動しながら急接近する。


『接近戦につき合う気はないわよ!』


 接近戦を嫌ったリトラは急上昇をかけて距離を取ろうとしつつ90mmマシンガンの弾を連射でばら撒く。


「甘いですよリトラ!」


 ミスティックシャドウⅡはエアロギアに変形するとメインエンジンと胴体のスラスターが長い噴射炎を吐き出しつつ大迎角で急上昇する。


『かかったわね!』

「!!」


 ストラトガナーが一瞬でアサルトギアに変形すると急ターンし、剣を抜いて肉薄する。


「間に合わないっ?!」

『この機体は近接戦闘装備もあるのよ、あたしの勝ちね亜耶!』

「くっ!」


慌ててスロットルを押し込んで離脱する。

ストラトガナーはエアロギアに変形して追ってくる。


「亜耶、6時方向を取られた!」


 まずい、この先は狭い渓谷になっている。

 後方モニターを確認するとストラトガナーの二門の魔導粒子砲のガンカメラが何度かフラッシュするのが見えた。


「落ち着いて亜耶、この対気速度なら一瞬で後ろを取れるよ」

「!!……あの機動ですか」

「例の高機動化改造を試すにはいい機会だと思うよ?」

「わかりました昶」


 私は一気にスロットルを絞って操縦桿を手前に引き、機種上げをしつつ脚部の変形用ロックを外して戦闘機形態であるエアロギアのままでも脚が自由に動き、推力方向を可変させられるようにする。


 失速したミスティックシャドウⅡが機種を垂直に上げ、そして急減速する。

 この急減速について行けなかったストラトガナーがオーバーシュートしてミスティックシャドウⅡの前へと追い越して飛び出す。


「チェックシックス!」

『なっ?!プガチョフ・コブラですって?!』

「ここまでです!リトラ!」


 私はトリガーを引いた。

 エアロギアの20mm機関砲のガンカメラが作動する。


『ああっ!もう!勝てたと思ったのに!!』


 撃墜判定を知らせるブザー音と一緒にリトラの悔しそうな声が聞こえて来る。


 通常、戦闘機形態のエアロギアでは脚部は完全にロックされている。だがそのロックをせずに脚部のエンジンごと可動できる状態にする。

 脚部、つまりエンジン全体を推力偏向ポッドとして使用する事でプガチョフ・コブラやクルビットのような失速機動を行えるようにする、というのが亜耶が糸川大尉に先日依頼した高機動化改造である。


『トパーズ1もトパーズ2もそろそろ戻って下さい、それだけやれば今日の訓練はもう充分ですよ』


 ホログラフに「クレアシオン」へと魔法省から出向してきている新條麻衣大尉の姿が映った。

 なんでもここ最近の様々な戦闘による損耗で乗組員の人手不足が深刻との事で坂崎准将が魔法省に副長の待遇で出向を要請したのだそうだ。


「「トパーズ1了解しました」」

『はぁい、トパーズ2了解』

『それとトパーズ2、この予定に無いACM訓練の報告書を帰還したらすぐにティア艦長へ提出する事、いいですね?』

『うー……面倒だなぁ』

『何か言いました?』

『………何も』

『はい、じゃあ帰還してください。それと艦に戻り次第ブリーフィングルームに集合するよう艦長から指示が出ていますのでお願いします』

「トパーズ1了解しました」

『トパーズ2了解よ』


 かくして私達はこのイレギュラーな空中戦を終えて新しい私達の母艦「クレアシオン」へと着艦し戻ったのである。


 

 昶Side


 あたし達がブリーフィングルームに入ると既に手空きの他の乗組員達が集まっていた。


「何かあったのでしょうか」

「戻るなりみんな集まれってのは珍しいよね」

「ま、話を聞けばわかるわよ」


 そんな事を話しているとティア艦長と副長の新條麻衣大尉が入ってきた。

 乗組員達の敬礼にティアと麻衣が返礼をする。


「さて、先程パルマポートの帝国軍艦隊司令部と傭兵ギルドの本部双方から連絡が入ったので諸君に伝えておく、よく聞くように……副長、説明を」

「はい、本艦「クレアシオン」は現在天翔山脈回廊を通過しメカル共和国のエアショーに参加、帝国軍航空設計局に協力し各種の展示をするべく作戦行動中な訳ですが……」


 麻衣が壁面の大きなホログラフに地図を投影した。


「ここ、メカル共和国のセント・パッカード港にあるコンベンションセンターとその港に隣接するセント・パッカード空港でエアショーと各種、各国の軍需企業やその装備と共に我々は参加を予定しています」


 地図が切り替わり港と空港の全体図になった。


「「クレアシオン」は港では無くコンベンションセンターに隣接する空港の離着床に着陸します……ただそれに問題が発生する可能性が出てきたと先程パルマポートの司令部から連絡がありました」

「何があったのです?」


 亜耶の質問に麻衣は頷くと話し始めた。


「現在メカル共和国では政情不安が高まっています、そしてデモやテロが頻発しているわけですが共和国政府、とりわけ共和国軍はその威信にかけてこの軍事ショーと各種パレードにより最新の軍備を大々的に見せつける事でそれを抑えようとしている節があります」

「……つまりそれに反発する勢力によって何らかの妨害工作が行われる可能性が高いって事ね?」

「はい、その通りです若桜少佐。ですから皆さんにはメカル共和国領内に入ってからは交代制で警備強化の為に協力して頂く事になります………エアショーの最中は警戒態勢を保ったまま帝国航空設計局と共に各種の展示説明及び展示飛行等を行う事となります」

「……やれやれ、じゃあ俺達の出番は武器装備の展示だけじゃ無くなるかもって訳か」

「はい、そういう状況なので警備の指揮はお任せしますカールス大尉」

「おう、任せとけ副長」

「あたし達も備えはしておくべきだね亜耶」

「そうですね、警戒は怠らない方が良いかと」


 この後いくつかの打ち合わせ的な話し合いをしてあたし達は解散となった。


 ………ちなみに勝手にACM訓練をやりはじめたリトラはティア艦長に大目玉を喰らって明日の朝から格納庫の掃除を一人で全部やる羽目になったそうである。

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