#6 狙われたマジックアイテム その2
#6 狙われたマジックアイテム その2
亜耶 Side
「やれやれ、石像が頂きたくて参上したのだがいきなり魔法攻撃の斉射とは少しばかり礼儀を失しているのではないかな?」
私を真っ直ぐに見ると右手を向ける。
「とにかくこれはお返ししよう!」
まずい!私は横に飛んで避けながら両手を前に出しフォースフィールドを展開する。彼の撃ち返した魔弾の一部がフォースフィールドに当たって砕ける。
「・・・呪文無しで展開するとはな、君もカテゴリーⅡか」
「強力な魔力・・・・そう、貴方もカテゴリーⅡ・・・面白そうね」
私は隙を見せないように立ち上がる。
「だが私に攻撃魔法は効かないかもしれんぞ、どうするのかね?」
「これなら!」
彼のいる空間を雷の閃光が包んだ。エレクトリッガー。術者が指定した区域の空間そのものに電撃を放射する魔法だ。
電撃系でも制御して魔弾を発射するタイプの魔法ではないから彼に制御はできないはずだ。
「うおっ!・・・なるほどいい判断だ!!だが甘い!」
彼は少し電撃を喰らったもののフォースフィールドで拡散させられてしまった。
「ではこれを食らって頂こうか!」
ぱぱぱっと魔法陣と共に私とライル、アスティ、それに冒険者達の人数分である七本の奇妙な形の矢が彼の周りの空間に出現した。それは対人戦闘ではまず使うことのない形状の矢だ。
「・・・ランケンダートを人間相手に!」
「ウォーターシールド!」
追加で雇われた冒険者の精霊使いが水の精霊魔法で防御しようと魔法を発動させる。
ランケンダートは焼夷能力のある魔法のダーツの矢で本来は建造物や飛行船に使って燃やしつくす魔法だ。それ故に現在は国際条約で対人戦闘での使用は禁止されている。
「邪魔者は排除させて頂く!」
「ビットよ!!すべて撃ち落とせ!」
一瞬で七個の魔法陣と共に発動したビットがそれぞれ違う軌跡を描いて誘導され、飛んできたランケンダートの全弾を撃ち落とし空間に七個の爆炎が上がる。
「ほう、七個のビットを発動させるだけでなく、すべて別々の目標に誘導するとは大した集中力だ。そこまで緻密にビットを使う術者は初めて見たよ」
「・・・・・褒めて頂けて光栄」
本来ならばビットは単一目標に対しての集中攻撃に使う魔法だ。聞いた話ではかなり優れた魔導士でも一度に出せるビットはせいぜい四個程度、それを一個の目標への攻撃に使うのが精一杯である。そうそう簡単に個別の目標に誘導できるものではない。
「こっ、この!!」
今ので腰を抜かして尻もちを付いていた冒険者の一人がパニックに陥ってファイヤーダーツを複数発動させる。再び魔法攻撃の火線が彼に集中した。
私はぎょっとした。そんなことしても多分無駄だ。
「ふん、そんな物は通用しないのがまだわからんか愚か者!」
今度は彼が右手をライル達に向けて振ると彼に向けて発射された魔力の炎の矢はすべて制御を奪われ今度は乱反射して跳弾したのだ。
「うあっ!」
跳弾が私の腕を擦過した。
あちこちで悲鳴があがる。一瞬の後には尻もちをついていた魔術師も含めたの冒険者四人全員がその跳弾を受けて倒れていた。
「さて、ふたつばかり君に聞きたいのだが昼に故買屋で私の部下を倒したのは君かな?かなりの腕だが名はなんという?」
「確かに倒したのは私だけど、女性に名前を聞く時は自ら名乗るのが紳士だと思うわよ」
「これは失礼、私の名前はアフィッド大佐、狼牙傭兵団の司令官だ・・・その部隊章、君は少佐か、いい腕だ」
アフィッド大佐は私に軽く敬礼をした。
「涼月少佐です・・・狼牙傭兵団は灼熱の海戦役の時に壊滅したと聞いていますが・・・それと大佐、彼の実戦での判断は甘かったですよ」
私は敬礼を返しながら答えた。敵であっても自分より上の階級の者に対しては敬礼を返すのが礼儀だ。
「やれやれ、部下の教育にはもう少し気を使うとしよう・・・どうだ、私の下で働く気はないかね少佐、待遇は保証しよう」
「申し訳ありませんがお断りします・・・・・私は命令とあらば無差別攻撃もしなければならない軍人が嫌になって今の冒険者の立場にいますので」
「君ほどの人材が得られないとは残念だな・・・・・まあ今後部下の育成には気を使うとしよう、それと狼牙傭兵団は消えてはおらんよ、あともう一つ、あの石像をおとなしく渡して頂こうか、あれは我々が作った物なのでね、それがこちらのミスで廃棄されてしまったのだ」
ん?作った?石像を?・・・なんで石像なんか作ったんだろう?
「もうここには石像はありません、あなた達がボイストランスファーをかけたのに気づいたから一芝居打たせて頂きました、完全な無駄足ですよ」
実際この倉庫には無いのだから嘘は言っていない。
「ほう?ではその移動先を教えて頂こうか」
「教えるわけにはいかないわ」
当然だ。テロリストの可能性がある人物と取引はできない。
「・・・ほう」
アフィッド大佐はじろりと私を見た。彼の放つ殺気が一気に増した。
実戦経験豊富な傭兵団の首領。すごい殺気だ。全身がぞっとするのを感じる。そして私とは比べ物にならない圧倒的な死の威圧感。
「・・・うっ・・・・」
凄まじい殺気のプレッシャーと恐怖で私は一瞬動くことができなかった。
これが数え切れない程の死地を切り抜けてきた傭兵の持つ殺気。
気おされて判断が鈍っていたのがまずかった。
私のすぐ目の前に一瞬で接近したアフィッド大佐は私の首を右手で掴み締め上げながらそのまま私の身体を簡単に持ち上げた。すさまじい殺気のプレッシャーで固まっていて避けそこなった。
「んくぅ・・・うう・・・」
両手で首を掴む手を剥がそうとするが私の力ではびくともしない。両脚が床から浮いているせいでまともに抵抗ができない。
私の首を掴んでいるアフィッド大佐の手首から強い魔力を感じる。
「美人をいたぶるのは私の趣味じゃないのでね、さっさと石像の場所を教えてくれないか涼月少佐」
「このっ!」
ライルが剣で斬りかかるがアフィッド大佐は左手の剣であしらった。レベルが違いすぎるのだろう。アスティは倒れたまま動かない。
あまり無茶はしないで欲しいのだけれど。
「そこで死んでいる冒険者風情のようになりたいのかな?・・・さて、答える気はないのかな?」
冷徹な口調でアフィッド大佐が言った。
「・・・教えるはずないでしょ・・・・う・・・・」
「命が惜しくは無いのかね?」
「・・・教えない・・・と言った・・・・」
「ではその気になって貰おうか・・・先程のエレクトリッガーのお礼をさせて貰うとしよう、ショックボルト!」
アフィッド大佐が言うと同時に電撃が私の身体を襲った。
「きゃああああああああっ!!!」
思わず私は悲鳴をあげた。
ショックボルトの雷光で暗い倉庫が照らし出される。
「まだ喋る気にならんかね?」
「うああああ!・・・ふざけ・・・る・・・な・・・あああああっ!!!」
私は電撃を堪えながら言う。
「・・・・・そうか」
更に電撃の出力が上がる。
「うああああああああ!!!・・・・・あああああっ!!・・・・・あああああああっ!!」
バチバチと音のする凄まじい電撃で自分の身体がびくんびくんと痙攣するのがわかる。
「もう一度聞く、教える気は無いのかね?」
電撃で痙攣する私の喉に指がめり込む。
「何度も・・・言わせるな・・・」
「強情だな、君は」
さらに電撃の出力が上がった
「うああああああ!!・・・うあ・・・あ・・・・この・・・・!!」
身体をバネにして思いっきりアフィッド大佐の胸を蹴飛ばす。ゴキッという感触。
「うおっ!」
アフィッド大佐は私の首を掴んでいた手を思わずぶんっと振って私を駄々っ子がぬいぐるみか何かを投げるように壁に叩きつけた。私は全身を打って叩きつけられた壁からずり落ちて倒れた。
「・・・う・・・ごほっ、ごほっ」
私は上体を起こす。涙を流しながら咳き込んだ。
「では仕方がない、君の命を貰い受ける。そして君の死体から残留思念にでも聞くとしよう」
怖いことを言いながらアフィッドが剣を抜いた。
「!!」
私はとっさにソードモードにしたアサルトロッドを抜いて自分の前で剣を横にして防ぐ。
立ち上がる間も無くガシーンと剣と剣がぶつかりあった。
「このっ・・・・」
力の差はどうにもならずにぎりぎりと剣が押される。・・・・・・今だ!
「貴方の負けよ大佐!」
「何っ?!・・・・うおああっ!!」
ビットがアフィッド大佐の背中に炸裂したのだ。
私はそのまま剣を受け流すと同時に足払いをかけて転倒させる。更に連続して追加のビットを飛ばす。
首を掴まれる前にアフィッド大佐の真後ろに再度ビットを生成させて待機させておいたのだ。どんな優秀な傭兵でも自分の背中は見られない。
下手なタイミングでビットを飛ばしても奪われてしまうからその時を待っていたが、その結果として私の首を離し、剣を抜いた事で確実にビットを命中させる隙ができた訳である。とはいえこんな危ないことは二度としたくない。
「ビットよ!当たれ!」
「貴様!・・・自ら作り出したビットで死んでもらおうか!!」
アフィッド大佐は手をかざして更に私が追加で飛ばしたビットの制御を奪い、すべてのビットを融合させて一個の大きなビットにすると私に飛ばしてきた。ビットにそんな使い方があったのか!
昶 Side
アフィッド大佐が亜耶を手から離した。これまで亜耶の身体がアフィッド大佐の手前にあって狙撃が出来なかったのだ。
あたしはすかさずアフィッド大佐が右腕にはめているブレスレットを狙撃した。その銃弾は装飾の結晶石に刺さってそれを砕いた。
倒すだけが目的ならばヘッドショットで頭を撃ち抜けば済むが身柄の確保が目的なのでブレスレットを狙ったのだ。
すると彼に制御を奪われていた大きなビットは亜耶に命中する寸前で逸れて壁に当って穴を開けると消えてしまった。
思った通りだ。やはりあの結晶石で奪った魔法攻撃の制御をしてたのか。
彼の魔法の発動体はこれだったんだ。魔術師や精霊使いの場合、魔法を使う時にはその持てる魔力を魔法に変換し具現化させるための触媒の役目をする結晶石が必要である。
だからその結晶石を付けた指輪やペンダント、ブレスレットを魔法の術者は必ず身に付けている。
「狙撃手か!」
アフィッド大佐が声をあげる。
「はあっ!!」
亜耶は全力で壁を蹴って前に跳ぶとソードモードにしたアサルトロッドに全体重を載せて、立ち上がったアフィッド大佐の胴を貫いた。
「え・・・!?」
が、手応えがまるで無く亜耶はアフィッド大佐の身体をすかっと透過してしまった。
「・・・・しまった!テレポートを!」
アフィッド大佐もブレスレットが破壊される前に予めテレポートの魔法を既に生成させていたのだ。
「ここまでできる奴がいるとはな・・・お前達の事は覚えておこう」
ベタな捨て台詞を残してアフィッド大佐は再び魔法陣の中へと消えていった。正直忘れてもらいたい。
周りを見ると他の冒険者達は全員がアフィッドの魔弾に倒されていた。
結局生き残ったのはあたし達四人だけという有様だ。しかもライルとアスティは重傷である。
石像は奪われずに済んだけど被害が大きすぎる。対策を練り直さないとまずいな。
まさかレベル50の亜耶が捕まえられて電撃の魔法を喰らわされるなんて苦戦をするとは思わなかった。
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