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#68 新しい任務

久しぶりの更新です

今回から第4エピソードに入ります

 #68 新しい任務



 昶Side


「これがその展示飛行のプログラムだ、3人共よく目を通しておいてくれ」

「「「はい、了解しました」」」

「うん、頼んだぞ」


 あたしと亜耶とリトラの3人はパルマポートにある傭兵部隊「アトロポス」の司令部から呼び出しを受けていた。 

 なんでもメカル共和国で毎年開催されている大規模な航空・魔導機兵ショーがあるのだそうでその展示と展示飛行の依頼がミスティックシャドウⅡとヴァイスカノーネ改を開発したラティス帝国の国営航空設計局から来ているのだそうだ。

 そのためにミスティックシャドウⅡのメインパイロットの亜耶と砲手のあたし、ヴァイスカノーネ改のパイロットのリトラが呼び出されたのである。


 あたしが転生前にいた現代の地球世界、それもヨーロッパ等で開催されるような大規模航空ショーと同じように軍需企業にとっては大きな商談をするチャンスでもある事からどこのメーカーも積極的に参加しているらしい。


 そしてあたし達やリトラが駆るミスティックシャドウⅡやヴァイスカノーネ改はラティス帝国航空設計局の誇る最新鋭機である。

 だから航空設計局としてはこの一大軍事ショーに参加して商売に繋げようとするのは当然であると言える。


「私達以外の国からはどんな機体が出るのですか?情報はある程度掴んでいるのでしょう?」

「あ、それあたしも気になるわ。ヴァイスカノーネ改みたいな砲撃メインの機種ってどんなのがあるのかしら」


 亜耶とリトラの疑問に坂崎准将は分厚い資料の束を出して開いて見せた。


「現状で事前発表があったのはこれだな……メカル共和国の次期主力魔導機兵候補になっている機体、「M5Mワーキャット」だ」

「名前からして設計者にアメリカ人転生者がいそうですね」

「そうだな、詳しい性能諸元は不明だが基本的に大出力のエンジンを搭載してその有り余るパワーで振り回す機体らしい」

「って事はF6FヘルキャットやPー47サンダーボルトみたいな機種なのかな」


 F6FヘルキャットもP-47サンダーボルトも第二次世界大戦時の米軍が運用していた戦闘機だ。

 特に米海軍のF6Fヘルキャットは同じ海軍機であるライバルの零戦と死闘を繰り広げた機体として有名である。


「確かにそんな感じの機体だがよく知っているな、少佐は大東亜戦争が終わって半世紀以上経ってからの生まれじゃなかったのか?」


 当時は日本で言う太平洋戦争を大東亜戦争と言っていたらしいがこの異世界に転生する前は当時の日本海軍の正規空母「瑞鶴」に乗り組んでいた坂崎准将からすれば大東亜戦争と呼称するのが自然なのかもしれない。


「あたしの家は自衛官……軍人の家系なので軍事資料本が多かったんですよ」

「なるほどな…まあしっかり頼むぞ3人共」

「はい、ところで現地までは直接私たちが自分の機体で飛んでいくのでしょうか?」

「おおそうだ、それなんだが今回君達は新しい母艦に乗り組んで貰う事になる」

「え?「龍牙」はまだ完成していないんじゃ?」

「いや、君達が乗り組むのはこの艦になる」


 リトラの疑問に坂崎准将は再び資料を開いて見せた。


「これは……!!」

「プロメテウス…!」

「でも13号浮遊島事件の時とは色々とディティールが変わってるわね」


 それは13号浮遊島事件で大破しドック入りしていた技術試験艦「プロメテウス」だった。

 全長は180mから200mに延長され、武装は主砲に連装20.3cm砲が艦橋の前に背負い式に二基、艦橋の周囲には対空機関砲が複数、艦橋と煙突の間に汎用ロケットランチャーが一基、第二煙突の後ろには艦載機格納庫と二機が駐機出来る飛行甲板、更にその後ろは一段低くなっていてそこには後部主砲がある。

 側面の少し前よりには左右両舷側に舷側砲塔として主砲と同じ連装20.3cm砲が、そして前寄りの艦底部にも底部主砲として同じく連装20.3cm砲が装備されている。

 舷側砲塔と底部砲塔が少し前寄りにあるのは後部にある主機、つまりエンジンと前後の重量バランスをとるためらしい。


「以前よりも重武装になっていますね」

「ああ、現在構想中の「イディナローク」級という新型空中航空巡洋艦のテストベッドも兼ねていてね、そのために色々な装備の変更があったんだ」

「そうなのですか…」


 ん、亜耶は少し嫌そうな表情をしている。

 そりゃそうか。

 亜耶は「プロメテウス」には嫌な思い出しか無いもんな。

 13号浮遊島事件の時に敵に捕まって拘束された上に拷問同然の精神介入で洗脳されたんだから。

 その手をそっと握ると亜耶は一瞬あたしの顔を見てわずかに微笑むと元の表情に戻った。


「あれ?でも艦名が変更になったのね」

「ああ、艦番号は技術試験艦のASE6100のままなんだが我々傭兵部隊「アトロポス」へ移管になって、それに伴って艦名が「クレアシオン」になった」


 後で聞いた話だが「クレアシオン」というのはスペイン語で「創造」を意味する言葉らしい。

 新しい技術の開発とその試験運用が任務の技術試験艦にはある意味ふさわしい艦名なのだろう。


 大改装を受けた「プロメテウス」改め「クレアシオン」の全体の感じは海上自衛隊の「しらね」型や「はるな」型護衛艦といった複数のヘリコプターを搭載する、すこし古い世代のDDH(ヘリコプター搭載護衛艦)に近い。

 とはいえ「しらね」型や「はるな」型が三機のヘリコプターを搭載出来るのに対して「クレアシオン」は六機の魔導機兵、もしくはVTOLが搭載出来るそうだからその航空戦力は充実していると言ってよいだろう。


「艦載機は私達の二機だけなのですか?」

「途中で新型機の「ストラトシャドウ」と合流して貰う事になる」

「「ストラトシャドウ」?量産機ですか?」


 亜耶の質問に坂崎准将は首肯すると言葉を続けた。


「その通りだ、名前で想像がつくと思うが……」

「ミスティックシャドウⅡの量産型ですか」

「まあそういう事になるんだがミスティックシャドウⅡをベースにコストダウンし量産化した可変型のエコノミー機という触れ込みでな、設計局も帝国軍への売り込みに張り切っているらしい」


 なるほどね。新型量産機のプレゼンもするって事なのか。


「そうなるとストラトシャドウのパイロットは腕利きなのでしょうね」

「ああ、元帝国軍魔導機兵教導団でアグレッサー部隊にいたパイロットだそうだ」

「随分な気合いの入りようじゃない」


 リトラの言葉にあたしも亜耶も頷く。

 教導団、アグレッサーと言えば訓練で仮想敵国の機体の役をやる訓練専門の部隊である。

 そしてアグレッサーは全国の部隊から派遣された隊長クラスのパイロットに仮想敵国の戦法を実戦さながらの厳しい訓練でそれを叩き込む連中である。

 だから当然教導団に配属されるパイロットは腕利き、ベテラン、もしくは実戦経験豊富な者が選ばれる。

 その実力は練習機のアルファホークで実戦部隊のフェンリルを相手にドッグファイトであっさり撃墜判定を出すような連中だ。

 だから教導団出身のパイロットに軍事ショーでのプレゼンを兼ねた展示飛行が任されるのは納得のできる話である。

 そうそう、アルファホークで思い出したけどこの機体はメカル共和国の軍需企業が開発した機体だったりする。当初はラティス帝国航空設計局で開発する予定だったのだが限られた開発リソースをフェンリル系の主力機に投入するべきであるという判断からアルファホークをライセンス生産する事になったのだそうだ。


「ミスティックシャドウの量産化はわかったけどヴァイスカノーネの量産計画はないの?」

「計画はあるそうだが武装のコストの関係で調達価格がかなり高くなるそうでまだ構想段階という話だがその辺は糸川大尉が同行するそうだからその時に詳しく聞けると思うぞリトラ大尉」

「え?糸川大尉も同行するのですか?」

「そりゃ元々ミスティックシャドウもヴァイスカノーネも基本設計をしたのは彼だからな、それが技術試験隊に引き渡されてその後は君達の知る通りと言うわけだ」

「なるほど………」

「どうした涼月少佐?」

「糸川大尉が同行するのなら彼に依頼したい作業があるのですが」

「そうか、じゃあ書類にして提出してくれ、私からも話しておこう」

「お願いします」


「それにしても何故傭兵部隊にこの任務が来たのですか?これだけ大切な内容なら私達のような傭兵ではなく帝国正規軍に話が来そうに思えるのですが」

「それは単純な理由だよ涼月少佐、現在帝国軍には海外派遣できる艦艇に余裕がない。今回のような直接安全保障に関わらないような任務は傭兵にでもやらせておけばいい、という事さ………ただプレゼンで失敗されても困るから実戦での実績があってミスティックシャドウⅡやヴァイスカノーネを知り尽くしている君達に白羽の矢が立ったという訳だ」

「でもあたしのヴァイスカノーネは13号浮遊島事件で大破してからまだ修理整備が終わってないけどどうするのよ?」

「それについてはこれを見てくれリトラ大尉」


 坂崎准将は週刊誌ほどの厚さのファイルをリトラに手渡した。

 リトラはそれを受け取るとぱらぱらとめくる。


「なるほどね……ストラトシャドウは大規模な機体部品の換装でミスティックシャドウⅡみたいなドッグファイターにも、ヴァイスカノーネみたいな遠距離支援タイプにも、マルチロール機として任務に応じて自由に、それも大規模に装備変更できるのね……つまりこれの支援砲撃型にあたしは乗ればいいのね?」

「ああ、だから一足先に大尉は設計局に行って機体に慣れておいてくれ」

「ん、了解したわ」

「そういえばプロメ……クレアシオンに特殊装備は残ってるんですか?あと乗組員はどうなっているのです?」

「レイ・リフレクターの事なら一応装備は残っているが使う予定は無いそうだ、あと乗組員だが「龍牙」が竣工するまでの間は強襲揚陸艦「アトロポス」のみんなが乗り組む事になっているよ……艦長にはティアが着任する」

「あら、じゃあ周りの人たちは知った顔ばかりなんですね」

「そういう事だ……とにかくしっかり頼んだぞ、出航は三週間後だがその前に改めて一週間の休暇を出すからそれまでゆっくり休んでしっかり準備をしてくれ」

「「「了解しました!」」」


 あたし達3人はそれぞれの資料を受け取り傭兵部隊「アトロポス」本部を後にすると遠征の準備をし、余った時間は買い物をしたり、亜耶は妹の美耶に暫く任務で留守にする事を伝えたり、それが終わった後は艦に慣れる為の訓練をしたりして出発までの三週間を過ごしたのである。




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