#67 姉妹
#67 姉妹
昶Side
アスコモイドグレルの殲滅に成功してからひと月程が経過した。
現在傭兵部隊「アトロポス」は喪失した強襲揚陸艦「アトロポス」の代替となる新しい母艦の受領をするための手続きやその準備で大忙しである。
元々強襲揚陸艦「アトロポス」は13号浮遊島事件の戦闘で受けていたダメージが原因で退役し売却が決定していたのだが先日の戦闘で帝国正規軍からの要請によって出動し喪失という結果になった事もあり帝国軍の「パルマポート・ベイ」級護衛空母を前倒しで、しかも褒賞として無償での供与が受けられる事となったのである。
現在「パルマポート・ベイ」級護衛空母は一番艦の「パルマポート・ベイ」、二番艦「ハルサクラ・ベイ」に続いて三番艦が建造中なのだがそれの設計の一部を変更して空母型強襲揚陸艦として建造して受領する事になったのだそうだ。
さて、あたしはというと相変わらずちまちまと冒険者としての護衛依頼をこなしたり、それが無い時はあたしは冒険者ギルドの講師、亜耶は何か仕事があるらしく時々魔法省調査部に行ったり、それが無い時はモデルのアルバイトをしたりして過ごしていた。
そんな日々が続いていたある日。
あたしは昨日から魔法省調査部で泊まり込みで仕事をしていた亜耶に呼び出された。
魔法省調査部の部屋に入るとそこにはシャフリラとラーシャ博士が待っていた。
「あれ?亜耶はどうしたんです?」
「もうすぐ戻ってくると思うが……」
「どうしても貴女に会わせたいって言ってたからすぐ来ると思うわよ」
「会わせたい?誰と?」
はて。
誰かと会う予定とか約束は無かった筈だけど。
誰なんだろう?
悩んでいるとあたしが入ってきたドアの向こうから聞き覚えのある声が二人分聞こえてきた。
二人とも亜耶の声だなこれ。
……………へ?亜耶の声が二人分?どういう事よ?
「いいから部屋に入ってくださいってば」
「でもお姉ちゃん、初対面だしちょっと恥ずかしい」
「何言ってるんです、私と初めて会った時はあれだけ大暴れしたのに」
「だってあの時は精神介入されてたし……」
ん?ん?ん?
何の話だってばよ。
そ〜っとドアに近づくとあたしはドアを一気に開いた。
「「きゃーっ!!」」
二人の銀髪の少女が部屋に転がり込んできた。
「…………はい?」
あたしの目はこの時、点になっていたに違いない。
目の前に転がり込んできたのは亜耶と、亜耶にそっくり、いや完全な立体コピーとしか言いようのない銀髪ショートの少女だった。
「ちょっと昶!いきなり何するんですか」
「痛い………」
亜耶の立体コピーの少女はよく見ると瞳が明るい緑色だ。そして少し雰囲気が亜耶よりも幼い感じがする。
「………どういう事?」
「あっ、紹介が遅れました昶、私の妹です」
「へ?妹!?」
「若桜少佐、「荒海の海魔」号で会った娘の話は聞いているだろう?」
「ああ…………そういう事か!!」
思い出した。
そういや亜耶は自分をオリジナルにしたホムンクルスと対峙したっていってたっけ。
「亜耶、じゃあこの娘が?」
「はい、私の妹の涼月美耶です、ほら、昶に挨拶してください」
「初めまして涼月美耶です、昶さん、よろしくお願いします」
「うん、よろしくね美耶ちゃん……でもどうしてここに?」
あたしはシャフリラに向き直ると疑問を口にした。
「涼月少佐が取り押さえたのは知っているでしょう?」
「はい、王城で格闘戦の末に……というのは亜耶から聞いていますがアルフォス女王の暗殺未遂でしたよね」
「そうよ、でも色々と取り調べた結果判明したのだけど彼女は精神介入で凶暴化させた上で操作されていた事がわかったの……まあ早い話が洗脳ね」
「それで精神介入を魔法省で解除する事になったんだがこれが難物でな、涼月少佐の時と違ってマジックアイテムを使わずに精神介入を成功させていたんだ……それでその解除の糸口が見つからなくて困っていた時にちょうど涼月少佐がここにきてそれを手伝ってくれたという訳だ」
「そんな事が……」
シャフリラが続けて説明をする。
「ただそれで正気に戻せたのはいいんだけどアルフォス女王の一件があるから扱いをどうするか問題になったのよ……そこで涼月少佐とラーシャ博士が身元引受人、まあ保護者を買ってでたのよ」
「要は一定期間観察をして問題がなければお咎め無しって事なんだが彼女はホムンクルス故の問題があってね」
「問題?どんな?」
なんだろう、転生者でもないし純粋な人間でもないしって意味なんだろうか。
それを口にするとラーシャ博士は首を横に振って否定した。
「いや、もっと彼女にとって切実な事だ」
「?」
「あの……それは私から言います」
美耶がおずおずと手を挙げた。
「私、普通に暮らしていたら長く生きられないんです……ホムンクルスですから定期的な投薬と肉体調整をしないと生き続けられないんです」
「え?じゃあどうする………あっそうか、だからラーシャ博士なのね」
「そういう事だ少佐、取り敢えず彼女には私の研究室で魔法工学の助手をして貰おうと思っている……そうすれば必要な薬の製作も肉体調整も問題なく出来るからな」
「なるほど、じゃあそれが上手く解決して彼女の身体が安定したらその時に晴れてラティス帝国の市民権が得られる訳ですね」
「そうだな、精神介入も消えているし精神面の問題もないと認められれば不可能ではないと思うよ……それに頼りになる姉兼名付け親もいるしな」
「そういや本来の名前って無かったんだっけ?」
「はい、美耶は元はA-βという名前でした、どうやら私の名前の頭文字をとっていたらしいんですけどきちんとした名前と戸籍はいずれにしても必要ですから私が名前を考えました」
亜耶が美耶をそっと抱き寄せた。
美耶も亜耶にそっともたれ掛かるようにする。
しかし本当にそっくりだ。もし美耶がロングヘアにして金色のカラコンを入れたらあたしでも見分けがつかないかもしれない。
結局この日は亜耶に妹ができたお祝いを近くのレストランでやってあたし達は帰路についた。
美耶は帰り際にラーシャ博士の横でいつまでもあたし達の乗るピックアップトラックに手を振り続けていた。
とにかくこうしてアスコモイドグレルの一件が片づき、亜耶には可愛らしい妹ができたのである。
亜耶さんに妹が出来ました
どうやらまんざらでもない様子の亜耶さん。
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