#66 超遠距離狙撃(3)
#66 超遠距離狙撃(3)
その長大かつ大口径の銃口から破壊の光芒がアスコモイドグレルへと一直線に発射された。
既に日が暮れて薄暗くなりつつあるが強襲揚陸艦「アトロポス」からその光芒はアスコモイドグレルの中枢部分のある胴体中央部へと伸びた。
命中すると思われた瞬間、これまでよりも一回り巨大な魔法陣の障壁が中枢部分を守るべく展開された。
その障壁は光芒をせき止める。
「このっ!しぶとい!!」
昶は思わず声をあげた。
『ライフルへの魔力供給量をあげろ!』
『これ以上はこの艦の魔導炉が暴走して破壊される可能性が!』
『かまわん!全力で回せ!!出力を上げ次第機関員は機関室より退避!』
昶はコクピットに増設されている魔力流量計に目をやった。
これまで100%を指していたメーターの針がぐんぐんと上昇していく。 そして針が145%に達した時。
破壊の光芒は魔法陣の障壁をガラスのように割り、貫いた。
アスコモイドグレルの胴体中央を光芒が抉る。
中枢部を破壊すると思われたその時。
激しい揺れと耳をつんざくような轟音と共に「アトロポス」の魔導炉が暴走し爆発を起こした。
艦体後部が激しく破損し飛行甲板の一部がめくれ上がった。
急激に破壊の光芒は細くなり超遠距離狙撃ライフルは沈黙した。
『そんな………』
艦橋に昶の呆然とした声が通信機から聞こえてくる。
「機関室の被害甚大!艦体後部大破!」
「状況はどうなっている?」
「目標の障壁は消滅、胴体の一部をえぐりとった模様……今ピジョン1が中枢部の露出を確認しました!」
「………あと一息というところで………!!」
その時、アスコモイドグレルの周囲にちいさな魔法陣が複数、その正面に巨大な魔法陣が生成された。
『あれは!?ピジョン1より「アトロポス」!!奴が複数の魔法陣を展開!撃ってくるぞ!』
「何だと!余力を残して障壁を展開していたのか!!総員対ショック姿勢をとれ!!」
アスコモイドグレルの周囲の小さな魔法陣に光線が放射状に伸び、そこから正面の巨大な魔法陣へと光線が収束していく。
次の瞬間、巨大魔法陣から光線が発射されそれは「アトロポス」の左舷前部に直撃した。
「うおおおっ!!」
「きゃあああああ!!」
全長200mの巨体を持つ歴戦の強襲揚陸艦「アトロポス」が激しく揺れ、立っていた乗組員達が床に投げ出される。
「大丈夫ですか准将!」
「ああ、私は大丈夫だ……副長、君の方がつらいんじゃないのか」
「こんなのはちょっと入院すれば治ります」
「強いな、君は」
「主機復旧不可能、火器管制機能停止!」
「今の攻撃でトリムに被弾!艦が傾斜します!艦のバランスが崩れます!」
坂崎准将がこの艦の副長であるティアを見ると左腕がだらんと垂れていた。骨折したらしい。
艦橋の全ての照明が切れ、機器類が沈黙した。
緊急事態を知らせる警報が鳴り響く。
「やれやれ……こっぴどくやられたな、補助エンジンで距離をとるぞ!」
坂崎准将は艦橋から飛行甲板を見渡すと一息ついて乗組員達に向き直る。
「副長、もう少し距離が離れたら航空機要員以外全ての乗組員の退艦を命じる」
「………わかりました」
ティアは頷くがその表情に悔しさがにじむ。
「カタパルトはまだ生きているな?」
「はい、稼働できます」
「よし、若桜少佐の機体に魔導粒子ライフルを持たせて射出させる、ヴァイスカノーネと同等の銃を使えば、中枢部が露出している今なら奴を破壊できる!」
「アトロポス」の艦体がぐらりと傾き始めた。
「このままじゃ持たんぞ、急げ!発艦だけは全うしろ!!若桜少佐、聞こえているな?1番カタパルトで射出する!」」
『了解しました』
「第2射、来ます!!」
距離をとろうと面舵を切っている途中で第2射が「アトロポス」の左舷に命中した。
艦体が更に大きく傾斜した。
「今の被弾でフライトリアクターが破壊されました!高度を維持できません!」
「高度低下!!」
「ああっ!若桜少佐の紫電が!!」
「何っ!?あの機体はまだランドウイングを装備していないんだぞ!!」
昶の搭乗する紫電は魔導粒子ライフルを持ったまま、急激に傾斜した「アトロポス」の飛行甲板から超遠距離狙撃ライフルと共に落下していった。
「っ!!!アスコモイドグレルの状況は?」
「魔力反応、急速に下がっています!動きが止まりました!」
「何っ?」
「更に高度低下!!」
「下部バーニア全開!みんな衝撃に備えろ!!」
昶Side
「冗談じゃないわよ!!」」
咄嗟に脚部に装備されているジャンプ用の固体ロケットブースターを吹かすが落下速度はゆるむ気配が無い。
海面が迫る。
「……ここまでなの?」
不意にゴガンッ!という音とショックで落下が止まる。
「……え?」
『昶!大丈夫ですか!』
「亜耶!」
あたしの紫電はマニューバギア、つまり戦闘機と人型の中間形態に変形したミスティックシャドウⅡの手に捕まれていたのである。
どうやら「アトロポス」が被弾した時に急降下してきて海面に激突する寸前に拾い上げたらしい。
『昶、エアロギアに変形しますから背中に乗ってください』
「わかった」
戦闘機形態であるエアロギアに変形したミスティックシャドウⅡとその背中に乗った紫電はアスコモイドグレルへと加速をする。
強襲揚陸艦「アトロポス」周辺海上
「あの二人は行ったな」
「はい艦長」
救命ボートに移乗し、脱出した坂崎准将をはじめとする「アトロポス」の乗組員達がヴェイパーを曳いてアスコモイドグレルへと向かう二機を見上げる。
「勝ったな」
「ええ、艦長」
「キャンドルタウン、それにこの前の砲撃戦と負けが続いたが今度は我々の勝ちだ………あの二人が健在なのだからな」
「艦長………「アトロポス」が沈みます」
「………総員、沈みゆく「アトロポス」に敬礼!」
脱出した乗組員達が海軍式の敬礼を自分達がこれまで命を預け、乗り組んできた艦に向ける。
被弾して艦体に大穴をあけられた「アトロポス」は左舷に傾斜したまま前部からゆっくりと沈みはじめ、そのまま後部が大きく持ち上がり倒立するようにして歴戦の強襲揚陸艦は乗組員達に見送られ海中深くへと沈んでいった。
戦闘海域上空
『アトロポスが……!沈む………』
亜耶の悔しそうな、そして悲しそうな声。
「みんなは無事なの?」
昶が頭部カメラで周辺を拡大してみると坂崎准将やティア副長をはじめとした仲間達が救命ボートで脱出しているのが見えた。
『昶!目標にまた変化が!』
アスコモイドグレルに目をやると胴体が虹色に輝き始めている。
『バクテリオファージの射出を確認……数、10体』
「突破するよ、亜耶!」
『はいっ!振り回しますかしっかり掴まってください!』
前方からバクテリオファージが次々に射出されるのが確認できた。
「あれを抜けるのはちょっとばかり大変そうね」
その時、射出されたバクテリオファージが空中で次々に爆発した。
「えっ!?」
『ガーネットリーダーよりトパーズ1、これより援護する!』
『こちらガーネット2、我々が引きつけますから今の内に本体を!!』
『トパーズ1了解!』
ルスター大尉とナシュア少尉の声が昶の無線に飛び込んできた。
「背中は預けたわよ、ガーネット小隊!」
射出されてきたバクテリオファージをガーネット小隊の紫電が次々に撃ち落とす。
マニューバギアに変形すると海面へと落ちてくるバクテリオファージをホバー走行で激しくスラロームして回避しながら昶の紫電を乗せたミスティックシャドウは駆け抜けていく。
そしてアスコモイドグレルへと肉薄し装備している魔導粒子ライフルを構え、その引き金を絞った。
しかし魔力の粒子は中枢部に到達する寸前に障壁に弾かれた。
「!!なんてしぶといの!!!」
『昶、私が魔力を増幅しますから魔導粒子ライフルの魔力伝導チューブをこの機体の上部にある魔力補給口に接続して下さい』
「……亜耶、そんなに魔力をつぎ込んで大丈夫なの?」
『覚悟の上です』
亜耶のきっぱりとした、そして意志の堅さがはっきりとわかる口調。
「わかった、魔力は亜耶に任せるよ」
『はい、昶』
言われたとおりに昶の紫電は魔力伝導チューブを接続する。
亜耶は身体の芯に魔力を集めるイメージで更に精神を集中させた。
その身体の奥深く、精神の奥底で魔力と心の光が弾ける感覚。
魔力が集まり、その全てが自分の身体の糧となって周囲の全てが見通せる摩訶不思議な感覚。
魔力が著しく上昇し、亜耶の金色の瞳が深紅へと変化する。
「ライフルの魔力が……!!」
魔導粒子ライフルが魔力の淡い光に包まれた。
『昶!今です』
「今度こそ………撃ち抜く!!」
昶は再び引き金を引いた。
ミスティックシャドウⅡの上に乗った昶の紫電はアスコモイドグレルへ向けてその全力の射撃をする。
アスコモイドグレルの胴体中央部、中枢部に命中した魔力粒子の奔流はそれを撃ち抜き、貫通した。
一瞬遅れてアスコモイドグレルの胴体の色が灰色へと変化し無数の亀裂が入る。
次の瞬間、崩れるようにアスコモイドグレルは胴体を砂へと変化させて崩壊しその姿を海へと没した。
『ピジョン1より各部隊へ、アスコモイドグレルの魔力反応は完全に消失した、繰り返す、アスコモイドグレルの魔力反応は完全に消失した』
「やった……」
『魔力をほぼ使い果たしました……私も、機体も』
「亜耶、本当に大丈夫なの?」
『少し……いえ、かなりきついです』
『ガーネットリーダーよりトパーズ1、後方で待機している護衛空母「パルマポート・ベイ」が受け入れてくれるそうだからそっちへ着艦してくれとの事だ』
『……トパーズ1、了解しました……これより向かいます』
亜耶と昶は無事に「パルマポート・ベイ」へと着艦した。
愛機と共に魔力をほぼ使い果たした亜耶は機体から降りると既に救助されて一足先に移乗していた坂崎准将に簡単な状況報告を終えると魔力欠乏症で倒れてすぐに昶の付き添いで医務室へと運ばれたのである。
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