#65 超遠距離狙撃(2)
#65 超遠距離狙撃(2)
昶Side
午後3時。
作戦開始時刻。
甲高いエンジン音が強襲揚陸艦「アトロポス」艦上にいる紫電のコクピット内まで聞こえてきた。
『ピジョン1よりアトロポスへ、現在目標に変化無し』
『アトロポスより本作戦に参加する全部隊へ、聞いての通りだ。これより我々はアスコモイドグレルを殲滅するための作戦、「オペレーション・ウィリアムテル」を開始する』
状況偵察をしていたフェンリルRFとこの「アトロポス」の艦橋との通信が聞こえる。
「それにしても正規軍の連中、随分素直にあたし達傭兵の作戦に協力してきたもんね」
『二回も作戦失敗していますからね』
上空でこの「アトロポス」の直掩についている亜耶の声が聞こえてきた。
「ま、キャンドルタウンでの惨敗に加えて戦艦と列車砲まで投入して失敗してりゃあね」
『正規軍のお偉方連中からすれば自分達のクビがまとめてすっ飛ぶ寸前なんだ、そりゃ慌てて戦力の提供もするさ……お前さん達が最後の頼りなんだ、しっかり頼むぞ』
「「はい、了解しました」」
通信機に入ってきたこの作戦の総司令である坂崎准将の声にあたしと亜耶は同時に返事をする。
ふとモニターに映る空を見るとぽつん、ぽつんと機影が映り始めた。
帝国軍の対艦攻撃装備のフェンリルとセイレーンだ。
『各機、攻撃を開始せよ!少しでも奴の魔力をそぎ落とせ!』
『了解!』
『魔導機兵隊は奴の攻撃を引きつけろ!』
120mm対艦ライフルを装備したフェンリルの部隊が射撃を開始した。
フェンリルの攻撃に反応したアスコモイドグレルから光線が照射されるがフェンリル隊は回避運動をしつつ対艦ライフルを撃ちまくる。
『触手がくるぞ!近接戦闘装備の機体にまかせるんだ!ガーネット、サファイア、エメラルド各小隊、頼んだぞ』
『ガーネットリーダーより各機へ、触手なんぞにたたき落とされるなよ!!かかれ!』
ん、ガーネット小隊って事はあそこにナシュア少尉も参加してるのか。
海面から突き出た何本もの触手がフェンリルや紫電を叩き落とそうと振り回される。
その触手をガーネット小隊の紫電が次々に斬り落としていくのが見える。
それでも何機かが触手につかまり海面へと落とされる。
やがて触手がほぼ斬り落とされるとそのタイミングを見計らって爆撃装備のセイレーン部隊が現れた。
500kg爆弾を抱えたセイレーンが横転をかけて背面状態からの機種上げをして急降下に入った。主翼のダイブブレーキが開いて甲高い音をあげる。
胴体下部のハードポイントから500kg爆弾が切り離された。
そして機体を引き起こすとそのまま超低空を離脱していく。
次々にフェンリル隊の対艦ライフルや500kg爆弾が命中し、そのたびにアスコモイドグレルは障壁を展開する。
どうやら少しずつ魔力を消費させる事ができているようだ。
『アトロポスより各部隊へ、これより第2段階に入る、第5空雷戦隊及び地上部隊は攻撃を開始せよ!これよりバクテリオファージの誘導及び殲滅に移行する』
『こちらは準備完了、バクテリオファージの誘導及び殲滅に移行する』
海岸線に展開している装輪戦車とアレス重装型がその砲身をアスコモイドグレルへと向ける。
『射撃開始、繰り返す、射撃開始!』
『アレス、目標敵本体、対榴、中隊集中、指令!』
『各機射撃開始!………距離、角度よし、撃て!』
次々に装輪戦車とアレス重装型の主砲が火を吹く。
アスコモイドグレルの本体に着弾し爆炎が上がった。
『命中!続いて撃て!』
『目標の表面に虹色の発光を確認、バクテリオファージ射出の兆候発生!』
『よし、餌を落とせ!バクテリオファージを海岸線に誘導する!』
『了解!』
海岸線に向かって飛んでいった雷光がハードポイントにつり下げていたコンテナを開いた。
するとそこから結晶石が地上にばらまかれた。
虹色に輝くとアスコモイドグレルはバクテリオファージを射出し始めた。
バクテリオファージが大挙して海岸線にばらまかれた結晶石に殺到する。
『よし、装輪戦車隊及び魔導機兵隊は乗っ取られてファージ化すると厄介だ、一旦下がれ!自走砲及び魔導砲部隊、一斉射撃開始!』
『こちらは第5空雷戦隊空中巡洋艦「テストール」、これより艦砲射撃を開始する』
後方の特科部隊と空中打撃部隊が一斉に砲撃を開始した。
雨あられと砲弾がバクテリオファージに降り注ぐ。
『今だ!魔導機兵部隊突撃、一気に殲滅しろ!』
通常装備のアレス部隊が105mmアサルトライフルを撃ちながら突入する。
既に地上部隊の砲撃と艦砲射撃で数を減らしていたバクテリオファージは海岸線から一掃された。
…………さて、次はアスコモイドグレルを超遠距離射撃で撃ち抜く。
あたしの出番だ。
亜耶Side
眼下にはフィールドキヤノン改造の超遠距離狙撃ライフルを飛行甲板に据え付けた強襲揚陸艦「アトロポス」の艦影。
現在私は愛機ミスティックシャドウⅡで直掩機としてその上空を警戒している。
今の所アスコモイドグレル殲滅作戦「オペレーション・ウィリアムテル」は順調に推移しているように見える。
「トパーズ1よりアトロポスへ、現在周辺空域に障害なし」
『アトロポス了解、これより超遠距離狙撃に移行する』
『こちらウィリアム・テル、ライフルは準備できています』
ウィリアム・テルのコールサインが与えられた紫電に搭乗している昶の声が通信機に入ってきた。心なしか普段の彼女とちがって口調が固い。
『………魔力タンク充填率80%………90%………100%……回路接続完了、魔力を充填タンクから超遠距離狙撃ライフル機関部へ注入』
『ウィリアム・テル了解、撃鉄を起こします』
『射撃術式起動、「アトロポス」の全ての魔力リソースをまわします』
超遠距離狙撃ライフルを中心として射撃軸線と「アトロポス」の船体と平行に何重にも魔法陣が生成される。
「………昶……!」
祈るような気持ちで私はモニターに映る昶の紫電を見つめた。
昶Side
手のひらが緊張でじんわりと汗ばむの感じる。
撃てるのは一発だけ。
確実にアスコモイドグレルの胴体中央部にあるとされる心臓と同じ役目をしていると思われる魔力と生命の精霊を司る器官を撃ち抜かなければいけない。
モニターに映るアスコモイドグレルの中央部に慎重に照準を定める。
通常の弾丸のような実体弾ではないから風速や重力で弾道が乱れる心配は無い。
『魔力充填及び射撃術式起動完了、魔力リソースに問題無し、発砲を許可します』
「ウィリアム・テル了解………これより攻撃に移る!」
あたしは一回深呼吸をすると紫電の引き金を絞った。
巨大な銃身の先端に魔力の光が急激に収束され、一瞬の後に破壊的な光芒がアスコモイドグレルへと発射された。
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