#64 超遠距離狙撃
#64 超遠距離狙撃
昶Side
亜耶がA-βを取り押さえてその身柄を確保してから三日後。
あたしは久しぶりに強襲揚陸艦「アトロポス」の艦上に、正確にはその飛行甲板上に駐機している紫電のコクピットにいた。
パルマポートには正規軍の港湾施設以外にも傭兵部隊専用の艦船の整備や修理をするための専用のドックや兵器開発工廠が建ち並ぶエリアが存在する。
その工廠と隣り合った場所にある大型艦船用のドックには先日の13号浮遊島事件における戦闘で損傷し退役となっていた空母型強襲揚陸艦「アトロポス」が文字通りドック入りしていた。
艦体の後部、機関室の上にある後部艦載機エレベーターからは太さが数mある太い魔力伝導チューブが何本も延びていてその先は見慣れない巨大なジェネレーターに繋がっている。
そしてそのジェネレーターには長さが100mはあろうかという長大な銃身を接続する作業が続けられている。
この艦載型フィールドキヤノンと呼称される巨大な超遠距離狙撃ライフルは魔導機兵によって運用される。
本来の使い方は大きく分けて二種類の案がある。
ひとつめは13号浮遊島の時のような要塞砲として運用。もう一つはもっと小型化されて戦艦もしくは重巡洋艦の装備として。
しかし今回の対アスコモイドグレル戦においては13号浮遊島のような施設やそれと同規模の要塞は近傍には無く、戦艦の主砲にするにはまだ小型化する技術は開発されてはいない。
そんな理由でこのように強襲揚陸艦の飛行甲板を使い切る特大サイズの超遠距離狙撃ライフルを急遽投入する事になったのである。
とはいっても急造品だけにライフルの機関部とかいたる所で中の部品が剥き出し状態だったりと間に合わせ感があるのは否めない。
「とはいえ、これは流石にプレッシャーを感じるなあ」
あたしは紫電のコクピットのモニターに映る飛行甲板の状況を見ながら射撃管制の機器をチェックしながら思わず呟いた。
ラーシャ博士とその補佐担当の技術者として正規軍から派遣されてきた糸川大尉がこの三日間ほぼ不眠不休でやっとここまで仕上げたのだがいかんせん設計を煮詰める時間が足りず現状では強襲揚陸艦の主機から直接魔力供給をしても全力で撃てるのは1発だという。
一応照準や弾道の直進性は確保されているそうだがプレッシャーを感じるなという方が無理な話である。
ちなみにその作戦計画はこうだ。
まず対アスコモイドグレル戦で問題になるのは極めて防御力の高い障壁である。
しかし現状ではこの障壁を撃ち抜く事が可能な兵器が存在しない。
だがその極めて高い防御力はその障壁を展開し作用させる為に大量の魔力を消費しなければ維持できないという事でもある。
そこで第一段階としてアスコモイドグレルの障壁を弱体化させるために航空機とランドウイング装備の魔導機兵によって打撃力の高い500k爆弾による反復攻撃を行う事により意図的に防御力の高い障壁を何度も展開させできる限り多くの魔力を消費させる。
そして第二段階。
次に問題になるのは艦載機のような役目をしているバクテリオファージである。
偵察機による光学観測で判明したのだがこれまでの2回の戦闘でその数は半分の30匹程度まで減っているらしい。
更に結晶石に導かれる性質があるらしくそれを利用して王都ラティスポリスから離れた所にある砂浜まで誘導し艦砲射撃と陸上からのアレス重装型の砲撃で殲滅させる。
第三段階。
強襲揚陸艦「アトロポス」に搭載したフィールドキヤノン改造の超長距離狙撃ライフルによる狙撃でアスコモイドグレルの胴体中央部、つまり心臓に相当する部分、魔力増幅を司る臓器である魔力チャンバーと呼ばれる部分を撃ち抜きアスコモイドグレルを殲滅する。
これが今回の作戦のシナリオである。
『どうだ若桜少佐、問題なく狙撃できそうか?』
坂崎准将の声が無線機から入る。時間のない中での作業だからやはり気になるのが当然というものである。
「はい、今チェックした限りでは問題はありません、ただ………」
『ぶっつけ本番はやはり不安かね?』
「はい、試射する時間も無いない状況ですので」
『大丈夫ですよ、狙撃するのは昶なんですから』
不意に聞き慣れた少女の声が耳に入った。
「亜耶?そっちはもう方がついたの?」
『はい、A-βの移送も終わりましたから……これより着艦します』
ふと見上げると亜耶のミスティックシャドウⅡが着艦コースに入りエアロギアからマニューバギアへと変形しそのまま着艦するのが見えた。
「アトロポス」の艦橋には寝不足で目の下にクマができたラーシャ博士と坂崎准将、今回の作戦の膨大な魔力の制御オペレーターとして魔法省から派遣されてきた新條麻衣大尉の姿が見える。
作戦開始はアスコモイドグレルが再び活動を開始する前、つまり今夜の決行がが決まった。
泣いても笑ってもあと数時間で全ての決着がつく。
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