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#63 対決再び

 #63 対決再び


 現在、ラティス帝国の国家元首はアルフォス・ラーズが努めている。

 19歳になったばかりの少女でもあるこの皇帝陛下は最近何かと苦労が多く今日も大型魔導種、つまりアスコモイドグレルに対する軍事作戦があまり進展していない件で報告を受け、浮かない表情をしていた。


 以前クーデターが勃発した時に頼りにした傭兵部隊でも大型兵器によるアスコモイドグレルへの対処について色々と動いてくれているらしいというのが慰めであった。


 そしてアスコモイドグレルへの軍事作戦についても現在の位置が王都ラティスポリスに非常に近い位置でアスコモイドグレルが魔力の回復のために一旦その動きを止めて鎮座している事から王城に普段詰めている部隊も混乱防止のための治安維持部隊の一員として駆り出されしまい、アルフォスの護衛につく軍人も最低限の人数となっていた。


 元々ラティス帝国軍は人手不足である。だからそれ故に昶と亜耶が日頃世話になっている傭兵部隊「アトロポス」のような民間の軍事組織が独自の軍艦や魔導機兵のような戦力を保有し、民間からの依頼以外にも国からの軍事作戦の遂行契約を結んで軍事行動を行っていたりする。


「ふう………」

「陛下、そろそろお時間ですのでお支度を」

「わかりました……ゼノス、視察の準備はできていますね?」

「はい、滞りなく。既に迎えのVTOLが到着しています」


 先代皇帝であるラーズ15世の頃から勤めているベテラン侍従長であるゼノスが扉を開ける。

 王城の五階にある執務室の扉の前で警備にあたっていた衛兵部隊がアルフォスの周囲を固める。

 衛兵部隊は皇帝陛下護衛の任務中という事もあり防具とヘルメットを装着している。衛兵達は全員バイザーをおろしているためにその表情は伺えない。


「ゼノス、彼女からの連絡についてはどうなっているのです?」

「今のところ普段通りにと彼女からもナカザワ大尉からも申し入れがありました」

「わかりました、ではそのように動いて下さい」

「かしこまりました」


 王族専用の離着床へと向かう通路をアルフォス達が進んでいるとその前に一人の銀髪の少女が姿を現した。

 横にいた女性の衛兵がすぐに進み出てアルフォスを守ろうとしたがそれを手で制すると穏やかな表情で話しかける。


「涼月少佐、どうしました?」

「緊急の用件がありまして、それをお伝えに直接、参上致しました」


 アルフォスは頷くと亜耶に話の続きを促す。


「それはどのようなお話ですの?」

「ここではお話できません、お人払いを」

「陛下!それはさすがに………!」

「構いません、ですが完全に護衛を無くすわけにも参りません……そこの貴女、護衛として一人だけ私についてきて下さい。そしてこれから聞くことはすぐに忘れる事、よろしいですね?」


 指名された女性の衛兵は頷くとアルフォスと亜耶について行く。




 アルフォスは亜耶と衛兵を小規模な会議等によく使用される部屋に招き入れた。部屋とは言っても学校の教室で例えれば二部屋分程度あるから結構広い。


「ここならば他の誰かに聞かれる事もありません、どうしたのですか?」

「はい、アスコモイドグレルの影響で現在、警備状況が悪化して、います」

「ええ、ですから通常の警備兵以外にも衛兵隊や他の地区から応援の部隊をこちらへ向かわせていますよ」

「その状況故に、ディメンション・カウンターの生き残りが、動きを見せています」


 不穏な物言いにアルフォスは一瞬表情を曇らせる。


「…………続けて下さい」

「陛下、貴方は、転生者達との融和政策を、まだ推進するおつもりですか」

「ええ、転生者の方々の知識や技術は使い方さえ間違わなければ大きな恩恵をもたらしますから」

「わかりました、では方針は、変わらないと」

「ええ、私は民の為に転生者の方々のもたらす技術や知識を活用しますしそのためにも転生者やカテゴリーⅡの皆様と共存していくつもりです」

「そうですか、ではアルフォス女王陛下、運が無かったと諦めて下さい」


 亜耶は腰に下げていた剣をすらりと抜いた。


「………どういうつもりですか」

「アルフォス女王陛下、貴方の命を貰い受けます」


 言うと同時に亜耶はアルフォスに斬りかかった。


「何っ!?」


 女性衛兵が亜耶と同時にアルフォスの前に出てその剣を防ぐ。何度も斬り結ぶがその守りが崩せない。


「このっ!!」


 亜耶が横薙ぎに払った剣が女性衛兵のヘルメット兼バイザーを弾き飛ばすと流れるような銀髪がふわりとこぼれた。


「なるほど、確かにディメンション・カウンターの行動が再び活性化しているようですね涼月少佐……それにホムンクルスの貴女も」


 少し驚いた表情を浮かべながらアルフォスが言った。


「姉さん……!?何故、わかった!?」

「簡単ですよA-β、もし私が貴女の側にいたら同じ事を考えますから」


 再びA-βが衛兵に変装していた本物の亜耶に斬りかかるが先日の「荒海の海魔」号の時と違ってA-βにはその動きが読めなかった。


「はあっ!!」


 A-βが何度も斬りかかるもその全てを亜耶は回避する。

 亜耶がビットの攻撃魔法を放つとA-βはそれを避けるために横っ飛びに跳んで転がりそこから亜耶に向けて剣を横薙ぎに振るう。


「スラッシュ!」


 魔法陣が生成され、剣を振った軌跡に沿ってブーメラン状の魔力の粒子がアルフォスに向かって飛ぶ。


「陛下!」


 亜耶が咄嗟にアルフォスを抱き抱えて床に転がった。

 派手な爆発音と共に壁が砕け散って大穴が空いた。


「大丈夫ですか陛下」

「はい、でも呪文詠唱も無し発動させるとは貴女をベースにしたホムンクルスだけの事はありますね

「くらえ!!」

「フォースフィールド!」


 亜耶が魔法の障壁を展開してスラッシュを防ぐ。


「これなら!ギガントファイヤー!!」

「!!」


 A-βが両手を掲げると魔力で生成された巨大な火球が出現した。


「何を考えて……!掴まって下さい陛下!」


 A-βが放った火球を避けると亜耶は壁の大穴からアルフォスを文字通りのお姫様抱っこをしたまま城外へとその身を踊らせた。

 その後ろで火球による大爆発が起こりそれに吹き飛ばされるように落下する。


「きゃああああああああ!!!」


 王城の五階からアルフォスを抱えたまま亜耶は飛び降り、魔法を発動させる。


「エアロフォール!」


 亜耶達の下方に魔法陣が生成されるとそこから一気に突風が吹け上がり落下速度を落とすと亜耶達二人は着地した。


「くそっ!陛下と姉さんは、私が始末する!」

「私と同じ顔で物騒な事をいうのはやめてもらいたいですね」


 追って飛び降りてきたA-βの剣を受け止める。


「いい加減しつこいです!」

「私の、邪魔を、するな!」


 A-βのキックで亜耶が蹴り飛ばされ、何度もバウンドして地面にその体が叩きつけられる。


「ぐっ………!!」

「死ね!姉さん!!ファイヤーダーツ!!」

「アイスニードル!」

「何っ!?」

「わたくしも魔法の心得はありますのよ、亜耶さんの妹さん?」


 アルフォスの氷のニードルがA-βのファイヤーダーツ、炎をまとった爆裂するダーツを打ち消したのだ。


「ありがとうございます、陛下」

「まだだ!!」

「ビット!」

「始末の、悪い真似を!」


 放たれたビットの魔法で牽制すると亜耶は再び剣で斬りかかる。

 そしてその亜耶の動きをA-βは前回のように予測して動く事ができなかった。どんどん亜耶に壁際へと追い込まれる。


「なぜだ……!何をした、姉さん!」

「………何も」

「ふざけるな、何もせずに私が、追い込まれるなど、ありえない!!」

「だから何も、ただ本能にしたがって動いているだけです」

「何!?」

「私がどう考えて戦うか予測されてしまうなら「何も考えなければいい」……それだけの事です」

「ふざけるなあああああああ!!!」


 A-βが激高して亜耶に斬りかかった。


「無駄です!」

「うあっ!!」


 ガキーン!!と破壊音がしてA-βと亜耶の二人の魔力がそれぞれ収束した双方の剣がぶつかり砕かれた。

 用を成さなくなった剣をお互いに捨てる。


「はあっ!」

「あっ!?」


 A-βの腕をつかんだ亜耶が背負い投げで投げ飛ばす、受け身をとったA-βはすぐに起きあがると亜耶に向けてハイキックで応戦するがそれを亜耶は見切って腕でガードする。


「いい加減に……!」

「うっ…!」


 A-βの腕を極めた亜耶がそのまま抑えつける。


「くそっ!何故………!!私の方が姉さんより性能は、上の筈、なのに!!」

「……経験の差、あとは貴女の考え方に柔軟性が足りなかっただけ、これで終わりです………ショックボルト!」

「ひっ……やめろ姉さん!!!ぎゃああああああ!!!」


 電撃の魔法を直接流し込まれたA-βが悲鳴を上げ、失神した。


「終わったようですね、亜耶さん」

「はい、危険な目にあわせて申し訳ありません」

「いえ、無事に済んだのですから気にする必要はありませんよ」


 やっと駆けつけてきた衛兵隊に気絶しているA-βを引き渡すと亜耶は遠くに鎮座し、不気味な沈黙を続けているアスコモイドグレルをみて呟いた。


「次はあれか……後は昶の腕しだいかな」


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