#62 対魔導種砲撃戦
#62 対魔導種砲撃戦
統合作戦本部 地下総合作戦指令室
ラティス帝国軍の全ての指揮中枢とも言える総合作戦指令室は帝国軍統合作戦本部の地下に遙か昔から存在していた地下迷宮を大規模改装した施設で運用されている。
その規模は大きく地下十階の最深部にある大空洞を使い建設されている。
そして現在最上位の脅威であるアスコモイドグレルの索敵にその能力が振り向けられていた。
「未だに発見できんとは………状況はどうなっている?」
「アスコモイドグレルらしき魔力反応を探知した駆潜艇が現在追尾しています………あ、アスコモイドグレルが浮上したとの報告が入りました!現在、ラティスポリス水道を東へ向けて湾内から王都に上陸するルートで移動中です!」
通信手の報告を聞いたロランド中将は慌てて指示をとばす。
「なっ、何だと?!直ちに現場へ第一艦隊を急行させろ!もう近くまで来ている筈だ!」
「了解しました……こちら指令室、第一艦隊は直ちにアスコモイドグレルを迎撃、これを殲滅せよ!」
戦艦「グローリーオブラティス」艦橋
ラティス帝国軍第一艦隊は首都ラティスポリス近郊の軍港の街であるパルマポートを母港としている。
それ故に国の代表として国外への軍事プレゼンスとしての遠洋航海へ数ヶ月かけて出る事も多い。
第一空中艦隊の旗艦である空中戦艦「グローリーオブラティス」は三連装40cm主砲を前後に三基、三連装20.3cm副砲をやはり前後に二基搭載する全長240m程の大型空中戦艦で王の座乗するお召し艦として度々使用されている。
それ故に広報任務や国の代表としての遠洋航海も多いという訳である。
その遠洋航海も終えて戦艦「グローリーオブラティス」は麾下の護衛空母一隻に巡洋艦一隻と駆逐艦三隻、補給艦一隻を引き連れて母港であるパルマポート軍港へと航行している途中で急遽アスコモイドグレルの殲滅へと駆り出されたのである。
「やれやれ、やっと母港に戻れると思ったら魔導種退治か」
「ぼやくな艦長、主砲弾を直撃させればすぐに片が付くさ」
「そうですね、とっとと終わらせるとしましょう」
「護衛空母「パルマポート・ベイ」は後方に退避、バクテリオファージに備えて艦載機は「セイレーン」は爆装、「フェンリル」は射撃戦装備で出撃」
艦隊司令の大佐に艦長は頷くと索敵手に指示をとばす。
「目標を見つけ次第主砲による艦砲射撃を行う、観測機を出せ!」
「目標、視認しました!現在距離38000!」
「距離13000まで接近してから全艦の主砲で魔力強化弾による一斉射撃を行う、各艦は砲撃準備!取り舵、方位270、逐次回頭!」
アスコモイドグレルの発見地点へと舳先を向ける為に空中戦艦「グローリーオブラティス」とそれに続く麾下の艦隊が一列に単縦陣を組んだまま次々に回頭する。
『ピジョン1よりロイヤルエンジンへ、現在アスコモイドグレルとの距離、13000!』
艦隊司令は観測機からの報告に頷くとおもむろに命令を発した。
「よし、各艦主砲射撃開始!撃てぇっ!!」
グローリーオブラティスの主砲が、そしてそれに続行する麾下の空中重巡洋艦と空中駆逐艦の各主砲が一斉に、次々に火を噴いた。
アスコモイドグレルの周囲に色とりどりの水柱が上がる。
軍艦の主砲弾にはどの艦が発砲した砲弾なのかがわかるように染料が入っている。
アスコモイドグレルの前と後ろにオレンジ色の水柱が上がった。オレンジ色の染料が入っている砲弾はグローリーオブラティスの物である。
『ピジョン1よりロイヤルエンジンへ、遠近近遠、夾叉!」
「よし、目標は主砲の散布界にある、砲撃続行!このままぶち抜いてやれ!!」
大砲というのは撃った全ての砲弾が完全に同じ弾道を飛んで行くわけではない。
どんなに精度の高い大砲でも着弾位置にばらつきが出る。このばらつきがでる範囲を散布界という。
夾叉というのは目標の位置に対して一度の砲撃で目標を挟むように着弾する事であり、目標が主砲の散布界に入っている事を意味する。つまりこの状態を維持して砲撃をすれば命中弾が得られる訳である。
「アスコモイドグレル、魔法障壁を展開しました!」
「このまま主砲は砲撃を続行、奴はまだ完全に浮上していないようだ、駆逐艦と巡洋艦は雷撃開始!」
巡洋艦と駆逐艦が船体中央部にある魚雷発射管から次々に空中魚雷を発射した。魔力で輝く航跡を引きながらアスコモイドグレルへと魚雷が航走していくのが艦橋から見える。
「魚雷であの障壁を抜けると思うか?」
「わかりません、ただ先日の戦闘で急降下爆撃隊の500kg爆弾を弾き返したという報告がありますのでなんとも」
「それでも主砲弾の方が破壊力はあるはずだが……」
グローリーオブラティスの主砲弾がアスコモイドグレルに命中するかと思われた瞬間、障壁が輝くと主砲弾はその全てが弾き返されてしまった。
「なんて防御力だ!40cm砲でも貫通できんというのか!」
「司令、まもなく魚雷が目標に到達します」
「今度こそは…………!」
果たして、魚雷は命中すると大爆発を起こし凄まじく巨大な爆炎にアスコモイドグレルは包まれその姿は見えなくなった。
艦橋が歓声に包まれる。
「やったか?」
「これで安心して港に……何っ!?」
爆炎が少しずつ収まる。
そしてアスコモイドグレルが巨大な姿を再び表した。
「あれだけの直撃を受けてもダメージが無いだと!!」
「司令、電文が届いています」
「内容は何だ!」
「はい、陸軍が我々の砲撃に呼応して51cm列車砲による砲撃を開始したとの事です」
「51cm列車砲……建造中止になったトール級戦艦の主砲を流用したというあれか……ん?奴の様子がおかしいぞ!」
司令の言葉に艦橋の幕僚達が双眼鏡でアスコモイドグレルを見ると胴体にある多孔質の穴が輝きだした。そして周囲に複数の魔法人と更に一枚の巨大な魔法陣が展開されるのが確認できた。
多孔質の穴が輝くと周囲の魔法陣に光線が伸びる。そこから巨大魔法陣の中心に向かって輝く魔力の粒子が収束していく。その魔法陣は艦隊の方向に向いていた。
「まずいぞ!全艦面舵一杯!一斉回頭!」
次の瞬間、強烈な閃光が艦隊に向けて発射された。
昶Side
あたしとラーシャ博士、坂崎准将は別行動をする事になった亜耶と別れて傭兵部隊「アトロポス」が日頃から世話になっている兵器メーカーの製作所に来ていた。
敷地内からは先日の13号浮遊島事件で傷を負った強襲揚陸艦アトロポスが停泊しているのが見える。退役して新造艦と交代する事が決定しているアトロポスではあるがまだ解体作業は始まっていない。
「で、この退役寸前の老朽艦の飛行甲板に例の装備を据え付けて魔導機兵に引き金を引かせようという訳か」
「その通りです博士」
「…………確かに理論的に可能だが本気か?下手したら魔力のオーバーフローで艦ごと粉々に吹っ飛ぶかもしれんぞ准将」
「そうですな……ですから貴女にこうしてお願いしているのです」
「全く素人と言うのは時にとんでもない事を考えるな、それで材料はどうするんだ?」
「こちらにどうぞ」
坂崎准将の案内で倉庫に入っていくとそこには全長が100mはあろうかという長大な砲身が置かれていた。
「13号浮遊島から回収したフィールドキヤノンの砲身です、これにアトロポスの主機から直接魔力を供給させるんですがどうしても試作が上手くいかなくて困っていましてね………それに耐える物を作れる人材が博士しかおられないのです」
「やれやれ、大艦巨砲主義の化け物ができあがるな」
ラーシャ博士が思わず呆れた口調で言うがどこか楽しそうに見えた。
倉庫の片隅にある部屋で細かい部分を詰めるべく話し合っていると傭兵の一人がが息を切らして駆け込んできた。
「どうした?」
「准将!アスコモイドグレルへの艦隊攻撃と列車砲による攻撃が行われ先ほど結果が出ました!」
「どうなったの?」
「空中戦艦グローリーオブラティスの40cm砲による主砲、巡洋艦と駆逐艦による雷撃も効果なし、陸軍の51cm列車砲による砲撃でも障壁を抜けなかったそうです」
「なんて馬鹿げた防御力だ………!!」
「尚、アスコモイドグレルの魔法による長距離攻撃でグローリーオブラティスは中破、重巡洋艦が大破、駆逐艦二隻が直撃を喰らって撃沈、51cm列車砲は魔導機兵の迎撃をくぐり抜けたバクテリオファージの攻撃によって乗っ取られているそうです」
「ボロ負けじゃない……」
「現在アスコモイドグレルはどうしているんだね?」
「活動を停止して沈黙しているようです、おそらく大出力の魔法攻撃で使い切った魔力を回復させているのではないかというのが帝国軍の見解ですね……今のところ魔力回復までに三日程かかるであろうと魔法省が試算を出しているそうです」
「三日か………組み立てるにはギリギリだな、すぐに製作に取りかかるとしよう」
「ラーシャ博士、よろしくお願いします」
「ああ、任せてくれ」
かくして対アスコモイドグレル戦の切り札の製作が始まったのである。
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