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#61 統合作戦本部

 #61 統合作戦本部



 亜耶Side


 あれから三日が経過し、あの大型魔導種は正式に「アスコモイドグレル」と呼称される事となった。

 私と昶、それにラーシャ博士は首都ラティスポリスのラティス帝国軍統合作戦本部へと向かうように指示された。


 帝国軍の指揮中枢である統合作戦本部は王城からほど近い官庁街にありその中でも一回り大きなビルである帝国国防省にある。

 地球世界で例えるとペンタゴンの呼び名で知られるアメリカ国防総省のようなもの、と言えばわかりやすいだろう。


 マナヴォルカンからの魔導種の浮上による災害や第3種防衛出動そのものは珍しくは無いのだがいかんせん今回はその規模と攻撃力、防御力が大きすぎた。

 そのために通常なら帝国軍が討伐部隊を出動させて排除するだけで済む筈だった事案が今回は私や昶のような一介の傭兵にまでお呼びがかかる事となった。


 もっとも、最初に声がかかったのはラーシャ博士だったのだが私と昶がこの事案の直前に起きたシーサーペントの浮上騒ぎやマナヴォルカンに今回の事態を招くべく大量の魔力供給を行った「荒海の海魔」号の事案に深く関わっている事も呼び出された大きな理由らしい。

 政府がテロ組織として指定し、現在も掃討作戦が行われている「ディメンション・カウンター」が関与している可能性が極めて高いとなればなおさらである。


 三人で乗ってきたピックアップトラックを駐車スペースに止めて私達は降りると統合作戦本部の建物へと入り、大会議室へと通された。


 私達を呼び出したのは帝国軍第一空中艦隊司令を努めるロランド中将と帝国軍憲兵隊総監、帝国陸軍で首都ラティスポリスの防衛の任にあたっている帝国軍第一旅団司令であった。

 ちなみに全員が貴族の出身である。


 後は私達が日頃世話になっている傭兵部隊「アトロポス」の責任者である坂崎准将である。

 会議室は二十人ほどの官僚や大臣、帝国軍将校によって席はほぼ埋まっていた。

 まずは旅団司令が現在のアスコモイドグレルとの戦闘状況の説明をしたがそれは芳しいとは言えない内容だった。


 即ち。

 キャンドルタウンを襲ったアスコモイドグレルは空中艦隊所属のフェンリル部隊を壊滅せしめた。

 その後の陸軍部隊との陸上戦闘ではアレス部隊及び装輪戦車部隊との近接戦闘でバクテリオファージを産み出しその戦闘において65%の損耗が発生した。

 後方支援の自走砲及び魔導砲部隊も光線による遠距離攻撃で退避中に30%の損耗が発生。

 アスコモイドグレルの魔導障壁は未だに破れていない。


「更にまずい事がある」


 ロランド中将が壁に貼られている巨大な地図を指した。


「奴はキャンドルタウンから再び海中に没したものの神出鬼没の動きを見せている、現在はソナーを装備した複数の水上艦艇が捜索しているが未だに発見には至っていない………つまり今でも何処に出現するのかが

 皆目検討が付けられていないという事だ」

「再び出現した時はどのように対処するのです?」


 坂崎准将の指摘にロランド中将は煙草に火を付けながら答えた。


「戦艦と重巡洋艦二隻を主軸とした空中打撃艦隊がまもなく天翔山脈を抜けてパルマポート軍港に到着する予定だ、その火力を持って敵魔導障壁を突破し殲滅する、更にだ……」

「我が陸軍の誇る列車砲を二基配置して首都防衛にあたる」


 ロランド中将の言葉を継いで第一旅団司令が胸を張る。

 ………確かに打撃力では申し分ないだろうがまだ懸案がある。


「質問があるのですが」

「なんだね、言ってみたまえ少佐」


 手を挙げると第一旅団司令が目を私に向けた。


「バクテリオファージに対してはどうするのです?ファージ化した味方機は破壊する以外対処法がありません」

「魔導機兵や戦車による近距離、近接戦闘になる前に殲滅させれば済む話だ、大体列車砲や戦艦クラスの主砲を防げるだけの魔力反応は無い事が確認されているし近付けなければ何も問題はなかろう」

「あと住民の避難はどうされるのです?キャンドルタウンのように人口が少なければまだしも攻撃に巻き込まれる者達が出る可能性がありますしディメンション・カウンターのようなテロリストが動く可能性も大きいと考えますが?」

「そんなものは纏めて砲撃で潰せるだろう、それを鑑みれば少しくらいの住民の犠牲は仕方ない、それよりもアスコモイドグレルを殲滅する事の方が重要だ」

「そんな………!!それにまだキャンドルタウンのマナヴォルカン群を活性化させた者達も、その背後にいる連中もまだ捕まっていないのに……!」

「安心したまえ、アスコモイドグレルを殲滅したらそんな連中は我々憲兵隊が一網打尽にしてやる」

「危機感がなさすぎます!!本気で貴方達はみんなを守る気があるんですか!」

「少佐!!傭兵風情が正規軍に対してさしでがましいぞ!!貴様等傭兵軍上層部の決定に従え!!」

「………!!!」


 思わず立ち上がり声を荒らげそうになる昶の手を引いて私はゆっくりと首を横に振った。

 昶はまだ色々と言いたい事があったようだが(もちろん私も言いたい事は山ほどあった)渋々席についた。

 その後も同席しているラーシャ博士による現状で推測し得るアスコモイドグレルやバクテリオファージの生態についての説明があったが列車砲と戦艦の主砲に全幅の信頼を置いている帝国軍上層部には馬耳東風だった。




 会議が終わって統合作戦本部の建物を私達は坂崎准将と一緒に出てラーシャ博士が盛大なため息をついた。


「やれやれ、折角来て頂いたのにすまないねラーシャ博士」

「気にしないでくれ准将、と言いたい所だが一応話は聞いたってアリバイ作りに呼ばれただけか……」


 その愚痴に憤満やるかたない表情で昶が頷く。


「私達でやれる事をやるしかありませんね」

「そうだね、あたし達でやれる事をしよう………どうせ正規軍上層部は自分達だけで片を付けたいみたいだし」

「しかし何故正規軍の連中はあそこまで自分達だけでやる事にこだわるんだ?」

「簡単ですよ博士、あの人達は正規軍の汚名を返上したいんですよ」

「どういう事だ?」

「先のクーデター騒ぎ、13号浮遊島事件と正規軍の信用はがた落ちですからね、ここらで手柄を上げて王室と国民からの信頼と威厳を取り戻したいという訳です」

「なるほどな………つまらんプライドだ」

「とは言え持てる最大限の火力を投入して一気にケリを付ける事自体は間違いではないわね」

「正規軍がそれで事態を収拾できばいいが君達傭兵はどうするんだ?やれる事と言っても限られているだろう」

「仰る通り我々傭兵は取り敢えず高みの見物を強いられるわけだが準備だけはしておくつもりだよ博士」

「しかし列車砲や戦艦の主砲でも障壁を抜けなかったらどうするつもりなんだ………どう思う准将?」

「まあ困るでしょうね」


 真顔で坂崎准将が首を横に振る。


「そりゃ困るだろう……が、ただ困るだけという訳にもいかんだろう」

「問題はそれ以上の破壊力をどう確保するかですが今の正規軍の現状では難しいでしょうな」

「それならあたしに案があるんですが准将」


 昶の言葉に坂崎准将とラーシャ博士が思わず振り向いた。


「ほう、聞かせてくれないか少佐」

「はい、それにはまずラーシャ博士の魔法工学の知識と経験、頭脳が必要になりますがお願いできますか博士」

「内容によるが……言ってみたまえ少佐」


 昶はその案を話し始めると坂崎准将とラーシャ博士の表情がみるみる変わっていった。


「なるほど、確かにそれなら十分な威力が見込めるだろうな………ラーシャ博士、私からも……いや、傭兵部隊「アトロポス」として正式に仕事として協力を依頼したいのですがよろしいですか?」

「いいだろう引き受けよう……どっちみち奴を殲滅しなければ安心できんからな………君達二人はどうするんだ?」

「私は気になる事があるので少し単独行動をしようかと考えています」

「君達二人が別行動を自ら望むとは珍しいな、どうするんだ?」

「実は………」


 私が話した内容に坂崎准将は少し驚いたようだったがすぐに納得したようだった。


「そうか、それなら私の方からも関係各所に根回しはしておこう」

「おねがいします、ではあたしと亜耶はこれより行動を開始します」

「わかった、では若桜少佐と博士は私と一緒に「アトロポス」の本部へ頼む」

「「わかりました」」


 方針は決まった。


 さて、この先の戦闘で正規軍がアスコモイドグレルを殲滅してくれて私達の心配と行動が杞憂に終わればいいのだけど。


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