#59 第3種防衛出動【キャンドルタウン市街戦】
#59 第3種防衛出動【キャンドルタウン市街戦】
昶Side
帝国軍は今回のアスコモイドらしき種別不明の大型魔導種の攻撃で正規軍のフリゲート艦「冬霧」が撃沈された事象により、これまでの海上警戒行動と呼称される出動から「魔導種及びそれに類する大型種の無力化もしくは殲滅によって国民の生命と財産を守る」事を任務の主目的とする「第3種防衛出動」へと変更された。
キャンドルタウンへと展開した陸軍魔導機兵部隊と装輪戦車部隊が海岸線に、その後方に自走砲部隊と大口径魔導砲を搭載した砲撃支援型の魔導機兵部隊、それに魔導防御部隊が展開した。
あたしは双眼鏡を持ってこの温泉の街の名前の由来になった大灯台、通称「キャンドル」のある標高200m程の丘に登って例のアスコモイドらしき大型魔導種がゆっくりとキャンドルタウンの街に接近する様子を眺めていた。
ちなみにここへは陸軍の偵察部隊に4WDで送ってもらった。
「さて、正規軍のお手並みを見せてもらいますか………ところでラーシャ博士、のんきに見物決め込んでて大丈夫なんですか?」
「戦闘が終わってからの方があれの組織サンプルが取れるだろうからな、それに戦闘に巻き込まれてはかなわん」
「さいですか……そろそろ始まるかな」
傍らの小型無線機からは正規軍陸軍部隊の魔力通信が聞こえてくる。
『ティーゲル1からティーゲル6まで射撃準備完了』
『パンター中隊配置完了しました、いつでも撃てます』
『こちらウィザードリーダー、魔力充填完了、防御障壁準備よし』
『海軍の航空機部隊及び航空魔導機兵が到着しました、これより爆撃および雷撃を開始するとの事です!』
『よし、了解したと伝えろ!』
『こちらエンリルリーダー、これより近接航空支援を開始する』
「いよいよですねラーシャ博士」
「エンリルか……大気神の名前とはまた大げさな」
ラーシャ博士が呟いた。
確かエンリルはメソポタミアの大気神だ。察するに部隊の名前をつけたのは転生者なのだろう。
汎用VTOL「セイレーン」の部隊と飛行ユニットであるランドウイングを装備した帝国空軍の魔導機兵「フェンリル」の大編隊が2つほど現れた。
ちなみにあたし達が世話になっている傭兵部隊「アトロポス」が運用している汎用VTOL「雷光」はこのセイレーンを元に魔改造レベルのチューンナップを行なった機体である。
まずセイレーンの部隊が横転をかけて背面飛行の状態から機首上げをして急角度のダイブに入った。それと同時に主翼のダイブブレーキが開いて急降下爆撃独特のピィーッ!という甲高い音をたてる。そして主翼のハードポイントに吊るされていた500kg爆弾を切り離すと機体を引き起こしそのまま超低空を離脱していく。
アスコモイドらしき魔導種の表面に幾つもの爆炎が上がる、見た所命中率は大体60%といった所か。まあまあかな。
でも「アトロポス」の魔導機兵隊の連中なら確実に90%は命中させる筈だ。
更に続くフェンリルの大編隊は今度はランドウイングに航空魚雷を装備しているのが双眼鏡で確認できた。
そのまま肉薄しつつ超低空で航空魚雷を投下する。
白い航跡を引いた魚雷が数発命中し大きな水柱が上がる。
航空魚雷を投下したフェンリル隊が旋回して更に対艦ライフルで射撃を加えようとしたその時、アスコモイドらしき個体の多孔質の穴がいくつも虹色に輝くとそこから何本もの光線がフェンリル隊へ向けて照射された。
直撃を食らった数機が海面に突っ込むように撃墜される。
その時、アスコモイドらしき魔導種に変化が起こった。
ふわりと、そしてゆっくりと浮上し始めたのである。
『馬鹿な!アスコモイドに飛行能力は無い筈だ!』
『全機、このまま回避運動しつつ対艦ライフルで射撃の後離脱!突っ込むぞ!』
運良く生き残ったフェンリル隊は機体を激しく振って回避運動しつつ対艦ライフルを撃ちまくりながら肉薄して行く。
「昶!あれは単なるアスコモイドなんかじゃない!連中全滅するぞ!」
「え?!」
「あいつの下部をよく見てみろ!触手があるだろう!」
「じゃあこのまま接近したら……」
「ああ、間違いなく、文字通り叩き落とされる」
アスコモイドらしき魔導種は更に浮上してその全貌を表した。
その多孔質の胴体の下には無数の触手が生えていた。
「むしろグレルに近いような……」
「グレル?なんですそれ?」
「あくまでも外見が似ているだけの話だが……グレルというのは浮遊能力のあるクラゲのモンスターだよ」
「クラゲですか………」
あたしは昭和40年代に公開された某特撮映画を思い出した。あれも空を浮遊出来るクラゲの怪獣だったな。確か炭素がエネルギー源で弱点はクロスズメバチの毒だったっけ。
でもあれに通用する訳はないよなあ。
触手が一斉に動き出し、対艦ライフルを撃ちつつ肉薄してきたフェンリルをその長大な触手で次々に叩き落として行く。
結局生き残ったのは3機だけという大被害をだしてフェンリル部隊は離脱して行った。
『エンリル中隊、壊滅!』
『目標、射程内に入りました!』
『クソッ!怯むな!!装輪戦車部隊、射撃開始!撃てぇッ!!』
まず轟音を立てて装輪戦車の105mm主砲が火を吹いた。
次々に命中するのが見える。
少なくともフリゲート艦の76mm砲よりは威力がある筈だ。
が、しかし。
『弾着を確認!』
『だめです!目標は障壁を展開、損傷を確認出来ません!』
『馬鹿な!自走砲部隊及び魔導砲部隊、撃てぇッ!!』
「航空魚雷や500kg爆弾が効果ないんじゃそりゃダメージ与えられるわきゃないか」
「しかしまずいぞ、正規軍の連中はどうするつもりなんだ?」
『目標、上陸します!』
「………大丈夫なのか、陸軍の連中は」
「統率が取りきれるか疑問ですね、少し部隊がバラけて来ているようだし」
後方の公園や広場に展開していた自走砲と大口径魔導砲を搭載した「アレス重装型」が砲撃を開始した。
『目標、再び障壁を展開!攻撃の効果ありません!………いえ、目標が停止しました!』
『どうした?奴は何をしている?』
その胴体が虹色に輝き始めるのが見えた。
「ん?何をするつもりだ?」
「あれ?何か分離、いや放出してませんか?」
「な、なんだあれは?見たことないぞ?!」
「何だろう……幼体か何かかな」
どうやら子供?の個体を放出しているらしい。
胴体の多孔質の穴からどんどん出てくるのが双眼鏡でも確認出来る。
『何としても阻止しろ!!射撃は続行、各アレスは近接戦闘及び小型魔導種の殲滅、装輪戦車部隊は援護を!』
アレスを主軸とする陸軍魔導機兵部隊は90mmSMGを抜くとアスコモイドらしき個体から分離した小型魔導種相手の近接戦闘に入った。
いち早く動き出したアレスの一個小隊が狙いをつけられないようにZ走行しながら小型魔導種に接近しつつ3方向から90mmSMGの射撃を浴びせる。
何体かの小型魔導種が倒される。
「どうやら小型の奴はなんとか出来るようだな」
「このまま殲滅できればいいんですけど………それにしてもうーん………何か引っかかる形状だなあ」
「ん?見覚えがあるのか少佐」
「いえ、全然。でもなんかどこかで見たような形なんだよなあ………ああっ!!思い出した!!」
その小型魔導種の形状には見覚えがあった。
あの形はバクテリオファージだ。
正二十面体の頭部とそこから下に伸びる細い胴体。その下部から伸びる6本の脚部。
どこからどう見てもバクテリオファージの形だ。転生する前、高校生だった頃に生物の教科書や参考書で見た奴だ。
そしてもしあれがバクテリオファージと同じ役目をするのならまずいんじゃなかろうか。
「お、アレスが撃墜に成功したな。どうやら小型魔導種には魔導機兵の装備でも対抗出来るようだな」
「でも博士、あれに取り付かれたらやばいんじゃないかな、多分仲間を増やしますよ」
「何だって!?」
「あ、1機取り付かれた………感染、いや乗っ取って仲間を増やすと言えばわかりやすいかと」
『クソッ!離れろ!!ティーゲル3、敵に取り付かれた、振り落とせない!!』
『ティーゲル6よりティーゲル3、今助ける!!』
『頼む!!こいつ……な、なんだ?!…………』
『どうした、ティーゲル3!応答を!!』
『こちらティーゲル3、奴が中に……ぎゃああああああ!!!』
小型魔道種に取り付かれたアレスが動きを止めて擱座した。
するとアレスの機体に変化が現れた。
何というか機体の表面に幾つもの瘤のような凸凹が出来てそのシルエットが有機的な、生物的な形状に変化していく。
それでも基本的なデザインでそれがアレスであることはわかる。
そのアレスが再び動き出した。
…………やはり。
『ティーゲル3、どうした?………おい、何故こっちに銃を向ける!?』
「……乗っ取られたようですね」
「あのアレスの頭に乗っている小型魔導種が操っているのか?」
「おそらくは」
バクテリオファージに乗っ取られたアレスが味方の機体に攻撃をし始めた。
これに気を取られた他のアレスが更にまた別のバクテリオファージに乗っ取られる。
『ティーゲル4、やられた!』
『ティーゲル4、早く脱出を!!うわああああ!!』
『ティーゲルリーダーより各機、一旦後退する!!』
『パンター中隊より各機へ、一旦敵から離れてくれ!援護砲撃が出来ない!』
戦闘エリアは混乱に陥った。
アレス、バクテリオファージ、乗っ取られてファージ化した機体が入り乱れての乱戦にもつれ込んだ。
後方の装輪戦車や自走砲、魔導砲部隊も同士討ちになるのを危惧してか射撃出来ないようだ。
上陸を果たしたアスコモイドらしき個体も触手を振り回しながら帝国軍部隊へと障壁を展開しながら迫ってきていた。
「正規軍があの体たらくでは我々もここから離れた方が良いな」
「そろそろ亜耶が迎えに来てくれるはずです」
『こちらトパーズ1、昶、聞こえますか』
「聞こえるわよ予定通り今「キャンドル」の下にいるからお願いね」
『了解しました、そちらに2体小型魔導種が向かっているのを上空から確認しました、気をつけてください』
「げ、マジなの亜耶」
『はい、今そちらの状況を拡大したら向かっているのがハッキリと。一体は市街地からの道を、もう一体は海岸沿いの雑木林から接近中です』
「お、おいあれじゃないか?」
ラーシャ博士が指差す方向を見ると身長10m程のバクテリオファージがこちらに向かってくるのが見えた。
身長18mの魔導機兵に取り付いてそれを乗っ取る事が可能なサイズである。
そりゃでかいわ。
「下がってラーシャ博士、それとあたしの後ろ左右45度に絶対に立たないようにしてください、バックブラストで黒焦げになりますから」
「わかった」
あたしはこの前ナシュア少尉に持ってきて貰っていたロケットランチャーを右肩に担ぐとバクテリオファージに照準を合わせた。
向こうもあたし達を認識したらしくこちらに向かって来る。
きっちり狙いをつけるとトリガーを引いた。
発射されたロケット弾がバクテリオファージの脚部に命中した。しかし6本ある脚のうちの2本が脱落しただけで少し速度が落ちたものの依然としてゆっくりと近づいてくる。
「まずいなこりゃ、やはり火力が足りないか」
もう一本のロケットランチャーを担いで更にもう一発命中させてやっと動きを止める事が出来た。
「あっちからもう一体くるぞ、どうする」
「ロケットランチャーはもう無いしやばいかな………とりあえず「キャンドル」に登りましょう博士、他に逃げられる場所がない」
「わかった」
あたしはキャンドルの入り口の扉を開けようとしたが施錠されていた。
その間にもバクテリオファージは近づいてくる。
「もう、こんな時に!」
あたしは銃を抜くとドアノブに何発か撃って破壊するとラーシャ博士を先に中へと入れた。
振り向くともうバクテリオファージがあと30m程のところまで近づいていた。
「………今度こそ死ぬかな、これは」
あたしはロケットランチャーを捨ててアサルトライフルに付けてあるグレネードランチャーを構え直すとバクテリオファージにそれを向けつつ呟いた。
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