#5 狙われたマジックアイテム
#5 狙われたマジックアイテム
昶 Side
結局石像がどんなマジックアイテムなのかはわからなかった。
翌日の昼下がり、あたしが交代のために石像が置いてある倉庫に行くとアスティが石像を見て考え込んでいるようだった。
「どうしました?」
あたしと一緒に交代で倉庫に入ってきた亜耶が怪訝そうにアスティに訊く。
「・・・・上手く言えないけど妙に違和感を感じるのよねえ」
アスティは石像を見ながら少しウェーブのかかった金髪を掻きながら言った。
年齢は見かけではあたしと同じくらい、17・18才位に見える。くりっとした眼。綺麗なエメラルドグリーンの瞳。しかし実際は多分ずっと上だろう。
今は魔術師用のローブのフードを降ろしているからあたし達人間よりも少し先の尖った耳がよくわかる。彼女はハーフエルフだ。
「うーん・・・・」
亜耶が石像に右手を向けると石像がぼうっと光った。どうやら呪文無しで「センスマジック」をかけたらしい。
「「ぁ・・・・!」」
やっと聞き取れるような小さな声で亜耶とアスティが声を挙げて顔を見合わせた。どうやら二人共何かに気付いたらしい。
アスティと亜耶はお互いに顔を見合わせるとアスティが無言でライルとあたしを手招きした。
亜耶 Side
私とアスティは店内の変化に気付いた。呪文無しでセンスマジックをかけたのは正解だったようだ。
「とりあえず外で昼食にでもしましょ、朝から食べてないの」
「・・・・・はあ?」
マスターとライルの目が点になった。
私はジゼルさんに近くの喫茶店に昼食に行くのでと言ってジゼル商会お抱えの警備主任に任せて無言のままジゼル商会を出る。
そのまま歩道を歩いているとマスターが心配そうに訊いてきた。
「なんでまたいきなり店を出たの?」
「この辺ならもう話しても大丈夫かな」
アスティが本題を切り出す。
「?」
アスティが立ち止まってマスターとライルに告げた。
「店の中にボイストランスファーの魔法がかけられていたの」
「・・・・!」
ボイストランスファーというのは音声を離れたところに送る盗聴の魔法だ。多分私達がジゼル商会から出て行っている時に石像を狙う何者かが展示室に仕掛けたのだろう。
「さっきセンスマジックをかけた時に引っかかったのよ、呪文無しでやったから向こうは私がボイストランスファーを感知したことには気付いてないはず、・・・で、あそこじゃうっかり喋れないから店を出たの」
「こりゃ陽動に乗って店を出た間にやられたな」
ライルが頭を抱えた。
「でもどうするんだ?被疑者死亡で何もわかってないんだぜ?」
ジゼル商会が見える位置にある喫茶店であたし達は昼食を取っていた。
「そうでもないかと」
「え?」
「組織犯罪なのは確実です。昨日の戦闘でライルさんがあいつにツッコミ入れてたでしょう」
「あー!!!」
ライルが思い出してぽんっと手の平に拳を打ち付けた。
「あいつが言ってた「我々の敵ではない」か!」
「それとあいつの遺留品のバスタードソード、あれにあった紋章は「狼牙傭兵団」の物ってジゼルさん言ってたわね」
アスティが言葉を続ける。
「でもその傭兵団は確か大戦で・・・・・」
「その残党がまだ何かをしようとしてる可能性はどうかな」
ライルが腕を組みながら考えつつ昼食に注文したサンドイッチを頬張りながら言った。
「その傭兵団の生き残りがテロリストに変貌して組織を率いているという話しもあるからテロリスト相手の可能性を考慮に入れるべきかもしれませんね」
「石化の魔法を使うテロか・・・・殺さずとも一瞬で相手を無力化できるわね」
「だとしてもこれからどうやってその連中を捕まえるかだよな」
「それならおびき寄せる罠を仕掛けるわよ、あいつらに」
昶はにやりと笑った。
その日の深夜、私とマスター、ライルやアスティのコンビに分かれて倉庫に張り込んでいた。
あの後この倉庫に戻った私たちは明日の早朝にこの石像を魔法省の付属研究所に移送し詳しい解析をすることになったとジゼルさんが決定したと偽情報の話をわざとしたのだ。
これを敵が信じれば魔法省に石像が渡って手が出せなくなる前に、と今夜奪いに来るはずである。
ちなみに石像は戦闘のとばっちりで破壊されないように静寂の魔法をかけて移動時に音をたてて気づかれないようここの地下室に移動させてある。
張り込み始めてから2時間ほど経った時、不意に展示室が光に包まれ始めた。
「な、なんだ?」
ライルとアスティ、それにジゼルが念のためにと追加に冒険者ギルドで雇った傭兵と魔法使いの二人ずつの計六人が一瞬うろたえる。
突如として倉庫の床に魔法陣が出現したのだ。
「テレポートして来る気よ!敵の出現と同時に魔導銃を魔法陣中心に一斉射撃!」
アスティの声にそれぞれが剣や杖を構える。
魔法陣の中心から人の形の影が浮上する。
「今よ!」
アスティの声と同時に実体化する影へと次々まずは魔法が突き刺さる。
いや、突き刺さるはずだった。
浮上してくる人影は無言で右手を一振りするとそれだけでまっすぐ突き刺さるはずだった魔法攻撃の魔弾の軌道が変わり、円を描いてその右手の周りを回転し続ける。
「なっ・・・・!」
私は息を飲んだ。自分に飛んできた魔法攻撃を奪い取り制御する魔法なんて聞いたことが無い。
全員が一瞬あっけにとられている間に人影は完全に実体化した。
背の高さは190cm以上といったところか。
それは赤毛、隻眼で50才位のちょっと渋い、だが冷徹で鋭い眼光を持った男性だった。
面白かったら、下の評価をクリックしてポイントを入れてください。
よろしくお願い致しますヽ(´▽`)/!