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#55 作戦会議

 #55 作戦会議



 キャンドルタウン市立病院 701号室にて



 結局その後は大きな進展もなく亜耶は戻った。


「で、そのまま戻ってきたのか?」

「ええ、船内に踏み込むには些か問題がありまして」

「そうか亜耶、船籍がラティス帝国じゃないのね?」

「はい、船尾の旗を確認した所メカル共和国の物でした」

「他国船籍の船は治外法権というやつか……」

「はい、ですから私や昶のようなこの国の近衛騎士が理由なく踏み込む訳にはいかないんですよ」


 昶と亜耶、ラーシャ博士は昶が入院している病室でお茶しながら情報交換をしていた。

 実際にラーシャの依頼で動いているのは亜耶だが依頼そのものは亜耶と昶の二人に対してのものだからだ。

 とは言え昶は入院したままで動き回る事が出来ないのでほぼ相談役みたいな立場である。


「それで亜耶が採取してきた海水の検査結果はどうだったんです博士?」

「これか……クロだ、真っ黒もいいとこだよ、このサンプルの含有魔力は明らかに異常な多さだ」

「問題は何故これだけの魔力を含有した水があの船から排水されたのかだけど亜耶はどう考えてる?」

「あの船は魔導エンジンではなく蒸気エンジンで可動しています、ですからあの船の中に何らかの魔術施設、もしくはそれに準ずる魔導兵装を内蔵している可能性でしょうか」

「メカル共和国の武装商船?その可能性は低いと思うぞ」

「何故そう思うんです?」

「大戦中ならともかく、現在のラティス帝国とメカル共和国の関係は特に悪くはない……まあ良好という程でもないが敢えてこの国に手を出す理由もないからな」

「ではあの船に魔術施設があるかもしれないと?」

「魔法技術学の中でも生化学分野の小規模なラボなら船の中に収められる筈だ、これが工学系だとあの船の船体規模ではどうやっても船内に収めるのは無理だろう」

「……念の為ここの港湾局に事情を話して出港差し止め命令を出して貰っていますがせいぜい2日足止め出来るかどうかですね」


 色々と現状で判明しているお互いの結果を話し今の状況と照らし合わせる。

 しかしこれといった決め手に欠けるのはいかんともしがたかった。


「いずれにしても涼月少佐が正体不明の人物に襲われた時点で通報案件だし集中的に調べる方針で行くべきだな、それで襲ったのはどんな奴だったのだ?」

「得体の知れない、それでいて私の手の内を読まれているような……へんな既視感を感じる敵でした」

「ふーむ………気になるな、後でもう少し詳しくその時の状況を教えてくれないか」

「え?はい構いませんが…」


 ちょうどその時、部屋のドアがノックされた。


「どなた?」

「傭兵部隊「アトロポス」のナシュア少尉であります。坂崎大佐より若桜・涼月両名に部隊から情報を伝えよとの命令がありまして」


 亜耶が念のために腰の銃に手を掛けたままゆっくりとドアを開けると病室の入り口には昶と亜耶のよく知る人物が立っていた。

 その人物は傭兵部隊「アトロポス」の制服に身を包む活発そうな、ショートカットの若い女性だった。


「アトロポスから?」

「はい、今朝「アトロポス」経由で魔法省と帝国軍から連絡任務を仰せつかりまして、先程「雷風」からこちらに着いた所です」

「……彼女は?」

「自己紹介が遅れました、自分は傭兵部隊「アトロポス」の魔導機兵パイロット、ナシュア少尉であります……貴方がラーシャ博士ですね?」

「ああ、ラーシャは私だが」

「魔法省調査部のシャフリラ氏からですが若桜、涼月少佐両名と傭兵部隊「アトロポス」が派遣している駆逐艦「雷風」の協力を得られるようにしてあるとの事です」

「ちょ、ちょっと待て、傭兵はともかく軍艦の戦力だと?もう少し詳しく説明してくれないか」




 昶Side


 ナシュア少尉の説明はこうだ。

 事はこの前あたし達がやった荷物列車の護衛任務に遡る。


 あの時あたし達は荷物列車6250レの積荷であるマジックアイテム多数が収められた車両の護衛をしていた。

 その時にあの13号浮遊島事件の主犯格のテロリストであるコルディア・コーネウスと遭遇、そしてあたしと亜耶の目前で死んだ。

 結果としてマジックアイテムの輸送はできたのだが魔法省と帝国軍はそれで良しとはしなかった。

 簡潔に言えば魔法省は荷物列車の一件と今回の水質においての含有魔力の不自然な上昇について何らかの関連事象があるのではと疑っているのである。


 そして13号浮遊島事件の時にコルディアは自身の所属するテロ組織「ディメンション・カウンター」の戦力の大半を喪失したもののその全容が明らかになっていない以上、残存戦力の過小評価をするべきではないと判断し、万が一の為に傭兵部隊「アトロポス」所属の駆逐艦「雷風」の戦力投入も辞さないという結論に達したのである。

 もし武装テロ組織が関与しているのであればある程度の戦力投入は当然の帰結であった。


「うーん……」

「どうしたの亜耶?」

「「雷風」の戦力が投入可能ならあの船に合法的に踏み込む方法がありますよ」

「言ってみて」


 亜耶は話し始めた。


「なるほどね、それなら「荒海の海魔」号に踏み込めるわね」

「私もそれに付き合おう、もし魔術施設があれば私の判断が必要になるはずだしな」

「では少佐、自分は「雷風」に戻って部隊が動けるように艦長に伝えておきます」

「うん、任せるわナシュア少尉」

「了解しました」

「さて、あたしはここから動けないけど亜耶、あんまり無茶はしないでよ」

「そのつもりですよ、昶」


 亜耶とナシュア少尉は屋上のVTOL離着床から「雷風」艦載機の汎用VTOLである雷光で艦に向かった。


「博士はどうするんです?」

「私は船に積み込んで運用できそうな魔術施設の種類に関する資料をすこし読み漁ってみるよ……水司塔の資料室をあたってみよう」

「わかりました、それと博士」

「ん、何だ?」

「もし亜耶が無茶をやりそうになったらなったら殴ってでも止めてください…あの子ちょっと真面目すぎてすぐに無茶やるから」

「私に出来るかわからないが……出来る限り歯止め役になろう」

「ありがとうございます博士」


 程なくしてラーシャ博士も出ていって昶は病室に一人になった。


「亜耶を襲った奴……どんな奴かなんとなく想像できるな…創造の親としてね」


 昶はぽつりと呟いた。





 貨物船「荒海の海魔」号操舵室



 翌日の午前中に貨物船「荒海の海魔」はキャンドルタウン港を出港した。

 これ以上のキャンドルタウンでの停泊は怪しまれるとの判断が船長とこの部隊の指揮官によって下されたのである。


「出港差し止め命令が取り消されて一安心ですね」


 船長は前方を見つつ傍らにいるこの船の、いやこの船を所有しているとある組織の女性にやれやれという表情で話しかけた。


「まだ安心は出来ないわよ、我々を嗅ぎ回っている者がいたそうじゃない」

「はい、そちらは消す用に「β」に伝えました。とにかく本船を次の寄港地に向かわせます」

「礼状無しで大した事は出来ないだろうけど一応警戒は続けるわよ」

「了解しました」


 まだキャンドルタウン湾の内側、そして湾の出口方向へ向かっているのだがこの湾は出口に近づくに連れて少し狭くなっていく。

 通称「キャンドル水道」と呼ばれているのだがここを通る船舶は多くそのために速度制限が存在する。

 制限速度の12ノット(約時速24km)で「荒海の海魔」はマナヴォルカン群まで距離にして5km程の所を航行していた。




 空中駆逐艦「雷風」艦橋


「目標は予定通りキャンドル水道を12ノットで航行中、間もなく作戦開始時刻です」

「よし、臨検実施による停戦命令を出せ、密輸入船捜査の一環だと伝えろ。紫電の発艦と当該船舶へ雷光での臨検要員の降下も許可する」

「了解しました」


 雨降艦長の命令によってまず直掩機の紫電が、それに続いて臨検要員を搭乗させた汎用VTOLの雷光が後部にある飛行甲板から発艦した。


「2機とも発艦を完了、現在「荒海の海魔」号に向かって飛行中」

「停戦命令に対する当該船舶の動きはどうなっている?」

「速度を上げました、逃げるつもりのようです」

「仕方ないな……本艦はこれより当該船舶前方への主砲による威嚇射撃を行う。威嚇射撃の後に雷光は臨検のため臨検要員の強行降下を実施、紫電は雷光のエアカバーを続行せよ」

「オリエンタルサンダーよりガーネット2、当該船舶へ臨検要員の降下に伴う雷光のエアカバーに回れ」

『ガーネット2了解』

「第一砲塔砲撃準備完了、いつでも撃てます」

「よし、撃て!!」


 ガーネット2のコールサインを持つナシュア少尉の紫電が「荒海の海魔」号の前方へと対艦ライフルを発砲した。



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