#53 水司塔
#53 水司塔
亜耶 Side
水司塔というのは街の上水道の管理をする為の職員、つまり水司が水源の管理や保守をするインフラ施設である。
マーケットブリッジの中央にそれはあるのだがどうも様子がおかしい。
入り口のあたりでは数人の警備兵が集まって何やら調べている。
「ん?泥棒にでも入られたか?」
「とにかく何があったのか聞いてみましょう」
「そうだな」
ラーシャ博士と近づいていくと隊長らしい警備兵に制止された。階級章を見ると曹長だ。
「ん?何だお前ら、水司塔は現在立入禁止だ」
「立入禁止とはどういう事だ?事故でもあったのか?」
「とにかく今は駄目だ!それと身分証を見せて貰うぞ」
「……仕方ないですね」
「そうだな、怪しいと思われるのも嫌だしな」
私とラーシャ博士が身分証を出すと警備隊長の態度が豹変した。
「し、失礼しました!少佐殿にして騎士様と魔法省の学者さんとは………!」
「いえ、身分を改めるのは当然の仕事ですから。でも曹長、何があったのです?」
「ハッ!ここが上水道の施設なのはご存知と思いますが、この内部が何者かに荒らされまして現在重要な物が盗まれていないかの調査中であります少佐殿!」
「人的被害は?」
「いえ、幸いここに詰めている職員が仕事で出ていた隙に犯行に及んだらしく職員は全員無事であります」
「それなら調査はある程度できそうですねラーシャ博士」
「そうだな、資料が無事かはともかく聞き取り位なら問題なかろう」
「調査でありますか?」
「ああ、私達はこれを市長から受け取っていてな」
市長から受け取った水司長への紹介状をラーシャ博士が警備隊長に見せた。
「なるほど……確かに市役所の判もある正式な書類ですな…わかりました、水司長の所へご案内しますのでどうぞこちらへ」
私とラーシャ博士は曹長の後を付いて水司塔に入った。
曹長の説明によれば水司塔の最上階、6階に水司長の部屋があり、3階は一般開放されている小さな河川資料館があってマーケット通りに面していて、4階は事務所と水質研究室、5階は宿直室と資料室になっていた。
この中で荒らされていたのは4階と5階である。
階段を登りながら資料室をラーシャ博士とちょっと覗き込むとその床に本や資料や標本らしき瓶が割れて散乱しているのを警備兵達が調べているのが見えた。
「これは……おかしいな」
「ピンポイントで本棚や資料棚が荒らされているように見えますね」
「その通りです」
「貴方が水司長か?魔法省から調査に来たのだが少し話を聞かせて頂けないだろうか?」
私とラーシャ博士の言葉に答えるようにゆったりとした服を着た中年男性が資料の束を持って階段を降りてきた。
「水司長は私ですが……この泥棒騒ぎの調査ですか?」
「いえ、この一体での水質調査およびこの街の周辺における魔力量の変化も含めて調査していましてお話を伺いたいのですが」
市役所の紹介状を見ながら私の言葉を聞いた水司長は表情を曇らせた。
「それですか……実はまだその時の調査資料が見つかっていないんですよ」
「無駄足だったか……」
「そうとも言い切れません」
「と言うと?」
「整理前の調査資料を自室に持ち込んでいたので難を逃れた物がありますのでお見せしますよ、こちらへどうぞ」
促されて最上階の6階にある水司長室に入るとそこには簡単な応接せっとや小さな台所や簡易ベッド、机等がありこの部屋で泊まり込みも出来るようになっていた。
勧められてソファーに腰掛けると水司長はその机の上にあった書類の束を持ってきた。
「水司長、これがそうなのか?」
「ええ、まだ整理しきれていませんがこれだけは無事でした。今の所はサンプルで採集した試料が数点盗まれているのが確認されています」
「ラーシャ博士、どうです?」
「うーむ……これを見る限り確かにこの河の水に含有されている魔力は通常の河川よりも多いようだが……これだけではまだなんとも言えないな」
「どういう事です?魔力が通常より多いならそれだけでも異常なように思えますが」
「少佐、ここの地質……いやこの地域の魔力特性を思い出してみれば想像つくだろう?」
「え?……ああなるほど、マナヴォルカンですか」
「その通りだ、あれだけの規模のマナヴォルカンがあればこの一体の地質や水質にも影響はある……水司長、元々この河の含有魔力は通常の河川よりも高めなのではないか?」
「おっしゃる通りです、こちらが半年前と1年前の含有魔力の数値ですがこれと比較してみて下さい」
「これは………含有魔力が12倍に急激に膨れ上がっているのか」
「確かに異常な上昇ですが原因に心当たりはないか?例えば新たなマナヴォルカンの形成とか?」
「それはありませんがマナヴォルカンは関係しているかもしれませんね、日付を見てください」
「私達がシー・サーペントを排除した日ですか」
「確かにマナヴォルカンが活性化した日だがあそことは距離が少し離れているぞ」
「ええ、ですがそれくらいしか現状では含有魔力の異常に関係ありそうな事象が見当たらずに悩んでいる状況なのです、そこに今回の盗難被害が、それもピンポイントでここ最近の水質関連の資料をごっそりやられたという訳です」
「ふーむ……」
「この一件は全て人為的に起こされた、と考えるべきじゃないでしょうか」
「何故そう思うんだ?」
「今水司長が言ったように資料がピンポイントで抜き取られているという事実は含有魔力の変化の詳しい原因を知られたくない何者かがいると推測できます、更にその原因が人為的な物ならば数値データからそれが発覚するのを恐れるのではと思いまして」
「確かにありえないとは言い切れないが……」
「私はしばらくこの河を上流に向けて含有魔力量の不自然な変化がないか調べてみます」
「そうだな私もそうする事にしよう、ありがとう水司長参考になったよ」
私とラーシャ博士は水司長にお礼を言うと水司塔を後にした。
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