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#52 調査開始

#52 調査開始


 キャンドルタウン市役所


 翌日、商業ギルドとラーシャ博士の双方から指名で依頼を受けると早速調査は始まった。まずはキャンドルタウン市役所にある生活用水の管理をしている河川管理課である。

 その担当範囲は河川の水質だけでなく生活用水全般をカバーしているので井戸も含まれる。


 河川管理課に行くと商業ギルドの根回しであらかじめ話がしてあったらしくすぐに担当の役人が出てきた。

 その役人はエルフであるラーシャをみてちょっと驚いたようだが、ラーシャと名刺交換する時に眼鏡をかけた40代半ば位の男性でフルスと名乗った。


「河川管理課の課長をしているフルスといいます」

「魔法省技術管理局から調査を要請されたラーシャだ。市長にアポは取ってあるのだがお会いできるかな?」


 ラーシャの言葉にフルスはではどうぞこちらへと市役所の3階にある市長室へと二人を案内した。


「この一件は市長も重く見ていまして・・・なにしろこの街の住民の飲料水やその他の生活基盤にも関わりますから・・・・市長、ラーシャ博士がお見えになりました」

 

 「入れ」と声が聞こえてラーシャ達3人は市長室に招き入れられた。

 待っていたのは典型的なメタボ体型のおっさんだった。


「キャンドルタウン市長の戸倉だ、よろしく頼むよラーシャ博士・・・ところでそちらの方は?来るのはラーシャ博士一人と聞いておりましたが?」


 戸倉は亜耶を値踏みするようにじろじろと見る。

亜耶は魔法の使い手のご多分に漏れず、魔力を肌から吸収しやすいように肌の露出多めの半袖、ヘソ出し、ショートパンツのいつもの服装をしている。

 カテゴリーⅡ故にに美少女の亜耶は街中でもよく男性の視線を感じるのだが戸倉の視線は露骨だった。


「ああ、紹介が遅れた。彼女は護衛と助手を兼ねて雇った冒険者で昨日私が暴漢に襲われた際に撃退してくれてな、それで腕を見込んで私から依頼したのだ」

「そうでしたかちよっと気になりましてな、カテゴリーⅡではLvもかなりあるのでしょうね」

「彼女は先日のシー・サーペントを討伐した本人だよ、実力は私が保証する、そろそろ本題に入りたいのだがよろしいかな市長」

「何ですと!この華奢なお嬢さんが……!ああ、いやいや失礼、驚きました。とにかく本題に戻りましょう」

「魔法省技術管理局からの書簡はご覧になっていると思うのですがこちらではこの一件をどう見ておられるのです?・・・・魔力含有量変化の発生原因や、それが一体何処から出たものなのか、とか」

「それが何処から出たのかが皆目わからなくて困っている状況なのです、現状で言えるのはその原因となる事象の発生がこの街の何処かであるとしか」

「・・・・川の、キャンドルタウンの上流からは検出されなかった、という事ですか?」


 亜耶の言葉に戸倉は頷いた。


「その通りです、ただその出処が………何しろ街のいたる所に温泉井戸や運河があってそのどれから流れ込んだのか、それとも単純に不法投棄された物が原因なのかすらも現状では判断できないのです・・・・・残念ながら博士程の魔法技術のプロもウチの市役所のは降りませんので」

「とにかく資料を見せて頂けないか市長」

「フルス、お二人に見せてやってくれ」

「わかりました、これまで調べた地点と負の魔力の含有量をまとめたものになります」


 フルスがテーブルに市街地の地図を広げた。中央広場から放射状に伸びる道路と各区画、同心円状に何重に中心街を囲むようにひかれた運河が描かれている。

 その数箇所に水質検査をした地点を示す印とその魔力の含有量が書き込んであった。

 

「情報は共有したいので地図をもう一枚頂けるか市長、この数値を書き移してそれを元に調査を勧めたいのだが」

「わかった・・・・同じものをすぐに用意してくれ」

「承知しました」

「しかし魔力の大幅な増加は通常ではまず発生する事の無い物です。まず間違いなく人為的な発生源がある筈ですがマジックアイテム系の工房はこの街に何件あるのです?」

「王都ほどではないがこの街だけでも10件位はある筈です、ここはパルマポートに近いですから、ここで原材料の加工をしてパルマポートの軍や傭兵部隊に納める業者が多いのですよ」

「そちらは調べたのですか?」

「ウチの役人が手分けして聞き込みをしましたがマジックアイテムの製法にも関わってくるもので、口が固くてさっぱり進んでいません……それで結局調査の壁に当たってしまい、魔法省に泣きついたという訳なのです」

「あの、いいでしょうか」


 亜耶が遠慮がちに手を挙げた。


「なんでしょう?」

「テロの可能性はどうです?そもそもこの魔力変化がこの街で発生したのでは無く街の外部からテロリストが持ち込んだとか・・・その場合は博士よりも警備兵の仕事になるのではと思いまして」

「なるほどな、警備部隊に命じて街の関門の出入りの書類を改めさせよう」

「市長、あと最初に調査をしてこの事態に気付いた人物を紹介していただきたいのだがよいかな?」

「それなら温泉街の河口にあるマーケットブリッジにある水司塔で橋の管理をしているからそこに行くといい、すぐに紹介状を書きましょう……あとそのすぐ近くに河川警備部隊の詰め所があるからそこにも根回しをしておきますよ」

「ありがとうございます市長」


 その後も暫く亜耶とラーシャは色々とキャンドルタウンの状況について質問したが大きな手がかりになりそうな情報は無かった。


「とにかくこの通りお願いします………このまま魔力増加が進んではここの領主のキンバルト伯の沽券にも関わりますので、水質の管理もできんのか、と」

「わかりました、全力を尽くさせていただこう」

「よろしく頼むよ博士」


 挨拶もそこそこに亜耶とラーシャは市役所を後にした。



 亜耶 Side


「しかし市長も伯爵の面子も考えなくてはならないとは同情しますね」

「オマケに彼も今の立場で何事もなく任期を終えれば男爵の爵位を授かる約束があるのだそうだ、粗相のないようにと魔法省で釘を刺されたよ」


 ラーシャが苦笑いをする。

 そりゃ必死になるか。功績が認められて爵位を持てれば生活には困ら無さそうだし。


「お、見えて来たぞ・・あれがマーケットブリッジか、確かに大きいな、ちょっとした商店街じゃないか」


 ラーシャに言われて顔を向けると河口にかけられている全長1kmくらいの石積みの長いアーチ橋が見えた。

 しかしそれは単なるアーチ橋ではなく連続したアーチ橋の通路の左右に2階~3階建ての店舗付住宅が端から端までずらっと立ち並んでいる。


 なんて言えばいいのかな、アーチ橋の上に長い商店街があるのだ。その賑わいは市街地の商業区画に勝るとも劣らない様子だ。

 そして橋のほぼ真ん中の地点に5階建ての塔があってそれが水司塔なのだそうだ。


「エルフのお姉さん、安くていい武器があるけどどうだい?」

「あんた冒険者だろう?ウチの干し肉は他のと違ってスタミナつくから旅にはオススメだよ!」


 いろんな店があって見るだけでも飽きないな。今度ヒマな時に昶と一緒に遊びに来よう。

 人混みを抜け、商店の客引きを避けつつ私とラーシャは水司塔へと歩いていくと何かの人混みがあった。

 一体何だろう?揉め事っぽい罵声が聞こえる。


 罵声の主はガラの悪そうなグループだった。

 原因はわからないがどうやらこの連中が取り囲んでいるローブを被った少女らしい人物に因縁を付けているようだ。


「なんだと!!もう一回言ってみろこの野郎!!」

「バカそうな、人に、興味は、無い、と言った」

「俺達が頭悪いってのか!!!」

「さっきから、そう言っている、のに、わからないのは、やはり、バカなのか」


 ん?なんか変な、抑揚の無い話し方する娘だな。


「見ておれん」

「ちょっと待ってください」

「ぐえっ」


 出ていこうとしたラーシャの襟首を掴んで引き戻す。


「何をするのだ、助けてやらんと・・・!」

「その必要はないと思いますよ、多分あの娘は強いですから」

「わかるのか?」

「はい、勘ですけどね」


 私が見る限り多分あのゴロツキはあの娘の相手にすらならない筈だ。

 でも感情が薄いっていうかなんか機械的な感じがする。


「こいつ!!バカにしやがって!!」


 ゴロツキの一人がナイフを構えてローブの少女に襲いかかったが少女はそれを避けると回し蹴りであっさり倒した。


「まだ、やる気か」


 抑揚のない口調で淡々と喋る。


「くそっ!一斉に掛かれ!!」

「無駄、です」


 少女は腰の剣を抜く事すらもせずに一斉に飛びかかってきた3人のゴロツキ達の攻撃をあっさり避け、次々に掌底や当て身を食らわせて全員昏倒させた。


「だから、無駄と、言ったのに」


 少女がその場を後にして私達の横を通り過ぎた時に微かに妙な匂いがした。

 なんだろうこれ。血の匂いに似ているけどちょっと違う。


「…………」

「どうしたんだ?」

「なんでもない、水司塔へ行きましょうラーシャ博士」



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よろしくお願い致しますヽ(´▽`)/!

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