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#50 亜耶への依頼

 #50 亜耶への依頼


 空中駆逐艦「雷風」艦橋


「ガーネット2からシー・サーペントをすべて殲滅したとの報告がありました。続いて重傷者の搬送ですが既に本艦の雷光がホイスト作業を終えてキャンドルタウンにある病院に向け重傷者とその付き添いを乗せて飛行中です……遊覧船の乗員乗客に犠牲者は出なかったそうです」

「そうか、よくやった。ガーネット2は引き続き遊覧船の護衛に、本艦はマナヴォルカン群周辺で警戒にあたる、まだ警戒態勢は現状維持だ」

「了解しました」


 遊覧船「第一海竜丸」はマストと右舷に損傷があるものの浸水しているわけでもなく無事に桟橋に辿り着いたとの報告が程なくして入電した。

 空中駆逐艦「雷風」の艦長である雨降中佐はてきぱきと指示を出すと目深に軍帽を被り直した。


「この周辺の魔力の分布を調べ直した方が良さそうだな……雷風が戻ったら索敵装備に換装して魔力分布の変化の調査飛行に出すとしよう」

「わかりました、パイロット達と整備班に直ちに伝えます」


 副長が書類を持って艦橋から退出すると雨降中佐は高度500mを航行する艦橋の窓からマナヴォルカン群を見ながら呟いた。


「………それにしても何故突然マナヴォルカンが活発化したのかだが……事と次第によっては大災害になりかねんな」


 「雷風」の下の海面は静けさを取り戻し、マナヴォルカン群はいつものように規則的に魔力の光の淡い明滅を繰り返していた。




 キャンドルタウン市立病院 救急病棟


 昶はキャンドルタウンでも一番大きな病院に汎用VTOL「雷光」で緊急搬送された。

 第一海竜丸に引き揚げられた時にはまだ息があったが病院に到着、救急病棟に到着した時に心肺停止状態だったのである。


 しかし懸命の蘇生処置の甲斐あって昶の心臓は再び鼓動を始めたが酷い打撲と複数箇所を骨折しており依然として意識不明の重体だった。


 それから3日後の午後、昶がストレッチャーに乗せられて救急病棟から一般病棟に移動する事になった。

 治癒魔法と通常医療の併用でなんとか回復軌道にのったのである。


 実は治癒魔法が使える魔術師は僧侶を含めても非常に少ない。

 数少ない治癒魔法の使い手は迅速さが要求される軍隊に高額の給料でスカウトされる。それも比較的安全な後方勤務が多く傭兵でもない限り前線に出るケースはあまり無い。


 昶にとって幸いだったのは駆逐艦「雷風」の雨降艦長が乗艦していた軍医を派遣してくれた事である。

 そのおかげで昶は蘇生に成功し容体が安定した3日後には一般病棟にある一人用個室に移動となった。


 ちなみに値段の高い一人用個室に移動になったのは遊覧船を運行しているキャンドルタウン温泉観光ホテルグループの会長がお礼に全額を持ってくれたからである。

 そろそろ意識が戻る頃だと主治医には言われているものの昶には未だに酸素吸入器が装着され、意識は戻っていないままだった。



 

 その一方で亜耶は泣きはらし、落ち込んでいた。

 曰く。

 私がもっと早く魔力の変化を感じ取っていれば。

 もっと早く昶に「危ない」の一言が言えていれば昶がこんな事にならずに済んだ筈なんだ。

 自分の不注意、油断のせいで昶を死なせそうになった、と。

 それを考えるたびに涙がこぼれ落ちる。


 亜耶は基本的に強い。身体的にも、精神的にも。

 しかし亜耶のその心の強さは昶という家族同然の心の支えがあってこその強さである。


 転生者カテゴリーⅡの「物語の中の住人」という特殊な出自であるが故にこの世界での肉親は一人も無く、昶が唯一の家族であり亜耶にとって姉に等しい存在だった。


 だからこそ。

 亜耶は自分をずっと責め続けていた。涙が止まらなかった。


「うっ……ぐすっ………」

「……………いつまで泣いてんのよ、落ち着いて寝られないよ亜耶」

「えっ……昶………?」


 亜耶が顔をあげると少し呆れた顔をしながら昶が上体を起こしていた。


「……心配かけちゃったね」

「……昶……私……」

「あたしは大丈夫だから、泣くのやめなって」

「うっ………うわあああああああああん!!!昶!!……昶!」


 亜耶は昶を抱きしめると子供のように泣きじゃくった。

 

「本当、亜耶ったら子供みたい」


 自分に抱きついたまま号泣する亜耶が落ち着くまで昶は優しく撫で続けた。




 暫くの間泣き続けていた亜耶が落ち着き、ナースコールで昶の意識が戻った事を伝えるとすぐに主治医が来て簡単な診察がその場で行われて普通に会話する程度なら特に問題なしと診断がくだされた。


 亜耶はシー・サーペントをナシュア少尉の魔導機兵が排除した事、いち早く現場に急行した駆逐艦「雷風」が現在マナヴォルカン周辺の警戒にあたっている事を話し始めた。


「そうか、やはり雨降艦長の船が来てくれたんだ」

「はい、ナシュア少尉といい近傍に練度の高い部隊がいたのは幸運でした」

「あの時に無線で聞いたんだけどさ、この前の13号浮遊島事件で喪失した駆逐艦部隊の穴埋め任務の依頼が他にも数隻にあったんだって」

「そうでしたか……そうだ、この件の冒険者ギルドからの報酬ですが今日の昼頃に受け取りに来て欲しいとの連絡がありました」

「じゃあ受け取りは亜耶に任せるよ、どっちみちあたしは当分歩く事もできないからさ」

「わかりました、じゃあ私が行ってきます」

「うん、頼んだよ亜耶」




 夕暮れも近くなった海岸通りを亜耶は冒険者ギルドへ向かって歩いていた。

 ここの冒険者ギルドは市場やホテル、温泉街のある商業区画と港湾区画にほど近いエリアにある。

 場所柄人通りも多いのだが、そこから少し外れた裏路地になるととたんに雰囲気が変わる。


 港の近傍密輸や密航、それを手引きする盗賊ギルドやその関係者が集まる怪しげな酒場等が幾つも軒を連ねていた。

 そんな立地だからアウトロー寄りの冒険者はこのあたりで仕事を突発的に拾う場合も多いという。


「…………ん?」


 亜耶の身体がぴくりと動いた。エルフやドワーフの夜目が効くのは有名だが亜耶もその聴覚や視覚を始めとした感覚器官は通常の人間よりも遥かに優れている。

 もっとも四六時中そうしていては自分が騒音ストレスでやられるから何か聞こえた時に意図的に聴覚を上げるのだが。


「誰かが言い争ってる……?」


 冒険者ギルドに向かう大通りの裏側、建物と建物の間の狭い裏路地の奥の方だろうか。

 何か言い争っているような声が聞こえた。

 裏路地に入って様子を伺うと中学生位の少女が三人組の男と言い争っているのが見えた。

 男はデブと痩せガリと中肉中背の三人、少女の方は大きな帽子、白い上着にピンクのブラウスとフレアスカートにニーハイで一見すると少し上品な雰囲気がある。


「話が違うじゃない!!頼んだ所まで私を連れて行ってくれるのではなかったのか?!」


 少女は男三人に声を荒らげる。


「気が変わったんだよぉ・・・・・いや、さっき入港した船が闇奴隷の買い付けをやるらしくってさぁ」

「ま、運が悪いと諦めてくれや嬢ちゃん、子供は重宝されるんだよ」

「俺達も生活費ってやつが必要でさあ」

「冗談ではない、私は行かなければならない場所が・・・・・・え??」


 少女のセリフは最後まで言い切れなかった。男の一人が突然倒れたのだ。

 倒れた男の後ろに見事な銀髪の美少女が立っていた。


「闇奴隷とは聞き捨てならないセリフが聞こえましたが本当ですか?」

「何しやがるテメ・・・・・」

「私の立場上無視して通り過ぎるわけには行きませんので」


 痩せガリが腰のホルスターからオートマチック拳銃を抜いて亜耶に向けた。

 そのまま痩せガリが銃を一発撃った。

 銀髪の少女は右手に持っていた発動体らしい銀色の棒で銃弾を弾き防ぐ。


 痩せガリの目が驚愕に見開かれた。


「ひっ・・・こっ、こいつ!!」


 痩せガリは必死に引き金を引くがそのすべてが弾き返される。完全に銃弾の筋を銀髪の少女は見切っていた。一瞬怯えて思わずぽろりと銃を落とす。


「何をしているんです?」


 亜耶は威嚇のために男達の前で10個程の魔法陣を展開させた。

 男達を目を細めて睨む。


「ひっ・・・・」

「反撃で自分が死ぬ覚悟があるから私に向けて発砲したのでしょう?」


 痩せガリは慌てて逃げようとし、そのついでに石畳に落ちた銃を拾おうとした。


「うわあっ!」


 銃が亜耶の放ったビットに弾かれる。


「次に拾おうとしたら頭に当てますよ?」

「ひ・・・うわああああ・・・」


 痩せガリは眼の前の着弾したビットに飛び上がってビビり、相棒のデブを置き去りにして逃げようとする。


「逃しません」

「ぎゃっ!」

「さて、貴方はどうします?痛い目に遭う前に大人しくする事をおすすめしますよ?」


 亜耶はあっという間に接近し後頭部に当て身を食らわせて痩せガリを気絶させるとデブに向き直り警告する。

 デブが震えながら手を挙げると亜耶はため息を付きながら構えていたアサルトロッドを腰のホルダーに戻し少女に向き直った。


「大丈夫でしたか?」

「あ、ああ、ありがとう……あ!!」

「こいつっ!!」


 デブが自分に背を向けた亜耶に後ろから襲いかかろうとするのを見て少女が声を上げる。


「はあっ!」


 亜耶の気合と同時にその回し蹴りをモロに喰らったデブの身体があっさりと宙を舞いそのまま地面に叩き付けられてデブは白目を剥いて気絶した。


「全く諦めの悪い……何の警戒もせずに背を向ける訳ないでしょう」


 呆れた顔で呟く亜耶に少女が声をかけた。

 その少女の耳は尖っていた。


「とにかく助かった。ちょっと行きたい場所があってな……この者達に道を聞いたら案内すると言われてこのザマでな、まったくこいつらは人を子供扱いしおって!」


 なるほど、と亜耶は思った。見かけのわりに妙に落ち着いた喋り方だと感じたのは見かけ以上の年齢が当たり前のエルフだったからか。

 そのエルフは大人っぽい喋りをする者が多く落ち着いているが思い返してみればシャフリラもリデアもそういった物腰の人物だ。

 人間ならばまだ10代後半程度に見えるがエルフとなるとおそらく200才になっているかいないかという位の年齢だろう。


 結局、亜耶は警備兵を呼ぶと三人組を引き渡した。警備兵の話では元々奴隷犯罪絡みでマークしていたらしく亜耶に礼を言うと捕縛して連行していった。


「私はラーシャという、貴女は?」

「私は涼月亜耶、魔法兵の冒険者です」

「冒険者か!仕事探し中とはちょうど良かった、冒険者を雇いたいと思っていてな、話を聞いてもらえんだろうか?」

「内容によりますが……」

「内容による………確かにそうだな、ではどこかで昼食でも食べながら話そう、さっきの礼におごらせてくれ」

「私は冒険者ギルドに用がありますのでそこの喫茶スペースでいかがでしょうか?」

「そうだな、雇うなら冒険者ギルドを通す必要があるし丁度いい、そうするとしよう」


 話を聞く位ならいいか。いずれにしろ冒険者ギルドで聞きたい情報は色々あるし。

 二人は冒険者ギルドへと足を向けた。



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よろしくお願い致しますヽ(´▽`)/!

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