#49 油断
#49 油断
亜耶 Side
「昶!!!後ろにもう一体のシー・サーペントが!!」
「…………え?」
「昶!!」
次の瞬間、シー・サーペントが振り回した尻尾に悲鳴をあげる間もなく一瞬で昶が弾き飛ばされた。
シー・サーペントは宙に舞った昶の身体を再び尻尾で海面に叩き付けた。
「!!」
私は何も考えずに反射的に海に飛び込んだ。
昶は海面に気を失って浮いているらしく全く身体を動かす気配が無い。
まさか命を落としたのではという不安に押しつぶされそうになる。
「この野郎!!」
おじさんが機関砲をシー・サーペントの頭に向けて撃ちまくるが大した効果を上げられていない。
その間に昶の所まで泳ぎ着くと動かない昶の身体を左手で抱きかかえる。
シー・サーペントが私の方を向いた。
大きな口を開くとその正面に魔法陣が浮かび上がる。
「リフレクト!!」
反射の防御魔法で防ぎ切れるかどうか。
シー・サーペントとの距離はまだ100m位あるがそれでも直撃されたらどうなるか。
魔法陣の中心に巨大な海水の球が生成されていく。
空中駆逐艦「雷風」艦橋
「艦長、マナヴォルカン群と二体目と思われるシー・サーペントを視認しました、距離1万」
「砲撃で牽制、遊覧船からシー・サーペントを遠ざけろ。魔導機兵のパイロットは誰だ?」
「ナシュア少尉です」
「ガーネット2……ルスターの教え子か、それなら大丈夫だな、紫電は対艦・対潜装備で出撃させてくれ」
「わかりました」
空中駆逐艦「雷風」はラティス帝国に籍を置く傭兵部隊アトロポス所属の空中駆逐艦である。
大戦を生き抜いたこの古参駆逐艦は参加したすべての戦闘を大きな被害を受けずに生き残り幸運艦と呼ばれている。
現在の艦長もやはり歴戦のベテラン艦長で日本人転生者の雨降中佐である。
雨降中佐は魔導機兵を出撃させると砲術長に砲撃命令を下した。
『ガーネット2よりオリエンタルT、シー・サーペントを視認、遊覧船の右舷に損傷を確認しました、海上で2名が救助作業を行っています』
雷風に搭載されている魔導機兵、紫電のパイロットのナシュア少尉から通信が入った。
「オリエンタルTよりガーネット2、救助作業をしているのはトパーズ1の二人の模様、彼女達に指一本触れさせるな、シー・サーペントへの攻撃を許可する」
『了解、これより作戦行動に入ります』
ガーネット2のコールサインを持つ紫電のパイロット、ナシュア少尉は22才の若手女性パイロットである。ちなみにオリエンタルTは雷風のコールサインである。
彼女の本来の所属である強襲揚陸艦「アトロポス」が先日の13号浮遊島の戦闘で大きく損傷し艦が退役する為に次の強襲揚陸艦「龍牙」が就役するまで一時的に駆逐艦「雷風」に配属されていた。
ナシュアは紫電を海面ギリギリまで高度を下げると対艦ライフルを構えた。
シー・サーペントが海水の球を救助作業をしている二人に発射し、二人が波に飲み込まれたのがコクピットのモニターで視認できた。
「行くよ!ヴァルキュリア!!」
ナシュアは自分の愛機、「ヴァルキュリア」のパーソナルネームを持つ紫電を信頼していた。 身長18mの魔導機兵を手足のように機体を操り対艦ライフルを発射する。一発目は右にわずかにそれた。
更に引き金を引く。今度は至近弾になった。
弾道の偏差を勘で修正するとナシュアは再び引き金を引いた。
「当たれ!!」
ドンッ!!という反動と共に3発目の対艦ライフルの榴弾が発射された。
亜耶 Side
シー・サーペントが生成した魔法陣の中心に巨大な海水の球が収束する。
反射の防御魔法「リフレクト」の魔法陣を生成したが左腕で気絶した昶を抱えているからか、それとも私の精神が動揺しているからなのか上手く魔力を展開できていない。
シー・サーペントが咆哮を上げ、私と昶に向けて狙いを定め、海水球を発射した。
「私の前で昶を死なせないっ!!!………うあああああっっ!!!」
その巨大な質量の着弾衝撃で私と昶はシー・サーペントの海水球が起こした波に飲み込まれた。直撃こそ防げたが両手で昶の身体を抱きしめ、離さないようにするのがやっとだった。
海面に頭を出すとその眼の前には圧倒的に大きな、高さ20mはあろうかというシー・サーペントの身体、そして私達を睨むその顔。
「………!!」
再びシー・サーペントの顔の前に魔法陣が生成され海水が収束し始めたその時。
砲撃音が連続して3回聞こえた。最初のはシー・サーペントが首を動かしたタイミングと重なり外れたが2発目は至近弾に。
3発目はシー・サーペントの頭に命中し文字通り粉々に吹き飛ばした。
そして次の瞬間、ランドウイングを装備した見慣れた魔導機兵が海面にその主翼の端を触れさせんばかりの超低空で垂直旋回しつつ私達の前をフライパスした。
左肩には剣を持った女神の部隊マークとその下のATOROPOSの標記。右肩にはパイロットであるナシュア少尉の機体のパーソナルネーム「Valkyria」の文字が。
あれは強襲揚陸艦「アトロポス」第1飛行隊の紫電。
ナシュア少尉の紫電はマナヴォルカンの方向へ機体を向けるとランドウイングのハードポイントに装備された短魚雷を投下した。
投下された魚雷はしばらく航走するとマナヴォルカンのあたりで爆発し水柱が上がった。
3匹目のシー・サーペントがいたという事なのだろう。
私達は第一海竜丸にたどり着いて昶と一緒に引き揚げてもらうとナシュア少尉の紫電のエアカバーによる支援を受けながらマナヴォルカンの海域から離脱した。
結局マナヴォルカンから浮上したシー・サーペントは昶が狙撃した一匹と紫電が仕留めた2匹の合計3匹だった。
幸い遊覧船第一海竜丸の乗客と乗組員の被害はそれぞれ軽傷者が1名ずつ出ただけで済んだ。
だがその代わりにシー・サーペントに弾き飛ばされて昶が意識不明の重傷を負った。
……………私のせいだ。私がもっと早く魔力の変化を感じ取っていれば。
もっと早く昶に「危ない」の一言が言えていれば昶がこんな事にならずに済んだ筈なんだ。
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