#4 再びの警備依頼
#4 再びの警備依頼
亜耶 Side
最初に倉庫に駆けつけたのは私とライルの前衛担当のコンビだった。
店員とおぼしき中年男性が仰向けに倒れていてその手前で第一発見者らしき店員が尻もちをついている。
そよ風が入ってきてその方向を向くと裏庭への扉が破られていた。
「ライル、私達はあいつを追いかけます!アスティは店主の手当を!マスターは援護を!」
「おう!」
「了解!」
「まかせて!」
とっさにマスター達三人に声をかけると私はある魔法をかけつつ扉から飛び出す。
その瞬間に私達めがけて炎の矢が飛んできた。ファイヤーダーツといって炎の矢で対象にダメージを与える攻撃魔法の一つだ。
私は転がりながら片手を炎の矢が飛んでくる方向にかざす。手の前で淡いオレンジの光が発生して炎の矢がそれに当たり砕け散った。魔法攻撃から守るフォースフィールドの魔法だ。あらかじめかけておいて正解。
炎の矢が飛んできた方向をみると目深にフードを被った大柄な男が逃げようとして登った石壁の上で攻撃魔法の動作を再び始めているのが見える。あれはそれなりに実戦経験を積んだ奴だ。
「攻撃魔法の使い手かよ・・・面倒だな」
剣術による近接戦闘がメインのライルには離れたところから攻撃が飛んでくる魔術師は相性が悪い。
「うわっ!」
ライルが目の前に着弾したファイヤーダーツを避けそこねて転びそうになる。
「何をやっている素人が!貴様らなど我々の敵ではない!」
「・・・「我々」?つまり貴方達は組織だって動いている、と?」
私の問いかけに男がしまったという顔をする。
「・・・・お前、子供の頃に通知表に「余計なおしゃべりが多い」って書かれてただろ」
ライルがジト目でツッコミを入れる。
「うっ、うるさい!・・・光よ我の敵を倒せ!」
大柄な男が短い呪文と手の動作でまた撃とうと手をかざすと同時に今度は魔法陣から光の玉、いわゆる魔弾が出現した。二度も同じことをさせるつもりはない。
アサルトロッドを持った右手を男の足元の石壁に向ける。
「スラッシュ!」
剣にしたアサルトロッドを横薙ぎに振ると魔法陣が出現しそこから剣を振った軌跡に沿ってブーメラン状の魔力の粒子が真っ直ぐ飛ぶ。するとその粒子石壁に当たるとは男の足元の石壁をあっさり砕いた。
足元の壁が砕けてバランスを崩した男の魔弾の狙いは大きく外れて地面に着弾した。
「・・・呪文も無しに高威力の魔法を!」
男が驚きの声をあげる。
そもそもカテゴリーⅡの私はこの世界出身の魔法使いと違って呪文詠唱無しで簡単な動作か一瞬の精神集中だけで攻撃魔法を発動させる事ができる。それが私の魔法能力の高さだ。
ちなみにその前の段階が短縮呪文と動作を組み合わせての魔法の発動だからあの男はそこそこ高めの能力があるということになる。
壁が崩れたおかげで足場を失い転倒した男は起き上がると店の前の通りに向かって走り出した。
私も崩れた石壁を飛び越えて追いかける。その後をライルも追ってくる。
「くらえ!」
男は振り向くと再び呪文を短く唱えつつ私に向けて魔弾を2発、3発と飛ばしてくる。
「!!」
咄嗟に私はソードモードにしたアサルトロッドで魔弾を弾いた。
「ほう、かなり実戦慣れしたレベルの冒険者のようだな」
冒険者云々は私自身が初心者だからよくわからないがマスターの書いた物語の世界での事とは言え伊達に実戦経験は積んでいない。
男は腰のバスタードソードを抜いた。しかしその剣は抜いた瞬間にビキーン!という鋭い音と共に真っ二つに折れた。
「なっ?!狙撃だと?!」
ちらりと後ろを見るとずっと後方でジゼル商会の屋根からマスターがスコープを覗きながら小銃を構えていた。彼女が狙撃で剣を折ったのだ。
頭を撃ち抜かなかったのは身柄を確保する為だ。
マスターは軍人や警官の経験も無ければ狩猟や射撃競技の経験も全然無いと言っていたけどどうやってあれだけの射撃・狙撃の腕前を得たのだろう。こればかりは謎だ。
いずれそれについては詳しく訊いてみる事にしよう。
「悪いけど貴方のような大男と格闘勝負に付き合うつもりはありません」
アサルトロッドをホルスターに戻すと私は両手を胸から前へと動かしながら呪文をつぶやく。魔力の光の粒子が両手に集まる。
「神秘の力よ、我に4つの兄弟の光を持って破壊の力となせ!」
一瞬で私の周囲に4個の魔法陣と光球が出現して高速で私のまわりで回転を始める。
「何?ビットだと!」
私は右手を上げるとすっと腕を男の方向へ向けた。
「ビットよ!当たれ!!」
回転していた4個の光球がそれぞれ直線状に飛ぶと途中で鋭角的に向きを変えると男の四方八方から別々の軌道を描いて次々と襲いかかる。某リアルロボットアニメのオールレンジ攻撃を想像してもらえばわかりやすいかもしれない。
「くっ!」
男が慌てながらも予備らしいダガーを抜くとそれで一個目、二個目と見事な剣さばきで光球を弾いた。
無傷で身柄を確保するために少し威力を落としているとはいえダガーで斬り落とすとは彼のダガーも魔法加工がしてあるのか。でも判断が甘い。
「アクセラレーション」
加速の魔法を脚にかけると同時に一気に私は男との距離を詰める。
「何っ?!」
予想もしていなかったであろう私の行動にビットを斬り落としていた男が慌てて向き直る。その時にはもう私は男のすぐ目の前だ。
「遅いっ!」
私は男の手首を狙ってダガーをアサルトロッドで叩き落とす。そのままアサルトロッドを地面に立てて支点にすると身体を回転させ男の顎に右脚の踵を全力で叩き込んだ。
男は見事に吹っ飛び壁に全身をしたたかに打ち付けた。
「うぎゃあああああ!!!」
ついでに残っていた二個のビットも次々に男に命中した。
「・・・・格闘をする気はねえって言ったじゃねえか・・・・」
ビットの直撃で所々がこんがりと焦げた男はそう悪態をつくと気を失った。
あれ、こんなに焦げるとは。捕まえるために一応ビットの威力は低めにしたんだけど。
でもこれで身柄の確保はできたしいいか。
「呪文の必要がない私がわざわざ呪文詠唱してビットを使うって事はそれは牽制だと気づかない貴方の頭が悪いんです・・・・ライルさん」
倒れて目を回している男に私は言った。
「やれやれ、出番無かったな」
「取り敢えず彼を連れて帰って事情聴取ですね」
「俺が抱えて行くよ」
すっかり空気になっていたライルが男の顔を隠していたマスクを取り、男が魔法を使えないように魔法の発動体の指輪を外すと男の身体からうっすらと煙が出始めた。・・・・・これは!
「ライルさん、こいつから離れて!!」
私は慌てて後ろに跳びながら頭を手でカバーしながら転がった。
次の瞬間、男の身体が凄まじい爆発を起こす。その爆風で私達二人はまともに吹き飛ばされた。
とっさに転がったから爆発の直撃はなんとか二人共まぬがれた。まさか自爆するとは。
いや。正確には男の身体に予め仕掛けられていた爆発の呪文が発動したと言った方がいいだろう。おそらく発動条件は魔術師の敗北を示す「魔法の発動体の指輪が外される」だ。
ライルは少し離れたところで目をまわして倒れていたが自力で起き上がっていた。なんだ、意外とタフだな彼は。
「大丈夫?」
「痛ってえ・・・・・一体何が・・・」
「あの男が魔法で自爆したのよ、大した覚悟だわ」
私は服についた埃を払い落としながら立ち上がった。
傍らに男が使っていた真っ二つに折れたバスタードソードが落ちていた。
よく見ると刀身の柄の端に紋章が掘ってある。自爆してもこんな物残してたら意味ないと思うんだけど。詰めの甘い奴だ。
「この紋章・・・・何の紋章だろう」
「ジゼルさんなら知ってるんじゃないか?」
「・・・・そうですね、故買屋ですし」
そのあとすぐに店に戻って店員の手当をしていたアスティに聞いたが店員の話だとあの男は石像を探していたらしい。
ジゼルにその石像を見せてもらうとそれは特に何の変哲もない少女像だった。
「これなのですが・・・・どうやら魔力付与がされているようなのですがそれが何の魔法なのかさっぱりわからないのです」
「え?その石像が使い方のわからないマジックアイテムだと仰るんですか?」
マスターが素っ頓狂な声を挙げた。
大きさは台座も含めて180cm位。そのポーズは走り出そうとする感じで表面は石像だからグレー。イメージとしてはまだ塗装前の女性フィギュアモデルと言えば想像できるだろうか。
「亜耶とアスティはどう思う?」
「うーん・・・ちょっと残留魔力を調べたいのでいいですか?」
「ええ、どうぞ」
アスティはジゼルに許可を貰うと右手の平を石像にかざして呪文をつぶやく。
「世界の力を司る者よ、汝、我に力のありし煌めきを示せ」
すると石像はわずかにぼうっと光った。魔力の光だ。つまりこの石像には何らかの魔法がかけられているということになる。
「ちょっと触りたいんですけどいいですか?」
「ええ、どうぞ」
私は石像を持つと両手のひらで石像の顔に触りつつ頬を付ける。
いきなり視界が暗転した。
身体の感覚が無くなった。
頭の中に私と同じ位の年齢の少女がぼんやりと浮かんだ。多分この石像のモデルになった娘だろう。
しきりに何かを訴えてくるのだが何を言っているのかがわからない。
そしてその少女のものらしき感情が一気に心に流れ込んできた。
「うあっ!!」
頭のなかに一気に流れ込んできた恐怖と焦りの感情に思わず声をあげると私はその場にがくっと膝を付いた。
息が乱れる。
「・・・・・何この嫌な感じ・・・」
「ちょっと亜耶、大丈夫?」
「だ、大丈夫ですか!!」
マスターとジゼルが慌てて声をかける。
私の精神に一気に、それも流れ込むように恐怖?焦り?とにかく強烈な負の感情が入り込んできた。
「・・・大丈夫、ちょっと驚いただけです・・・・強い感情が流れ込んできたので」
私は膝についたホコリをぱっぱと払いながら立ち上がると言葉を続けた。
「・・・まさか何かしらの呪いでもかかっているということですか?」
私はゆっくりと首を横に振る。
「うーん・・・・流れてきたのは呪いと言うよりも何かに対する恐れや焦りみたいな感情でしたからこれが直ちに悪い事象の原因に、という事にはならないと思います」
「・・・なるほどそうですか・・・他の店員たちにも一切これに触れさせないようにしておきます」
「呪いのアイテムじゃないってことは何かしらこれ」
アスティが首を傾げた。
「・・・あ!」
マスターはそれである事を思い出したらしい。一同の視線がマスターに集まった。
「あのさ、この前護衛してた時に野盗に待ち伏せされたよね」
「ああ、それがって・・・・・おいおいまさかこれが目的だってのか?」
あの街道はモンスターも野盗もまず出ることのない場所だった。
しかし野盗達はそこで待ち伏せをしていた。
「あり得るわよね、護衛は少なかったしあの時にこれを奪わせるためにあの野盗達を使ったのかも」
アスティが頷く。
「野盗にしては武器や防具はわりと新しい物を使っていましたけど雇い主が確実に成功させるために渡した」
「そして三十人の野盗を使っても奪えなかった、だからさっきの男みたいなそこそこ腕の立つ奴を送り込んだ・・・マジックアイテムを使えば石像一個くらいなら一人でもテレポートなりゲートなりで簡単に移動はできる」
アスティがライルの言葉を続ける。
「そして連中にとって誤算だったのは亜耶の存在かな」
「私ですか?」
「だってレベル50のカテゴリーⅡが護衛に加わるなんて普通思わないんじゃないかな」
「そりゃそうだ、さっきもあっさり終わったからなあ・・・・多分亜耶がいなきゃ俺達も勝てた保証は無いだろうし」
「あともう一つ」
マスターが言葉を続ける。
「今日ここを襲った奴。あいつの剣に掘ってあった紋章が何の表すのかわかりませんか?」
「ああ、これは傭兵団の紋章ですね」
ライルが折れた剣を手渡すとジゼルは即答した。
「傭兵団?」
「狼牙傭兵団の物ですね、最近はあまり見ませんでしたが間違いありません」
「じゃあそこの連中が?」
「それは無いかと思いますよ、なにせ20年前に壊滅していますので」
「壊滅・・・ですか、当時戦争中だったのは知っていますがそれで?」
「はい、「灼熱の海 海戦」という戦役で率いていた空雷戦隊ごと壊滅しています。ただ噂の範囲ではあるんですがその傭兵団の生き残りがテロリストになっているという話は聞いた事がありますね」
私の質問にジゼルは頷いた。
「現状では皆さんへの警備の依頼期間をもう少し伸ばしたいのですが・・・・受けて頂けるのならば報酬を倍に致しますが」
全員異論は無かった。
昶 Side
この後あたしは店の古本売り場にたまたま置いてあったノンフィクションの戦記物を何冊か調べてみたら詳しく書いてある本があった。
それによると話は20年前にさかのぼる。
当時の世界はほぼすべての国家を巻き込んだ大戦の戦乱の最中だった。このラティス帝国も例外ではなく戦火に巻き込まれることとなった。
このラティス帝国は日本の3倍ほどの面積の島国なのだが戦争となると島国である以上、太平洋戦争時の日本と同様、商船による貿易の為の長距離輸送が戦略的にも大きな意味を持つ。
そうなると当然その航路たるシーレーンを確保しなければならない。
重要なシーレーンの一つに南からの物資の輸送航路である「灼熱の海」と呼ばれる沢山の火山島や海底火山の存在する海の難所があるのだがそこを通過しないととんでもない遠回りをしなければならなくなる。
そしてその灼熱の海には安全に船が通過できる回廊がいくつかあるのだがそこを確保するための大きな戦闘、今では「灼熱の海 戦役」と言われる複数の海戦を総称する大規模海戦があった。規模で例えれば太平洋戦争で言うレイテ湾海戦に近いかもしれない。
その中に大規模輸送船団を通過させる作戦があった。この作戦では大規模輸送船団以外にもう一つの輸送船団があり、そのもう一つの輸送艦隊の指揮についていたのがアフィッド大佐の率いる狼牙傭兵団の部隊の艦隊だった。
この時、暗号が漏洩していて帝国軍はそれを把握していたと言われている。だがその対策は取られず狼牙傭兵団にはその漏洩している暗号で作戦命令と詳細な航路までもが指示されていた。
一方大規模輸送船団に対しては開発されたばかりの最新の暗号によって指示が出されていたために船団はただの一度も敵艦に遭遇すること無く無事にパルマポート軍港に到着した。
だが狼牙傭兵団の輸送艦隊は暗号を解読していた敵艦隊の待ち伏せに遭遇しただ一隻帰還した駆逐艦「雷風」一隻を残して全艦が敵戦艦と重巡洋艦からなる空中打撃部隊に撃沈されアフィッド大佐はMIA(戦闘中行方不明)となり、狼牙傭兵団は事実上消滅したのである。
一説によるとこのような囮を使ってまでこの時大規模輸送船団が輸送していたのは帝国王室に収める物品だったとも大規模破壊を可能にする魔導による新兵器が載せられていたとも言われているが真相は未だに闇の中である。
結局この戦争では帝国軍はシーレーンを守りきる事に成功し戦勝国となり、ラティス帝国は軍事大国という現在の国際的な立場に至っている。
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