#48 魔導種、浮上
#48 魔導種、浮上
昶 Side
あちこちのマナヴォルカンが爆発的に輝き始めた。
あたしと亜耶はガイドのおじさんに案内されてマナヴォルカン遊覧船、第一海竜丸の船橋に上がっていた。
「甲板のお客さんは念の為に客室内部に避難!、両舷の機関砲は起動準備!機関室は最大出力をすぐに出せるようにしてくれ!」
「船長、俺は左舷番機関砲に付く、お嬢ちゃん達は射撃得意か?」
「昶は射撃の天才ですよ、私が保証します」
「そりゃありがたい!手伝ってくれ、人手が足りないかもしれないんだ!」
「おじさん、右舷を見て!!何かが浮上してくる!」
「まずい!船長!救難信号を!」
右舷のマナホールから細長い物が出てくるのが見える。
それは蠢きながら海面に浮上するとその鎌首をもたげ、第一海竜丸を見下ろした。
呆然とした表情で船長が呟いた。
「海竜……シー・サーペント……」
「俺のロッカーにアンチマテリアルライフルがある、貸してやるからこっちに来てくれ!銀髪のお嬢ちゃんは右舷機関砲を頼む!」
「私は構いませんが……昶?」
昶は私を見て頷いた。
「船長さん?私達への依頼って事でいい?」
「……報酬か、それは会社から正式に冒険者ギルドを通して君たちに指名依頼が出るはずだ」
「OK、船長…交渉成立よ亜耶」
「わかりました、ただこの船の武装だとシー・サーペント相手では倒すよりも追い払うのがやっとだと思いますよ」
「ああ、この船が無事に離脱できればそれでいい、あれを倒すのは帝国軍の仕事だ」
「それならあたし達強力なコネがあるわよ」
「コネ?」
「……船長さん、無線機貸して頂けます?」
「わかった、君たちを信じよう」
「じゃあ私は右舷機関砲へ行きます」
「亜耶、任せたわよ」
亜耶 Side
昶とガイドのおじさんは武器を取りに、私は右舷機関砲に付いた。
シー・サーペントがこちらに向かってしっぽを叩きつけようと振り上げる。
「このっ!!」
右舷機関砲が火を吹いた。
曳光弾が頭部に連続して命中した。
シー・サーペントは耳障りな咆哮を挙げながら頭を振り回した。そのまま巨体を翻して太いしっぽを振り上げる。
シー・サーペントがしっぽを海面に叩きつけた。ドーンという音と同時に跳ね上がった水柱で視界が遮られる。
「うわっ!!」
それを避けきれなかった第一海竜丸ごともろに水柱を浴びて全身ずぶ濡れになった。
「このっ!」
再度機関砲で狙うと今度は口を開いて海水を恐ろしい勢いで吐きかけてきた。
なんとか第一海竜丸は船体の直撃は回避したがその水流はマストを根本からへし折った。
どうやら普通に機関砲で撃ってもあまり効いていないっぽいな。
やはり徹甲弾じゃないと厳しいのか。
12.7mm機関砲の通常弾と曳光弾では威力不足だ。
シー・サーペントが再度大きく口を開いた。
「二度もさせるか!!」
口の中に機関砲弾を撃ち込んだ。
シー・サーペントが怯む。
が、しかしシー・サーペントは向きを変えると私めがけてしっぽを振り下ろした。
「っ!!!」
私は慌てて左舷に跳んだ。
その直後に振り下ろされたしっぽで右舷機関砲が粉砕され、右舷の甲板が損傷した。
「ランケンダート!!」
爆裂する炎の矢の攻撃魔法、ランケンダートを鼻先でわざと炸裂させる。
炎を嫌ったシー・サーペントは身を翻す。
連続してランケンダートを発動させる。私の周囲に幾つも魔法陣が生成され次々にファイヤーアローやファイヤーダーツの魔法よりも強力な爆発する炎の矢がシー・サーペントに着弾し、爆炎を上げる。
更に左舷機関砲が着弾する。
シー・サーペントが頭を振り上げた。
その正面に魔法陣が浮かび上がった。
「まずい!取舵一杯!両舷全速!!」
船長の指示で操舵手がスロットルを全開にしつつ舵輪を取り舵方向、つまり左へと回す。
第一海竜丸は船体を傾け、派手に航跡を曳きながら左に全速力で転舵する。
「亜耶!状況は?!」
「12.7mm機関砲では打撃力が足りません!帝国軍の救援はどうなりました?」
「近くの海域に駆逐艦「雷風」がいるそうよ。全速力で急行中、魔導機兵を出してくれるって!だからそれまで保たせるよ亜耶!」
「わかりました!」
右舷の至近距離に魔法陣から発射された巨大な海水の球が着弾した。
「ちょっと!あんな物食らったら一発で船がバラバラになるわよ!」
「昶!私が注意を引き付けますから、そのタイミングで狙撃を!おじさんも牽制をお願いします!」
「おう、任せとけ!」
「了解!あいつを一発で撃ち抜くわよ!」
「おじさん!タイミングを合わせます!5……4……3……2……1……今です!ランケンダート!!」
「くらいやがれぇぇっ!!」
ランケンダートと左舷機関砲の両方がシー・サーペントの顔面に直撃した。
咆哮を上げて私を睨むように顔を向けた。
「昶!!」
「狙い撃つ!!」
その時、ビシッ!!という音とともにシー・サーペントの頭を銃弾が貫通した。
一瞬ビクッとして動きが止まるとゆっくりと海上に横転するようにその巨体がひっくり返った。
振り返ると船橋の上でアンチマテリアルライフルを伏せて構えている昶が見えた。
昶が一発必中でシー・サーペントのこめかみに命中させたんだ。
「昶、上手く仕留められましたね」
「これも12.7mmだから不安だったんだけどね、弾薬に助けられたのよ」
「弾薬?」
「魔力付与で強化された特殊弾があったの」
「だから貫通できたんですか……これで無事に戻れそうですね」
「やれやれ、機関砲と甲板を少しばかり壊されただけで済んだか」
「船長、近くにいる駆逐艦が現在急行中、そのまま警戒にあたってくれるそうです」
でもそう上手くは事は運ばなかった。
「ちょっと大変だったけど戻って温泉入って休もう、亜耶」
昶がアンチマテリアルライフルを担いで船橋の上に立ち上がった。
そして。
右舷の海面が一瞬盛り上がったように見えた。
ちょうど昶の後ろになる位置に二回りほど大きなシー・サーペントが海中から姿を現した。
……………そう、シー・サーペントは倒した一体だけではなかったのだ。
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