#47 海と遊覧船
今回は水着回です!
今回の改稿でカスタムキャストによる昶と亜耶の水着姿の挿し絵を入れました。
#47 海と遊覧船
昶 Side
「おー………生きててよかった………」
「?」
亜耶があたしの言葉に首を傾げる。ん?何言ってるの?みたいな表情だ。
砂浜に何件もある所謂「海の家」もしくは「浜茶屋」。そのうちの一件で更衣室を借りたあたし達は水着に着替えた。今日のためにこの前新しい水着を亜耶と一緒に買ったのだ。
そして着替えを先に終えたあたしは外で待っていたのだが、更衣室から出てきた亜耶を見て思わず「生きててよかった」発言が飛び出したのである。
陽光に反射してキラキラと輝く艶のある銀髪。
神秘的な金色の瞳に少しツリ目のくりっとした目。綺麗な形の眉。
素材の良さが活きる控えめなメイク。
お椀型の張りの良い綺麗な形の胸に滑らかな曲線を描いてくびれたウエスト。キュッと上がったヒップにスラリと伸びた脚。
着ている水着は淡いピンク色のビキニでロングの銀髪に可愛らしいリボンを付けている。
軍人らしく少し筋肉質ではあるがマッチョなわけではない。所謂「余計なお肉」が全く無い均整の取れたスタイル抜群の美少女。
そのビキニ姿に砂浜の男達の視線がめっちゃ集まる。
そりゃそうだ。元々亜耶はあたしが趣味で描いていた18禁同人誌のヒロインキャラで理想の美少女として創作したキャラクターだったのだから。
ちなみにあたしは亜耶と同じデザインの水着で色違いの赤い奴を選んだ。
隣に亜耶がいるとかえって目立つなこれ。
そして夏の海である。
砂浜。ビーチパラソル。海の家。
ここの温泉と同様に日本の海水浴場そのまんまである。
さっきホテルのフロントで聞いた話だがこのキャンドルタウンの市長は日本人転生者なのだそうだ。納得。
ラティス帝国だけでも転生者人口はそれだけで地方自治体が一個作れるという話を聞いた事があるがわからなくもない。
さて、これだけ日本人的なお約束がそろっているのだからやる事は決まっている。
「………よくそんなに食べられますね」
呆れた目で亜耶がテーブルの上を見る。
ラーメン。カレー。焼きそば。 ミートソースにナポリタンのパスタ。たこ焼き。唐揚げ。焼き鳥。枝豆。
うん。あえて通常の飲食店ではなく海の家で食べるのが美味いのだ。
なんだかんだ言いながら亜耶も食べてるし。
そして何よりもありがたいのはあたし達転生者は何故かいくら食べても太らない。
おまけに転生した時点の肉体年齢からも歳をとらない。
好きなものを好きなだけ食べても身体への影響が一切無いのはあたし達転生者のささやかな利点である。
しかし不思議だなあ。
亜耶はあれだけ身体能力が高いのに特に大食いって訳じゃない。
自分で創作しておいて言うのも何だけれどこの華奢な美少女の一体何処からあの人間離れした能力が出てくるんだろう。
転生者自体が神様の行う事象である以上は一介の人間があまり深く考えても仕方がないのかもしれないが。
さて、好きなだけ食べたし腹ごなしにちょっと運動するとしますか。
亜耶 Side
海の家でお昼ご飯を食べ終えた私達はせっかく来たんだし腹ごなしに少し泳ぐとホテルに戻る事にした。
砂浜にいるとそこにいる男達の視線がすごい。
例えばカップルの彼氏が私達をガン見していて一緒にいる彼女に思いっきりつねられたり足を踏まれたりしているのが見えたりしてなんだかなあと。
………水着姿の彼女がそばにいるのに他の女の子をガン見するのはどうかと。
そんなわけで今は昶と海岸線沿いのお土産屋や飲食店が並んだ道を歩いている。
しかし昶はよく食べていた。あの細い身体の何処にあれだけ入るんだろう。
昶はあまり自覚してないようだけど私から見ても贔屓目抜きでかなり可愛い。
モデルのような美人というよりもアイドル的な可愛さのあるタイプと言えばわかりやすいだろうか。
昶が生前に日本で暮らしていた頃は趣味でコスプレもしていてコスプレイベントに行くと結構な大きさのカメラマンの囲みができて、私が主人公キャラの同人誌を即売会で領布する時にコスROMを作ったりもしていたらしい。
「あ、あそこにマナヴォルカン群の遊覧船の桟橋があるみたいですよ」
「本当だ、面白そうだし乗ってみようか」
「はい、行きましょう」
私達は水着に薄手の上着を羽織っただけのラフな格好のまま遊覧船に乗る事にした。
遊覧が終わってから海の家でまた着替えればいいか。
海竜の形をしたターミナル兼切符売り場の建物に入るとそこには地元名物のお土産売り場やこの近海で採れる魚介類の展示水槽とかお祭りの予告ポスターが掲示版に貼ってあったりする。
「……………どこまでも日本の観光地っぽいわね」
「……「海竜岩マナヴォルカン群周遊観光汽船「第一海竜丸」って書いてありますね」
「これキャンドルタウン温泉観光ホテルグループってポスターの隅に書いてある!」
「あのホテルって地元じゃ一番大きい企業グループらしいですよ」
「あ!だからあたし達ここの割引券フロントで貰えたのか」
それにしても遊覧船でマナヴォルカン群に接近なんて大丈夫なんだろうか?
この世界の魔力はマナヴォルカンと呼ばれる魔力を生み出す場所、いわば「魔力の火口」が世界各地に点在していて魔力はこの惑星の地下深くでマグマと共に精製され、そこから放出される地殻の活動から生み出される無限のエネルギーである。
そしてマナヴォルカンから供給される魔力を吸収出来る上限量が各個人の魔力の高さとなる。
その魔力を吸収する行為が戦闘などで消費された魔力の回復なのだが、魔力吸収速度は個人によって異なる。これが魔力回復速度の違いである。
これは魔術も精霊魔法も変わらない。
魔術師や精霊使いに半袖やショートパンツ、ミニスカートを着用する者が多いのは消費した魔力を最大限効率的に肌から吸収しできる限り迅速に魔力回復する為である。
私が普段昶がデザインしたヘソ出し衣装を愛用しているのはこれが理由だったりする。
ここで各個人の魔力・魔法について自動車で例えるとこうなる。
魔力の量=燃料タンク
魔力の強さ=エンジンの最高出力
魔力を使える余裕=エンジンの排気量
魔力の制御能力=ドライバーの運転の上手さ
テクニカルなコースで排気量小さめのハイパワー車で大排気量車を追い回し抜いてしまうドライバー、つまり魔力の使用量の限度は低いが一発の大きさのある魔法が使える魔術師が大きな魔力量の魔術師に勝ってしまう事は珍しくない。
このへんの魔法の基礎となる魔法の原理や個人差の発生する理屈に関しては興味深いものだった。
話は戻るがマナヴォルカンから、いやこの惑星の地下奥深くから温泉のように無限に湧き出し続ける魔力のおかげで魔法文明は非常に発達しているがその反動で機械科学の技術はあまり発達してはいない。
例えば海上船舶が帆船や蒸気エンジンなのに対して空中艦や飛行船、鉄道は蒸気機関すら存在せず魔力によって動く魔導エンジンが使われている。
軍事面ではマナヴォルカンの魔力放出量によっては魔導種の呼称される大型魔獣の発生を招くがその対抗手段として魔導機兵が開発され、その汎用性、機動性能の高さによって現在の主力兵器となっている。
マナヴォルカンが魔力が無限に湧き出る場所であるが故に魔法属性を持つ魔導種と言われる大型モンスターが出る事も珍しくはない。
しかし大抵は近くにその国の軍隊が駐留していて大事になる前に討伐されたり地元の冒険者ギルドから討伐部隊が出動して制圧される。
過去にもそのような事例があり大型の魔導種モンスターに巡洋艦や戦艦クラスの大型軍艦が撃沈された事もあるそうだ。
それが気になっていたのだがここキャンドルタウン温泉のマナヴォルカンでは幸い出てくるのは魔導種でも遊覧船の自衛用の機銃で対抗できる程度の小型モンスターしか出てこないのだそうだ。
だからキャンドルタウンでは海水浴場がモンスター避けのフェンスがあるだけの状態で普通に営業していたりする。
アメリカあたりの海水浴場でサメの侵入を防ぐネットを設置してあるのと似たような物なのかもしれない。
ちなみにここキャンドルタウンにあるマナヴォルカンは大小のマナホールが複数集まった「マナヴォルカン群」が形成されていて魔法学の研究も盛んになっているそうだ。
改札を通って桟橋に出ると全長50m程の遊覧船が停泊していた。タラップが桟橋に渡されて観光客が次々に乗り込んでいく。
「船に乗るのは初めてです」
「そっか、亜耶は空中艦にしか乗った事無いもんね」
「楽しみです、でも遊覧船なのに艦橋……いえ船橋の上に自衛用の機銃が2基装備されているって面白いですね」
「そうねえ、船の形もあまり遊覧船っぽい感じじゃないような……」
昶とそんな事を話しながら窓際の席に座ると船が桟橋を離れて動き始めた。
「それにしても妙な遊覧船ですねえ」
「妙ってどの辺が?」
「この船、船体の長さに対して幅が細くないですか?」
「お客さん、それはこの船が元々沿岸警備隊の巡視船の払い下げだからだよ、マナヴォルカンの周辺で魔導種のモンスターに襲われても対応できる武器も運動性能もあるからね」
私の疑問に答えたのは船内ガイドをしている乗組員のおじさんだった。
「そっか……だから軍用の12.7mmが2基あるんですね」
「お?お嬢ちゃん詳しいな、船好きなのかい?」
「それもありますけど私達二人とも軍人兼冒険者なので」
「なるほどね、だから武装に詳しいのか……納得だ」
船内ガイドのおじさんの説明だと元々巡視船だったこの船は退役して払い下げられる時に対モンスター用の自衛の為に一部の武装はそのまま、船体後部にある臨検用の小型ボート等の装備は全部降ろしてその部分を客室や遊覧用の甲板に改造して遊覧船として就航させたという。
幸いにも現在までその武装が使用された事はまだ一度も無いそうだ。
沿岸に沿って岬を回り込むように30分程航行するとマナヴォルカン群が海底にあるという海竜岩が見えて来た。
「海竜岩って言うだけあってあの岩の形、確かに海竜っぽいですね」
「本当、面白い形してるなあ」
『間もなく本船はマナヴォルカン群に最接近致します。この海竜岩マナヴォルカン群はラティス帝国随一を誇る規模となっておりますがその活動は比較的穏やかなものとなっており……』
船内に観光ガイドのおじさんの説明放送が流れる。
私と昶はふむふむとそれを聴きながら船の右舷に海底に見え始めた綺麗なマリンブルーの大きな穴に魅入っていた。
マナヴォルカン群は淡く幻想的なブルーで、規則的に、まるで鼓動のように明滅を繰り返している。
『マナヴォルカン群が更に明るく輝き始めました……これは温泉地で見られる間欠泉のように一定の時間をおいて魔力の放出が始まる現象が光に変換され可視化したものです』
「すごい………確かに身体に魔力を感じます」
「綺麗だねえ……」
遊覧船はマナヴォルカン群の周囲を大きく旋回するようにゆっくりと航行する。
その輝きはゆっくりと明るくなったり暗くなったりを繰り返し、それはまるで生きているかのように繰り返されている。
………あれ?私は魔力量が不自然に変化したのを感じた。
「………?」
「亜耶?どうしたの?」
「魔力量がさっきまで規則正しく、鼓動みたいに変化していたのですが急激に増加しているのを感じます……」
「お嬢ちゃん、それは間違いないか?!」
「はい、今も増え続けています」
「まずいな……お嬢ちゃん達は軍人兼冒険者だって言ってたな、もしかしたら手伝ってもらうかもしれねえ」
「……!おじさん、この魔力変化って魔導種が湧き出て来る前兆なの?」
昶の質問にガイドのおじさんは無言で頷いた。
「マナヴォルカンが!!」
マナヴォルカンの輝きが一段と増した。
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