#44 休暇
第3エピソード開始です
よろしくお願いいたしますm(_ _)m
#44 休暇
先日の「13号浮遊島事件」から半年ほど経ったある日。
昶と亜耶は魔法省調査部に来ていた。
最近はクーデター騒ぎの後始末の戦闘も、13号浮遊島の残敵掃討も最近になってやっと終わり傭兵部隊「アトロポス」からの仕事も一段落ついたために魔法省での仕事が多くなっていた。
今では正式に魔法省調査部のメンバーとなっている。
それというのも魔法省調査部は慢性的な人手不足で昶と亜耶の二人は本来の冒険者ギルドでの依頼仕事よりもこちらの仕事の方が多くなっていた。
それならばと調査部の責任者であるシャフリラの権限で二人揃って正式採用になったのである。
もっとも傭兵部隊「アトロポス」や冒険者の仕事の掛け持ちも許されているのであまりそのへんでの不自由は無い。そもそも二人共ラティス帝国の近衛騎士の資格も持っているのだから掛け持ち云々というのも今更な話であった。
そんなある日、昶と亜耶はシャフリラに呼び出された。
「「休暇ですか??」」
昶と亜耶の声が揃った。
「そうよ、二人共この何ヶ月かロクに休んでないでしょう?たまには休みを取る気はない?」
………言われてみれば確かに。
ここ半年を振り返ると墜落した13号浮遊島の調査やその事後処理、ディメンション・カウンターの残敵掃討だのといった仕事に追われ、それがおわってからは魔法省調査部の仕事にかかりっきりで休む暇は皆無だったのである。
「二人共その気があるなら来週から休暇の申請をしておくからどう?」
「それはわかりましたけど………休暇って言ってもどうする亜耶?」
「どうするといきなり言われても………すぐ思いつくのは温泉でのんびり、とかでしょうか」
「ふーむ・・・貴方達、温泉に行くつもりがあるならちょっと頼まれて貰えるかしら?そのかわり温泉までの往復の交通費と宿泊費用は出張扱いにして魔法省調査部で負担するわよ?」
「どういう事です?」
「ちょっとした護衛を頼みたいの、目的地に到着後はそのまま休暇に入って貰って大丈夫よ」
「目的地はどこなんです?」
「キャンドルタウン温泉、ラティスポリス中央駅から鉄道で2時間位の距離よ・・・どう?」
昶と亜耶は顔を見合わせた。
昶 Side
結局、魔法省調査部からの護衛依頼を受けたあたし達はパルマポートから100km程離れた地点をマジックアイテムやその他の魔法に関係する物資を荷物車に積んだ列車の護衛をしつつ移動していた。
今回は列車に乗車しての護衛だから残念な事に亜耶の魔導機兵、ミスティックシャドウは使えない。
そして幸いな事に今の所は何も起こってはいない。
あたし達の護衛する列車は線路の左側は海岸沿い、右側は森林の自然豊かな景色の中を走っている。
魔導種と言われる魔法生物系のモンスターも多い地域らしいのでそれが心配の種である。
最も魔導種にしても自分達のテリトリーからはそうそう頻繁には出ては来ないので出会う場合は大抵の場合こっちが知らず知らずのうちに彼らの領域、テリトリーに侵入してしまった場合なのである意味自業自得とも言えるのだが。
列車は順調にジョイント音を刻みつつ走り続けている。
亜耶はもの珍しそうに車窓を眺めている。
そう言えばこの世界に来てからあたし達二人は旅らしい旅をした事が無いな。
前世を含めても温泉なんて久しぶりだ。
途中で機関士の交代の為の運転停車をした。運転停車と言うのは業務上の理由で行われる停車である。
汽笛を長く一回鳴らすと列車は動き始めた。
そして列車は機関車牽引の列車特有のゆっくりとした加速で速度を少しずつ上げて行く。
電車に比べて客車列車の加速がのんびりしているのは理由がある。
動力分散方式と言って編成中に複数の動力車がある電車やディーゼルカーと違い、機関車牽引の場合は動力集中方式といって機関車だけが動力を持つために空転、つまりホイルスピンをさせないために少しずつパワーをかけて加速していく。
更に牽引両数が多ければ多いほど補助機関車をつなげない限りは加速はゆっくりしたものになる。
だから加速は電車に比べるとどうしても遅くなる。
これは大昔のSL牽引の時代も、ブルートレインやななつ星に代表される最近のJRの客車特急でも変わらない。
ところであたし達が護衛している列車を牽引する機関車、形はSLに酷似しているがこれは魔法炉で圧縮した魔力の粒子をシリンダーに吹き込み、その力でロッドを介して大きな動輪(自動車で言う駆動輪)に力を伝えて走る構造によるものである。
駅で機関車を観察して見たら三個の動輪の前後に小さな車輪が二個ずつある、いわゆる「ハドソン」と呼ばれる車軸配置の機関車だ。
元の世界でのSLのテンダー(炭水車といって石炭と水を積む外部燃料タンク的な役割の車輌)のような役目をする魔力タンクの車輌をつなげた機関車である。
ちなみにこの「ハドソン」という車軸配置は昔16連射で名を馳せたゲームの名人が在籍していたあのゲームメーカー名の由来にもなっている。
なんでもそのゲームメーカーの社長が大のSL好きでその中でもこのハドソンの車軸配置を持つC62と言うSLが大好きで元々は鉄道グッズを扱っていた自分の会社の名前にしてしまったという逸話があるそうだ。
ちなみにそのC62型は実際に昔日本で走っていた特急用のSLである。
C62は鉄道に全く興味のない人でもアニメで地球からアンドロメダまで宇宙を駆ける数字3桁の銀河鉄道のSLだと言えばああ、あれかと思い出す人も多いだろう。
あたしたちが護衛する列車を牽引する機関車の後ろには荷物車が12両つながっている。荷物列車という奴だ。
資料として受け取った列車ダイヤを確かめてみる。
列車番号は「6249レ」となっていた。どうやら列車番号の付け方は日本のJR・国鉄と同じらしい。
この列車番号はお召し列車以外(このラティス帝国にもある)のすべての列車に付番されていてJR、国鉄の場合は数字の後にレと付くのは機関車牽引による列車を表す。
これがJRや国鉄の場合、数字の後にMが付くと電車、Dが付くとディーゼルカーとなる。
もっとも山手線のように全ての列車番号の末尾にGが付く(例えば「山手線◯◯◯◯G」とか)例外もある。他にも例えば横須賀線ならS、東海道・山陽・九州新幹線だと末尾にAが付く。
ところでこの荷物列車という列車種別は日本の鉄路からはとっくに消えている。貨物列車はタンク車やコンテナ車といった専用の貨車で構成されるが荷物列車は貨車ではなく荷物車と呼ばれる客車の一種で編成される。
そして積荷は「貨物」ではなくあくまで「荷物」なのが特徴だ。長距離の旅客列車に荷物車を併結して旅客駅で新聞や雑誌、郵便やその小包を積んだり乗客の荷物を別料金で運んだりする。
「貨物」の場合は貨車一両、コンテナ1個、専用列車なら一編成まるごとが荷主の貸し切りになるのだが「荷物」の場合は小包一個から取り扱って貰えるのがその大きな違いの一つでもある。
ちなみに荷物列車は昔の日本では沢山走っていたのだが現在ではトラックによる宅配便の発達によりJRからは消えてしまったのだ。
さて、現在あたしと亜耶が今いるのは機関車の次位に連結されたちょっと特殊な荷物車だ。
出発前に聞いた話では本来は貴金属や現金輸送専用に使われる車輌で一般にはその存在すらも公表されていない形式なのだそうだ。
日本のJR・国鉄にも「マニ30」型という現金輸送専用の客車(形式分類上は貨車ではなく客車になる)があって廃止になるまでやはり一般には公表されていなかった形式があったがそれと似たような存在の荷物車らしい。
その車内には添乗する警備担当者が使用する監視用設備、や長時間の乗務に対応した寝台、食事用テーブル、簡易キッチン、トイレが設置されている。
更に犯罪者の襲撃に備えてガラスは防弾ガラスになっている。そしてマジックアイテムその他が積んである荷物室と前後の車輌への行き来は魔力で強化された扉と鍵によって簡単に出来ないようになっている。
「このまま何事も無く済めばいいですね」
「本当だねえ………無事に済ませて早く温泉に入ってのんびりしたいわあ」
話していると列車が峠の手前に位置する駅に停車した。この先の峠の上り勾配は22.5‰、つまり1km移動すると標高が22.5m上がるという鉄道としては急な勾配と半径300mの急カーブが連続する厳しい線形が続く。
そのために列車の最後尾に後部補機と呼ばれる補助の機関車をもう一両繋いでそれに押し上げて貰って列車は峠を越える。
そして勾配を登り終えると列車が走行したまま後部補機を切り離すというちょっと変わった運用をしている。
以前は日本でも山陽本線の瀬野~八本松間(通称セノハチ)で走行中に補機を切り離す運用をしていた区間があったが現在では駅で停車している時に切り離す運用に改められている。
………って言うか22.5‰勾配も半径300mのカーブもセノハチと同じだな。ここは日本と違う異世界の筈なのに随分と共通点が多い。
ちなみに通常運用の機関車を「本務機」、補助機関車の事は前に連結する場合は「前部補機」、最後尾に連結する場合は「後部補機」と言う。
あたし達が乗っている荷物列車6249レは後部補機を連結すると再び動き出した。
完全に作者の鉄道趣味丸出しの回になってしまいました
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