#41 脱出
#41 脱出
亜耶Side
ミスティックシャドウの剣でパイプを切断するが一向にジェネレーターが停止する気配がない。
「これで!!」
105mmアサルトライフルで斉射した。ジェネレーターの中央部に着弾して火花が散る。
しかし全く効果が無い。
「魔力が違いすぎてダメージが届かない・・・これなら!」
更に粒子ビットを連続して撃ち込むが大したダメージになっていないようだ。
今ミスティックシャドウに装備されている最大火力が粒子ビットだからこの機体じゃこれ以上の効果は望めない。
「粒子ビットでも駄目か・・・・・」
『そこをどきなさい亜耶!破壊するわよ!』
「リトラ!」
その時、ジェネレーターの直上かららしい砲撃でその構造物の上部が崩れた。
瓦礫が崩れ落ちて煙が上がる。
その中から魔導粒子砲を持ったヴァイスカノーネが現れた。
『このっ!!壊れろおぉぉぉぉッ!!!!』
続けざまにヴァイスカノーネが全ての兵装を全力斉射し、その魔力を使い果たしたヴァイスカノーネは膝を付き擱座した。
しかしジェネレーターは未だ停止していない。
『どうやらジェネレーターの停止は無理みたいね・・・ここじゃ艦砲射撃も届かないし』
「リトラ、脱出しますからこっちへ」
『今そっちに行くからちょっと待って・・・あれ?なんか傾いてない?』
「ジェネレーターの暴走で浮遊島の安定が失われつつあるみたいですね」
『アキレウスよりトパーズ1、亜耶、聞こえる?』
「トパーズ1、感度良好です」
『13号浮遊島の高度が下がってるわよ!早く脱出して亜耶!』
「わかりました、トパーズ2が擱座したのでリトラと今から脱出します」
『急いでね、亜耶』
「はい、すぐに脱出します」
リトラをコクピットに収容すると同時に大きな爆発が起こった。爆発は通路の天井を崩し出口への経路を塞ぎ、更に擱座したヴァイスカノーネを崩れた瓦礫が押しつぶした。
「あーあ、あの機体結構気に入ってたのに・・・これじゃシャフトを通って直上へ脱出するしかないわね」
「それしか無いようですね」
私はスロットルレバーを押し込んでミスティックシャドウを離陸させると戦闘機形態に変形させジェネレーターの直上から横方向に伸びる別の通路へと機体を滑り込ませる。
通路の狭い空間を駆け抜けるミスティックシャドウの眼の前で次々に隔壁が閉鎖され始めた。
「まずい!」
スロットルをオーバーブーストまで入れた。機体が猛加速を開始する。
施設内でけたたましく緊急事態を知らせる警報が鳴り響くのがコクピットにまで聞こえてきた。
次々に目前で閉まりつつある隔壁と壁の間をラダー操作とロールを駆使してギリギリですり抜けていく。
ジェネレーターのある方向で大爆発が起こったらしい。
ドォンという低く大きな音と共に後方から炎と煙が既に閉鎖された隔壁を吹き飛ばしながら機体に迫り、ついにミスティックシャドウを飲み込んだ。
昶Side
13号浮遊島の中心部が爆発を起こすのが上陸用舟艇「アキレウス」の小さな艦橋から見えた。
ミスティックシャドウの機影はまだ見えない。
あたしは通信機を掴んで叫ぶ。
「トパーズ1!!応答して!早く脱出して!!亜耶!!!」
「13号浮遊島が真っ二つに・・・・!!」
「えっ・・・・!」
カールス大尉の声に外を見ると中心部から真っ二つに割れて魔力による浮遊ができなくなった13号浮遊島がゆっくりと墜落していく。
大爆発が起こった。その衝撃波でアキレウスが激しく揺れた。
更に中心部、あのジェネレーターがあったあたりから更に2度、3度と爆発が起こり島全体が炎と爆煙に包まれ、たくさんの破片を撒き散らすのが見えた。
ミスティックシャドウの機影は未だ見えない。
亜耶Side
その爆発の衝撃波はミスティックシャドウのバランスを崩し、通路の壁に機体ごと叩きつけるには充分な強さだった。
「うぐっ!!」
「きゃあーっ!!」
機体は何度も通路の床や内壁に接触し弾かれた。身体がコンソールに叩きつけられて一瞬息ができなくなった。
コクピットが激しく揺れて口の中に鉄の味が広がる。どうやら今ので口の中を切ったらしい。
ミスティックシャドウは通路の真ん中でエンジンが停止して動かなくなっていた。
容赦なく爆風が襲いかかり機体が揺れる。
破損したコクピットの隙間から破片が飛び込んだ。
「うっ・・・!!」
スロットルレバーから左手が滑り落ちた。見ると左の肩と腕から出血してべっとりと濡れていた。今の破片が流れ弾のように当たったらしい。痛みで左肩から先の感覚が無い。
「あ・・・」
額から血を流したリトラがスロットルを押し込んだのだ。
ミスティックシャドウのエンジンはうんともすんとも言わない。
「この!!動け!!動きなさいよこのポンコツ!!」
「・・・魔力増幅器の回路に私の魔力を流し込みます、リトラはタイミングを合わせてエンジンの再始動を」
「ちょっと!何言ってるのよ!!そんな事したらあんた魔力欠乏で死ぬわよ!?」
「ここにいたらどっちみち死にます」
私は操縦席の足元にある点検ハッチを開くとそこにある魔力増幅器の回路に両手の平を向けると魔力を流し始めた。
肩からポタリポタリと血が落ちるのが見えた。
「痛っ・・・・・」
「何やってるのよもう!!頼りないわね、ほら!」
「リトラ・・・」
リトラは私の肩を担ぐと空いた方の手の平を同じように魔力増幅器に向けて魔力を流し始めた。
魔力増幅器が魔力の粒子で淡く輝き始めた。
「今だ動けえッ!!!」
リトラが魔力増幅器に手を向けたままスロットルレバーを蹴飛ばした。
するとミスティックシャドウのエンジンは低い唸りを上げつつ再始動した。
「行けえええっ!!」
ミスティックシャドウは再び猛加速を開始する。
昶Side
アキレウスは既に母艦であるアトロポスに帰還していた。
艦橋から飛行甲板を見ると何機かの汎用VTOL「雷光」が救難装備で出動する用意をしていた。
ふいに13号浮遊島全体が凄まじい爆煙と炎に包まれ、再び大爆発を起こした。
さっきよりも更に巨大な爆発炎で周囲が暗くなる。
「そんな・・・・・・!!」
あたしは艦橋の床にへたりこんだ。
その時、浮遊島から煙を吐きながら凄まじい速度で薄紫に塗装されたスマートな機体が飛び出してくるのが見えた。
「いた!!ミスティックシャドウ!!」
「どうやら無事に脱出できたみたいですな」
『トパーズ1よりアキレウス、聞こえる?』
通信機からリトラの声が聞こえてきた。
「こちらアキレウス、二人共無事なの?」
『生きてるわよ、でも亜耶が爆発の衝撃で負傷してる、それとアトロポスまで機体が持ちそうにないからそこの砂浜に不時着させるわ』
「すぐに救難装備の雷光を向かわせるから気を付けて」
『了解、待ってるわよ』
ミスティックシャドウは煙を吐きながらヨロヨロとすぐ下の砂浜へと降下していく。
あたしは救難装備の「雷光」へ向けて艦橋を飛び出した。
亜耶Side
ホログラフに映る海岸線が少しずつ大きくなる。
私は慎重に機体を操縦して高度を下げる。
人型形態で着地させるために変形レバーを操作した。
が、しかし機体は戦闘機形態のまま変形しない。変形システムの異常を知らせる警告ランプが点灯している。
「さっきの爆発で変形システムが壊れたみたいです」
「もう、この肝心な時に!!」
「このまま砂浜に胴体着陸させます、つかまっていて下さい」
「・・・・命預けたわよ」
「はい」
私はフラップを下げると機首を上げて機体後部から砂浜に接地させた。
ズンッっと鈍い衝撃が下からくる。
そのままゆっくりと機首を下げて機体全体が砂と接触して急減速し、ハーネスが身体に食い込んだ。
負傷した左肩と腕に激痛が走った。
「うああああああっ!!!」
「きゃあああああああああ!!!」
機体が大きくバウンドして跳ね、横転し、コクピットの照明が全て消えて機体が停止するのとほぼ同時にエンジンもその鼓動を止めた。
昶Side
「雷光」が砂浜に着陸するとそのすぐ近くに不時着したミスティックシャドウが見えた。まだ機体から煙が上がっている。
あたしがレスキュー隊と駆け寄るとミスティックシャドウのコクピットハッチが開き、リトラに肩を担がれた亜耶が出てきた。
「亜耶!!リトラ!二人共無事なのね?!」
あたしが肩を抱き寄せると亜耶はあたしに向けて微笑んだ。
「・・・ただいま、昶・・・・う・・・」
亜耶はそれだけ言うとあたしにもたれかかるようにして気を失った。
「この娘ストールしたエンジンの再始動に自分の魔力流したのよ、まったく無茶やるのね呆れたわ」
「あたしがそういう性格に創造しちゃったから、でもいい娘でしょ」
「悔しいけど認めてあげる・・・はやく医務室に連れて行ってあげなさいよ」
「そうね、帰ろう、「アトロポス」に」
あたしはお姫様抱っこで亜耶を抱きかかえると「雷光」にリトラと乗り込んだ。
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