#3 港町パルマポート
#3 港町パルマポート
パルマポート冒険者ギルドにて
今回の仕事の目的地でもあるパルマポートの街は神ラティス帝国の首都ラティスポリスからほど近くにある港町で貿易・交易が盛んであると同時にラティス帝国軍の第一空中艦隊の母港にもなっていて軍事的な要衝でもある。
ラティスポリスとパルマポートは日本で例えれば横浜と横須賀、広島と呉のような関係と例えればわかりやすいだろうか。
そのような土地柄だから軍人崩れの冒険者も多く、更に帝国軍からの武器や装備の払い下げを入手できる機会も多い。
その為に武器や防具、マジックアイテムを扱う業者が点在し仕事依頼も探しやすい事から傭兵や冒険者も多い。
それ故にその戦利品を買い取る故買屋も存在し、港町故に密輸品等の黒い商売をする者も珍しくない。
昶と亜耶、ライルとアスティはジゼルの荷馬車の護衛を追えてパルマポートに着くとまずはパルマポートの冒険者ギルドへ仕事で得た経験値のレベル変換と亜耶の冒険者登録をするために向かった。
首都ラティスポリスに次ぐ大都市の冒険者ギルドだけあってそこは活気に満ちていた。
一階にある冒険者向けの食堂で四人は食事を済ませると亜耶は新規登録の、昶達三人はレベルアップのカウンターの列に並んだ。
昶はレベル31に、ライルとアスティはレベル19へのランク上昇を果たした。
中堅と言われるのがレベル30以上だからこの数値だと昶は冒険者を始めて半年で早くも中堅に、ライルとアスティは初心者以上中堅未満といったあたりである。
Lv上昇の登録手続きが終わって亜耶を呼びに新規登録カウンターに脚を向けると争っている声が聞こえた。
何事かと昶達が新規登録のカウンターに駆けつけるとそこでは大きな戦斧を持った筋肉マッチョの大男に亜耶が絡まれていた。
「なんだと!!レベル28のこの俺が直々に冒険者の心得を教えてやろうってのに!!」
「お断りします、それにゴリラに心得を教わるのは私のプライドが許しません」
面白半分に見ていた他の冒険者達からどっと笑いが起きる。
「だっ、誰がゴリラだコラァ!!!」
「それに貴方が私よりも強いとも到底思えませんし」
「言いたいこと言いやがって・・・・・!」
「顔が真っ赤ですよ、ゴリラから茹で蛸へジョブチェンジですか?」
ライルとアスティが亜耶の毒舌に笑いを堪えているのが隣の昶にもハッキリわかった。いや、周りにいる他の冒険者達がすでに笑いを漏らしていた。
野次馬が増えていく。銀色の髪の華奢な美少女にごつい大男が毒舌でいいようにあしらわれているのだ。
「自分で創造しておいて言うのもアレだけどあの娘の毒舌はもう少し考えとくべきだったかな・・・・あー、亜耶さん?」
「何でしょう?」
亜耶がちらりと昶を見た。
「再起不能にだけはしないようにね、あと後遺症が残るようなことも」
「分かりました、気絶させる程度に手加減しておきます」
「ふざけやがって・・・・!」
通称ゴリラ男が戦斧を構えて亜耶へと襲いかかる。
亜耶はそれをひょいとかわした。大きな戦斧が勢い余って床に刺さる、と言うか床がバリンと抜けて貫通した。
「・・・・・何してるんです、冒険者を辞めて解体業者にでもなるつもりですか」
呆れたと言いたげな眼を細めた表情でぽつり。
「こいつ・・・・!」
更に頭に血を上らせたゴリラ男が次々と戦斧の打撃を当てようとするがそれを亜耶は平然と全てを避けてしまう。
「打ち込みが単調すぎて貴方がどんな攻撃をするのか簡単に予測できます、もっと手数を増やすついでに脳ミソも使う事をおすすめしますよ」
「こっ、この・・・・!」
あーあ、あんな大きな動き、大雑把な撃ち込みじゃ永遠に亜耶に当てられる訳ないわー、と昶は呆れながら大男の動きを見ていた。
「戦斧の打撃力の強さに頼りすぎです、もう少し軽くてきちんと当てられる武器を使用した方がいいですよ」
「・・・・い、いつまでも逃げやがって・・・」
「心外ですね、ゴリラを相手にしたくないので私から手を出さないだけなんですが、そこまで言うのなら・・・「エンチャント:フィンガー」!」
亜耶が右手の指に魔力付与の補助魔法をかけるとその指先がぼうっと魔力の粒子で光った。
「貴方の相手をするにはこれで充分です、それに動きが大きすぎて付け入る隙だらけですよ」
「バカにしやがってこのっ!」
亜耶はゴリラ男が振り降ろした戦斧を身体を捻って避け、もう一度戦斧を大きく振りかぶった次の瞬間にはゴリラ男の間合い、それもほぼ目の前にあっさりと入った。ゴリラ男の表情が驚きに変わり一瞬動きが止まる。
「なっ・・・!」
「言ったでしょう?動きが大きすぎると」
亜耶はゴリラ男の顔の前にすっと右手を出す。
「はい、終わり」
亜耶はデコピンを食らわせた。ただし魔力付与で強化した中指である。
ビシィッ!と小気味良い音がした。
「うげふぅっ?!?!」
ゴリラ男は亜耶の放った魔力で強化された強烈なデコピンに吹っ飛ばされて派手に転がり、柱に頭をぶつけて気絶して勝負は一瞬で終わった。
ギルドの中は静まり返った。まだ冒険者登録すらしていない華奢な少女がほぼ中堅と言えるレベル28の、それもごつい大男の冒険者をデコピンたった一発で、しかも手加減を調節して意図的に気絶させてしまったのである。
「・・・・・殴ると顔面の骨を砕きそうだったのでデコピンにとどめましたがこれで良かったんでしょうか?」
「あー・・・いいんじゃないかな(・・・やはり結構腹が立ってたんだな)」
亜耶の問いに思わず冷や汗をかきながら昶は答えた。
「えええええええええ???」
新規登録カウンターの受付の女の子が素っ頓狂な声を挙げた。
「ん?」
昶が冒険者証を覗き込もうとするとギルド員に制止された。個人情報でもあるから身分証明の必要がある時以外はあまり見せるものではないのがその理由だが、亜耶が昶の事を親友だから構わないと言ってくれた。
「・・・・・・・魔法戦士レベル50ですって????」
周りがどよめいた。さっきの騒ぎで集まった野次馬達から「カンストとかマジかよ・・」とか「レベル50の初心者とか聞いた事ねえ」とか「レベル50のデコピンって下手に喰らったら死ぬぞあれ・・・・」とか声が漏れ聞こえる。
「レベル50に喧嘩売ったのかこいつ・・・」と言いながらまだ目を回して気絶しているゴリラ男に同情する者もいた。
ちなみにレベル40になるまで年齢的に冒険者を続ける人は少なく、更に生き残る事も難しい事からレベル40以上は全冒険者のうち5%もいないと言われている。
昶がレベル31、ライルとアスティがレベル19だから亜耶とのレベル差は何をどうやっても勝てない如何ともしがたい差があるといっていいだろう。
ジゼル商会店舗にて
結局パルマポートの冒険者ギルドでは警備の仕事が見つかりそこへ移動することになった。そして依頼書の地図に記してあった場所に来て昶達四人は「あれ?」という顔をしていた。
「ねえ、この看板の「ジゼル商会」ってやはり・・・?」
アスティが看板を指差さした。
「とにかく仕事受けたんだし入ってみようぜ」
ライルの声に昶、亜耶、アスティは頷くとジゼル商会の扉を開けた。
店のカウンターの奥から出てきたのは知った顔だった。アスティが冒険者ギルドで警備の仕事を受けたことを話すとジゼルは喜んで迎え入れた。
ジゼル商会の応接室に四人は通されてそこでジゼルが最近仕入れたばかりだという紅茶を飲みながら依頼内容を聞いていた。
「実は妙な事がありましてね」
「何かあったんですか?」
「どうもウチの店の商品を狙っている盗賊がいるらしくて困っているんですよ」
「なにか高額な美術品とか珍しいマジックアイテムとかが狙われているんですか?」
亜耶の質問にジゼルは難しい顔をする。
「・・・・・それが今ひとつ納得が行かないものでして・・・特に高額でもなければ貴重な物でもなくて何故狙われているのかが皆目検討がつかないのです」
「それってどんな物なんです?」
「何の変哲もない石像なのですが取り敢えずご覧になって頂けますか」
ジゼルは「どうぞこちらへ」と店の裏にある倉庫に四人を招いた。
「とにかく近いうちに冒険者ギルドの専門家に見て貰おうかと考えています」
「確かに経験豊富な専門家にみてもらうのが一番正確な判断が出来るかもしれませんねえ」
昶が訊くとジゼルは「どうぞこちらへ」と店の裏にある倉庫に四人を招いた。
その時だった。倉庫の方から凄まじい悲鳴が聞こえたのは。
「何事だぁ??」
亜耶とライルがすぐに倉庫へと駆け出した。
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