#37 昶vs亜耶
#37 昶vs亜耶
13号浮遊島空域
「やっと撃墜した・・・う・・・・まだ頭痛が・・・」
亜耶は墜落していくセレーネを追いながら額に手をあてた。
「本当、嫌な感触・・・それにしても何処に墜ちた・・・」
ミスティックシャドウはセレーネの墜落地点を探して螺旋降下していった。
「あの程度で昶をどうにか出来る筈ない・・・!」
13号浮遊島はその全てが技術試験隊の施設になっているわけではない。
施設以外の場所には川や森林といった自然が残されている。
ホログラフで見回すとうっすらと煙が上がっているのが見えた。
「・・・あそこか!」
ミスティックシャドウを注意深く降下させる。
そこにはセレーネが不時着していた。
亜耶は被弾して動かなくなったセレーネの至近距離にミスティックシャドウをホバリングさせた。
脚を失ったセレーネは擱座するように片手を突いて少し上向きになって河原に不時着していた。コクピットハッチは開いたままになっている。
「・・・・・?」
開いたままのコクピット内を覗き込もうと亜耶はホバリングさせたままミスティックシャドウのコクピットハッチを開くとハーネスを外して立ち上がりセレーネのコクピットを覗き込んだ。
見たところセレーネの機能はほぼ全てが停止しているらしい。コクピット内の機器類や照明は消えて薄暗くなっていた。
亜耶は念のために防御魔法を発動させる用意をしていた。
「・・・」
亜耶が覗き込むと昶の姿が見えた。
昶は頭から血を流して気絶しているように見えた。
「・・・・ん・・・・?」
亜耶はその違和感に不安を覚えた。
一瞬、昶がニヤリと笑ったように見えた。
「・・・え?」
昶は亜耶をキッと睨むとロケットランチャーを構えた。
「昶!!!」
「ちゃんと逃げなさいよ亜耶!!」
発射された対戦車ロケット弾は亜耶がコクピットから跳ぶのとほぼ同時にホバリングしているミスティックシャドウに直撃しそれを河原に叩き落とした。
そしてその爆風は亜耶も吹き飛ばし、亜耶は河原に転がった。
「・・・う・・・・・っ!!」
亜耶が起き上がると自動小銃を持った昶が近づいてくるの見えた。
「昶・・・!」
「その紅い瞳・・・まだ正気に戻ってないみたいだね」
「・・・・・・・・・・・」
亜耶は無言で魔法陣を展開する。
昶はそれに構わず亜耶に近づいて行く。
「私がビットを飛ばせば貴女は死にますよ・・・・!」
「ふうん、じゃあそうすれば?」
「・・・・・このっ!!」
亜耶は一瞬躊躇して、それからビットを飛ばそうとした。
「遅いわよ!!」
「なっ?!」
昶は自動小銃を構えると亜耶の足元めがけて連射する。
ビットの発動を中止した亜耶は今度は防御魔法を展開しつつ昶に掴みかかろうとしたが昶にあっさりかわされて一瞬隙ができた。
それを逃さず昶は亜耶の右腕を掴むとその姿勢を崩して引き寄せる。
昶はそのまま踏み込むと亜耶に思いっきり平手打ちをくらわせた。小気味いい音がした。
「・・・・・・え?」
「いつまでも何やってんのよ心配させて!!」
「何を・・・・!」
亜耶は昶の手を振りほどくと昶を蹴り飛ばす。
「何すんのよこのバカ娘!!」
「バカとはなんですか!!!」
「バカでしょ!いつまでも洗脳されてるんじゃないわよ!!」
再び昶が亜耶にばちーんと平手打ちをくらわせる。
「二度も!!親にだってぶたれた事無いのに!!」
「・・・・どこのアニメキャラよ・・・・」
呆れた顔の昶に亜耶は剣を抜くと斬りかかる。昶は自動小銃を斜めにして剣を受け流す。
そのまま亜耶はたて続けに剣で攻めてくる。自動小銃の先端に装着した銃剣で昶はそれを受け止める。
「白兵戦で私に勝てるつもりですか昶!」
「生憎そのつもりよ!亜耶のやり方を設定したのはあたしなんだからね!」
昶が薙ぎ払うように銃剣を振るがすでに亜耶の姿はそこにはなく人間離れしたその運動能力で空中に跳躍していた。
「!!」
「思ったよりやりますね、これで!」
亜耶が飛ばすビットを昶は横っ跳びに躱すと地面に転がってその全てを回避する。
そこに斬りかかってくる亜耶の剣を銃剣で払う。
「まだよ!」
「流石ですね・・・・昶!」
基本的に亜耶は近接戦を、昶は銃を使用しての中距離~遠距離での戦闘を得意とする。
この至近距離の間合では自然と亜耶が有利になり昶は押され気味になってきた。
「く・・・!」
「・・・・・もう終わりです、昶」
(まずいかなこりゃ・・・・これじゃ亜耶を正気に戻せない)
亜耶が昶に鋭い突きを入れる。その突きは昶の脇腹に刺さった。
「・・・あぐっ・・・・!」
「これで終わりです・・・・なっ?」
昶は自分を突き刺した亜耶の腕を左手で掴むと空いている右手で拳銃を亜耶の額に押し当てた。
亜耶が驚きと恐怖の入り混じった表情で紅い瞳を見開く。
「どっちが終わりかしらね亜耶!!」
「昶・・・貴女は、私の・・・!」
パンッと乾いた発砲音がして額を撃たれた亜耶が仰け反り、後ろへとゆっくり倒れた。
「甘いわよ・・・あたしが何もせずに刺される訳ないでしょ」
昶は倒れている亜耶を抱き起こした。
その額のサークレットは粉々に砕け散っている。サークレットを亜耶の頭から外すとその頬をぺちぺちと叩く。
「・・・・・・う・・・・・」
「亜耶・・・大丈夫?」
「・・・・え・・・?」
亜耶がゆっくりと瞼を開くとその瞳は元の金色の瞳に戻っていた。
「あれ・・・・私、額を撃たれて・・・?」
「撃ったのは暴徒鎮圧用の魔導スタン弾よ、でもこの悪趣味なサークレットは粉々にできたし・・・・・どうやら正気に戻ったみたいね?」
「はい・・・もう大丈夫です、さっき撃たれた時は本当に死んだと思いました」
「あたしもさっき刺された時は死んだかと思ったわよ」
「・・・!!大丈夫なんですか、昶」
「突かれた部分のポケットに入ってた予備弾倉が剣を防いでくれたのよ・・・ほら」
「そうでしたか・・・その・・ごめんなさい、昶」
「もういいよ、それとセレーネのコクピットにアサルトロッドを持ってきてあるから使って」
「・・・・・はい」
昶と亜耶の目の前にヴァイスカノーネがゆっくりと降下してきた。
『どうやらそっちはカタがついたみたいね』
機体外部のスピーカーを通してリトラの声が聞こえてきた。
「もう大丈夫よ、亜耶は元に戻ったから!」
『そう、じゃあアトロポスに伝えておく』
「うん、お願い」
『それともうすぐ駆逐艦「キャンドルタウン」が突入するから一旦離脱した方がいいわよ』
「行くよ、亜耶」
「はい!」
昶と亜耶は顔を見合わせるとミスティックシャドウとセレーネの方に向かった。
・・・・・・・・だがしかし。目の前のセレーネは完全に全損である。
「・・・・・・しまった・・・・・」
「・・・・・・セレーネ・・・・ほぼスクラップですね」
「・・・・・誰のせいよ誰の」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「ミスティックシャドウはまだ動けますからあれを使いましょう」
『じゃああたしからミスティックシャドウは味方機だって艦隊に伝えておくわ』
「お願い・・・・ところであの機体は複座なの?」
「・・・・・いえ、本来は単座ですが一応予備の補助席が」
亜耶が指さした先にはまるで観光バスの通路側に付いているような申し訳程度のささやかな補助席が壁に折り畳まれていた。
「・・・・これ??」
「・・・・はい・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
まだまだ前途多難であった。
面白かったら、下の評価をクリックしてポイントを入れてください。
よろしくお願い致しますヽ(´▽`)/!




