#36 13号浮遊島攻略作戦 その2
#36 13号浮遊島攻略作戦 その2
13号浮遊島 司令室
「どうやら威力の問題は無さそうね」
「はい、フィールドキャノンの破壊力は想像以上です」
「第二射までの魔力チャージに必要な時間は?」
「あと4時間程かかります・・・・砲撃は「リフレクトシールド」の防御魔法で防ぎます」
「そうして頂戴、残ってるのは帝国軍は強襲揚陸艦と駆逐艦2隻、アトロポス艦隊は駆逐艦1隻を沈めただけで戦力はほぼそのまま・・・・厄介なのが残ったわね」
コルディアが腕組みして考えているとツナギ姿の亜耶が司令室に入ってきた。
格好から察するにどうやらミスティックシャドウの整備をしていたらしい。
「司令、私はまだ出なくても良いのですか?魔導機兵部隊を率いて警戒するくらいはしますが」
「今はいいわ、あれをご覧なさい」
コルディアが司令室の超大型ホログラフを指差すとそこにはアトロポス艦隊が映し出されていた。
「なるほど、フィールドキャノンの射程外で全艦隊が待機・・・いえ、様子見という所ですか」
「ええ、だから今は哨戒用のVTOLで事足りてるわ」
「問題なのはアトロポスがどう仕掛けてくるかですがどう対処されるのです」
「あの程度の規模の艦隊ごときでこの13号浮遊島を止められやしないわよ少佐」
「アトロポスをあまり過小評価しない方が良いかと思いますよ・・・・彼らが本気になった時に慌てても遅いと思いますが」
「その時の迎撃と指揮は少佐に任せるわ」
「・・・・・・わかりました」
踵を返して亜耶が司令室を出るとコルディアは吐き捨てるように呟いた。
「いちいち忌々しいのよ・・・・人間ですら無いカテゴリーⅡが!」
昶Side
「しかしどうするんです」
「あの攻撃魔法をもう一度喰らったら全滅は免れんぞ」
「だからと言ってこのまま待機し続けるわけにもいかんだろう」
アトロポス艦内にある会議室。
さっきの13号浮遊島からの攻撃から生き残った艦の艦長や飛行隊長が集まり作戦会議を行っていた。
「そもそも問題なのはあの兵器だ、もし第二射があったらただじゃ済まんだろう」
「それに関する予測が先程出ました」
ティア副長が書類を携えて会議室に入ってきた。
「これまでに13号浮遊島に搬入されていることが確認されている結晶石の分と012号輸送艦から運んでいた結晶石の分から召喚に使われた15万個分を差し引いた数字から予想したものです」
「それで第二射が行われるのに最低でどれ位かかるんだい副長」
「先程の砲撃と同規模の出力の場合、現時刻からほぼ4時間と予測されています」
「猶予は4時間か・・・」
「残った主力艦は強襲揚陸艦が2隻だ、したがって出来る作戦は限られる訳だが・・・・」
「しかし上陸用舟艇で乗り付けるのは危険過ぎるぞ、しかも支援砲撃の要になる重巡洋艦も失ってしまったし」
「重巡の主砲が無いのはつらいな」
「アトロポスの主砲がありますがさっきの砲撃で破損してまだ復旧出来ていません」
「うーん・・・支援爆撃に投入できる魔導機兵も半数以上が砲撃に巻き込まれてしまったしどうしたものか・・・・・」
一同全員が考え込む。
「あの・・・いいでしょうか」
あたしは遠慮がちに手を挙げた。
「若桜少佐、何かアイデアがあるなら遠慮無く言ってくれ」
「爆薬を満載した駆逐艦を13号浮遊島のドッキングポートに突入、自爆させるんですよ、上陸用舟艇をそこから突入、上陸させて内部から大型ジェネレーターを破壊するんです」
坂崎艦長がふむ、と考えた。
「なるほどね、サン・ナゼール強襲・・・「チャリオット作戦」のオマージュといったところか」
「はい、アトロポスの主砲で艦砲射撃をするにしても絶対的な数もドッキングポートの防御装甲を破る打撃力も足りませんし、あの大型ジェネレーターで防御魔法を発動されたら防がれてしまう可能性が高いと思われますので、それならばできるだけ質量の大きな物体に爆薬を満載して突破し突入した方が効果が高いと考えます」
「言いたい事はわかったが「チャリオット作戦」というのは聞いた事が無いんだが・・・・?」
帝国軍の艦長の一人が疑問を口にした。
そりゃそうだろう。「チャリオット作戦」は第2次世界大戦中、1942年3月28日にイギリス軍が行った作戦なのだから。
ちなみに坂崎艦長が転生前に乗り組んでいた日本海軍の空母「瑞鶴」が戦没したのが1944年10月25日だから恐らく当時既にこれを知っていた筈だ。
「チャリオット作戦」というのは第2次世界大戦真っ只中の1942年、当時ドイツ軍に占領されていたフランスのサン・ナゼール港の乾ドックに爆薬を満載した駆逐艦の突入・自爆させた後に小型舟艇による強襲を行った作戦である。
この乾ドックは当時のドイツ海軍の最新鋭艦であったビスマルク級戦艦をはじめとするドイツ海軍の大型艦艇を修理し得る大西洋側で唯一の施設だった。
それを破壊することで修理を必要としている多くのドイツ海軍艦艇をドイツ本土の施設へ移動させざるを得なくなり、結果としてドイツ海軍の実働戦力を削ぎ落とせるとイギリス軍は考えたのだ。
このチャリオット作戦で爆薬を積み、小型舟艇を率いた駆逐艦「キャンベルタウン」はドックのゲートに衝角突撃を敢行し自爆、これを破壊したのである。
これがまたドックを完膚なきまでに叩き壊した為にこのドックが復旧したのは戦後10年以上の月日が経ってからというオマケ付きであった。
「現状で一番打撃を与えられるのは他に方法が無いか・・・」
「仮にこの空域まで新たに戦艦を派遣してもその頃には向こうが第二射を行えるようになってしまうな」
「駆逐艦1隻を失うのは痛いが背に腹は代えられないだろう」
「それにあたしと昶、いえ若桜少佐がその護衛に付くから絶対に突入は成功させるわよ?」
「よし、それで行こう、みんな異論は無いな?」
坂崎艦長の発言に作戦会議に出席していた全員が頷いた。
13号浮遊島 司令室
「たかが駆逐艦1隻で何をするつもりなの?」
「わかりません・・・!」
「念のためミスティックシャドウで出ますよ司令・・・多分セレーネとヴァイスカノーネも出て来ると思われますので」
「任せるわ少佐」
昶Side
アトロポスをはじめとした残存艦隊がゆっくりと前進し始めた。
さらにそこから1隻の駆逐艦が進み出てきた。
帝国軍の数少ない生き残りの駆逐艦「キャンドルタウン」である。
奇しくもチャリオット作戦で突入したイギリス軍駆逐艦「キャンベルタウン」と一文字違いだ。
そういえば。
帝国軍の駆逐艦は基本的に日本語で、それも自然現象から命名される。
しかしこの艦は違っていて帝国の地名から付けられている。
何故なのか気になって坂崎艦長に聞いてみたらこの艦は元々帝国軍の駆逐艦だったわけではなく先の大戦で戦時賠償艦として引き渡された艦でそれ故、帝国製では無いために区別するために艦名が自然現象からではない命名になったのだそうだ。
あたしはセレーネに携帯用の火器を色々と積み込むとリトラのヴァイスカノーネと共にアトロポスを離艦すると13号浮遊島へと機体を向ける。
13号浮遊島に接近すると見覚えのあるスマートな機影が視界に入った。
間違いない、あの薄い紫色の機体は亜耶のミスティックシャドウだ。
「いくら亜耶でも邪魔はさせないよ!」
『いい度胸です昶!』
お互いに反航で105mmアサルトライフルと90mmSMGを撃ち合う。そのまま高速ですれ違うと2機とも同じようにインメルマンターンで再び対峙する。
「接近戦なんてしたくないからね!」
高速で近づいてくるミスティックシャドウの鼻先に90mmSMGを連射して近接戦闘に持ち込まれないようにする。
ミスティックシャドウはその高い機動性能を活かして鋭角的に向きを変える。
『っ!』
「・・・速い!」
やはり亜耶のミスティックシャドウは最新鋭の試作機だけあって運動性能が高い。
同型機でバリエーション違いのヴァイスカノーネと比較しても速いのは恐らくミスティックシャドウの方が機体が軽いのだろう。
ヴァイスカノーネはというと13号浮遊島から発進してきた他の敵魔導機兵の方に向かっていた。
『雑魚があたしの邪魔するんじゃないわよおおおおおっ!』
リトラは次々に敵のフェンリルを撃ち落としていた。あっちはあっちで高性能試作機無双をしてるっぽい。
『何をしているんです昶!』
「おっと!」
剣を抜いて高速で接近してくるミスティックシャドウを90mmSMGを斜めに構えて防ぐ。剣を受け流すと一連射しつつ蹴飛ばして離れる。
『甘いですよ昶!!』
「あっ?!」
亜耶は剣を投射するとその剣はセレーネの膝から下を切り落とした。
ミスティックシャドウはそのまま105mmアサルトライフルを連射しセレーネの胴体、コクピット付近に命中した。
「きゃあーっ・・・・!」
被弾してバランスを崩したセレーネがスピンしながら13号浮遊島へと墜落していく。
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