#35 13号浮遊島攻略作戦 その1
#35 13号浮遊島攻略作戦 その1
昶Side
翌日、パルマポートの帝国軍海軍司令部から通達と傭兵部隊としてのアトロポスに正式な依頼があった。
その内容は13号浮遊島の発見及び奪還を主とする作戦とその作戦への参加に関する依頼であった。
ちなみに作戦開始は明日の朝0800から。
参加艦艇はあたし達のアトロポス艦隊6隻に帝国軍の小型空母1隻と空母型強襲揚陸艦1隻、その護衛に重巡洋艦と軽巡洋艦を含む艦艇8隻の合計14隻で行われるのだそうだ。
「壮観ですね」
「よく集めたもんだわ」
『ウチは傭兵部隊だから単独行動が多いですけどこれだけの規模の艦隊行動をするのは珍しいですよ・・・・そろそろ我々ガーネット小隊は所定の方向に進路を変えます』
「トパーズ1了解」
『トパーズ2了解』
あたしとリトラで、つまりセレーネとヴァイスカノーネでの支援射撃チームとルスター大尉達の紫電チームに分けて編成されていた、ちなみに一緒に行動するヴァイスカノーネのコールサインは「トパーズ2」だ。
ガーネット小隊の紫電の編隊が一斉に進路を変える。
「魔力感知は任せたわよリトラ」
『亜耶程じゃないけどね、任されたわよ』
13号浮遊島は所定の空域から領海に沿ってパルマポートやラティスポリスの方向へ移動中と推測されている。
その方向へ各母艦から扇状に索敵とペイント弾によるマーキングを行うべく索敵機が飛んでいる。
かく言うあたし達も今回は通常装備と別にペイント弾を装填したディスペンサーをハードポイントに装備している。
このディスペンサーは地球世界でトーネードIDSという多用途型の攻撃機が使用していた物にかなり似ている。
トーネードIDSが湾岸戦争でこれを使用した時は30発の子爆弾と時限爆弾としても使用可能な215個の地雷を散布するディスペンサーを装備し、高速で低空侵入することでレーダーの探知を逃れつつ爆撃を行って飛行場、つまり滑走路の機能を破壊する事を任務としていた。
今回のあたし達を含めた魔導機兵部隊もこれとほぼ同様のディスペンサーにペイント弾と子爆弾を装填していて最初の一撃で13号浮遊島の基地としての機能をある程度奪おうという計画である。
さて、帝国軍の部隊は一番可能性が高いと思われる領海に沿った空域での索敵に向かっている。
それに対してあたしとリトラの機体はそこから少し内陸沿いに近いルート上を飛行していた。
これだとカテゴリーⅡの職員が多い施設である魔法研究機関やいくつかの帝国軍基地、それ以外の転生者の多い場所だとパルマポートやラティスポリスの冒険者ギルドの周辺、王城やその周辺施設への距離も近い。
ただその反面発見される確率は高くなるから帝国軍はこのルートを本命とは見ていないらしい。それでも一応艦隊は領海沿いと内陸沿いのどちらにも急行できるようにその中間の空域を航行している。
「それにしてもそうバカ正直に領海沿いを移動するかしらね?」
『あいつの事だから裏をかこうと違うルートを移動させてるんじゃないかしら』
まあそう思ったからこそ帝国軍とは違う空域の索敵に向かっている訳だが。
「13号浮遊島のレイ・リフレクターはもう稼働してるって話だったけどさ」
『一昨日あたりから本格稼働してる筈よ』
「見つけるまでが骨だわね・・・」
『大丈夫よ』
リトラがそっけなく言った。
『だってあんたこの前プロメテウスを見つけたじゃない』
いやまあ確かに見つけたけど運もあったからなあれは。
『・・・・ん』
「どうしたの?」
『近いかもしれないわよ、結構な量の魔力を感じる・・・・・ところでなんだけどさ』
「何よ?」
『亜耶を正気に戻す方法』
「あのサークレットの宝玉の破壊でしょ」
『そう、あれが精神介入の触媒だからあれを粉々にすれば確実に元に戻るわよ』
「わかってる、そのための武器の用意はできてるわよ」
あたしは腰のホルスターに装備した小型のオートマチック拳銃に触った。他にも小型のロケットランチャーやら各種装備をコクピットに積んでおいた。
とにかく絶対に亜耶を取り返す。
その時、ホログラフに囲まれた視界の片隅に見える山々の稜線が妙に動き、歪んだように見えた。
「あれは・・・・!!、行くよトパーズ2!!」
『どうしたのよ?』
「山の稜線が妙に歪んだの!」
『わかったわ!』
セレーネとヴァイスカノーネは稜線が歪んで見えた山々が見える方向へと旋回し、エンジン出力をミリタリーパワー(通常領域でのフルパワー)まで上げた。魔力粒子の輝く航跡を残して2機の魔導機兵が編隊を組んだまま90度バンクで旋回しつつ加速する。
『それでどこよ?』
「あの2番めに高い山の少し右!ほら稜線が揺らいだ!」
『あら本当、よーし突っ込むわよ!』
セレーネとヴァイスカノーネの2機がエシュロン編隊で並び、その揺らぎの中心に到達するとディスペンサーを作動させた。
機体から盛大にペイント弾と子爆弾がばら撒かれ、揺らぎの表面を突き抜けてあちこちで小爆発を起こした。
そのまま高速で13号浮遊島上空から離脱する。
アトロポスに位置を伝えると装備を換装するために一旦アトロポスに帰投する針路を取った。
程なくして他の魔導機兵部隊が到着し、続いてアトロポス艦隊と帝国軍艦隊が主砲の射程内まで接近して来た。
いよいよ決戦になる。
アトロポス艦橋
「本艦の主砲の射程内に入りました」
「副長、各艦載機は射線上から退避しているな?」
「はい、既に完了しています艦長」
「よし、一番、二番主砲及び前部舷側砲塔は射撃開始!」
「撃ち方始め!!砲撃しつつ左8点一斉回頭!回頭が終了したら全主砲を使用して砲撃!」
砲術長の命令でアトロポスの主砲が一斉に火を吹いた。
砲弾が次々に着弾し13号浮遊島の迎撃用の砲塔が一つまた一つと沈黙していく。
砲撃しつつ全ての艦が魔法の粒子が航跡の弧を描いて取舵、つまり左方向へ向きを変え始める。
「各艦は主砲の射程内に入り次第各個の判断で艦砲射撃を開始せよ!」
帝国軍艦隊もそれぞれの艦が砲撃を開始した。
が、しかし。
各艦の主砲による艦砲射撃はすぐに展開された巨大な魔力障壁によって反射、弾き返された。
「やれやれ、厄介だな・・・それにしてもこれまでの防御魔法とは異なるようだ」
「確かにフォースフィールドともマジックウォールとも違うようですね・・・・どうしますか?まだ砲撃を続行しますか?」
「続けよう、このまま向こうの魔力を少しでも多く消費させるんだ」
「わかりました」
砲撃を継続しつつ艦隊は13号浮遊島へと接近を続けつつ時間が経過した。
「・・・・・・変だな」
「艦長、どうしました?」
「抵抗が薄すぎる、これまでのコーネウス准将のやり口を考えたらおかしい」
「・・・・そうですね」
「あの13号浮遊島の大型ジェネレーターは召喚の為だそうだが本当にそれだけだと思うか?」
「リトラ大尉が言っていたように攻撃に転用する可能性ですか」
「艦長!13号浮遊島の真上で魔力が増えつつあります!」
「!!!!艦長!!」
「まずい!!全艦取舵一杯一斉回頭!!降下せよ、急速にだ!!最大戦速!!」
アトロポス艦隊が一斉に左へと急速に回頭しつつ急降下する。
輝く魔法の粒子の航跡が綺麗な弧を描く。
13号浮遊島 作戦司令室
「アトロポス艦隊が左に急速に回頭しつつ降下し始めました!」
「ふん、流石に歴戦の傭兵部隊だけあって勘がいいわね、魔力の収束状況はどう?」
「魔力収束100%に達しました」
「よろしい、照準は艦隊に向けて固定、カウントダウン開始、10秒後に発射する」
「カウントダウン開始します、10、9、8、・・・・・」
13号浮遊島の真上に巨大な魔法陣が発生しその中心部に大量の魔力の粒子が収束していく。
昶Side
13号浮遊島上空に信じられないサイズ、直径にして500m以上はあろうかという巨大な魔法陣が発生した。
そしてその魔法陣は艦隊のいる方向を向いている。
「ちょっと何よあのバカでかい魔法陣は・・・!!」
『あんなのあたしだって見た事ないわよ・・・あんな装備あるなんて聞いてない・・・!』
呟いたリトラの声もかすれていた。
「アトロポス艦隊は?!」
『一斉回頭してるみたいね』
アトロポスのいる方角を見ると長い魔力の粒子の航跡をひきつつ一斉に左へと点回頭するのが見えた。
1隻だけ僅かに遅れて回頭を始めてる・・・あれは帝国軍から合流した駆逐艦「淡雪」だ。
最新鋭艦なのだそうだがそれ故にまだ練度が低いのだろうか。
魔法陣の中心に向けて急速に魔力の粒子が収束し集まっていく。
『ちょっとあれ!』
「やっば!!一旦距離を取るわよ!!・・・・トパーズ1より魔導機兵部隊へ!全機左へブレーク!!13号浮遊島上空の魔法陣の射線上から直ちに回避!!」
魔法陣の中心に魔力の粒子が集まりきったと思った瞬間、それは起こった。
『きゃーっ!』
「うわああああっ!!」
魔法陣の中心から凄まじい量の粒子が収束し、艦隊の方向に放射された。
その光芒はセレーネにヴァイスカノーネのホログラフとあたし達の視力を一時的に奪い、そしてアトロポス艦隊に比べて回避運動に入るのが遅れた帝国軍艦隊を巻き込んだ。
巨大な魔法陣から放射された光の束に帝国軍の小型空母が胴体の中心部をあっさり貫かれて両断され爆発するのが見えた。
その周囲にいた護衛の駆逐艦や重巡洋艦が光芒の直撃を受ける。
ある駆逐艦は胴体が折れた。またある駆逐艦は艦橋や砲塔、煙突といった上部の構造物が溶けるように薙ぎ払われた。
艦隊の先頭、小型空母の前方を航行していた重巡洋艦は回頭中の側面に直撃、胴体の中心に被弾するとアルミ缶を握り潰すように一瞬でひしゃげて大爆発を起こし四散した。
「帝国軍艦隊が・・・・!」
『被害は・・・帝国軍艦隊は駆逐艦2隻と強襲揚陸艦を残してその他の艦は全て撃沈、アトロポス艦隊は駆逐艦「淡雪」が回避運動が間に合わずに撃沈・・・って言うか一瞬で粉砕・・・・』
「なんて威力・・・・!」
『あのジェネレーター、やはり召喚だけじゃ無かった・・・!!』
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