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#34 リトラ

#34 リトラ


 技術試験艦プロメテウス 艦橋


 「は?今度は民間の貨物飛行船を襲撃して結晶石を確保?あたしは強盗したくてここにいるわけじゃないのよ?」

 「命令よ」

 「そんなのあたしじゃなくても出来るんじゃないの?」

 「あいにく涼月少佐には他にもやって欲しい事があるのよ」

 「ふん、まあいいわ、でも弱い者いじめみたいな真似はしないわよ」


 踵を返してブリーフィングルームから出て行くリトラを見送ったコルディアは誰に聞こえるでもなく呟いた。


 「・・・・あの娘には少し警戒が必要かしらね」


 コルディアは少し考えると亜耶を呼び出した。




 アトロポス艦隊 哨戒空域


 「結局プロメテウスには逃げられたか・・・・」

 『あの高性能機相手じゃどうにもなりませんよ隊長』

 「たしかにそうだがヴァイスカノーネとミスティックシャドウを2機同時に相手にするのはそれなりの戦術や装備を練り直さないと対抗すのは難しいな」


 アトロポス第一飛行小隊の魔導機兵3機はエシュロンと呼ばれる編隊を組んでアトロポスから見てプロメテウスが脱出をした方向の哨戒・索敵任務にあてられていた。

 エシュロンとは先頭のリーダー機から斜め後方へと僚機が一列に並ぶ編隊である。


 その隊長のルスター大尉は周囲への目視警戒をしながら愛機である紫電を飛行させていた。

 紫電は帝国海軍の正式量産機であるフェンリルを傭兵部隊アトロポスでの運用に適するように独自に魔法炉や魔力増幅器の交換や火器管制装置の改造等をしたカスタム機で艦載機の魔導機兵は昶達のセレーネ以外は全てこの紫電で構成されている。


 『アトロポス管制よりガーネットリーダー、魔力反応を感知した、君達が一番近い、魔力量から見て魔導機兵1機ないし2機と思われる』

 「ガーネットリーダー了解、索敵にあたる、聞いての通りだみんな注意しろ」

 「ガーネット2了解」

 「ガーネット3了解」


 3機の紫電はエシュロン編隊を解くとそれぞれの方向へと索敵するべく散って行く。




 アトロポス艦隊 哨戒空域近傍


 「・・・・冗談じゃないわ」


 リトラは戦闘機形態で巡航中のヴァイスカノーネのコクピットで操縦桿を握りながら忌々しそうに呟いた。

 腹立たしい。

 自分を召喚したのはあの連中だがそれにしたってやる事が気に入らない。


 あの本の中じゃ確かに自分は亜耶と敵対する悪役ではあった。

 だが卑怯な振る舞いは一切しなかったのが自分の誇りだ。


 最初は「ディメンション・カウンターに協力をすれば亜耶と決着を付けさせてくれる」という話だったから言う事を聞いていたが、さっきの強盗まがいの仕事の命令で愛想が尽きた。


 あんな仕事をさせられるのはまっぴらだ。

 いずれにしてももうプロメテウスに戻るつもりは無い。


 「よし、やはりあそこに行こう・・・・それとさ、言いたい事があるんじゃないの?亜耶、追跡してる事くらいわかるわよ」

 『・・・・気付いてましたか』

 「魔力で気配を感じられるのは貴女だけじゃないのよ・・・いわば亜耶とあたしは同じ親から産まれた姉妹みたいな存在なんだから」

 『戻って下さい、でなければ私は貴女を始末しなければいけなくなります』

 「戻る気はないわよ・・・それとさ、いつまであんたはそうしてるつもりなの?本気であの連中に手を貸し続けるつもりなの?」

 『・・・・・大きなお世話です、つまりプロメテウスに戻る気は無いのですね』

 「ええ、無いわよ・・・・・誰があんなテロリストと!」

 『わかりました、ではそれ相応の対処をします』


 亜耶のミスティックシャドウはヴァイスカノーネの前方に回り込むと目の前で人型形態に変形した。

 

 「いいわ、決着付けてやろうじゃないのよ・・・元々それが目的だったんだし!」


 リトラはヴァイスカノーネを人型形態に変形させるとミスティックシャドウの周囲に向けて右手の90mmSMGをセミオートで数発撃って近づけないようにしつつ距離を取る。


 「あんたと近接戦闘するほどバカじゃないわよ!」

 『それなら・・・!』


 亜耶はミスティックシャドウ専用の特殊兵装である粒子ビットを起動した。

 

 「そう来ると思ってた!」

 『避けさせませんよ!』


 ヴァイスカノーネを取り囲むように粒子ビットがミスティックシャドウから次々に切り離されて飛んで行く。


 『当たれ!』

 「させるかーっ!!」


 ヴァイスカノーネめがけて突っ込んで来る粒子ビットを相殺するべくリトラは全ての射撃兵装を開く。


 「全て撃ち落とす!」

 『やれるものなら!』


 90mmSMG、頭部20mm機関砲、肩部ロケット弾ポッド、魔導粒子砲が一斉に火を吹いた。


 粒子ビットの半数を撃ち落とされた亜耶は更に粒子ビットを飛ばし、ミスティックシャドウとヴァイスカノーネの間の空間に集まるとそれぞれが連動して円周上に並ぶとその中心に向けて魔力粒子を放出し、一つの巨大な魔法陣を生成した。その中心に向けて急激に魔力粒子が収束する。


 「そんなの喰らわないわよ!」


 リトラはヴァイスカノーネを巨大魔法陣に向けて急加速させると魔法陣を構成する粒子ビットを蹴り落とし、それを90mmSMGと頭部20mm機関砲で破壊した。


 「残念だったわね・・・・きゃああっ!!」

 『引っ掛かりましたね・・・ここまでです』


 亜耶は魔法陣を構成していたもの以外にも粒子ビットを待機させていて、それを魔法陣に気を取られていたリトラのヴァイスカノーネに命中させた。


 「この・・・」

 

 リトラはミスティックシャドウから離れるべくスロットルを押し込む。


 『ここまでですね、リトラ』


 亜耶はミスティックシャドウの105mmアサルトライフルの銃口をコクピットに向けた。





 「目標視認!・・・ん?なんだ?同士討ちしてるのか?」

 『どうしますか隊長、どっちを撃つものか判断しかねますが』

 「よし、ガーネット2及びガーネット3はあいつらの中間に射撃してあの2機を一旦離れさせろ、俺はヴァイスカノーネの方の対処にあたる」

 『『了解!』』


 「っ!邪魔を!・・・・プロメテウス管制、邪魔が入りました、アトロポスの紫電隊です」

 『ふうん・・・・じゃあ戻っていいわよ、どうせ敵対しているんだし彼らがヴァイスカノーネを撃墜してくれるわよ、裏切り者に用は無いわ』

 「わかりました、帰投します」


 亜耶はミスティックシャドウを反転、プロメテウスに帰投する進路を取った。




 「ん?動きがおかしい・・・何だと?」


 ルスター大尉の紫電の前に戦闘機形態のヴァイスカノーネが滑り込むとランディングギアを出した状態で左右にバンクをした。

 更に90mmSMGを投棄し、ロケット弾や頭部20mm機関砲、グレネードランチャー、魔導粒子砲を何もない前方に向かって全ての残弾を撃ち尽くし弾倉を完全に空っぽにする。

 戦闘をするつもりは無いという意思表示の行動だ。


 『そこの紫電、聞こえる?この通りこちらに残弾は無く貴官らとの交戦の意志はない、アトロポスへの亡命及び着艦を希望する』

 「なんだって?!」

 『信じられないというならこの場で撃墜してくれても結構よ』

 「ちょっと待ってくれ、ガーネットリーダーよりアトロポス管制、ヴァイスカノーネに交戦意志は無い模様、アトロポスへの着艦を希望している、尚それにあたり当該機体は全ての武装を投棄、もしくは残弾をゼロにしている」

 『あ、そうそう、あたしの名前はリトラ、若桜昶の創造物のカテゴリーⅡよ』

 「だそうだ、指示を請う」

 『若桜少佐と艦長に問い合わせるから少し時間をくれ、その間の対処は任せる』

 「早くしてくれよ」


 『艦長の許可が出た、それと若桜少佐の件だがそちらも本当らしい、アトロポスまで誘導してやってくれ』

 「アトロポス管制、ガーネットリーダー了解。ヴァイスカノーネ聞こえるか、こちらについて来てくれ、アトロポスまで誘導する」

 『ヴァイスカノーネ了解、感謝します』


 

 アトロポスに着艦するなりリトラは昶に会わせろと主張したもののまず艦長室へと案内された。

 そこには昶と坂崎艦長が待っていた。


 「まずはようこそアトロポスへと言わせて頂くよミス・リトラ、艦長の坂崎だ、それと横にいるのが君が会いたがっていた・・・」

 「若桜昶よ、こうして話すのは初めてね」

 「まずは受け入れて下さりありがとうございます艦長、そして創作者さん、・・・それで本題なのですが私は亡命を希望します」

 「なるほどね・・・亡命は予想してたけどあたし達が納得しても上層部が納得する保証は無いわよ」

 「だからそのための手土産もあるわよ」

 「あの機体・・・ヴァイスカノーネかね?」

 「それもあるけど13号浮遊島の施設についてよ、貴方達が欲しい情報じゃないの?他にも消えた輸送艦の話とかね」

 「確かに興味深い情報だな・・・とにかく食事でもしながら話を聞こう」

 「わかったわ」




 昶Side


 その後艦長室に食事を持ってきてそれを食べつつ改めてリトラの聴取の続きをやる事になった。

 

 「で、色々と聞きたいんだけどまずは・・・」

 「あたしが抜け出した理由?」

 「それは確かに気になるな」

 「簡単よ、あのクソ司令のやり方が気に食わなかったのよ・・・何しろ今度はあたしに民間への襲撃作戦をさせよようとしたんだから」

 「どういう事よそれ」

 「文字通りよ・・・ある理由であいつは大量の結晶石を必要としているの、それで結晶石を輸送中してる民間の貨物飛行船を襲えって言ってきたのよ」

 「プロメテウスの戦力を動かす程度なら13号浮遊島にある分だけでも向こう5年分はあるって話だけど・・・そうか」


 そうだ、思い出した。

 この前に魔法省調査部で聞いた話だ。「船舶用よりもっと大規模で高出力な施設を13号浮遊島に実証施設を建設したらしいのだけどそれ以上は帝国軍でも現状じゃ把握しておらず目的すら判明していない」という情報。


 「大型の魔導ジェネレーターかしら?」

 「シャフリラ大佐から聞いた話か・・・」

 「その通りよ、そもそもあたしが何故この世界にいるか疑問に思わないの?」

 「・・・?君はカテゴリーⅡなんだろう?涼月少佐と同じように女神シリカによって召喚されたのではないのかね?」

 「違うわよ、あたしは亜耶やそこにいるあたしの創造主みたいにどこぞの女神に召喚された訳じゃないのよ」

 「そういや亜耶から聞いたわ、アパルトメントの前でやりあった時にもそう言ってたみたいね、じゃあ召喚したのは誰なの?」

 「あんたついさっき自分で答えを言ったわよ、まだわからないの?」

 「え?」

 「そうか・・・そのための大型の魔導ジェネレータか、それで君は人工的に召喚されたんだな?」

 「そうよ、あの連中は戦力、人材不足だからあれの魔力を利用して戦闘能力のある人材を召喚、必要人数を確保したかったらしいの、ただあれは恐ろしく効率が悪いのよ」

 

 あ、まさか大量の結晶石が必要な理由ってそれか?

 その疑問を口にしたあたしにリトラは頷いた。


 「あれは一回召喚するのに軍用規格の結晶石を300個使うのよ、でも必ず成功する訳じゃないらしくてさ、あたしを召喚するまでに結晶石を150000個以上連続で使ってやっと成功したらしいのよ・・・・ちなみにそれまでに出た雑魚は亜耶やあんた達にかなりの数が倒されちゃったらしいけど」

 「500回連続で廻して欲しいレアキャラがやっと一人だけ召喚できたって随分と酷いガチャもあったもんね・・・・・・・」

 「となると結晶石を運んでいた012号輸送艦を襲ったのも当然そのためか」


 リトラは頷いた。


 「それと13号浮遊島そのものなんだけど」

 「帝国軍はまだ発見していないんじゃないの?」

 「確かに帝国軍が13号浮遊島の位置を特定したという情報はまだこちらへは来ていないな・・・もっとも帝国軍だけで片を付けるつもりなら我々傭兵部隊なんかに情報は流さないかもしれんがね」

 「それ、多分「本当に見つけていない」と思うわよ・・・あそこにもレイ・リフレクターの発生器があるのよ」

 「そりゃ確かに見つかってない可能性は高いわね」

 「でもそのためだけに大型ジェネレーターを設置したのかしら」

 「攻撃用の魔力を放出する用途にも転用出来るとは思うけどあたしは技術者じゃないしそこまでは教えては貰えなかったわ・・・でもあの陰険な司令の事だから何かしら攻撃目的の使用法は考えてると見て間違いないと思うわよ」

 「それは頭に入れておこう、他に知っている事はないかね?」


 「そうね・・・・あいつらはプロメテウスと合流して転生者やカテゴリーⅡの多い施設に攻撃を仕掛けるつもりなのよ」

 「カテゴリーⅡが多い施設となると研究機関やいくつかの軍隊の基地・・・・あとは転生者の多い場所だとパルマポートやラティスポリスみたいな情報の集まりやすい大都市の冒険者ギルドの周辺、王城やその周辺施設ってとこかしらね」


 リトラはあたしの言葉に頷くとこちらに目を向けた。


 「でもあんたはあたしにもっと詳しく聞きたい事があるんじゃないの?・・・・産みの親として気になるんでしょ?」

 「・・・・・亜耶はどうしちゃったのよ、なんで戻ってこないのよ」

 「最初からそう言いなさいよ・・・・あの娘なら今はあのクソ司令に頭の中を上書きされちゃってるから何を言っても無駄、あたしみたいに最初に協力の意志を示した訳じゃなかったから」

 「・・・・・・・・」

 「あの娘は散々抵抗したのよ、他のカテゴリーⅡは精神介入にせいぜい2時間程度しか持たなかったんだけど亜耶は一昼夜も抵抗したの、それで業を煮やしたコルディアにトラウマを拷問同然にえぐられた挙句、死ぬ一歩手前まで強制的に制御コードを精神に流し込まれちゃったのよ・・・それで今のあの取り付く島もない状態なの」

 「・・・・・!!!」

 「そもそも君は何故コーネウス准将に協力しようと思ったんだ?」

 「簡単よ」


 坂崎艦長の疑問にリトラは即答した。

 

 「亜耶と決着をつけたかったのよ、本の中で出来なかったから・・・なにしろこれからって時に尻切れトンボで本の話が進まなくなっちゃったんだから、まさか産みの親が事故死してるとは思わなかったからそれはこっちに来て驚いたけど」

 「・・・・・・・そっか、それはあたしの責任でもあるわ・・・なんかごめん」

 「いいわよ別に・・・今は気にしてないし、こうやって同じ世界でやりあえてるんだし、それよりもあんた」

 

 リトラはあたしに歩み寄るとぐいっと胸ぐらをつかんだ。


 「どうするつもりよ、あんたはあの娘を取り戻す気あんの?」

 「でも今の亜耶とやりあっても勝てない・・・!」

 「だから何よ、あんた既に一回死んでるんでしょ?だったらあの娘の為にもう一回死ぬ位どうだってのよ、それこそ死ぬ気で取り戻しなさいよ、あたしは今の操り人形になってて自分の意志の無い亜耶とやりあって勝ったとしても嬉しくないの」

 「・・・・・あんたに何がわかるのよ」

 「少なくともあたしは身体を張ってでもあいつを元に戻すつもりよ、だから今のあんたに・・・例えあんたが産みの親でもそんな言い方されたくないわね、多分亜耶が正気に戻ったら今のあんたを見てがっかりするんじゃないかしら」

 「!!!」


 あたしの中で、何かが弾けた。

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よろしくお願い致しますヽ(´▽`)/!

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