#33 奇襲
#33 奇襲
昶Side
アトロポスに帰投したあたしは魔法省調査部で得られた情報を書類にするとすぐに艦長に報告するために艦長室に来ていた。
「以上が魔法省調査部で得られた魔法技術試験隊及びその所属の技術試験艦プロメテウスに関する報告です」
「レイ・リフレクターか、厄介な技術だが話を聞く限り装備されている可能性は高そうだな」
「艦長、それに関しての対抗案があるのですが聞いて頂けますか」
「実行出来るかにもよるが・・・どんな案だ?」
「それは・・・」
あたしは艦長に対抗策とその運用までを簡単に説明した。
「なるほど、確かにその方法なら可視化出来るな・・・ほぼ全部の兵装と稼働機体を投入する必要はあるがやってみる価値はありそうだ」
「では整備班に伝えてすぐに装備と弾薬を用意させます」
「ああ、頼んだよ副長」
ついでだから以前から気になっていた事を聞こうとあたしは艦長に声をかけた。
「あの・・・艦長、一つ質問があるんですがいいでしょうか?」
「なんだね少佐」
「あの、艦長は「いつの時代の日本」から転生されたんですか?ずっと気になっていまして・・・・・・」
「なんだそんな事か・・・君達の世代が太平洋戦争と呼んでいる時代の日本だよ、当時は日本海軍で翔鶴型航空母艦の「瑞鶴」に乗っていたんだ、この立場にいるのは昔取った杵柄というやつさ」
「そうでしたか、身の回りに日本人転生者がいなかったのでずっと気になっていまして・・・」
「同じ事は私も気になっていたさ、この一件が収まったら少佐の時代の日本の話しも聞かせてくれ」
「はい、了解しました・・・・ではあたしはセレーネの整備があるので失礼します」
「ああ、期待している」
「若桜少佐、副長の指示のあったようにセレーネの装備に装填しておきましたがこれでいいんですか?」
セレーネのコクピットで機器類のチェックをしていると整備兵が不思議そうな顔をして聞いてきた。
「ありがと、助かるわ」
「それにしても散式弾に加工した訓練弾なんて何に使うんです?」
「これで幻の敵母艦をあぶり出すのよ」
「でもいいんですか?訓練弾が混ざる分だけ破壊力が落ちますが」
「いいのよ、見つけるのが第一目的だから」
さてそろそろ出撃時刻だ。あたしはセレーネのコクピットハッチを閉じると管制の指示に従ってカタパルトへ行くために舷側エレベーターにセレーネを乗せた。
飛行甲板に移動して周囲を見渡すとアトロポスの前方には軽巡洋艦「ヴェネラブル」、右方向には駆逐艦「雷風」、左方向には駆逐艦「霧風」、右後方には駆逐艦「淡雪」、左後方には駆逐艦「潮風」がそれぞれアトロポスを囲むように航行している。
強襲揚陸艦1隻に5隻の護衛は異例である。それと言うのも事態を重く見た帝国軍が傭兵部隊「アトロポス」に潮風と淡雪の2隻を急遽派遣、合流させたのである。そのうち淡雪は昨年就役したばかりの最新鋭艦なのだそうだ。
「さて、出て来るかなー・・・・うちの部隊は転生者が多いからあいつらが無視するとも思えないんだけど」
よく見るとそれぞれの艦艇の砲塔や砲身があらゆる方向に向いているのが見える。プロメテウスの奇襲に対する備えだ。
アトロポスから離艦すると所定の空域まで移動した。空中艦が移動するのに最適と言われる高度を更に見下ろす為に少し高めの飛行高度までセレーネを上昇させる。
空中艦はその構造上、下方に死角が多い。
だから低い高度から死角を突いて攻撃されるのを避けるために戦闘高度は平時の航行高度より低めを航行して船より下方の警戒に隙が出来ないようにするのだ。
当然低い高度を航行する艦は高い高度からの方が発見しやすい。
「ん?揺らいだ?」
アトロポスから6km程の距離に来た時にほんの少し、本当に僅かに海面の一部が不自然に揺らいだように見えた。
「見つけた・・・!」
その妙な揺らぎはアトロポスのいる方角へ15ノット位の速度で移動している。
これは間違いなくプロメテウスと見るべきだ。
あたしはセレーネを180度横転させると急降下させた。ランドウイングのダイブブレーキが開いてピィーーーーという甲高い音をたてる。
「よし、やるか」
今回セレーネのハードポイントに装備されたロケット弾ポッドといつもの76mmオートカノンを抜いてまず揺らぎにオートカノンで数発を撃ち込んだ。
するとオートカノンに装填された散式弾がその手前で弾けた。
そしてその弾けた弾丸が揺らぎに降り注ぐとそれは潰れて中に入っていた染料が付着した。訓練用のペイント弾だ。
散式弾というのは軍用の対空散弾である。
旧日本海軍が艦艇の対空戦用に使用していた三式弾と基本的に近い。
ちなみに元祖と言うべき三式弾は直径25mm、長さ70mmの鉄管多数に特殊焼夷剤が充填されていてそれが時限信管で作動し炸裂、その鉄管は5秒間高温燃焼し目標に被害を与える。
弾体そのものも当然ながら炸薬によって爆発する。
簡潔に言えば軍艦の主砲を巨大な対空用散弾銃として使うための弾薬である。
この三式弾はここ数年で軍艦を美少女擬人化した某有名ソシャゲで実装されていた為に世のゲーム好きや二次元好きに一気に有名になったのは記憶に新しい。
「喰らえ!」
続けてロケット弾を撃ち込むとそれは命中し一気に揺らぎが消滅しプロメテウスはその姿を現した。
急降下したセレーネはプロメテウスの右舷をかすめるようにして下に回り込む。
「ビンゴ!見つけたよプロメテウス!・・・・トパーズ1よりアトロポス管制、プロメテウスを発見した、もうそちらでも視認できる筈です」
『よくやったトパーズ1、こちらでもプロメテウスの位置を確認した、これより艦砲射撃を開始する』
「トパーズ1了解」
あたしは海面ギリギリで機体を引き起こす、セレーネを狙った下部機銃の弾丸が水柱を連続して立てる。スティックを引いて再びプロメテウスの上方へとセレーネを回り込ませる。
プロメテウスを改めて見ると中央部のマストが折れてそのすぐ後ろにある妙な形のアンテナらしき構造物が完全に崩落しているのが確認できた。どうやらさっきロケット弾の命中した箇所、あれがレイ・リフレクターの発生器だったらしい。
「これで亜耶も取り戻す!」
『・・・・誰を取り戻すのですか、昶』
「・・・・え?」
あたしは突然無線に割り込んできた亜耶の声に一瞬固まった。
プロメテウス艦橋にて
「訓練用ペイント弾でレイ・リフレクターを可視化したですって?!・・・・あの転生者の小娘ふざけた真似を!」
「・・・・とは言えあまりにもシンプルな盲点でしたな、しかも勘もいい」
「ミスティックシャドウを呼び戻して!あいつを撃ち落とさせるのよ!」
ズシンという衝撃と共にプロメテウスは大きく揺れた。
「至近弾です!レイ・リフレクターの使えない状態でのこれ以上の接近は自殺行為です艦長!」
「このままでは敵の艦砲射撃の的になるだけです、退避しますよ司令」
「仕方ないわね、ヴァイスカノーネには敵艦隊の牽制をさせて、一方的な奇襲が出来ないんじゃ1隻じゃ分が悪い・・・癪だけど逃げるわよ、13号浮遊島の状況は?」
「現在レイ・リフレクターを展開しつつ移動中との事です、帝国軍は上手く撒いたようです」
「そう、今はとにかくあれを撃ち落とすなりして追い払うわよ」
「わかりました、弾幕を張って敵機を遠ざけろ!両舷全速!」
プロメテウスは回頭しつつ増速した。
プロメテウス上空
「亜耶!無事なの?どこ?」
『ここです、不用心ですよ昶!』
「え?・・・・きゃああっ!」
背中から来る強烈な衝撃にセレーネは機体ごと弾き飛ばされた。
ホログラフにはセレーネを弾き飛ばした機体、ヴァイスカノーネによく似たシルエットだが薄い紫に塗装されたスマートな見慣れない魔導機兵が映った。
「・・・・亜耶?その機体は・・・」
『私の専用機「ミスティックシャドウ」です、昶、貴女を殺せとの命令を受けました』
「ちょっと、何言ってるのよ亜耶、無事だったんだから戻ろうよ」
『まだわかって頂けてないようですね、今の私の所属はディメンション・カウンターです』
「!!」
『行きますよ、あまり私をがっかりさせないで下さいね、昶』
ミスティックシャドウは一瞬で人型形態から戦闘機形態へ変形すると一旦距離を取り、再び人型形態に戻ると魔法陣を次々に生成する。
『昶相手に遠慮はしませんよ・・・貴女の射撃に狙われたら終わりですから』
「っ!どうしちゃったのよ亜耶!」
『コーネウス司令に散々精神介入されて頭の中を弄り回されましたから・・・』
セレーネのコクピットの通信用ホログラフに亜耶が映った。その瞳は紅になっていた。
「ちょっと!その眼の色!?」
『精神介入による影響だそうです・・・さあ、死んで下さい昶?』
ホログラフの中で亜耶がふふっと微笑んだ。
ミスティックシャドウの周囲の魔法陣が殺到する。
それを昶は76mmオートカノンで撃ち落とそうとした。
が、撃ち落とすことは出来なかった。
「しまった、マガジンがペイント弾のまま・・・!うわっ!」
『何をしているんです昶!貴女らしくもない!!』
ミスティックシャドウが105mmアサルトライフルを連射し、セレーネに命中する。
被弾したセレーネはランドウイングを破損してスピンに陥った。
『残念です、この程度の戦闘で終わりとは』
「このっ!」
スピンに陥ったように見せかけていたセレーネは近づいてきたミスティックシャドウの脚をつかむと頭部センサーをロケット弾ポッドの斉射で破壊した。
『あっ?!』
「そう簡単に墜ちるかっ!!」
その隙に76mmオートカノンのマガジンを徹甲弾が装填された物に交換する。
『これくらいで!!昶!!』
「もう殴ってでも正気に戻す!」
『やっと本気を出してくれましたか』
ミスティックシャドウの背中には戦闘機形態に変形した時に主翼になる人型形態でランドウイングの役目をする大きな主翼以外にも複数の突起がある。
その突起が一斉に切り離され、それがセレーネに殺到する。
「なっ?!」
『粒子ビットです、そう簡単に回避する事は出来ませんよ』
「なら撃ち落とす!」
セレーネは76mmオートカノンをセミオートで連射して自分に向かってきたそれを言葉通り連続して撃ち落とす。
『甘いですよ昶!!』
「うわっ!!」
正面から飛んできた物以外に迂回してセレーネの真後ろに回り込んだ一発がエンジンを直撃した。
「くそっ!」
昶は肩越しに一発撃ってそれを破壊した。
『それなら!!』
亜耶の制御で粒子ビットがミスティックシャドウとセレーネの間の空間に集まるとそれぞれが連動して円周上に並ぶとその中心に向けて魔力粒子を放出し、一つの巨大な魔法陣を生成した。その中心に向けて急激に魔力粒子が収束する。
『これで終わりです、昶』
「・・・亜耶・・・・・!!!」
『きゃあっ!』
その時、ミスティックシャドウに数発の76mm弾が命中して姿勢が崩れ、巨大な魔法陣が消失した。
『大丈夫か、トパーズ1!』
「大尉!」
『・・・邪魔が入りましたか』
『ミスティックシャドウ、そこまででいいからプロメテウスの護衛に戻りなさい、奇襲作戦は現時刻を持って中止、このままこの空域を脱出するわよ』
『よろしいのですか、司令』
『次の機会でいいわ、だから戻りなさい』
『了解しました・・・昶、次は貴女を殺します』
ミスティックシャドウは戦闘機形態に変形すると猛加速で離脱していった。
「・・・・・亜耶・・・・どうして・・・・」
昶はがっくりと肩を落とした。
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