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#31 技術試験艦プロメテウス

 #31 技術試験艦プロメテウス


 プロメテウス艦内 実験室


「う・・・・」

「お目覚めみたいね少佐」

「・・・!」

「睨んでもどうにもならないわよ」


 亜耶は天井から伸びた鎖に両手首を拘束されていた。その手首からは魔法の発動体のブレスレットは外され、護身用に携帯しているダガーや小型の銃といった武器も全て取り上げられていた。


「私をこうして捕えた所でテロリストに協力するつもりはありませんよ」

「そうでしょうね」

「だったら何故こんな意味のない事を!」

「簡単よ、もっと奥深くまで精神介入して精神の根本から貴女を制御するためよ」

「無駄ですよ・・・制御システムをパンクさせたのを見たでしょう」

「そうね、それで駄目なら他の方法を使うから」

「・・・・どういう事です」

「教えないわよ・・・・・さて始めるわね、ま、それなりに時間かかるでしょうけど」


 うすらとぼけるコルディアを亜耶は睨みつけた。




 ラティス帝国領海、帝国軍012号輸送艦 艦橋にて


 012号輸送艦は輸送艦1号型と呼ばれる艦級の12番艦である。

 特に速力や、海外での迅速な展開等を重視された艦ではないために建造コストを抑えるべく空中艦ではなく通常の海上艦艇として建造された。


 沿岸の僻地地帯や離島といった交通の便が劣悪な地域へ人員や物資を運ぶために計画されたこの艦級は全長50m程の比較的小さな輸送艦でその輸送能力は最大で物資350トンを搭載できる。


 艦首にバウランプのあるその外見は上陸用舟艇に近い。外見を21世紀初頭の地球世界の艦船に例えると海上自衛隊の輸送艇1号型や米海軍のラニーミード級汎用揚陸艇に近い。


 この日、012号輸送艦は帝国軍の艦隊や魔導機兵の魔法炉に使用される結晶石の輸送任務でパルマポート軍港に向けて凪いだ海を航行中であった。

 結晶石の輸送はごくありふれた任務で地球世界での石油タンカーやLPG輸送に近い。

 ただ軍用となるとそれなりのまとまった量が必要なために鉄道や船舶で輸送されるのが殆どである。


 異変が起こったのはパルマポートまであと2日程度の距離まで近づいた頃だった。


 この世界の軍艦には魔力探知機、現実世界で言う魔力を探知するレーダー、もしくはソナーのようなものがあるのだがそれが魔力波動を探知したのである。


「魔力を探知しました、ただ方向が特定出来ません」

「見張りからは視認できるか?」

「いえ、視界には確認できません」

「あれ??反応が消えました!」


 索敵手が素っ頓狂な声をあげた。

 ズシン!というショックとともに012号輸送艦は停止した。


「何事だ!」

「右舷に被弾!しかし敵らしき艦影及び航空機は無し!・・・・いや、妙な陽炎のような物が3時方向に見えます」


 索敵手の声に艦橋の右舷側の窓から艦長が外を見るとうっすらと風景が揺らぐのが見えた。


「何だあれは・・・!」


 発砲音らしきドン!という音が聞こえた。


「とにかく離脱だ!両舷全速!」


 艦長の命令に呼応して主機の出力が上がり12号輸送艦が加速し始める。

 鋭い音と共に目前の海面に着弾する。


「機関室に被弾!航行不能!」


 012号輸送艦は主機関が停止し船体のあちこちで炎と煙が上がり始めた。


「消化班急げ!」


 艦長は改めて右舷の空中を見た。

 陽炎のような揺らぎが消えていく。

 そこには何度も見たことのある艦影があった。そしてその主砲が自分の方に向けられているのが確認できた。


「あれは!プロメテウス!・・・・・何故・・・!」

「あら、知りたい?あれは「レイ・リフレクター」って言う技術で艦影を消し去って忍び寄ってたのよ」


 突然後ろからかけられた声に思わず艦長が振り向くとそこには小柄で色白、黒髪でゴスロリ系のフリルとレース一杯のドレスの少女が立っていた。


「な・・・いつの間に、いや何処から・・・!」

「内緒・・・でもね、あまり「レイ・リフレクター」の事は知られたくないんだあ・・・・だから、みんな沈んでもらうの」

「君達は何が目的なんだ?大した物は積んでいないんだぞ」

「じゃあさよなら・・・・・あ、いい忘れてたんだけどこの船が運んでる結晶石は頂くわね?あのシステムにはどうしてもこれが必要なのよ」

「あのシステムとは一体何の事だ?!」

「教えるつもりはないわよ?じゃあさよなら」


 少女は甲板に出ると上空にホバリングしていたプロメテウス所属のVTOLから垂らされたロープに捕まると012号輸送艦を後にした。


「帰ろ・・・それにしても」


 リトラは小さく舌打ちをした。


「気に食わないのよね、こういう弱い者いじめ的なの」


 012号輸送艦は積んでいた結晶石と乗組員がプロメテウスに移送されるとすぐに砲撃で撃沈され海中に姿を消した。




 プロメテウス艦内 実験室


「あ・・・う・・・・無駄だと言ったでしょう・・・・」

「全く強情な娘ねえ」


 既に亜耶に精神介入用のヘッドギアを装着して作業を始めてから一昼夜が経過していた。

 亜耶は頭のなかに強制的に流れ込んでくる魔力と精神介入コードに長時間抵抗し続けている。

 その身体にはうっすらと汗が浮いていた。


 「これまでに何人もカテゴリーⅡを制御したけどこんなに長い時間抵抗したのは貴女が初めてだわ・・・他のはみんないいとこ2時間程度で堕ちてるのに」

 「・・・・う・・・・あ・・・・・諦めたらどうです・・・・」

 「そうね、正攻法はやめるわ、その代わりに貴女の思い出を使わせて貰うわね」

 「・・・思い出?・・・・う・・・・」

 「切り替えて頂戴、一気にやるわよ」

 「一体何を・・・・・ああっ?」


 コルディアの指示で技術士官が亜耶のヘッドギアにつながっているコンソールのスイッチを切り替えた。

 一気に亜耶の頭に流れ込む魔力とその情報量が跳ね上がった。


 「う・・・・この風景・・・!」

 「せいぜい夢を見て頂戴」




 亜耶Side


 その村はのどかな地方の農村のはずだった。

 それがこの一週間で戦場に変わった。


 私が軍で所属していた部隊に下された命令はこの村の先にあると報告のあった敵部隊の野営地の強行偵察だった。


 しかし私の所属していた部隊の作戦行動は敵に察知され、結果としてこの小さな農村は戦場になってしまった。

 この一週間でやっとの思いで敵部隊を退けると私達には後退命令が出た。


 「・・・・・ねえ、お姉ちゃんたち帰っちゃうの?」


 この時、敵の攻撃に晒されていた民家に仲間と一緒に私が突入してある母娘を救出した。その時に仲良くなったリズというまだ小学生くらいの赤毛の女の子が不安そうに私を見ながら聞いた。


 「大丈夫よ、怖い人達はみんな私達が追い払ったから」


 私はにっこりしながらリズに言った。


 「ねえお姉ちゃん」

 「なあに、リズちゃん」

 「これお姉ちゃんにあげる」


 リズはポケットから小さなお守りの付いたペンダントを取り出すと私に握らせた。


 「・・・・・いいの?」

 「このお守りのお陰でママもお姉ちゃんも助かったんだよ、だからお姉ちゃんにあげる」 


 えへ、と綺麗な瞳をぱちくりさせながらリズが微笑んだ。


 「だめよ、そんな大切なもの貰えない」

 「いいの、お姉ちゃんには死んでほしくないし、今度は私のお家に遊びに来てほしいから」

 「・・・わかった、約束する。今度は武器を持たないでリズちゃんのお家に遊びに行く」

 「約束だよ、お姉ちゃん、もうすぐ軍艦に乗ってるパパも帰ってくるからその時は一緒に遊園地に行こう!」


 小さなうさぎの付いた可愛らしいブレスレットを付けた手でリズは私に抱きついてきた。


 「リズー!もうすぐご飯よー!」


 声の聞こえた方向を見るとリズのお母さんが私に会釈してリズを呼び、リズは家へと戻って行った。

 その日の夕方、私達は村を後にして帰路に付いていた。


 仲間の兵達と隊列を組んで歩いているともう暗くなり始めている空を軍の戦闘ヘリが低空で通過して村の方へと飛んでいった。


 「あれ、敵の残存部隊でも村の近くで見つかったのかな」

 「近くにいる他の部隊が支援要請を出したのか?」

 「いえ、そんな話は・・・」


 仲間の兵達とそんな会話をしていると次の瞬間、村のある方向から大きな火柱が上がった。


 「なんだと!」


 隊長が驚きの声を上げた。


 「通信手!すぐに攻撃をやめさせろ!あの村に敵兵は一人もいない!!」


 すぐに通信手が回線を開いて戦闘ヘリに呼びかけた。

 しかし返ってきた返事は非情だった。

 ・・・・・参謀本部の命令で敵ゲリラ兵の拠点と疑わしい村や施設は潰せと指示されている、と。


 「リズちゃん!」


 私は踵を返して村へと駆け出した。隊長達もすぐに取って返して私の後を追ってきた。

 そして私が村に付いた時には既に戦闘ヘリの攻撃は終わっていた。


 村の建物は一つ残らず、味方であるはずの軍の戦闘ヘリによって焼き尽くされていた。

 私はリズの家に走った。


 が、リズの家は屋根が完全に吹き飛んで無くなり、玄関の前の花壇に沢山咲いていた花も戦闘ヘリの攻撃で吹き飛ばされていた。


 「・・・あ・・・あ・・・・」


 言葉にならない声を出しながら一歩踏み出すと足に何かが当って私は足元を見た。それは小さなうさぎの付いたブレスレットをはめた片腕だった。


 「あ・・・・リズちゃん・・・・・」


 呆然としたまま家に近寄ると死んだリズに覆いかぶさるように倒れている母親の亡骸が家の前に転がっていた。


 「あ・・・・あ・・・・嫌ああああ!」


 絶叫したその後の事はよく覚えていない。

 あとで隊長に聞いた話だとその時の私はリズ母娘の前にへたり込んだままペンダントを握りしめて子供のように泣きじゃくって動こうとしなかったらしい。



 プロメテウス艦内、実験室にて


 「あああああ!!!・・・嫌、いやいやいやああああああ!!やめてー!!!」


 亜耶はヘッドギアから強制的に送り込まれてくる過去の記憶、トラウマに精神を蹂躙されて悲鳴を上げた。 


 「嫌ああああ!!!・・・・・私の心に入って来ないで!!!!・・・・うわああああーっ!!」

 「もっとフラッシュバックさせなさい」

 「わかりました、それにしても効果絶大のようですね・・・でもこの「思い出」は本当の物なんでしょうか」

 「さあね、リトラの話じゃ彼女達にとっての「物語の中の現実」らしいけど」

 「あ・・・ああ・・・・嫌ああああああ!!!!・・・・あ・・・あ・・・あああっ!!!」

 「そろそろかしらね」

 「・・・・ああ・・・・あ・・・あ・・・」


 金色の瞳からぼろぼろと大粒の涙が流れ落ち、すらりと伸びた足がガクガクと震える。


 「今よ、一気に精神介入コードと魔力強化コードをまとめて流し込みなさい!」

 「わかりました」

 「あがっ???」


 亜耶の身体がビクンと大きく痙攣した。


 「・・・う・・・・」


 亜耶の金色の瞳が見開かれ、その瞳が瞼に半分隠れた。

 眼から意志の力がすうっと消えていき瞳から表情が消えた。


 「あとひと押しよ、もっと魔力を流し込みなさい」

 「はいっ!」

 「・・・・あ・・・・が・・・うあっ??」


 身体を大きく仰け反らせて何回かガクガクと痙攣すると亜耶の全身から力が抜け、亜耶は気を失った。


 「どう?全ての制御コードは流し込めた?」

 「はい、きっちりと」

 「結構、これで大丈夫な筈よ・・・・・彼女の拘束を外してあげて」

 「しかし魔力強化は精神介入が切れたら効果が消えますが大丈夫ですか、司令」

 「そうね、でも精神介入が切れたときには私達の敵になるんだからその時は殺せば問題無いわ」

 「なるほど・・・確かにそうですね」


 技術士官たちが気絶している亜耶の拘束を外すとコルディアは亜耶を抱きかかえた。


 「起きなさい、少佐」

 「うん・・・?」


 亜耶は瞼を開いた。その瞳は金色から鮮やかな紅へと変化していた。



 「その瞳の色はどうやら成功みたいね、私がわかる?」

 「・・・・はい、コーネウス司令」

 「よろしい、貴女の今の所属を言ってご覧なさい」

 「私は・・・涼月亜耶少佐、ディメンション・カウンター所属です」

 「いい娘ね、取り敢えずシャワーを浴びてきなさい・・・後で貴女の部屋と専用の機体が用意してあるからそれについて説明を受けなさい少佐」

 「わかりました」


 亜耶は立ち上がると頷き、コルディアに敬礼すると士官に案内されて部屋を出ていった。

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よろしくお願い致しますヽ(´▽`)/!

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