#30 センシングホーク
#30 センシングホーク
昶Side
アトロポスの航空管制室は艦橋の後部にあり、更に飛行甲板側に少し張り出した構造物の中にある。ここでアトロポスに発着する全ての航空機や魔導機兵の発着や迎撃管制を行っている。
あたしはその扉を開けると管制室に駆け込んだ。
「一体どうしたんです若桜少佐」
「センシングホークとの通信回線をちょっと貸して!」
「亜耶が・・・!いえ、涼月少佐が心配なのよ」
「え?」
「とにかく借りるわよ」
「え、ええどうぞ少佐」
あたしはひったくるようにマイクを取ると呼びかける。
「アトロポス管制よりセンシングホーク、亜耶、聞こえる?」
『涼月少佐なら今は手が放せないわよ、どうしたの?』
「准将・・・ひとつ質問があります」
『あら、何かしら?』
「亜耶をどうするつもり・・・・・いえ、本当の目的は何です?」
あたしの質問にコルディアは少しの間沈黙した。
『本当の目的と言ったわね若桜少佐、どういう意味かしら』
「言葉通りに捉えて頂いて結構ですよ准将」
『なるほどね・・・・じゃあ教えてあげる、彼女の能力は「世界の純血種のために」利用させてもらうのよ』
「ぬけぬけと・・・・!認めるんですね、貴女の本来の所属を!」
『もう帝国軍は私にとって用済みだからどうでもいいかしらねえ・・・認めてあげる、私は「ディメンション・カウンター」の一員・・・、それにしても涼月少佐は大したものね・・・・他の転生者は精神崩壊して耐えられなかったのに彼女だけはこのセンシングホークの魔力制御システムに耐えてるわ』
「・・・この依頼は中止、違約金払ってでも亜耶は連れ戻しますよ」
『できるものならやってごらんなさい、ハンデに待っていてあげるわ』
「その言葉、忘れるんじゃないわよ!」
あたしは通信機のマイクを叩きつけると飛行甲板に駐機してあるセレーネへと駆け出した。
アトロポス管制の誘導でセンシングホークが兵装試験を行っている空域まで護衛の名目でアトロポス管制にに許可を取って飛行するとその機影はすぐに見つかった。
「センシングホーク・・・・!」
その時、センシングホークの周囲に凄まじい速さで魔法陣が生成された。
「えっ・・・この前より速い!」
『さあ、連れ戻すのならこのセンシングホークを破る事ね』
魔法陣が回転しながら次々にセレーネに向けて飛んできた。
「当たるかっ!」
あたしはセレーネの76mmオートカノンを抜くと飛んできた魔法陣をどんどん撃ち落とす。
『まだまだよ!』
『うああっ!!・・・やめて下さい准将・・・!』
「・・・・亜耶!」
『どうするの?貴女が頑張れば頑張るほど涼月少佐の負担は跳ね上がるのよ』
「・・・・!!、それなら!」
近接兵装の剣に切り替えて接近する。目視で確認した限りではセンシングホークには格闘戦のための近接兵装は無い。
次々に飛んでくる魔法陣とそこから発射されるビットをセレーネはくるくると回避しながら一気に距離を詰める。
「これでっ!」
76mmオートカノンの照準をセンサーポッドに定めると3点バーストで撃ち込む。
『ふうん、流石にパートナーね、避け方も魔法陣を撃ち落とすタイミングも熟知しているという訳ね・・・でもこれが中等練習機と思うのなら甘いわよ』
「なっ!?」
あたしは確かに76mmでセンシングホークのセンサーポッドを破壊した筈だった。
しかしセンシングホークは信じられない動きでそれを回避するとセレーネを蹴り落とし、その背中のランドウイングの右エンジンを頭部20mm機関砲で破壊した。
「きゃあっ!」
セレーネは片方のエンジンを破壊され急速に対気速度と運動性能が低下した。
『これで終わり!!「世界は純血種のために」!』
センシングホークの正面にひときわ大きな魔法陣が展開され、その中心部に魔力の粒子が収束するのが見えた。
「・・・・避けられない・・・!!」
『死になさい転生者!』
『駄目!!・・・・う・・・!!』
唐突に巨大な魔法陣が消失した。
『昶・・・・逃げて・・・・セレーネじゃこれに勝てない・・・このっ!!』
『きゃあっ!!』
センシングホークの胴体にあるセンサーらしき出っ張りの一つが小爆発を起こした。
『・・・これでビットは・・・使え・・・ませんよ・・・准将』
『自らの魔力をビットのシステムに逆流させて破壊?・・・・余計な事を!!!黙れカテゴリーⅡ!!』
『うわあああああああっっ!!!・・・・・うぐっ・・・・・』
「亜耶!!何を!!!」
『あら、黙らせようと魔力管制システムの出力を上げたらこのカテゴリーⅡ、動かなくなっちゃったわ、貴女を始末出来なかったのは癪だけど試験は中止ね・・・ここは引いてあげる』
あたしの中で何かが確かに切れた。
「・・・・・・・殺してやる・・・」
『あら、なんですって?』
「殺してやると言った・・・!!」
『ふうん、出来るものならね』
センシングホークは進路を変えると飛び去って行った。
「亜耶・・・・!助けられなかった・・・・・」
セレーネのコンソールにとめどなく涙がこぼれ落ちた。
エンジンを破壊されたセレーネはその後に駆けつけたルスター大尉達の紫電でアトロポスに運ばれた。
パルマポート沖500km空域 技術試験艦「プロメテウス」にて
「センシングホークよりプロメテウス管制、聞こえるか」
『こちらプロメテウス管制、着艦準備は既にできています。これから「浮上」します』
「センシングホーク、了解した」
センシングホークの前方の空間の光が陽炎のように歪み始めた。少しずつその中から母艦でもある技術試験艦「プロメテウス」が揺らぎつつ浮かび上がる。
この視覚的に艦影を消し去る技術は魔法技術試験隊が実証試験までこぎつけた新しい魔導兵装の一つである。
その原理は魔力粒子によって特定座標の可視光線の屈折率を自由に変えて任意の物体を視覚的に消し去る技術で有視界戦闘が主であるこの世界ではステルスに匹敵する先進技術である。
センシングホークはその威容を現した技術試験艦「プロメテウス」へと着艦した。
技術試験艦というのはその艦種の通り開発中の様々な新しい兵装を搭載し、それが実戦に耐えうるか否かの運用試験を専門に行う艦である。
その為に「装備だけなら世界最強」とも揶揄される事もあり、そしてその使用目的故に魔法技術試験隊にその運用は一任されていた。
そのシルエットは艦橋の前に背負式の主砲2基、艦橋と繋がる大きな艦載機格納庫と主機の煙突1本が一体になった構造でその後部には広い飛行甲板が広がる構成である。
地球世界の艦船に例えるとひゅうが型護衛艦と交代、引退した海上自衛隊の「はるな型護衛艦」に似ているが、はるな型護衛艦が全長153mなのに対してプロメテウスは約180mと大きめの船体を持っていた。
着艦したセンシングホークの足元にプロメテウスに乗り組んでいる技術士官が駆け寄ってきた。
「おかえりなさいコーネウス司令、センシングホークのテストはどうでした?」
「機器類に問題は無かったわよ、ただ・・・・」
「ただ、なんです?」
「被検体にちょっと壊されちゃったのよ」
「また精神崩壊ですか」
「逆よ」
「は?」
「彼女が意図的に自らの魔力をシステムに逆流させて破壊しちゃったのよ、今はコクピットで気絶しているから今のうちに拘束しておいて」
「・・・・了解しました、ではいつもの部屋に拘束しておきます」
「頼んだわよ・・・これから忙しくなるわね」
コルディアはセンシングホークの他にこの艦の格納庫にある2機、ヴァイスカノーネとそれによく似たシルエットの薄い紫に塗装されたスマートな機体を見ながら呟いた。
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