#29 新装備テスト
#29 新装備テスト
亜耶Side
濃霧が立ち込めている。
周囲が見通せない。
さっきから私を呼ぶ声が聴こえる。
・・・・・・・亜耶・・・・・・・・亜耶・・・・・・・・・。
何?
誰?
私を呼んでいるのは誰?
濃霧で真っ白の空間から突如手が伸びてきて私の首を掴んだ。
「えっ!?」
慌てて私は両手で首に巻き付いた手を外そうとする。
しかしその手はびくとも動かない。
その親指が私の喉仏に一気に食い込んだ。
「うあ・・・・あ・・・・・」
シュルっと音を立てて何本もの弦のような、触手のような物が身体に、手足に絡みついてきた。
そして私の服の中に無遠慮に入ってくると胸に巻き付く。
「何・・・・これ・・・・!」
それは私の身体に巻き付いたまま恐ろしい力で締め上げてきた。
「この・・・・!!」
私はビットの精密制御でそれを切断しようと集中した。
しかしいくら集中しても魔法が全く発動しない。
「え・・・どうし・・・て・・・」
首に更に指がめり込んでくる。
酸欠で気が遠くなる。
「・・・あ・・・・・・う・・・・」
首に巻き付いた腕がぐいっと動く。それと同時に私の首がゴキリと嫌な音をたてた。
「ぐあ・・・・」
私の意識はそこで途切れた。
「ちょっと亜耶!!大丈夫?」
「ん・・・あれ、昶?」
揺さぶられて起き上がると目の前には心配そうな表情の昶がいた。
ふと見回すとそこは私達にあてがわれたアトロポスの部屋だった。
「すごくうなされてたけどどうしたの?」
「・・・・・ちょっと嫌な夢を見ただけです・・・心配かけました」
実は私はこれまでただの一度も夢という物を見た事が無かった。カテゴリーⅡ故に他の人達と違うからなのかなと思っていたがどうやら違ったらしい。
「あれ?そのサークレットの宝玉、光ってるよ亜耶」
「え?」
頭からサークレットを外してみると昶の言うとおり真ん中に付いている宝玉が淡く輝いていた。
「夢に反応したのでしょうか・・・・魔法も夢も魔力や精神力に依存するものですし」
「亜耶、そのサークレット寝る時くらい外しておいたら?」
「そうしたいんですけど同封してあった手紙には試験運用期間中の被験者への影響を調べたいからずっと付けているようにと書いてあったので・・・とにかく今のはコーネウス准将が来たら報告します」
「うーん・・・・そうするしかないか、寝なおそうよ明日も朝はやいし」
「そうですね・・・おやすみなさい昶」
私は再びベッドに潜り込んだ。
昶Side
「ん?見たことの無い機体だなあ」
見慣れない魔導機兵がアトロポスの周囲を逆時計回りに一周して着艦アプローチに入るのが見えた。
あたし達はカールス大尉達の陸戦部隊と飛行甲板、艦橋前の空きスペースを借りて格闘訓練をしていた。
「ありゃ複座の訓練機ですね昶姉さん・・・でも見たことのない装備積んでやがる」
「訓練機?でもフェンリルの訓練用複座型とは結構違う形ね」
「ええ、ありゃパイロット候補生がフェンリルに乗る前に使うアルファホークっていう中等練習機ですわ・・・でもセンサー類が随分と増設されて、オマケにエンジンと火器管制装置や魔力増幅器もフェンリルと同じ奴に交換されてるみたいですからノーマルとはありゃあ別物ですな・・・性能的にはノーマルのフェンリルより上かもしれません」
陸戦隊の部隊長であるカールス大尉が腕組みをしながら相槌をうった。
カールス大尉はドワーフである。
その頑丈な身体を活かしての格闘戦はその一撃一撃のダメージは高い。それ故に陸戦隊員としての能力は非常に高くその部下思いな性格故に上官、部下を問わず人望も厚い。
そして例のクーデター騒ぎの時に一緒に白兵戦に参加して以来あたしと亜耶は少佐と呼ばれずに姐さんと呼ばれることが多い。
もっともあたしも亜耶も18才だからその呼び方には正直な所、違和感があるが仲間としての好意故だしあたしも亜耶も気にしていない。
そのアルファホークの改造機はあたし達の目の前にある2番スポットに着艦した。駐機姿勢にした機体から降りてきたのはパイロットスーツ姿のコーネウス准将だった。
パイロットスーツの階級章を見たあたし達は一斉に敬礼した。
「あら貴女達ここにいたの、ちょうどいいわ話があるの、後で私の所に来てちょうだい」
「「はい、了解しました」」
コーネウス准将は出迎えた乗組員に案内されて艦橋へと歩いていった。
亜耶Side
コーネウス准将にアトロポスの格納庫へ私と昶は呼び出された。
昶と一緒に歩いていくと准将はツナギ姿で開けっ放しにしたアルファホーク改造機のコクピットに座り愛機の機器類のチェックをしていた。
私が声をかけると准将はコクピットから降りてきた。
「え?新装備の試験飛行を私と准将の二人だけでですか?」
「そうよ涼月少佐、私が乗ってきたセンシングホークは魔導兵装のデータ取り用のセンサーを色々と搭載してあるの、そしてその使い方を熟知しているのは私だけなのよ、言いたいことはわかるけど・・・ね」
「センシングホーク?」
「この機体の名前よ、元々はエリント機のテストベッドだったのだけどそのテスト任務が終わって魔法技術試験隊に回されてきたの、センサー類が豊富な機体だから必要なのよ」
「なるほど・・・准将、試験飛行なら一緒に飛ぶチェイス機が必要なのでは?」
昶が食い下がる。昨晩の夢の一件もありどうやら私の事を心配してくれているらしい。
「それは大丈夫よ、特に危険のある試験飛行ではないから」
「そうですか・・・」
「涼月少佐、早速で悪いけど1時間後に最初の試験飛行をするからお願いね」
「了解しました」
コーネウス准将は必要事項だけ伝えるとセンシングホークの機器類のチェックを再び始めた。
うーん・・・・昶以外と魔導機兵に搭乗するのはあまり気が進まないのだけど。
私はちらりと横にいる昶を見た。
少し下を俯いたその表情はやはりあまり乗り気では無いように見えた。
昶Side
妙な不安を感じながらあたしはシミュレーター室へ入った。
そこにはアトロポス第1魔導機兵隊の編隊長を務めるルスター大尉がシミュレーターから降りてくる所だった。
聞いた話では彼もあたしと同じ転生者らしい。
「どうしたんです、元気なさそうですが涼月少佐と一緒じゃないんですか?」
「亜耶ならセンシングホークでの魔導兵装の試験飛行に行ったわよ」
「あのアルファホークの改造機ですか・・・それで涼月少佐と組んでるのは誰なんです?」
「魔法技術試験隊のコルディア・コーネウス准将よ」
「え?あの疫病神が自らアトロポスに来てるんですか」
「コーネウス准将が疫病神ってどういう事よ大尉」
「そうか、少佐はまだこの世界に転生して日が浅いから知らないんですね」
「どういう事?説明して大尉」
「実は・・・・」
ルスター大尉の説明は驚くべき内容だった。
元々コーネウス准将は先日のクーデター騒ぎでの首謀者たるドリスコフの副官だった。ただクーデター発生の3ヶ月前に自らドリスコフの副官から身を引き魔法技術試験隊に移ったという。
魔術師としての資格も持っていた彼女は魔法技術開発に興味を持っていた。
クーデター後の彼女は積極的に帝国軍の再建に尽力した事もあって帝国軍情報部からもノーマークだった。
それだけならば正直な所なんの問題も無かったかもしれないがそうはいかなかった。
問題だったのは彼女の思想である。
彼女がまだドリスコフの副官だった頃の事である。ある事件が起こった。
ラティス帝国の国境付近で武力衝突が起こり帝国軍の部隊が敵国の部隊に包囲された。
その救出作戦の指揮に任命された彼女はすぐに作戦行動に入り直接指揮を取ると味方部隊を救出してみせた。
味方部隊は奮戦し被害を出しながらもその武力衝突は収まった。
ただ味方部隊の被害には大きな偏りがあった。
半数以上の被害を出した部隊は転生者やカテゴリーⅡの兵士によって編成された部隊だったのだ。つまり彼女はこの世界で産まれた人間以外の兵士を捨て石として、早い話が使い捨ての兵力として扱ったのである。
彼女が極端な純血種至上主義者である事が判明したのはその後しばらくしての事である。
ただ彼女が意図的に転生者達を捨て石、見殺しにした証拠があるわけでもなく、更に味方部隊の救出そのものを成功させている為にそれは不問とされたのだそうだ。
「まあ今すぐ涼月少佐をどうこうできるとも思えませんが自分はあまりコーネウス准将を信用する気にはなれません」
「そう・・・・・・ちょっと管制室に行ってくる、ありがとう大尉」
あたしは管制室に向かった。亜耶が心配だ。
センシングホーク コクピットにて
センシングホークはアトロポスのカタパルトから射出されるとアトロポスから離れた訓練空域へと向かっていた。
「そのサークレットを付けてから体調はどう、少佐?」
「はい、特に問題はありません、昨日の国籍不明の新型機とのACMではむしろ助けられました」
「報告書は見たわ、ビットの発動やその制御に効果があったみたいね」
「はい」
「ちょっとビットを発動させてみて少佐」
「了解しました」
魔力制御用にセンシングホークの魔力増幅機に接続されたヘッドギアを装着した亜耶が集中すると一瞬でセンシングホークの周囲に複数の魔法陣が生成されそれは亜耶の制御で縦横無尽に機体の周囲を飛び回る。
「なるほど、数値的にも何の問題もなさそうね」
「さて、次は「魔法兵を直接制御する研究」をしていると話したのは覚えているかしら少佐?」
「はい・・・覚えていますが」
「その方法は精神介入を行うの、それも心の深層に極めて近い部分にね・・・そう、例えば貴女の夢の中とか」
「・・・・まさかあの悪夢は!」
「霧の中で触手や腕にくびり殺されたのよね?」
「・・・失礼ですが趣味が悪いですよ准将」
「気に入って貰えなかったみたいね・・・・ところで少佐」
コルディアは口の端を釣り上げて不気味に微笑んだ。
「貴女のような「魔法兵を直接制御」するにはね、精神に強制的に介入して制御しなきゃならないの・・・だから苦しむ事になるけど許してね亜耶ちゃん?」
「どういう事です准将・・・う・・・何を・・きゃああっ!!!」
亜耶の頭に魔法制御の術式が流れ込んできた。その激しい情報の本流に亜耶は思わず声を上げた。
「・・・うああっ・・・・准将・・・・」
「じゃあ試験を始めるわね・・・精神崩壊を起こさないよう耐えてねカテゴリーⅡの亜耶ちゃん?」
コルディアは魔導兵装の出力を容赦なく上げた。
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