#28 ヴァイスカノーネ
#28 ヴァイスカノーネ
昶Side
アトロポスに来て数日後のある日、あたしが格納庫でセレーネの機体整備をしていると亜耶宛に小包が届いていると顔見知りの整備員が教えてくれた。
部屋に戻って亜耶を呼ぶと艦の図書室から借りてきたという魔導書を読んでいる最中だった。
なんでもこの艦の図書室は攻撃魔法や転移魔法といった軍用魔法に関する蔵書が豊富なのだそうだ。
そんなわけで最近亜耶は潜入作戦とかに転移魔法が使えないかと色々調べているらしい。
「亜耶に届け物って初めてじゃない?」
「そもそも心当たりが全く無いのですが・・・」
「小包爆弾とかだったら嫌だなー」
「気にしすぎ、と言いたい所ですが直接手が出せない以上あり得ますね」
困惑気味の亜耶と一緒にそれを確認しに行くと小さな小包が届いていた。
「どれどれ中身は・・・・・マジックアイテム?」
「差出人は・・・コルディア・コーネウス准将ですね」
「なんでまた・・・・確か魔法技術試験隊の人だったよね」
「とにかく開けてみます・・・危険は無いようですし」
と言いつつ慎重に包みを開封するとそこには亜耶への手紙とサークレットが入っていた。
「ふうん・・・・なるほど」
亜耶は手紙を読みながら何度か頷いているがそこに不審そうな表情は無かった。
「で、結局どんな内容なの?」
「はい、このサークレットは魔法技術試験隊で開発している「大規模な魔法の制御技術、複数の魔術師や魔法兵を直接制御して戦闘に反映できるようにする研究」の一環として作られたもので主に攻撃魔法の制御能力の向上と他の魔法兵や魔法装備との連携及び制御を行えるようにする媒体だそうです」
「・・・それの実戦テストを亜耶に依頼して来たってあたりかしら」
「はい、その通りです・・・明後日に准将がアトロポスに来るので一緒に使用時のレポートをまとめて一週間後に魔法技術試験隊に直接提出して欲しいとの依頼ですね、既に帝国軍名義で正式に「アトロポス」への依頼は済ませてあって受理されているとの事です」
「なるほどね、シミュレーションよりも実際のデータが欲しいと・・・しかも受理されてるんじゃ断れないわね、それで報酬は?」
「機密事項と守秘義務が発生するので危険手当付きで通常の実戦込みの依頼料の5倍支払うと書いてあります」
「ふうむ・・・・・」
「条件を見る限り悪い仕事じゃなさそうですね・・・・金欠病も解決しなきゃなりませんし」
「じゃあ受けるって事で」
「はい」
あたしと亜耶はこの仕事を受ける手続きをするために事務室へと足を向けた。
亜耶Side
サークレットが届いた翌日、私達は哨戒任務でアトロポスから300km程離れた洋上をセレーネで飛行していた。
「亜耶、それ付けた感じはどう?」
「・・・・今のところは何も、しいて言えば少し魔力に違和感がありますが」
『アトロポス管制よりトパーズ1、距離10km以内に不明機接近、魔力反応から魔導機兵と思われる、確認を頼む』
「トパーズ1了解、直ちに対処します」
アトロポスからの要請で周囲を警戒しながら哨戒をしていると10時方向で一瞬だけキラリと機体に反射する光が見えた。
「亜耶、このままゆっくり後方に回り込める?」
「まだこちらに気付いていないようなのでなんとか」
ジリジリと接近を続ける。
「機影を出します」
私はモニターの表示を切り替えた。
「VTOL・・・いや、戦闘機?でもそれにしちゃ妙な形ね」
「私もこの機体のデータは見た事がありません」
モニターに投影されたその純白の機影はVTOLにしてはスマート、戦闘機にしてはキャノピーも無く外部兵装には航空機用ではなく魔導機兵用の銃とロケット弾ポッドを機体下部に装備している妙な機体だった。
「まずは呼びかけね・・・・回線を開くわよ」
『その機体はセレーネね、はじめまして若桜昶少佐、いえ、お母さんって言うべきかしら』
「!」
「その声はリトラですね・・・・何をしに来たんです」
『言わなくてもわかるでしょう?貴女達二人を連れに来たのよ』
「その気はありませんよ」
「そっちがアトロポスに来ればいいじゃない」
『!!』
「・・・・・・今ちょっとその気になりましたねリトラ」
『そっ、そんなわけ無いでしょうが・・・な、何言ってるのよばっかじゃないの!!』
「・・・・なんか悪いわね、あんたをわかりやすいキャラに設定しちゃって」
『だあああああっ!!大きなお世話よ!!・・・・力ずくでも連れて行くからね!』
「何を言っているんです、戦闘機と魔導機兵じゃ大人と子供の喧嘩にもなりませんよリトラ」
『これが戦闘機だと思ったら大間違いよ!!』
リトラの言葉と同時にその妙な戦闘機はあっという間に変形した。
「・・・・一瞬で魔導機兵に・・・!」
「ああっなるほど!今回は新型機登場回って事か」
昶がぽんと手を打って納得の表情をする。
『・・・・・・何の話よ、覚悟なさい!その機体を破壊してでも連れて行くわ』
「あー、トパーズ1よりアトロポス管制、不明機は敵性機体と判明、機体の種類は魔導機兵の新機種、ACM(空中戦)に入った、交戦許可を請う」
『アトロポス管制了解、交戦を許可する、現在ルスター大尉の部隊がそちらに向かっている、落とされるなよ』
「トパーズ1了解、ACMを継続する」
リトラの魔導機兵が凄まじい射撃を開始した。
その白い機体には戦闘機形態時に装備されていたライフル以外にも大口径の魔導粒子砲が右肩に、左肩にはロケット弾ポッドが付いていた。
「なるほど、射撃戦に特化した機体ですか」
『白き砲こと「ヴァイスカノーネ」よ亜耶、その機体じゃ撃ち合っても撃ち負けるだけ』
「昶、接近戦に持ち込みます」
「その機体名、設計者がドイツ系の転生者なのかしら・・・・牽制するよ亜耶」
「はい!」
昶がセレーネの腰に装備してある76mmオートカノンを抜くと3点バーストでヴァイスカノーネに撃ち込む。
ヴァイスカノーネはセレーネやその元となった帝国軍の正式量産機のフェンリルよりもずっと素早い動きで機体にスピンをかけて回避した。
「なっ・・・早い!」
『その機体じゃ勝てないわよ!』
「亜耶!接近戦に持ち込むよ!」
「はい!」
私はスロットルを押し込んで速度を上げると昶は頭部20mm機関砲と76mmオートカノンの連射をしながら一気にヴァイスカノーネに接近する。
そのまま右手の剣を抜くと斬りかかった。
『だからその機体じゃ遅いってのよ亜耶!!』
「っ!!そんな!!」
渾身の一撃をあっさり回避したヴァイスカノーネは鋭い回し蹴りをセレーネの腰にヒットさせた。
腰に戻してあった76mmオートカノンとその弾薬がヴァイスカノーネの脚に潰されて爆発した。
「きゃあっ!!」
『射撃戦特化の機体だからってそう簡単に接近戦で倒せると思ったら残念、大間違いよ!!』
「あいつ!」
ヴァイスカノーネは一瞬で戦闘機形態に変形すると凄まじい加速であっという間に距離を取る。
「長距離ライフルさえあれば・・・!」
「無いものは仕方ありません、ビットを使います・・・Youhave control!」
「I have control!」
『距離を取っても無駄よ諦めなさい亜耶!』
「その気はありませんと何度も言っているでしょうリトラ!」
「この距離ならビットいけるよ!」
「はい!」
私は集中を始める。
「うっ・・・!」
頭に違和感を感じる。それはダメージを与える物ではなく、私の身体の魔力の流れがよりはっきりと、より明確になる感触。
「これならいけるかも!・・・・ビット!」
これまでとは比べ物にならない速さでセレーネの周囲に魔法陣がいくつも展開され、一気に同じ数のビットが魔法陣に生成された。
そうか、これがコーネウス准将の手紙に書いてあった「攻撃魔法の制御能力の向上」か。確かに効果は高いな。
『嘘っ!?!?なんであんなに早くビットの発動が?!』
「ビットよ当たれ!!」
明らかに通常よりも速い速度で魔法陣が回転しながらヴァイスカノーネへ飛んで行き、あらゆる方向から次々に魔弾を発射する。
『きゃああっ!!』
発射されたビットの一発がヴァイスカノーネの主兵装の魔力粒子砲を貫き大爆発を起こした。
「今よ亜耶、一気に接近して仕留める!!
「行きます!」
『甘いのよ!』
「あっ!!」
『喰らいなさい!』
あと少しで近接戦闘のリーチに入れるという所でヴァイスカノーネの両手首がクルマのリトラクタブルライトのように開き、そこからグレネードランチャーが連続して発射される。
「当たるかっ!」
亜耶がとっさに剣を抜いてグレネードをはたき落とすとその勢いでヴァイスカノーネにセレーネの肩をぶつけて姿勢を崩す。
ヴァイスカノーネはバランスを失って高度を一気に落とす。
『きゃああっ!覚えてなさいよ亜耶、それにあたしに適当な設定付けたおばちゃんも!!』
「だっ、誰がおばちゃんだこのガキ!!」
ヴァイスカノーネは再び戦闘機形態に変形すると凄まじい加速で超低空へと離脱していく。
「追いかけるよ!!」
「はい!」
『ふん、その機体じゃヴァイスカノーネには追いつけないわよ』
「オーバーブーストを使う!」
昶がスロットルを更に押し込んでオーバーブーストに入れた。オーバーブーストとは短時間のエンジン出力の制限解除である。通常以上の出力が得られるが限界以上の力を絞り出すために制限時間を越えて使用するとエンジンが焼き付いて破壊されてしまうから長い時間は使えない。
セレーネの背中に装備された魔導機兵用飛行ユニット、ランドウイングのエンジンが一段と高い轟音をあげ始めた。
『追いつけないって言ったでしょ!』
しかし戦闘機形態に変形したヴァイスカノーネはぐんぐんと加速しその差は広がっていく。
「駄目!!振り切られる!!」
「仮に同じエンジン出力でもセレーネじゃ追いつけませんね・・・空力も決定的に違いすぎます」
エンジンの警告ランプがいくつか点灯し始めた。
「昶、これ以上はエンジンが持ちません」
「これ以上の追跡は無理か・・・・」
「でもこのサークレットが無かったらあの高性能機相手にどこまで対抗できたか・・・」
「明日コーネウス准将が来たらお礼しなきゃね」
私達はインメルマンターンで反転するとアトロポスに帰投するべく進路を取った。
ヴァイスカノーネ、コクピットにて
「ごめん、魔導粒子砲を壊されちゃったわ」
『いや、気にする必要は無い、予測できた範囲だ・・・ところでヴァイスカノーネの実戦テストの感想はどうだ?実用に耐えるか?』
「変形システムも含めて全然問題は無いわよ」
『そうか・・・それなら「ミスティックシャドウ」を動かしても問題なさそうだな」
「ミスティックシャドウ・・・ヴァイスカノーネの姉妹機種ね、あれは誰が乗るのよ?」
『ああ、既にあれのパイロット候補は決まっていてな、本人がこっちに来たらすぐにでも実戦投入したいと考えている・・・・・とにかく早く戻ってこいリトラ』
「わかったわ、司令」
リトラは周囲を見て追跡してくる機体が無いのを確認すると自らが発進した母艦へと機体を向けた。
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